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34「呪い解決の糸口」

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   💭   🔁   ❤×????


「それで……」僕の声は、怒りに震えていた。「星狩さん、君は一体全体何だって、こんな呪いを2年4組に掛けたんや? こんな、こんなひどい事を、何で続けてられるんや!?」

 また、人が死んだ。星狩良子に呪い殺された。
 星狩良子は一体全体どうやって、ここに居ながらにして寄道くんを殺す事が出来たのか?
 寄道くんのスマホが不自然なほど勢いよく線路の上に飛び出したように見えたけど、あれは寄道くんの体も一緒に飛び出したという事なのだろうか。
 そうだとして、寄道くんは誰かに突き飛ばされたのだろうか?
 もしくは、勝手に足でももつれさせた?
 ……分からない。が、今までにも不可解な状況下で的場くんを、相曽さんを、出目さんを馬肉さんを長々くんを江口さんを州都さんを殺してきた『呪い』だ。今さら驚きは無い。

 目の前では、星狩さんが――悪霊・星狩良子が無邪気に微笑んでいる。星狩さんがスマホに書き込み、それをこちらに見せてくる。

『だって、いいねされなきゃ生きてる価値は無いんだよ?』

「そ、それは――――……」

 米里王斗――通称『リョーリくん』が星狩さんにぶつけたという、言葉だ。

「じゃあ、やっぱり君は、その事を恨んで――」

 星狩さんが、不思議そうに首を傾げる。

『? 別に恨んでないよ』

「は!? だったら何で――」

『だってリョーリくんにそう言ってもらえたお陰で私、自殺実況を思いついたから。そのお陰で、いっぱいいっぱいいいねがもらえたから』

 満面の笑み。狂気に彩られた笑みだ。

「違う! 僕が言いたいんは――…恨んでないなら、こんな呪いを掛けたん!? 何で今も、掛け続けとるん!?」

『こうすれば、みんないいねされる為に一生懸命になれるでしょ?』

 なるさ。そりゃあ、なるだろうさ! 自分の命が懸かっているんだから!!

「誰も、死にたいなんて思ってへん!!」

『でも、いいねされない人生に価値は無いんだよ?』

 ……議論が循環している。会話がまるで噛み合わない。
 でも、何とかして解決の糸口を見つけなくては!

「じゃあ、この『呪い』の目的は、クラスのみんなに価値ある人生を歩ませる事なん?」

『そうだよ』

 星狩良子は微笑んでいる。

 ……考えろ。

「本当に?」

『本当に』

 星狩良子は、微笑んで、いる。

 考えろ考えろ考えろ!
 問題解決の糸口が転がっていないか、考えろ!!

『呪い』は心から生まれる。『呪い』とは、『呪い』の主が上げる、怨嗟の叫びそのものだ。
 僕が今まで頼々子さんを助ける形で関わってきた『事件』はどれも、『元凶』の強い想い――恨み、憎しみ、怒り、悲しみ、後悔――から発生していた。
 とりわけ、『元凶』が死の間際に抱いた感情が原因となるケースが多かった。頼々子さんからも、『呪い』とはそういうものだ、と教えられて来た。

 死の間際――。
 星狩良子の死の間際は、どうだったか。





『私の命は、同時接続どうせつ5人分の評価しか無いって言うの!?』

『じゃあ、行きます。告知ツイートへのいいねと、動画への高評価とチャンネル登録とメンバー登録、ホントお願いしますね!?』





 ――これだ!!
 確かに星狩さんは死後、自殺実況の告知ツイートがバズる事で、たくさんのいいねを得た。けれどそれは、死後の話。
『呪い』の原因が『元凶』の死の間際にあるとすれば、星狩良子が叫んだこれらの言葉こそが、怨嗟の叫びこそが『呪い』の発生理由!!

「……ねぇ、星狩さん」出来るだけゆっくり、言葉を選びながら、慎重に話す。「星狩さんは、どうしたかったん?」

『だから、クラスのみんながたくさんいいねをもらえるようにしてあげたい』

「それは、今やろ? 星狩さんは、あの時、僕らが見てる中で首を吊ったあの時、どうしたかったん?」

 星狩さんの顔から、表情が抜け落ちる。
 彼女を取り巻く空気が蜃気楼のように揺れ、それは次第に色を帯び、赤黒く染め上がってゆく。
 ひどい寒気がして、僕は震えが止まらない。それでも僕は、星狩さんを直視する。

「どうして君は、首なんて吊ったんやッ!?」

 星狩さんは呆然とした表情のまま、スマホに何かを入力しようとして、逡巡し、それから、叩きつけるかのような勢いで入力し、こちらに見せてきた。

『いいねが欲しかったからに決まってるでしょ!?』

 空気がビリビリと震える。
 星狩良子の眼が、燃え上がる炎のように輝いている。

「だったら!」

 ……怖い。怖い怖い怖いッ!
 僕はこの、目の前にいる悪霊の事が怖くて怖くて堪らない。けれど、戦わなくてはならない。
 それが僕の償いだ。勝手に勘違いして2年4組を呪いに引きずり込んでしまった僕の、せめてもの償いだ。

「もう、満足やろ!? ――ほら、見てみぃ」星狩さんのアカウント、その最後のツイート――自殺実況告知を見せて、「135,361いいね!! 25,153リツイート!! 夢は、もう、叶ってるやろ!? だから――」

『でも』と、僕の言葉を遮るように、星狩さんがスマホを突き出す。そして続きを打ち込んでから、『クラスのみんなは、いいねしてくれなかった』





 ――――――――見つけた!!





「そ、それ、それってつまり――」軌跡を手繰り寄せる事に成功した快感が、脳を痺れさせる。「クラスのみんなが自殺実況告知ツイートにいいねをしたら、星狩さんは満足出来るって事!?」

 星狩さんを取り巻くどす黒いオーラが、すっと凪いでいく。
 俯いた星狩さんがスマホへ人差し指を向け、たっぷり数十秒ほども掛けてから、

『うん』

「分かった。きっと君を、満足させて見せる」

 僕はスマホを取り出して、頼々子さんへ電話を掛ける――が、

『お架けになった電話は電波の届かない場所に居るか、電源が入っていない為、掛かりません』

 ……あれ? おかしいな。こんな都会のど真ん中で電波が届かないなんてあり得ないし、職務遂行中の頼々子さんが電話の電源を切ったり、ましてや充電切れになるようなミスをするはずがない。
 何度掛け直してもダメだったので、今度はメールを試してみる。

『星狩良子と話しました。彼女の思い残しは、自殺実況告知ツイートに2年4組がいいねを付けてくれていない事です』

 宛先Toに頼々子さんを、そして念の為に写しCcに自分を入れて、送信する。
 果たして――――……





 ムーッムムッ





 よし! よしよしよし! ちゃんと僕自身にメールが届いた!
 ということは、このメールは、起死回生の一手は、きっと頼々子さんの元にも届いているはず!!
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