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第1章 「私が初めて殺されるまでの話」

63(1,234歳)「勇者アリス女城伯★爆誕!」

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「勇者アリスよ、よくぞ来た!!」

 王城、謁見の間にて。
 本来、女性が謁見することはないのだけれど、勇者だけは例外なんだとか。

 周りには、ロンダキルア辺境伯様を始め、大貴族のお歴々がずらりと並ぶ。
 昨日の今日でよく集まったなとは思うけど、宮廷魔法使いにはノティアさんを始め、【瞬間移動】持ちが結構いるからね。

 陛下の隣ではフェッテン様が私に向かって小さく手を振ってくれてる。
 こっちは男性用の最敬礼で両膝ついてこうべを垂れているので、手を振り返すことはできないけれど。

 さて、これから始まる話の内容は、陛下と私とですでに調整済み。

「宰相よ、その者の功績を読み上げよ」

「ははっ!
 一つ、フェッテン第二王子殿下の馬車列が魔物の集団暴走スタンピードに襲われる中、死地に飛び込み、数百の魔物を撃破、殿下をお救いしました。
 一つ、第二王子の長年の病を治療しました。また、その治療方法と『栄養学』を広く王国全土に知らしめました。
 一つ、安価な製紙・製本方法を確立させ、書物・知識の普及に努めました。特に魔法教本については、冒険者たちの生存率向上、王国民の生活の質向上に大いに貢献しました。
 一つ、ベアリングの発明による水車の改良、より効果の高い肥料の考案、方位磁針による開拓団の安全な遠出、また当人らの魔法による土地の開墾、そして輪栽式農業法の考案によって、農作物の生産量を十数倍以上に増加させました。
 一つ、顕微鏡の開発と『細菌』の存在の発見、衛生や煮沸・エタノール消毒に関する知識の開示とゴム長の普及により、王都の病死者数を激減させました。各領の街・村からも同様の報告が上がっております。
 一つ、水銀が持つ中毒性を発見し、ファンデーションによる……」

 延々と続く功績の数々。
 いやぁ、我ながら、いろいろやったもんだね!

 たっぷり小一時間の宰相様の口上のあと、陛下が口を開いた。

「以上の功績をもって、ロンダキルア辺境伯領城塞都市及び周囲の農村2つ、漁村1つとそれら一帯をロンダキルア辺境伯領より割譲し、そなたへ封ずる。そなたは今日から、アリス・フォン・ロンダキルア女城伯じょうはくじゃ!」

 軍務閥貴族と、一部私と仲の良い内務閥貴族から歓声の声。
 そして軍務閥のはずなのに、人を射殺しそうな目で私を睨んでくるロンダキルア辺境伯様。
 ねぇ辺境伯様? 私が背中を向けてるからって、殺気は【闘気】でちゃーんと感じ取ってますからね。塩の相場をもう1段階下げられたいの?

 城伯ってのは城塞都市1つとその周辺を任される、伯爵の下位互換みたいなやつ。この王国では子爵以上伯爵未満の扱いだね。
 なんか友達以上恋人未満みたいな言い方だな……恋人……フェッテン様ぁ……はぁはぁ。

 ホントは陛下、ロンダキルア辺境伯様から爵位を取り上げ、そのまま私に辺境伯をやらせたかったみたいだけど、私に領地経営なんてムリムリムリムリカタツムリ!
『防衛に専念したいので』ってことで許してもらった。

 え、城塞都市と周辺の村だけでも十分領地経営じゃないかって?
 そこはまぁ……あの地域は私がさんざん魔改造したり新技術・新産業の実験場にしてて、勝手知ったる俺の庭状態だし、今までも実質パパン(というかパパンを補佐するバルトルトさん)が統治してたんだ。細かいところはパパンにお任せすることでパパンとは調整済。

 続いて、叙勲の時の、陛下が肩に剣を置くやつをやった。見栄えがいいだろうということでエクスカリバーで。
 昨日お渡ししたんだけど、【片手剣術】LV +3の装備ボーナスに陛下も驚いてたよ。エクスカリバーを手に取った途端、なんかこう急に剣が『分かる』んだよねぇ。

「また、ジークフリート・フォン・ロンダキルア並びに有志の従士112名をロンダキルア辺境伯家従士の任から解き、ロンダキルア城伯の従士に任ずる」

 城塞都市の軍人さんは常時数千人で、その9割近くは全国の貴族家子弟や従士がローテーションしている。
 つまりロンダキルア辺境伯様自身の兵である従士で砦に送り出しているのはたったの数百人。パパンの『ロンダキルア辺境伯家講座』によると辺境伯領都にはその倍近い従士がいるってんだから、辺境伯様の城塞都市を守る気のなさというか、逆に領都防衛に対する並々ならぬ熱意を感じる。だから守るべきは領都だけじゃなくて辺境伯領全土でしょうに。

 そして、その数百人の中から、バルトルトさん、3バカトリオ以外にも108名もの人たちが、魔王復活が間近だと知ってなお、私に付いて最前線で戦ってくれると言ってくれたわけだ。

 本当にうれしいことだね!

 昨日、パパンが城塞都市中の軍人さんたちを集め、謁見に先んじて【勇者】と魔王復活のことを告げ、従士たちの意思確認をしたんだよね。
 ただ、どうして108という夜な夜な鐘の音が聞こえてきそうな数になってしまったのか……? まぁ覚えやすいからいいか。

「なっ……従士112名ですと!? へ、陛下、城塞都市の割譲は分かりますが、従士まで引き抜かれては――」

 ロンダキルア辺境伯様が文句を言う。辺境伯様に根回しする時間はなかったから、寝耳に水のはずだ。
 しかし陛下に対して文句を言うとは。意外と根性あるんだね?

「――6年前までは」

 陛下が、今まで一度も聞いたことのない、底冷えするような声で言った。

「城塞都市の軍人たちは、満足な食事も塩も与えられず、自ら畑を耕しておった。ジークフリートからの再三の要請にも応えず、あまつさえ城塞都市のために生産していた塩を辺境伯領都に運び入れていたらしいのぅ?
 状況が変わったのは、その後じゃ」

 陛下が優し気な顔で私を見る。

「アリスの叡智により、作物や塩の生産量が激増し始めた。それでようやく、城塞都市の軍人は訓練に集中できるようになったと聞いておる。アリスについて行くと決めたその112名も、アリスの行いに感謝しているからこそ、そのような決断をしたのじゃろう」

 再び怖い顔になり、

「ロンダキルア辺境伯よ、昨日までのそなたの役目はなんじゃったかのぅ? 塩を独占して内務閥どもを操縦することか? 辺境伯領都の守りばかりを硬くすることじゃったか?
 良かったのぅ、城塞都市防衛の重圧から解放されて。アリスに任せることができて。その上、他ならぬアリスが育て、鍛えてきたその従士らが覚悟を決めてアリスについて行くことを、そなたは『引き抜き』と言うのか?
 そなた、儂の敵か? 王国の、敵か? 貴族を取り上げられるのを覚悟の上で、この儂に意見しているのじゃろうな!?」

「め、めめめ滅相もございません!!」

 ロンダキルア辺境伯様の顔が真っ青になる。他の、辺境伯様寄りな内務閥の面々も、顔色を悪くしている。

「魔王復活までもう時間がない! ことは王国が滅ぶかどうかの瀬戸際じゃ!! 我が忠実なる臣たちよ! 武器を取れ! 兵を鍛えよ! 勇者アリスとともに戦うのじゃ!!」

「「「「「畏まりまイエス・ユア・した、陛下マジェスティ!」」」」」


    ◇  ◆  ◇  ◆


 あとは王城から王都の外までフェッテン様とパーティーメンバーと一緒に屋根なし馬車でパレードした。あ、目立って身バレしたくないホーリィさんはお休み。
 公示は今朝方出されてるから、王都民は魔王復活のことをすでに知っている。
 王都の民衆の中には不安そうな顔の人もいたけど、おおむね顔色は良さそうだった。

 みんな、私たちパーティーがどれだけ強くて、どれだけ王国民の生活向上に貢献してきたか良く知ってるからね。
 私たちの武勇伝を絵本にして売り出したりしてるし。

 プロパガンダ?
 ……まぁ、そうとも言う。
 だって戦いのさなかに背後から撃たれるわけにはいかないもの。使えるものは使わなきゃ。

 公示の内容は、『女神様から、私が勇者として選ばれた』という内容にすると、事前に陛下に聞かされている。
 何気に上手いんだよね、コレ。
『私が、10歳の洗礼でそれを知った。それと魔王復活が近い』だと、5年前のロンダキルア辺境伯様が言ったような『勇者は魔王復活を呼び寄せる疫病神』的発想が出てきかねない。
 でも『Sランク冒険者であり、この5年で数々の功績を収めた私だからこそ、女神様が勇者に選んだ』とすれば、単純に『アリスちゃんSUGEEEE!!』で済む。

 フェッテン様とは王都の城門でお別れ。
 私たちパーティーメンバーは馬車ごと【瞬間移動】で城塞都市へ。

 城塞都市も、城門から中央広場に至るまで、観客でごった返していた。
 
「「「せーのっ、アリス様ぁ~っ!」」」

 観客からの黄色い声に、

「相変わらず女性ウケするよねぇアリスちゃんは」

 茶化してくるノティアさん。

「あははは……男ウケはしないんでしょうかね?」

「いやぁ、相手が相手だし……」

 うん……誰も第二王子殿下相手にケンカは売りたくないわな。
 最近のフェッテン様、私たちパーティーと一緒に魔物退治で最前線に出たりして武功積んでるし。


    ◇  ◆  ◇  ◆


「というわけで、このたびここの領主になりました勇者で女城伯のアリス・フォン・ロンダキルアです」

 中央広場のステージに上がって挨拶すると、民衆からやんややんやの大歓声。
 まぁ、この街には私のファンというか崇拝者が多いからねぇ……。
 大半が見知った顔なので、私もビビらずに済んでいる。

「それで、公示にもあります通り、2年後に魔王復活とのお告げを女神ゼニス様より受けました。
 無論、私は私の持てる力の限りを尽くして兵を鍛え、敵を迎え撃ち、非戦闘員の皆さんを守るつもりでおりますが、確実に、危険はあります。王都には皆さんを受け入れる用意があります。私は一切咎めませんので、少しでも避難したいという気持ちがある方は、砦の門番にお申し出ください」

 シーン……

「ってことで解散! 解散してくださーい!」

「俺は残るぞ! 残って軍のために畑を耕し続ける!」

「俺もだ! 俺が店を閉めちまったら、野郎どもが息抜きできる店がなくなっちまう!」

「私もよ!」

「俺もだ!」

「「「「「「「「うぉぉぉぉおおおおおおお!!」」」」」」」」

 おおぅ……なんか物凄い盛り上がっとる。
 でも、その心意気は正直嬉しいねぇ。

「皆さん、本当にありがとうございます! ただ、本当に危険なんですからね!? 避難の申し出はいつでもお受けしますので、一時の感情に流されないように!
 では改めて解散!」

「「「「「「「「うぉぉぉぉおおおおおおお!!」」」」」」」」

 うーん、分かってんのかな?





**********************************************
追記回数:4,649回  通算年数:1,234年  レベル:2,127

次回、アリスがフル○タルジャケットの某鬼軍曹のマネして従士108名を鬼レベリング!
第1章最終回まで、あと 4 話。
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