「強くてニューゲーム」で異世界無限レベリング ~美少女勇者(3,077歳)、王子様に溺愛されながらレベリングし続けて魔王討伐を目指します!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
文字の大きさ
大中小
31 / 143
第1章 「私が初めて殺されるまでの話」
29(402歳)「蜘蛛さん相手にお裁縫対決!」
しおりを挟む
今日も今日とて魔の森だ。
「今日は蜘蛛を捕まえるよ!」
「わふん!」
そう、蜘蛛糸で洋服を作ってもらうのだ!
セーラー服とかナース服とかを流行らせるんだよ!
ブルーバードやデスキラービーは特定の生息地があったけど、蜘蛛は基本、群れを作らない。
なので適当に、魔の森最深部で広く【探査】して強そうな個体を探す。
「……お? あれは『ジャイアント・プレデター・スパイダー』」
全長数十メートルの、歩く捕食者。あれに服は作れそうにないなぁ……。
「次だ次! 【探査】――今度は『グレート・デーモン・スパイダー』かぁ」
全長数メートルで、どの辺がデーモンなのかは分からないけど、Aランクの強敵。やつの巣にかかった者は、人間だろうが高ランクの魔物だろうが死を覚悟しなければならない。
でもパワータイプで私が欲しいのとはちょっと違うな。
「次! 【探査】――『リーパー・タランチュラ』見っけ」
【隠密】に長けた怖いやつだ。死神のごとくふらりと獲物の背後に現れ、強烈な毒をぶすりと注入して相手を無力化する。
でも毒が欲しいわけじゃないんだよなー……。
「次……【探査】! ……おや?」
この数百年、見たことがないのがヒットした。
「あっちの方か……【瞬間移動】からのぉ【遠見】!」
蜘蛛魔物の上空まで転移し、空間魔法【遠見】で視認する。【遠見】は望遠鏡みたいな魔法だね。障害物があるところまでは覗けない。
全長1メートルほどでカラフルな色合いの体――いや違う、あれは服だ!
なんてこったい、服を着た蜘蛛がいた!!
こ、これは確保したい!
蜘蛛はのんびり歩いてるところだった。
【闘気】を身にをまとい、若干の【隠密】も発動させてるな……【闘気】使いはすべからく達人。やり手かもしれない。
せっかく見つけた変わり者だし、【闘気】持ちに敵対心を抱かれるのも怖い。
まずはいつものようにエサで釣ろう。
「というわけで蜘蛛の進行方向前方へ行くよ! 【隠密】は全開ね!」
「わふっ!」
「では【瞬間移動】!」
◇ ◆ ◇ ◆
その蜘蛛は、目の前に置いてあるドラゴン肉の刺盛りを警戒しているようだった。
私とチビは、その様子を草むらから観察する。もちろん【隠密】は全開。
蜘蛛は刺盛りには手をつけず、じっとしている……いや、ゆらりと顔を上げた。
……え? 目が合った?
次の瞬間、蜘蛛の姿が消える!
いかん! 【思考加速】100倍! 【闘気】全開!
チビを連れて砦の自室まで【瞬間移動】!
「ち、チビ、今日はもう非番でいいよ」
いったん【思考加速】を切り、チビに告げる。
「わふっ」
私単身で再び先ほどのポイント上空へ【瞬間移動】。
眼下を【探査】してみると……
「うわマジか!」
さっきの蜘蛛が、私たちが潜んでいた草むらに佇んでいた……ちょうど背後を取る形で!
うひー……マジもんの達人やないかい!
どうしようかなーでも服着た蜘蛛なんて二度と会えないかもしれないし……。
「……ん?」
何か足に絡みついているような……って、蜘蛛糸ぉ!?
「ぅわぁぁあああああ!?」
物凄いスピードで地面へ引き寄せられる!
【思考加速】100倍からの、さらに上空へ【瞬間移動】!
「はぁはぁはぁ……」
【瞬間移動】の効果で足から糸を外すことができたけど……【探査】。あーやっぱり、足引っぱってきたのはさっきの蜘蛛だ……。
あれかー、【闘気】を薄く広げてこちらの存在を把握したな? ネ○ェルピトーかなんかかよ! オレの円は半径4メートルで十分なんじゃなかったのかよォ!
でも、ますます欲しくなってきたなー……。
遠距離からコソコソ様子を伺ってても仕方ないし、吶喊してみますか!
「ダブル【防護結界】で体を保護して、【瞬間移動】!」
蜘蛛の目の前数メートル先に転移した。
目が合うや否や蜘蛛が跳躍し、木の上に逃げた。と同時にこちらへ蜘蛛糸を投げつけてくる!
蜘蛛糸は【物理防護結界】にべちゃりと張りつく。
信じられないほどの力で蜘蛛が引っ張ってくるが、私も【テレキネシス】で【物理防護結界】を押さえつけているから動かない。
「ねぇキミ! キミに危害を加えるつもりはないの! ちょっとお話できないかな!?」
結界にはメッシュ状の穴を開けているから、相手には聞こえるはず。
「さっきのお肉は私からの贈り物! 毒なんて入ってないよ? なんなら私が毒見するよ!」
言葉が通じるかどうかはわからないけど……戦うつもりがないことが伝わってくれれば僥倖だ。
「…………」
「…………」
私と蜘蛛との間に、無言の空間。そして、
するするするする……
はたして蜘蛛は、木から降りてきてくれた!
同時に、結界に張りついていた糸がずるずると落ちる。どういう原理なんだろう?
「ほら、お肉食べない?」
【アースボール】で蜘蛛の前方数メートル先に皿を作り、【アイテムボックス】からドラゴン生肉を落とす。【ウィンドカッター】で一部切り取り、【テレキネシス】で私の方へ運び、結界に少しだけ開けた隙間から結界内に入れ、そのまま口へ運ぶ。
「美味しい! ほら、毒はないよ?」
本音を言うと、味つけなしの生肉はあまり美味しくなかった……。
でも相手に差し出すものをわざわざ貶すことはない。『つまらないものですが……』なんて言われて喜ぶのは日本人くらいなもんなのだから。
「…………」
――ぱくっ
お、蜘蛛さんが肉に口をつけてくれた!
よしよし、懐柔作戦第1段階はクリアだ。餌付けこそ交渉の基本にして奥義!
【闘気】を張りつつ、ダブル【防護結界】は解除。
「ねぇ蜘蛛さん、あなたのお洋服、素敵だね。こういう服とか、どう思う?」
【アースウォール】で作った台の上に、城塞都市で買った中古服を並べていく。
肉を平らげた蜘蛛さんは、針のように鋭い前足で女性用の上着を持ち上げ、じろじろ……ギョロギョロ?……と見つめたあと、
「…………フッ」
――え、なに? 今、鼻で笑った!?
そして次の瞬間、信じられない光景が。
蜘蛛さんの尻からふわりと糸が出て、針のような前足が目にも止まらぬ速度で動き、そしてみるみるうちに出来上がる、先ほど見ていた女性用上着と同じような服。
しかも【アイテムボックス】から取り出した色とりどりの染料――って【アイテムボックス】持ちの魔物!? いやいやそこに驚くのはあとにしよう――で染め上げられたリボンやフリルが縫いつけられ、まさしく『目の前にある女性服の完全上位互換』が出来上がった。
染められた部分がべっちゃりしてることもない。染めるそばから魔法で乾燥・定着させていたから。
「な、ななな……」
こ、この子は凄い。間違いなく凄い! 欲しい! 何がなんでも欲しい!!
「ど、どどどドラゴン肉追加であげるよ」
「…………」
むしゃむしゃ。
あ、今気がついた。
この子、肉を食う時は一番前の針みたいな2本の足は使わない。この2本は裁縫のための足なんだ。
ふぉぉぉおおおおお! なんだこの子、なんだこの子!?
異世界転生者の魂でも入ってんじゃないの!? ……いやまぁ現実の話としては、異世界転生者は先代勇者と私の2人だけってのは女神様からも言われた通りなんだけれども。
つまりこの子は、純粋にめちゃくちゃ器用で賢い個体ってことだ!
「ね、ねぇキミ、私と一緒に来ない? ご飯ならいくらでもあげるよ? 毎日ドラゴン肉を食べさせてあげる。キミのその、素晴らしい裁縫の腕が欲しいんだ」
「――――……」
蜘蛛さんは私の目をしばし見つめたあと、おもむろに尻から糸を出し、それはそれは滑らかな手触りのハンカチを作った。
「……え?」
差し出される。
「え、ま、まさか……私に同じものを作れと?」
「…………」
じっと見つめてくる蜘蛛さん。
「いや、私はそういうのは専門外というか、やったことないっていうか……」
「…………フッ」
!?
今バカにされた!?
「――じゅっ!」
蜘蛛さん相手に宣言する。
言葉が通じてるかどうかなんて関係ねぇ。てめぇ、誰をバカにしたか思い知らせてやるからなぁ!
「10分後にもう一度ここに来てください! 本物のハンカチを見せてあげますよ!」
追加のドラゴン肉を残し、【1日が100年になる部屋】へ【瞬間移動】!
◇ ◆ ◇ ◆
というわけで、内部時間で1年間程がっつり修行してきた。
来る日も来る日もタンパク質から糸を生成し、それを編んで布にし、ハンカチを作り、腹が減ったらメシを食い、集中力が切れたら気絶する日々。
「さぁお待たせしました!」
はたして外部時間で10分後、蜘蛛さんはちゃんとその場にいてくれた。
「見ててください!」
【アイテムボックス】内部には、この1年で溜め込んできたタンパク質――魔物肉から抽出したもの――が、がっつり入っている。
蜘蛛糸の原料はタンパク質。
これを【水魔法】で粘らせながら【テレキネシス】で寄り合わせて糸を作り、【火魔法】で望みの硬さ・粘度まで固まらせる。
なんちゃって蜘蛛糸の完成だ。
伊達に1年修行してきてないよ!
タンパク質をシームレスに糸に変えるのはお手の物。
……まぁ【思考加速】100倍かつ指先にがっつり【闘気】をまとわせて、器用さを最大限引き上げてるんだけど。
続いてこの糸を、手織りの要領で縦横と編んでいき、数分をかけてハンカチの完成!
どやさ!
ハンカチを【テレキネシス】で差し出すと、
「…………フッ」
!?
やれやれ……って感じの蜘蛛さんのジェスチャー。
続いて蜘蛛さんは、先ほど自身が作った女性服の方を前足で指し示す。
「いや、それはさすがに無理だよ……っていうか自分で作れるならキミを頼る意味がないじゃん」
「…………フッ」
!?
「……や、や、や、やってやろうじゃねえかよこの野郎!」
◇ ◆ ◇ ◆
というわけで、追加で10年ほど。
外時間で2時間半くらいになるんだけど、蜘蛛さんは律義に待ってくれてたよ。
「み、み、見ててくださいよ!?」
糸を寄り、布を織り、服を作る!
【闘気】全開の目にも止まらぬ速さで手を動かし、服を作ること小一時間。
「はぁっはぁっはぁっ……ど、どうですか!?」
まぁ若干ヨレたり歪んだり、染め方にムラはあるけどさ、許してよもう……。
「…………」
蜘蛛さん、私の渾身の作品をギョロギョロ眺めたあと、
「…………フッ」
!?
しかして、蜘蛛さんは私の前まで歩み寄り、その前足で私の頭をぽんっと叩いた。
「ぉ、ぉ、ぉおお……もしかして、認めてくれた?」
試しに【従魔】の首輪を出して見せても、距離を取る素振りを見せない。
「や、や、や、やったー! ありがとう! これからよろしくね!」
こうして苦節11年。
私は念願の仕立屋さんを手に入れた!
◇ ◆ ◇ ◆
ステータスを見せてもらったんだけど、蜘蛛さんのレベルは132だった! マジか、まさかの英雄・賢者超えレベル!
そしてスキル【裁縫】がカンストのLV10!
ちなみに11年間育てた私の【裁縫】はLV3止まり……。
そして気になる種族名が【アラクネ】。
上半身が女性ってわけではないんだけど、案外、機織りの腕を女神相手に自慢したやんちゃ娘の魂でも入ってるのかもしれない。
あ、もちろんアラクネさんにも、レベル200になるまでレベリングしてもらったよ。
*******************************************
追記回数:4,649回 通算年数:413年 レベル:600
いつもお読み頂きありがとうございます!
次回は主人公ではなく主人公の母が暴れ回るお話です。
お楽しみに!
「今日は蜘蛛を捕まえるよ!」
「わふん!」
そう、蜘蛛糸で洋服を作ってもらうのだ!
セーラー服とかナース服とかを流行らせるんだよ!
ブルーバードやデスキラービーは特定の生息地があったけど、蜘蛛は基本、群れを作らない。
なので適当に、魔の森最深部で広く【探査】して強そうな個体を探す。
「……お? あれは『ジャイアント・プレデター・スパイダー』」
全長数十メートルの、歩く捕食者。あれに服は作れそうにないなぁ……。
「次だ次! 【探査】――今度は『グレート・デーモン・スパイダー』かぁ」
全長数メートルで、どの辺がデーモンなのかは分からないけど、Aランクの強敵。やつの巣にかかった者は、人間だろうが高ランクの魔物だろうが死を覚悟しなければならない。
でもパワータイプで私が欲しいのとはちょっと違うな。
「次! 【探査】――『リーパー・タランチュラ』見っけ」
【隠密】に長けた怖いやつだ。死神のごとくふらりと獲物の背後に現れ、強烈な毒をぶすりと注入して相手を無力化する。
でも毒が欲しいわけじゃないんだよなー……。
「次……【探査】! ……おや?」
この数百年、見たことがないのがヒットした。
「あっちの方か……【瞬間移動】からのぉ【遠見】!」
蜘蛛魔物の上空まで転移し、空間魔法【遠見】で視認する。【遠見】は望遠鏡みたいな魔法だね。障害物があるところまでは覗けない。
全長1メートルほどでカラフルな色合いの体――いや違う、あれは服だ!
なんてこったい、服を着た蜘蛛がいた!!
こ、これは確保したい!
蜘蛛はのんびり歩いてるところだった。
【闘気】を身にをまとい、若干の【隠密】も発動させてるな……【闘気】使いはすべからく達人。やり手かもしれない。
せっかく見つけた変わり者だし、【闘気】持ちに敵対心を抱かれるのも怖い。
まずはいつものようにエサで釣ろう。
「というわけで蜘蛛の進行方向前方へ行くよ! 【隠密】は全開ね!」
「わふっ!」
「では【瞬間移動】!」
◇ ◆ ◇ ◆
その蜘蛛は、目の前に置いてあるドラゴン肉の刺盛りを警戒しているようだった。
私とチビは、その様子を草むらから観察する。もちろん【隠密】は全開。
蜘蛛は刺盛りには手をつけず、じっとしている……いや、ゆらりと顔を上げた。
……え? 目が合った?
次の瞬間、蜘蛛の姿が消える!
いかん! 【思考加速】100倍! 【闘気】全開!
チビを連れて砦の自室まで【瞬間移動】!
「ち、チビ、今日はもう非番でいいよ」
いったん【思考加速】を切り、チビに告げる。
「わふっ」
私単身で再び先ほどのポイント上空へ【瞬間移動】。
眼下を【探査】してみると……
「うわマジか!」
さっきの蜘蛛が、私たちが潜んでいた草むらに佇んでいた……ちょうど背後を取る形で!
うひー……マジもんの達人やないかい!
どうしようかなーでも服着た蜘蛛なんて二度と会えないかもしれないし……。
「……ん?」
何か足に絡みついているような……って、蜘蛛糸ぉ!?
「ぅわぁぁあああああ!?」
物凄いスピードで地面へ引き寄せられる!
【思考加速】100倍からの、さらに上空へ【瞬間移動】!
「はぁはぁはぁ……」
【瞬間移動】の効果で足から糸を外すことができたけど……【探査】。あーやっぱり、足引っぱってきたのはさっきの蜘蛛だ……。
あれかー、【闘気】を薄く広げてこちらの存在を把握したな? ネ○ェルピトーかなんかかよ! オレの円は半径4メートルで十分なんじゃなかったのかよォ!
でも、ますます欲しくなってきたなー……。
遠距離からコソコソ様子を伺ってても仕方ないし、吶喊してみますか!
「ダブル【防護結界】で体を保護して、【瞬間移動】!」
蜘蛛の目の前数メートル先に転移した。
目が合うや否や蜘蛛が跳躍し、木の上に逃げた。と同時にこちらへ蜘蛛糸を投げつけてくる!
蜘蛛糸は【物理防護結界】にべちゃりと張りつく。
信じられないほどの力で蜘蛛が引っ張ってくるが、私も【テレキネシス】で【物理防護結界】を押さえつけているから動かない。
「ねぇキミ! キミに危害を加えるつもりはないの! ちょっとお話できないかな!?」
結界にはメッシュ状の穴を開けているから、相手には聞こえるはず。
「さっきのお肉は私からの贈り物! 毒なんて入ってないよ? なんなら私が毒見するよ!」
言葉が通じるかどうかはわからないけど……戦うつもりがないことが伝わってくれれば僥倖だ。
「…………」
「…………」
私と蜘蛛との間に、無言の空間。そして、
するするするする……
はたして蜘蛛は、木から降りてきてくれた!
同時に、結界に張りついていた糸がずるずると落ちる。どういう原理なんだろう?
「ほら、お肉食べない?」
【アースボール】で蜘蛛の前方数メートル先に皿を作り、【アイテムボックス】からドラゴン生肉を落とす。【ウィンドカッター】で一部切り取り、【テレキネシス】で私の方へ運び、結界に少しだけ開けた隙間から結界内に入れ、そのまま口へ運ぶ。
「美味しい! ほら、毒はないよ?」
本音を言うと、味つけなしの生肉はあまり美味しくなかった……。
でも相手に差し出すものをわざわざ貶すことはない。『つまらないものですが……』なんて言われて喜ぶのは日本人くらいなもんなのだから。
「…………」
――ぱくっ
お、蜘蛛さんが肉に口をつけてくれた!
よしよし、懐柔作戦第1段階はクリアだ。餌付けこそ交渉の基本にして奥義!
【闘気】を張りつつ、ダブル【防護結界】は解除。
「ねぇ蜘蛛さん、あなたのお洋服、素敵だね。こういう服とか、どう思う?」
【アースウォール】で作った台の上に、城塞都市で買った中古服を並べていく。
肉を平らげた蜘蛛さんは、針のように鋭い前足で女性用の上着を持ち上げ、じろじろ……ギョロギョロ?……と見つめたあと、
「…………フッ」
――え、なに? 今、鼻で笑った!?
そして次の瞬間、信じられない光景が。
蜘蛛さんの尻からふわりと糸が出て、針のような前足が目にも止まらぬ速度で動き、そしてみるみるうちに出来上がる、先ほど見ていた女性用上着と同じような服。
しかも【アイテムボックス】から取り出した色とりどりの染料――って【アイテムボックス】持ちの魔物!? いやいやそこに驚くのはあとにしよう――で染め上げられたリボンやフリルが縫いつけられ、まさしく『目の前にある女性服の完全上位互換』が出来上がった。
染められた部分がべっちゃりしてることもない。染めるそばから魔法で乾燥・定着させていたから。
「な、ななな……」
こ、この子は凄い。間違いなく凄い! 欲しい! 何がなんでも欲しい!!
「ど、どどどドラゴン肉追加であげるよ」
「…………」
むしゃむしゃ。
あ、今気がついた。
この子、肉を食う時は一番前の針みたいな2本の足は使わない。この2本は裁縫のための足なんだ。
ふぉぉぉおおおおお! なんだこの子、なんだこの子!?
異世界転生者の魂でも入ってんじゃないの!? ……いやまぁ現実の話としては、異世界転生者は先代勇者と私の2人だけってのは女神様からも言われた通りなんだけれども。
つまりこの子は、純粋にめちゃくちゃ器用で賢い個体ってことだ!
「ね、ねぇキミ、私と一緒に来ない? ご飯ならいくらでもあげるよ? 毎日ドラゴン肉を食べさせてあげる。キミのその、素晴らしい裁縫の腕が欲しいんだ」
「――――……」
蜘蛛さんは私の目をしばし見つめたあと、おもむろに尻から糸を出し、それはそれは滑らかな手触りのハンカチを作った。
「……え?」
差し出される。
「え、ま、まさか……私に同じものを作れと?」
「…………」
じっと見つめてくる蜘蛛さん。
「いや、私はそういうのは専門外というか、やったことないっていうか……」
「…………フッ」
!?
今バカにされた!?
「――じゅっ!」
蜘蛛さん相手に宣言する。
言葉が通じてるかどうかなんて関係ねぇ。てめぇ、誰をバカにしたか思い知らせてやるからなぁ!
「10分後にもう一度ここに来てください! 本物のハンカチを見せてあげますよ!」
追加のドラゴン肉を残し、【1日が100年になる部屋】へ【瞬間移動】!
◇ ◆ ◇ ◆
というわけで、内部時間で1年間程がっつり修行してきた。
来る日も来る日もタンパク質から糸を生成し、それを編んで布にし、ハンカチを作り、腹が減ったらメシを食い、集中力が切れたら気絶する日々。
「さぁお待たせしました!」
はたして外部時間で10分後、蜘蛛さんはちゃんとその場にいてくれた。
「見ててください!」
【アイテムボックス】内部には、この1年で溜め込んできたタンパク質――魔物肉から抽出したもの――が、がっつり入っている。
蜘蛛糸の原料はタンパク質。
これを【水魔法】で粘らせながら【テレキネシス】で寄り合わせて糸を作り、【火魔法】で望みの硬さ・粘度まで固まらせる。
なんちゃって蜘蛛糸の完成だ。
伊達に1年修行してきてないよ!
タンパク質をシームレスに糸に変えるのはお手の物。
……まぁ【思考加速】100倍かつ指先にがっつり【闘気】をまとわせて、器用さを最大限引き上げてるんだけど。
続いてこの糸を、手織りの要領で縦横と編んでいき、数分をかけてハンカチの完成!
どやさ!
ハンカチを【テレキネシス】で差し出すと、
「…………フッ」
!?
やれやれ……って感じの蜘蛛さんのジェスチャー。
続いて蜘蛛さんは、先ほど自身が作った女性服の方を前足で指し示す。
「いや、それはさすがに無理だよ……っていうか自分で作れるならキミを頼る意味がないじゃん」
「…………フッ」
!?
「……や、や、や、やってやろうじゃねえかよこの野郎!」
◇ ◆ ◇ ◆
というわけで、追加で10年ほど。
外時間で2時間半くらいになるんだけど、蜘蛛さんは律義に待ってくれてたよ。
「み、み、見ててくださいよ!?」
糸を寄り、布を織り、服を作る!
【闘気】全開の目にも止まらぬ速さで手を動かし、服を作ること小一時間。
「はぁっはぁっはぁっ……ど、どうですか!?」
まぁ若干ヨレたり歪んだり、染め方にムラはあるけどさ、許してよもう……。
「…………」
蜘蛛さん、私の渾身の作品をギョロギョロ眺めたあと、
「…………フッ」
!?
しかして、蜘蛛さんは私の前まで歩み寄り、その前足で私の頭をぽんっと叩いた。
「ぉ、ぉ、ぉおお……もしかして、認めてくれた?」
試しに【従魔】の首輪を出して見せても、距離を取る素振りを見せない。
「や、や、や、やったー! ありがとう! これからよろしくね!」
こうして苦節11年。
私は念願の仕立屋さんを手に入れた!
◇ ◆ ◇ ◆
ステータスを見せてもらったんだけど、蜘蛛さんのレベルは132だった! マジか、まさかの英雄・賢者超えレベル!
そしてスキル【裁縫】がカンストのLV10!
ちなみに11年間育てた私の【裁縫】はLV3止まり……。
そして気になる種族名が【アラクネ】。
上半身が女性ってわけではないんだけど、案外、機織りの腕を女神相手に自慢したやんちゃ娘の魂でも入ってるのかもしれない。
あ、もちろんアラクネさんにも、レベル200になるまでレベリングしてもらったよ。
*******************************************
追記回数:4,649回 通算年数:413年 レベル:600
いつもお読み頂きありがとうございます!
次回は主人公ではなく主人公の母が暴れ回るお話です。
お楽しみに!
0
お気に入りに追加
309
あなたにおすすめの小説
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
ミニゴブリンから始まる神の箱庭~トンデモ進化で最弱からの成り上がり~
リーズン
ファンタジー
〈はい、ミニゴブリンに転生した貴女の寿命は一ヶ月約三十日です〉
……えーと? マジっすか?
トラックに引かれチートスキル【喰吸】を貰い異世界へ。そんなありふれた転生を果たしたハクアだが、なんと転生先はミニゴブリンだった。
ステータスは子供にも劣り、寿命も一ヶ月しかなく、生き残る為には進化するしか道は無い。
しかし群れのゴブリンにも奴隷扱いされ、せっかく手に入れた相手の能力を奪うスキルも、最弱のミニゴブリンでは能力を発揮できない。
「ちくしょうそれでも絶対生き延びてやる!」
同じ日に産まれたゴブゑと、捕まったエルフのアリシアを仲間に進化を目指す。
次々に仲間になる吸血鬼、ドワーフ、元魔王、ロボ娘、勇者etc。
そして敵として現れる強力なモンスター、魔族、勇者を相手に生き延びろ!
「いや、私はそんな冒険ファンタジーよりもキャッキャウフフなラブコメスローライフの方が……」
予想外な行動とトラブルに巻き込まれ、巻き起こすハクアのドタバタ成り上がりファンタジーここに開幕。
「ダメだこの作者私の言葉聞く気ねぇ!?」
お楽しみください。
色々な所で投稿してます。
バトル多め、題名がゴブリンだけどゴブリン感は少ないです。
前世ポイントッ! ~転生して楽しく異世界生活~
霜月雹花
ファンタジー
17歳の夏、俺は強盗を捕まえようとして死んだ――そして、俺は神様と名乗った爺さんと話をしていた。話を聞けばどうやら強盗を捕まえた事で未来を改変し、転生に必要な【善行ポイント】と言う物が人より多く貰えて異世界に転生出来るらしい。多く貰った【善行ポイント】で転生時の能力も選び放題、莫大なポイントを使いチート化した俺は異世界で生きていく。
なろうでも掲載しています。
S級スキル【竜化】持ちの俺、トカゲと間違われて実家を追放されるが、覚醒し竜王に見初められる。今さら戻れと言われてももう遅い
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
ファンタジー
主人公ライルはブリケード王国の第一王子である。
しかし、ある日――
「ライル。お前を我がブリケード王家から追放する!」
父であるバリオス・ブリケード国王から、そう宣言されてしまう。
「お、俺のスキルが真の力を発揮すれば、きっとこの国の役に立てます」
ライルは必死にそうすがりつく。
「はっ! ライルが本当に授かったスキルは、【トカゲ化】か何かだろ? いくら隠したいからって、【竜化】だなんて嘘をつくなんてよ」
弟である第二王子のガルドから、そう突き放されてしまう。
失意のまま辺境に逃げたライルは、かつて親しくしていた少女ルーシーに匿われる。
「苦労したんだな。とりあえずは、この村でゆっくりしてくれよ」
ライルの辺境での慎ましくも幸せな生活が始まる。
だが、それを脅かす者たちが近づきつつあった……。
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。
晴行
ファンタジー
ぼっち高校生、冷泉刹華(れいぜい=せつか)は突然クラスごと異世界への召喚に巻き込まれる。スキル付与の儀式で物騒な名前のスキルを授かるも、試したところ大した能力ではないと判明。いじめをするようなクラスメイトに「ビビらせんな」と邪険にされ、そして聖女に「スキル使えないならいらないからどっか行け」と拷問されわずかな金やアイテムすら与えられずに放り出され、着の身着のままで異世界をさまよう羽目になる。しかし路頭に迷う彼はまだ気がついていなかった。自らのスキルのあまりのチートさゆえ、世界のすべてを『殺す』権利を手に入れてしまったことを。不思議なことに自然と集まってくる可愛い女の子たちを襲う、残酷な運命を『殺し』、理不尽に偉ぶった奴らや強大な敵、クラスメイト達を蚊を払うようにあしらう。おかしいな、俺は独りで静かに暮らしたいだけなんだがと思いながら――。
階段落ちたら異世界に落ちてました!
織原深雪
ファンタジー
どこにでも居る普通の女子高生、鈴木まどか17歳。
その日も普通に学校に行くべく電車に乗って学校の最寄り駅で下りて階段を登っていたはずでした。
混むのが嫌いなので少し待ってから階段を登っていたのに何の因果かふざけながら登っていた男子高校生の鞄が激突してきて階段から落ちるハメに。
ちょっと!!
と思いながら衝撃に備えて目を瞑る。
いくら待っても衝撃が来ず次に目を開けたらよく分かんないけど、空を落下してる所でした。
意外にも冷静ですって?内心慌ててますよ?
これ、このままぺちゃんこでサヨナラですか?とか思ってました。
そしたら地上の方から何だか分かんない植物が伸びてきて手足と胴に巻きついたと思ったら優しく運ばれました。
はてさて、運ばれた先に待ってたものは・・・
ベリーズカフェ投稿作です。
各話は約500文字と少なめです。
毎日更新して行きます。
コピペは完了しておりますので。
作者の性格によりざっくりほのぼのしております。
一応人型で進行しておりますが、獣人が出てくる恋愛ファンタジーです。
合わない方は読むの辞めましょう。
お楽しみ頂けると嬉しいです。
大丈夫な気がするけれども一応のR18からR15に変更しています。
トータル約6万字程の中編?くらいの長さです。
予約投稿設定完了。
完結予定日9月2日です。
毎日4話更新です。
ちょっとファンタジー大賞に応募してみたいと思ってカテゴリー変えてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる