「強くてニューゲーム」で異世界無限レベリング ~美少女勇者(3,077歳)、王子様に溺愛されながらレベリングし続けて魔王討伐を目指します!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
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第1章 「私が初めて殺されるまでの話」
16(401歳)「図らずも競売ごっこ。あと活版印刷チート発動!」
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「ギルドマスター殿、話が違いますぞ!」
アポを取っていたという商人さんがぶち切れる。
……まぁ、気持ちは分かる。
意気揚々とやって来たら、部屋には4歳の先客がいて、土地を賭けてこの4歳児と競売しろと言われたんだから。
「そうは言われましても……アルフォート様からは本件に関する商談のアポを頂いただけの段階であり、まだ契約は結んでおりませんので」
「ぐぬぬ……」
商人さん改めアルフォートさん――って菓子か!――が、私をまるで商売敵を見るような目で睨んでくる。
あ、まさしく商売敵だったわ私。
いやん、いたいけな(数百)4歳児をそんなに睨まないでよね。
【威圧耐性】LV8がなけりゃ泣いてたよ。
「……仕方ありませんな。時間が惜しい。さっそく始めてもらいましょうか」
切り替え早いなアルフォートさん! 優秀な商人さんなのかも。
「では中央通り沿いの一等地200平方メートルに対しまして、競りを開始します。まずは最低価格の5,000万ゼニスから」
5,000万!?
いい値段してんねぇ!
「5,500万!」
お、いきなり500万円上げてきた。
威勢がいいね! でも威勢のよさならこっちだって負けちゃいない。
「6,000万!」
「なっ!? 6,500万!」
一気に引き離してやろう。
「8,000万!」
「な、なんだと!? お嬢ちゃん、遊びじゃないんだ。本当に払えるんだろうな!?」
「払えますよ? ――【アイテムボックス】」
言って私は小金貨がじゃらじゃら入った革袋をいくつも取り出して見せる。
「な、ななな……くそっ、折角の店舗立上げのチャンスなんだ! 諦めるわけには……8,500万!」
「9,000万!」
「…………………………………………おやぁ?」
脂汗をかいていたアルフォートさんが、思いついたように顔を上げた。
「なぜ、500万ゼニスしか上げなかったのかな?」
――ぎくぅッ!
実は私の現金には限りがある。
2億あったお金も、大人買いで2,000万ほど散財し、教会兼孤児院へは調子に乗って3,600万あげちゃった……まぁ一気に孤児が100人以上増えるんだから、あげすぎとは思わない。先々のことを考えれば、むしろ少ないくらいだろう。
で、孤児院増設の建築費に5,000万くらい残しておきたいんだよね。ちょっと考えてることがあるから、念のため多めに。
ってことで弾いた上限が9,900万ゼニス!
もちろん商人ギルドマスターに砂糖やらを500万で売った分も入れてるよ。
その懐事情から、一気に上げるのを躊躇ってしまった。
「あ、上げれますよ! なんなら今から9,500万にしましょうか?」
「1億ゼニス!!」
「ぎゃぁあああああああっ!!」
やられた! ここでまさかの現金切れ!!
「おやおや、ここまでのようだね?」
にやりと微笑むアルフォートさん。
……まだだ! まだ終わらんよ!
「【アイテムボックス】!」
――ことん
テーブルの上に、1匹の折り鶴を置いた。――『紙』製の。
「……これ、なんだと思います?」
「……え? 羊皮紙を折ったもの……? いやしかし、羊皮紙ではここまで繊細な折り目をつけることは……それに、なんだこの美しい白さは!?」
折り鶴を手に取り、目の前にかざして凝視するアルフォートさん。
「なっ……しわも毛穴もない! それに、この薄さは……もしやこれは、動物の皮が原料ではない?」
「ご名答」
そう、羊皮紙でもパピルスでもない。『紙』だ。
パピルスは折ると割れてしまうし、分厚い羊皮紙ではここまで精巧な折り紙はできない。
魔の森で試作してたんだよね、紙。
テンサイ砂糖にベヒーモス・バターにベヒーモス・チーズ、デスキラーホーネットの蜂蜜から作った蜂蜜酒に蜂蜜漬け、蒸留酒や黒色火薬、コンクリートに方位磁石に顕微鏡にゴム製品……様々なものを試作したもんだけど、中でも一番ヤバイ発明品が、この『紙』。
活版印刷技術と組み合わせることで、時代を変えるほどのポテンシャルを持つ。
何せ羊皮紙に比べて圧倒的に安く作れる!
だって羊皮紙って、現代日本ですら1枚数千円からするんだよ!? 高すぎィ!
そんなに高価な羊皮紙と、本といえば全て手書きの時代。
1冊数十万ゼニスとか数百万ゼニスなんて当たり前。
魔法を学びたくても教本が買えない。薬師を目指したくても辞典が買えない。情報伝達といえば公示人による口頭での布告。技術の伝承は口伝。
そこに、安価で量産可能な書籍が大量に出回ったらどうなると思う?
識字率爆上がり!
知識人大量発生で新発明連発のルネッサーンス!
……まぁ同時に、下手に知恵をつけたり思想にかぶれて自由だー革命だーなんて言い出す層もいるかもしれないし、そういった層を恐れて焚書したり知識人を殺して回る支配者もいるかもしれない。
とはいえ識字率上昇で国家転覆なんてのは眉唾だし、ナチ○もポ○ポトも中世ヨーロッパ世界からすれば遠い未来の話だ。あまり神経質にならないで行こう。
もし、私が生きている間に変な方向に行きそうだったら、最悪ロードすればいいしね!
「これは、羊皮紙よりも圧倒的に安く作れる、『紙』と言うものです」
「な、ななな……」
「あとこれ、なんだと思います?」
言って今度はA4サイズの紙と、インク、試作型なんちゃって活版印刷機A4用を取り出し、『こ・ん・に・ち・は・ホ・フ・マ・ン・さ・ん』という文字の活字――ハンコみたいなやつだね――を填める。
【テレキネシス】で活字にちょちょいとインクを塗り、紙へ力強くスターンプ!
A4の紙に突如として現れたあいさつ文に、アルフォートさんとギルマスさん、完全にフリーズ。
「お、お、おぉぉ…………」
たっぷり1分程固まってから、アルフォートさんが再起動した。
「なんてことだ……どうして今まで誰も思いつかなかった!? 印鑑は古くから存在するのにも関わらず、だ! この方法なら、本を量産できる!!
お嬢ちゃん――いえ、アリス様と仰いましたかな!? この『かみ』! 羊皮紙よりも安く作れると仰いましたが、どこまで安くできますか!?」
おっ、紙と活版印刷を見て、私を小娘扱いするのをやめたらしい。
いいね! 4歳児相手でも有能と見れば丁寧に対応できる。頭の柔らかさは商人の美徳だ。
「そうですねぇ……量産体制が整えば、羊皮紙の軽く100分の1いけるでしょうね」
現代日本人の感覚からすれば、A4用紙1枚1円まである。まぁさすがに現代地球ばりの機械設備と製造ラインを用意するのは無理だけど。
「ひゃくぅ!?」
素っ頓狂な声を上げたアルフォートさん。テーブル越しに私の肩を掴み、
「実は私、製本業を営んでいるのです。だから、この『かみ』と『文字を打つ道具』の素晴らしさはよぉ~~~~っく分かります! なにとぞ製法を! 製法を教えてくだされぇ!!」
アルフォートさん、お菓子屋さんじゃなくて本屋さんだった。
「タダで教えるわけないじゃないですかぁ……あと顔が近いです」
「……し、失礼。取り乱しました」
座り直すアルフォートさん。
「でも、私のお願いを5つほど聞いて頂ければ、お教えしますよ……?」
「……な、内容を聞かせて頂いても?」
期待と不安の入り混じったアルフォートさんの顔。額は汗でびっしょりだ。
それだけ、紙と活版印刷技術のチートっぷりを認めてくれているということなんだろう。
「1つ、今競売しているこの土地を、私に譲ってください」
「くっ……仕方ないですね。承知しました」
「2つ、土地の代金を支払ってください」
「……ぷっ、あっはっはっ! 肝っ玉の据わったお嬢さんだ。いいでしょう、支払いますとも。この『紙』と『道具』があれば、私の勝利は約束されたも同じなのですから!」
約束された勝利の本! エクスカリブック!
「3つ、この新技術で製本業を営むにあたり、まず現在羊皮紙制作・販売業と写本業を営んでいる人を雇ってください――彼らはこの新技術により、確実に職を失いますから。
そして、私が斡旋する人を必ず雇ってください。その上でさらに人手が足りない場合は、未亡人や怪我で引退した元冒険者など、職に就きにくい人を優先して雇ってください。
これを広める目的の1つに、街の治安維持・改善がありますので」
4歳児とはいえ中身は数百30歳。従士長の娘として仕事するよ!
「素晴らしいお心がけですな。その条件も飲みましょう」
「4つ、刷る本は聖書と、【アイテムボックス】!――この魔法教本を優先してください」
「構いませんが、理由をお聞かせ頂いても?」
「ここはとにかく魔物が多い上に、枯れた厳しい土地です。自衛や生活向上のために、簡単な魔法は使えた方が良いでしょう。そして、下手に力をつけた人が良からぬ行為に走らぬよう、女神様の教えをしっかり学ぶ必要があります。
いっそ、聖書と教本をセット販売して頂けるとありがたいです」
「なるほど、承知しました」
「5つ、この新技術は、遠からずロンダキルア領領主や他領の貴族、国王陛下のお耳に届くでしょう。もし技術を開示・販売するように求められた時は、まず私にご相談ください。
そして、相手方の目的が技術の独占による利益ではなく、製本業の拡大にあると判断した場合は、全面的に知識を開示します」
「なっ……そんなことをされてしまっては、私の利益がなくなってしまう!」
「どこかから声がかかるまでに少なくとも1年はあるでしょう。工房を完成させるまで徹底的に秘匿し、稼働と同時に大々的に販売すれば、1億ゼニスくらいすぐ回収できますよ。
特にこの街は冒険者が多い。魔力を覚えたくとも本を買うお金はないって層は結構いるはず。それでなくとも、私の父が軍の強化のために大量に購入するでしょうし、そうするように進言しておきます。砦に数千人詰めている軍人さん。そんな軍人さん1人に魔法教本1冊の時代……ふふふ、胸が躍りませんか?」
「お、おぉぉ……」
「格安で本を出せるとなれば、今まで、知識はあってもお金がなくて出版を諦めていた層が、自身の知識を本にするでしょう。ありきたりな神話や英雄伝だけでなく、様々な人たちが思い描いた空想物語が本になって出回るでしょう……ワクワクしませんか?」
「素晴らしい! 新時代の幕開けですな!」
「そしてあなたの名は、新時代の開拓者として未来永劫語り継がれるでしょう!」
「うぉぉおおおおお!!」
――ヨシ!(指差呼称)
上手くアルフォートさんを誘導できたっぽい。
まぁ一介の本好きとしては、本の種類が増えるのはきっと嬉しいことに違いない。
「私の目的は、この国の国民全員の地力向上です。いつ魔の森で魔物の暴走が発生しても、魔王国軍が攻めてきても、対抗できるような民になってもらいたいのです」
「ははっ、怖いことを仰いますな」
「笑い事じゃないんですねぇ、それが。魔の森の深部って、地竜とかベヒーモスとかがうじゃうじゃいるんですよ?」
「な、ななな……あっ! 昨日、冒険者ギルドに伝説級の魔物100体が納入されたという話を聞きましたが、まさか……」
にこっ
4歳児のあどけない微笑みに、引きつり笑いをするアルフォートさんとギルマスさん。
「まぁそんなわけで。いかがでしょう、この話。受けて頂けますか?」
「喜んで! と言いたいところですが……この土地、我が製本所で作った本の販売店舗として買うつもりだったのです。今の話を聞くと、製本速度が一気に向上するのは間違いない。少しでもいいので、この土地の片隅に店舗を開かせてはもらえませんでしょうか? それさえ飲んで頂ければ、この話をお受け致しましょう」
「うむむ……」
この土地は、あのつつましやかな工房兼店舗の約1.5倍の土地。
「端っこに細長い店舗でもよければ……」
「構いませんとも! ではさっそく、契約書を作りましょう!」
そんなわけで、私はタダで土地と働き口を手に入れた――数百年先の技術と引き換えに。
*******************************************
追記回数:4,649回 通算年数:401年 レベル:600
回、中世ヨーロッパ世界に鉄筋コンクリートが現出!
アポを取っていたという商人さんがぶち切れる。
……まぁ、気持ちは分かる。
意気揚々とやって来たら、部屋には4歳の先客がいて、土地を賭けてこの4歳児と競売しろと言われたんだから。
「そうは言われましても……アルフォート様からは本件に関する商談のアポを頂いただけの段階であり、まだ契約は結んでおりませんので」
「ぐぬぬ……」
商人さん改めアルフォートさん――って菓子か!――が、私をまるで商売敵を見るような目で睨んでくる。
あ、まさしく商売敵だったわ私。
いやん、いたいけな(数百)4歳児をそんなに睨まないでよね。
【威圧耐性】LV8がなけりゃ泣いてたよ。
「……仕方ありませんな。時間が惜しい。さっそく始めてもらいましょうか」
切り替え早いなアルフォートさん! 優秀な商人さんなのかも。
「では中央通り沿いの一等地200平方メートルに対しまして、競りを開始します。まずは最低価格の5,000万ゼニスから」
5,000万!?
いい値段してんねぇ!
「5,500万!」
お、いきなり500万円上げてきた。
威勢がいいね! でも威勢のよさならこっちだって負けちゃいない。
「6,000万!」
「なっ!? 6,500万!」
一気に引き離してやろう。
「8,000万!」
「な、なんだと!? お嬢ちゃん、遊びじゃないんだ。本当に払えるんだろうな!?」
「払えますよ? ――【アイテムボックス】」
言って私は小金貨がじゃらじゃら入った革袋をいくつも取り出して見せる。
「な、ななな……くそっ、折角の店舗立上げのチャンスなんだ! 諦めるわけには……8,500万!」
「9,000万!」
「…………………………………………おやぁ?」
脂汗をかいていたアルフォートさんが、思いついたように顔を上げた。
「なぜ、500万ゼニスしか上げなかったのかな?」
――ぎくぅッ!
実は私の現金には限りがある。
2億あったお金も、大人買いで2,000万ほど散財し、教会兼孤児院へは調子に乗って3,600万あげちゃった……まぁ一気に孤児が100人以上増えるんだから、あげすぎとは思わない。先々のことを考えれば、むしろ少ないくらいだろう。
で、孤児院増設の建築費に5,000万くらい残しておきたいんだよね。ちょっと考えてることがあるから、念のため多めに。
ってことで弾いた上限が9,900万ゼニス!
もちろん商人ギルドマスターに砂糖やらを500万で売った分も入れてるよ。
その懐事情から、一気に上げるのを躊躇ってしまった。
「あ、上げれますよ! なんなら今から9,500万にしましょうか?」
「1億ゼニス!!」
「ぎゃぁあああああああっ!!」
やられた! ここでまさかの現金切れ!!
「おやおや、ここまでのようだね?」
にやりと微笑むアルフォートさん。
……まだだ! まだ終わらんよ!
「【アイテムボックス】!」
――ことん
テーブルの上に、1匹の折り鶴を置いた。――『紙』製の。
「……これ、なんだと思います?」
「……え? 羊皮紙を折ったもの……? いやしかし、羊皮紙ではここまで繊細な折り目をつけることは……それに、なんだこの美しい白さは!?」
折り鶴を手に取り、目の前にかざして凝視するアルフォートさん。
「なっ……しわも毛穴もない! それに、この薄さは……もしやこれは、動物の皮が原料ではない?」
「ご名答」
そう、羊皮紙でもパピルスでもない。『紙』だ。
パピルスは折ると割れてしまうし、分厚い羊皮紙ではここまで精巧な折り紙はできない。
魔の森で試作してたんだよね、紙。
テンサイ砂糖にベヒーモス・バターにベヒーモス・チーズ、デスキラーホーネットの蜂蜜から作った蜂蜜酒に蜂蜜漬け、蒸留酒や黒色火薬、コンクリートに方位磁石に顕微鏡にゴム製品……様々なものを試作したもんだけど、中でも一番ヤバイ発明品が、この『紙』。
活版印刷技術と組み合わせることで、時代を変えるほどのポテンシャルを持つ。
何せ羊皮紙に比べて圧倒的に安く作れる!
だって羊皮紙って、現代日本ですら1枚数千円からするんだよ!? 高すぎィ!
そんなに高価な羊皮紙と、本といえば全て手書きの時代。
1冊数十万ゼニスとか数百万ゼニスなんて当たり前。
魔法を学びたくても教本が買えない。薬師を目指したくても辞典が買えない。情報伝達といえば公示人による口頭での布告。技術の伝承は口伝。
そこに、安価で量産可能な書籍が大量に出回ったらどうなると思う?
識字率爆上がり!
知識人大量発生で新発明連発のルネッサーンス!
……まぁ同時に、下手に知恵をつけたり思想にかぶれて自由だー革命だーなんて言い出す層もいるかもしれないし、そういった層を恐れて焚書したり知識人を殺して回る支配者もいるかもしれない。
とはいえ識字率上昇で国家転覆なんてのは眉唾だし、ナチ○もポ○ポトも中世ヨーロッパ世界からすれば遠い未来の話だ。あまり神経質にならないで行こう。
もし、私が生きている間に変な方向に行きそうだったら、最悪ロードすればいいしね!
「これは、羊皮紙よりも圧倒的に安く作れる、『紙』と言うものです」
「な、ななな……」
「あとこれ、なんだと思います?」
言って今度はA4サイズの紙と、インク、試作型なんちゃって活版印刷機A4用を取り出し、『こ・ん・に・ち・は・ホ・フ・マ・ン・さ・ん』という文字の活字――ハンコみたいなやつだね――を填める。
【テレキネシス】で活字にちょちょいとインクを塗り、紙へ力強くスターンプ!
A4の紙に突如として現れたあいさつ文に、アルフォートさんとギルマスさん、完全にフリーズ。
「お、お、おぉぉ…………」
たっぷり1分程固まってから、アルフォートさんが再起動した。
「なんてことだ……どうして今まで誰も思いつかなかった!? 印鑑は古くから存在するのにも関わらず、だ! この方法なら、本を量産できる!!
お嬢ちゃん――いえ、アリス様と仰いましたかな!? この『かみ』! 羊皮紙よりも安く作れると仰いましたが、どこまで安くできますか!?」
おっ、紙と活版印刷を見て、私を小娘扱いするのをやめたらしい。
いいね! 4歳児相手でも有能と見れば丁寧に対応できる。頭の柔らかさは商人の美徳だ。
「そうですねぇ……量産体制が整えば、羊皮紙の軽く100分の1いけるでしょうね」
現代日本人の感覚からすれば、A4用紙1枚1円まである。まぁさすがに現代地球ばりの機械設備と製造ラインを用意するのは無理だけど。
「ひゃくぅ!?」
素っ頓狂な声を上げたアルフォートさん。テーブル越しに私の肩を掴み、
「実は私、製本業を営んでいるのです。だから、この『かみ』と『文字を打つ道具』の素晴らしさはよぉ~~~~っく分かります! なにとぞ製法を! 製法を教えてくだされぇ!!」
アルフォートさん、お菓子屋さんじゃなくて本屋さんだった。
「タダで教えるわけないじゃないですかぁ……あと顔が近いです」
「……し、失礼。取り乱しました」
座り直すアルフォートさん。
「でも、私のお願いを5つほど聞いて頂ければ、お教えしますよ……?」
「……な、内容を聞かせて頂いても?」
期待と不安の入り混じったアルフォートさんの顔。額は汗でびっしょりだ。
それだけ、紙と活版印刷技術のチートっぷりを認めてくれているということなんだろう。
「1つ、今競売しているこの土地を、私に譲ってください」
「くっ……仕方ないですね。承知しました」
「2つ、土地の代金を支払ってください」
「……ぷっ、あっはっはっ! 肝っ玉の据わったお嬢さんだ。いいでしょう、支払いますとも。この『紙』と『道具』があれば、私の勝利は約束されたも同じなのですから!」
約束された勝利の本! エクスカリブック!
「3つ、この新技術で製本業を営むにあたり、まず現在羊皮紙制作・販売業と写本業を営んでいる人を雇ってください――彼らはこの新技術により、確実に職を失いますから。
そして、私が斡旋する人を必ず雇ってください。その上でさらに人手が足りない場合は、未亡人や怪我で引退した元冒険者など、職に就きにくい人を優先して雇ってください。
これを広める目的の1つに、街の治安維持・改善がありますので」
4歳児とはいえ中身は数百30歳。従士長の娘として仕事するよ!
「素晴らしいお心がけですな。その条件も飲みましょう」
「4つ、刷る本は聖書と、【アイテムボックス】!――この魔法教本を優先してください」
「構いませんが、理由をお聞かせ頂いても?」
「ここはとにかく魔物が多い上に、枯れた厳しい土地です。自衛や生活向上のために、簡単な魔法は使えた方が良いでしょう。そして、下手に力をつけた人が良からぬ行為に走らぬよう、女神様の教えをしっかり学ぶ必要があります。
いっそ、聖書と教本をセット販売して頂けるとありがたいです」
「なるほど、承知しました」
「5つ、この新技術は、遠からずロンダキルア領領主や他領の貴族、国王陛下のお耳に届くでしょう。もし技術を開示・販売するように求められた時は、まず私にご相談ください。
そして、相手方の目的が技術の独占による利益ではなく、製本業の拡大にあると判断した場合は、全面的に知識を開示します」
「なっ……そんなことをされてしまっては、私の利益がなくなってしまう!」
「どこかから声がかかるまでに少なくとも1年はあるでしょう。工房を完成させるまで徹底的に秘匿し、稼働と同時に大々的に販売すれば、1億ゼニスくらいすぐ回収できますよ。
特にこの街は冒険者が多い。魔力を覚えたくとも本を買うお金はないって層は結構いるはず。それでなくとも、私の父が軍の強化のために大量に購入するでしょうし、そうするように進言しておきます。砦に数千人詰めている軍人さん。そんな軍人さん1人に魔法教本1冊の時代……ふふふ、胸が躍りませんか?」
「お、おぉぉ……」
「格安で本を出せるとなれば、今まで、知識はあってもお金がなくて出版を諦めていた層が、自身の知識を本にするでしょう。ありきたりな神話や英雄伝だけでなく、様々な人たちが思い描いた空想物語が本になって出回るでしょう……ワクワクしませんか?」
「素晴らしい! 新時代の幕開けですな!」
「そしてあなたの名は、新時代の開拓者として未来永劫語り継がれるでしょう!」
「うぉぉおおおおお!!」
――ヨシ!(指差呼称)
上手くアルフォートさんを誘導できたっぽい。
まぁ一介の本好きとしては、本の種類が増えるのはきっと嬉しいことに違いない。
「私の目的は、この国の国民全員の地力向上です。いつ魔の森で魔物の暴走が発生しても、魔王国軍が攻めてきても、対抗できるような民になってもらいたいのです」
「ははっ、怖いことを仰いますな」
「笑い事じゃないんですねぇ、それが。魔の森の深部って、地竜とかベヒーモスとかがうじゃうじゃいるんですよ?」
「な、ななな……あっ! 昨日、冒険者ギルドに伝説級の魔物100体が納入されたという話を聞きましたが、まさか……」
にこっ
4歳児のあどけない微笑みに、引きつり笑いをするアルフォートさんとギルマスさん。
「まぁそんなわけで。いかがでしょう、この話。受けて頂けますか?」
「喜んで! と言いたいところですが……この土地、我が製本所で作った本の販売店舗として買うつもりだったのです。今の話を聞くと、製本速度が一気に向上するのは間違いない。少しでもいいので、この土地の片隅に店舗を開かせてはもらえませんでしょうか? それさえ飲んで頂ければ、この話をお受け致しましょう」
「うむむ……」
この土地は、あのつつましやかな工房兼店舗の約1.5倍の土地。
「端っこに細長い店舗でもよければ……」
「構いませんとも! ではさっそく、契約書を作りましょう!」
そんなわけで、私はタダで土地と働き口を手に入れた――数百年先の技術と引き換えに。
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追記回数:4,649回 通算年数:401年 レベル:600
回、中世ヨーロッパ世界に鉄筋コンクリートが現出!
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