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第四十三話 たった一人のあなたへ
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「シン・アッシュロード様……宮廷魔術師、なるほど、なるほどね」
さっきは自分を卑下していたようだけど、エミリアは頭の回転がいい。
私に魔術の才能がないことも知っているから、彼女の身の回りで起きた不審時のすべてがシン様によるものだと気づいたのだろう。
「そういうこと。全部あなたのせいだったのね」
「まぁな」
「死んだと思っていたアイリが生きていたのも、あなたのせいかしら。宮廷魔術師様?」
「あぁ。彼女の冤罪はすぐに分かったからな」
「ふ」
エミリアは観念したように肩を竦めた。
とうとう諦めたのかしら……?
え、ちょ。逃げた!?
「おっと、逃がすわけがないだろう」
シン様が指を鳴らす。
「………………っ!」
氷の壁が塔の頂上を囲い込んだ。
一目散に駆け出していたエミリアは止まらざるをえない。
尖塔の頂上だけあって、出口は一つ。
窓から出れば転落死は間違いないから、もうどこにも行けない。
もちろんエミリアにも魔術の才能なんてない。
ここから私とシン様を倒すことも出来ないだろう。
詰み、というやつだ。
「アイリを殺すつもりで追い詰め、形勢不利と見るや否や逃げ出すその精神性、さすがだな、エミリア・クロック」
「……っ」
エミリアは血が出るほど奥歯を噛みしめていた。
それからふっと表情を消して、肩を揺らしだす。
「ふふ……あはっ、あっははははははは、はははははははは!」
「……」
「あー、やられたわ。ほんと最っ悪」
エミリアは腰に手を当ててて言った。
「で、どうすんの。あたしのこと殺すの?」
「さてな。憲兵に突き出そうとは思っているが」
エミリアは露骨に安堵したようだった。
すぐにニヤニヤと口元を歪め、勝気な表情が戻ってくる。
「あはっ、半年も経ってるのよ。証拠なんて残してるわけないでしょ!」
「……」
「わたしを憲兵に突き出したところで捕まるわけないわ! わたしの後ろに誰が付いてると思ってるの?」
強気に彼女は私に指を差した。
「大体、あんたもあんたよ、アイリ!」
「……なに?」
「そんな奴に救われていい気になってるんでしょ。可哀そうな自分を救ってくれて嬉しいって? ハッ、馬鹿馬鹿しい! どうせまた裏切られるって決まってるのに!」
「お言葉ですがぁ」
「アイリ」
かちんと来たリーチェの口をシン様が止めた。
「あんたみたいな地味で可愛げがない女! この人がほんとに好きになると思ってる!? どうせ可哀そうだからちょっと助けてあげただけ! あなたのことを女として愛してなんかいないのよ!」
「……」
「また裏切られるわねぇ。残念だったわねぇ!? あんたなんて、所詮は、」
「それでもいいです」
「!?」
私は水晶に触れて声を届ける。
すぐそばにシン様も居るから、少し恥ずかしいけれど……。
彼に対する答えを出すなら、今しかないと思った。
「確かに私はもう、人を心から信じることが出来ないわ」
「だったらっ」
「でも」
私は自分の胸に手を当てて思い出す。
シン様がくれた温かい記憶を。
裏切られた私に寄り添ってくれた彼の優しさを。
色んな顔がある彼もいつかは変わってしまうのかもしれない。
私はもう何度も裏切られて、人を信じることが出来ないけれど。
それでも、
「この人なら、裏切られてもいいって思ったの」
エミリアは絶句していた。
私は自然と口元に笑みが浮かぶ。
「だって私、シン様のことが好きなんだもの」
「……あぁ、そう。そうなの。お幸せなようで反吐が出るわ」
エミリアは吐き捨てるように言って、
「でも、あんたがどうであれわたしを裁くことなんて」
「あぁ。言っていなかったが」
ようやくこの時だ来たかと、シン様は笑う。
彼は胸ポケットから小判型の魔道具を取り出して告げた。
「この会話、王都中に届けているぞ」
「「は?」」
思わず、私とエミリアの声が重なった。
…………………………あの。聞いてませんけど?
さっきは自分を卑下していたようだけど、エミリアは頭の回転がいい。
私に魔術の才能がないことも知っているから、彼女の身の回りで起きた不審時のすべてがシン様によるものだと気づいたのだろう。
「そういうこと。全部あなたのせいだったのね」
「まぁな」
「死んだと思っていたアイリが生きていたのも、あなたのせいかしら。宮廷魔術師様?」
「あぁ。彼女の冤罪はすぐに分かったからな」
「ふ」
エミリアは観念したように肩を竦めた。
とうとう諦めたのかしら……?
え、ちょ。逃げた!?
「おっと、逃がすわけがないだろう」
シン様が指を鳴らす。
「………………っ!」
氷の壁が塔の頂上を囲い込んだ。
一目散に駆け出していたエミリアは止まらざるをえない。
尖塔の頂上だけあって、出口は一つ。
窓から出れば転落死は間違いないから、もうどこにも行けない。
もちろんエミリアにも魔術の才能なんてない。
ここから私とシン様を倒すことも出来ないだろう。
詰み、というやつだ。
「アイリを殺すつもりで追い詰め、形勢不利と見るや否や逃げ出すその精神性、さすがだな、エミリア・クロック」
「……っ」
エミリアは血が出るほど奥歯を噛みしめていた。
それからふっと表情を消して、肩を揺らしだす。
「ふふ……あはっ、あっははははははは、はははははははは!」
「……」
「あー、やられたわ。ほんと最っ悪」
エミリアは腰に手を当ててて言った。
「で、どうすんの。あたしのこと殺すの?」
「さてな。憲兵に突き出そうとは思っているが」
エミリアは露骨に安堵したようだった。
すぐにニヤニヤと口元を歪め、勝気な表情が戻ってくる。
「あはっ、半年も経ってるのよ。証拠なんて残してるわけないでしょ!」
「……」
「わたしを憲兵に突き出したところで捕まるわけないわ! わたしの後ろに誰が付いてると思ってるの?」
強気に彼女は私に指を差した。
「大体、あんたもあんたよ、アイリ!」
「……なに?」
「そんな奴に救われていい気になってるんでしょ。可哀そうな自分を救ってくれて嬉しいって? ハッ、馬鹿馬鹿しい! どうせまた裏切られるって決まってるのに!」
「お言葉ですがぁ」
「アイリ」
かちんと来たリーチェの口をシン様が止めた。
「あんたみたいな地味で可愛げがない女! この人がほんとに好きになると思ってる!? どうせ可哀そうだからちょっと助けてあげただけ! あなたのことを女として愛してなんかいないのよ!」
「……」
「また裏切られるわねぇ。残念だったわねぇ!? あんたなんて、所詮は、」
「それでもいいです」
「!?」
私は水晶に触れて声を届ける。
すぐそばにシン様も居るから、少し恥ずかしいけれど……。
彼に対する答えを出すなら、今しかないと思った。
「確かに私はもう、人を心から信じることが出来ないわ」
「だったらっ」
「でも」
私は自分の胸に手を当てて思い出す。
シン様がくれた温かい記憶を。
裏切られた私に寄り添ってくれた彼の優しさを。
色んな顔がある彼もいつかは変わってしまうのかもしれない。
私はもう何度も裏切られて、人を信じることが出来ないけれど。
それでも、
「この人なら、裏切られてもいいって思ったの」
エミリアは絶句していた。
私は自然と口元に笑みが浮かぶ。
「だって私、シン様のことが好きなんだもの」
「……あぁ、そう。そうなの。お幸せなようで反吐が出るわ」
エミリアは吐き捨てるように言って、
「でも、あんたがどうであれわたしを裁くことなんて」
「あぁ。言っていなかったが」
ようやくこの時だ来たかと、シン様は笑う。
彼は胸ポケットから小判型の魔道具を取り出して告げた。
「この会話、王都中に届けているぞ」
「「は?」」
思わず、私とエミリアの声が重なった。
…………………………あの。聞いてませんけど?
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