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第三十一話 いざ戦場へ
しおりを挟む前線都市ガルガンティアには転移門があります。
魔獣被害に苦しむ各任務地へ隊員たちを送れるようにしたものです。
もちろん魔力鍵の認証が必要ですが、非常に便利なものですね。
さすがの推しも魔導機巧人形みたいに巨大なものを転移させるのは苦労するのです。いやまぁ、本来あんなにほいほいと転移術を使用できるほうが異常なのですけど。
「さて、いよいよ稼働テストですね」
「そ、そうだね」
リネット様は言いながら、何やらキョロキョロしているように見えます。
わたしは不思議に思いつつも、転移門管理官と話している推しに近付きました。
そこへ、
「──ギルティア様、伝令です。元帥が至急来るようにと」
「なに?」
何やら緊張した様子の伝令官がギル様にささやきました。
「俺は今忙しい。あとにしろ」
「『例の件』と関係があると」
「…………分かった」
ギル様はちらりとわたしを見てから頷きました。
それからちゃんと向き直って、
「用事が出来た。君たちはここで待っているように」
「先に行っても良いですか?」
「──何か言ったか?」
「はひっ、なんでもありません」
目が笑っていない推し、怖いです。
こくこくと頷いたわたしたちに頷いて、推しは転移術で消えました。
基地内を超高等魔術で移動する推し……遠慮がなくて素敵ですね。
「ところで、リネット様はさっきから何をキョロキョロとされているのですか?」
「え? や、えぇっと」
隠しているようですが、誰かを探しているのは明白です。
わたしがじぃっと見つめていると、彼女は観念したように項垂れました。
「……その、前の小隊のみんなが気になって」
「あぁ、ドルハルト高山地帯。今日でしたっけ」
「うん……」
リネット様はばつが悪そうに俯きます。
半ば喧嘩別れのようになったリネット様ですが、どうもまだ気になるようですね。あんな有象無象がどうなろうとわたしは知ったことではありませんが……。
ん? そういえば今日は……。
「リネット様。何年の何日でしたっけ」
「え? 今日は太陽暦五六八年、水の月の第一月曜日、だけど」
「あー……」
そうか、そうですか。今日でしたか。
わたしは記憶の中からとある事件を引っ張り出します。
太陽暦五六八年、水の月の第一月曜日。
この日、ドルハルト高山地帯にて哨戒および魔獣駆除の任務に当たっていた軍人三名が死亡した。当初は単なる魔獣による死亡と考えられていたものの、現場に派遣されたギルティア・ハークレイにより魔族の侵攻であったことが発覚。ギルティア様によって侵攻は食い止められたものの、彼は足に大きな傷を負い、その後の行動を制限されることとなった……。
「……忘れていました」
「?」
なんということでしょう。
魔導機巧人形が完成したことに夢中で思い出せませんでした。
今日、付いてくると言っていた推しですが……来ちゃだめじゃないですか。
「……ギル様が来る前に片付けますか」
「ど、どうしたの? ローズさん、なんか怖い顔してるけど」
「リネット様。元仲間が今日死ぬとしたら助けたいですか? 見捨てますか?」
「え」
リネット様は不意打ちを喰らったように固まりました。
わたしの声音に気付いたのか、思案げに俯きます。
「……助けたい、かな」
「……その心は?」
「私は確かにあの人たちにこき使われていたけれど……その、最初は助けてもらっていたから。サーシャ様は確かに偉そうで、私を下に見てたけど……守られていたことも、本当だから」
……まったくこの人は。
相変わらずというか。なんというか。
わたしに対してもそうでしたが、色んな意味で優しすぎますね。
「分かりました。では助けに行きましょう」
「え? で、でも」
「理由は言えませんが、あの人たちは今日死ぬ運命にあります。急がないと間に合いません」
「え、えぇえええええ!?」
「新型魔導機巧人形の威力を試すいい機会です。さぁ行きましょう」
「ちょ、また、え? どういうこと? ちょっと──?」
わたしは転移門の管理官に行き先を告げます。
Sランクのギルティア小隊、しかもわたしは元大聖女です。
難なく許可は取れました。
「このあとギル様が来ると思いますので、わたしたちはビリー平原に行ったとお伝えください」
「はい? いえ、ですが……」
「お願いします。元・大聖女命令です。断ればどうなるか……分かりますね?」
ごくり。と管理官は息を呑み、頷きました。
大事なところは何も言わない。脅迫の心得です。
「では行きましょうか。推しの怪我を防ぎに」
「サーシャ様を助けに行くんだよね!?」
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