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第十五話 あなたを助けたい
しおりを挟む「──なるほどな」
わたしの話を聞いたギル様が興味深そうに頷きました。
さすがに寝室でずっと話しているのはどうかと思ったので、場所はリビングです。
「ドレス、宝石、金、極秘書類……面白い組み合わせだ」
「ふふ。そうでしょう?」
わたしが考えに考え抜いた最強のアイテムですよ。
「それで? 妹に宝石類を与えて終わりなわけじゃないんだろう?」
「えぇ、まぁ。わたし、悪女ですから」
「……面白いな」
ギル様は机に肘をついて、
「どんな仕掛けをしたんだ?」
「まだ内緒です」
わたしは口元に指を一本たてます。
「そのうち、ギル様にも分かりますよ」
ギル様の言う通り、あのトランクの中にはすべて仕掛けがしてある。
わたしの予想通りに動けば、間違いなくユースティアは破滅するでしょう。
「つまり、軍にも届くほどの醜態を晒させるのか」
「Si。ギル様のご慧眼には敵いませんね」
「だが、そううまくいくのか?」
世の中、全部が全部計画通りにいくとは限りません。ほんの些細な歯車のズレで全部が狂ってしまうことも当然あります。なのでわたしは、確実に彼女が破滅するように仕向けました。
「──嘘をつくコツは、嘘の表面を甘い真実で飾り立てることです」
「……」
それも、本人に都合がいい欲望を刺激するようなもの。
征服欲。
支配欲。
優越感。
あるいはコンプレックスを刺激するのもいいでしょう。
あの子はわたしに対して劣等感を抱いてしましたからね。
「わたしはあの子に『ずっと虐げて来たのに最後に反抗した姉が逃げ出すときに持ち去ろうとした物』という真実を与えました」
本来なら見える物も、目が曇れば見えなくなる。
「楽しみになさってください。大聖女と一緒に太陽教会も破滅しますから」
「……怖い女だ」
「わたし、悪女ですから」
妹が噂を流すというなら存分に流せばいいのです。
幸い、わたしには『一度目』の知識があります。
妹の策を逆手に取って、今度こそ太陽教会を潰し、ギル様を救ってみせましょう。
「……それとも、こんな悪女が隊員になるのは嫌ですか?」
「……」
その質問をするには幾分かの勇気が要りました。
わたしだって一人の女ですからね。
顔も知らない誰かにどう呼ばれようと、ギル様に嫌われるのは辛いのです。
まぁ結果は分かり切っていますけど。
あんなに挑発したんですから、わたしを好ましく思うはずがありません。
勝負の結果ですから宿舎には置いてもらいますけどね。
あなたがどう思おうと、わたしは絶対にあなたを助けて見せるから。
だから──
「確かに……おれは聖女が嫌いだ。君にも良い印象はない」
「……っ」
あぁ、きつい。きついですね、これ。
思っていた百倍きついです。推しに嫌われるのは、きつい。
「そう、ですか……?」
こら、泣いちゃダメですよローズ。しっかりしなさい。
推しを救うためには嫌われても構わないって、さっき決意したじゃないですか。
震えちゃダメ。俯いたらダメ。
不敵に、悪女のように、貴婦人のように振舞わないと。
「俺は聖女が嫌いだ。誰にも小隊に入って欲しくはない」
「……っ、も、もうしわけ」
「だが──悪女は別だ」
「え?」
今、なんて?
「ギルティア様……?」
顔を上げると、推しは微笑んでいました。
「君は聖女ではなく、ローズ・スノウだ。君なら、いい」
「え」
わたしは一瞬呆けてしまいました。
次第にじわじわと口元が緩んできて、思わず身を乗り出します。
「ま、まじですか!?」
「マジだ」
「そ、そうですか。ふーん。そう、ですか……」
きゃぁ~~~~~~~~~~~~~~~!
推しと! 二人っきり! 一つ屋根の下で! 一緒に暮らす!?
やばいですまずいです興奮しすぎて鼻血が出ちゃいます~~~!
「神に感謝を。わたし、この時のために生まれてきたのですね」
「何を馬鹿なことを言っている」
「失礼な。わたしは真剣なのです! いくらギル様本人でも推しへの愛を否定することは許しません!」
「お、おう……」
ギル様はのけぞって、ぼそりと呟きます。
「やはり選択を誤ったか……?」
「ふふーん。もう言質頂きましたからね。撤回は出来ませんよ?」
しまった。これも録音しておけばよかったですね。
枢機卿の気持ち悪い声なんか消してしまえばよかったです。残念。
「ごほん。まぁ、なにはともあれ、だ」
ギル様は姿勢を正し、強気な目で手を差し出してきました。
「これからよろしく頼む、ローズ・スノウ」
あぁ、本当に夢みたいです。
嫌われもせず、推しと一緒の小隊に入れるなんて。
まぁようやく第一段階クリアというところですが、でも、今だけは。
「むふ」
わたしはギル様の手を取り、最高の気分で笑いました。
「Si! よろしくお願いします、ギル様!」
今だけは──この喜びを噛みしめることにしましょう。
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