恋愛相談から始まる恋物語

菜の花

文字の大きさ
上 下
35 / 53

いつか見た光景

しおりを挟む
あれから、なんだかんだで2ヶ月が過ぎようとしていた。 

先輩と四月が付き合い出してからは、3ヶ月くらいが経っただろうか。

俺は、あの日以来は壊れてはいない。

最も、今も俺の隣にいる、水無月こいつのおかげなんだろうな。

「なに見てんの?」

「いや、別に」

「ふ~ん。変態」

「待て、そんないやらしい目で見てないからな」

「女の子ってそういう視線に敏感なんだよ」

「だから濡れ衣だ。冤罪だ」

俺と水無月は、朝からそんな他愛のない話をしながら、一緒に登校していた。

だが、そんな時に神様はとんだ偶然を運んでくる。

いや、これは必然なのだろうか。

だとしたら、神様も酷な奴なんだなと思った。

あの日と同じ、まさしくデジャブだった。

楽しそうに、声音が弾んでいる音が聞こえてきた。

何度も聞いたその声は、段々と近づいてくる。

「あ、水無月さんと如月くんじゃないか。おはよう!」

「おはようございます」

「うっす」

俺たちの姿を見つけると、先輩は爽やかな笑顔を振りまきながら、俺達に挨拶をしてきた。

あー、眩しいことこの上ないな。

そんな先輩の影に隠れて、四月は暗い表情を浮かべていた。

前回と同様に、先輩に四月が繋いでいた手は、四月の方から解かれていた。

「・・・七は恥ずかしがり屋さんだね!」

「えへへ・・・!」

今のこの瞬間はぎこちなかったものの、2人はちゃんと恋人同士なんだなって思った。

そして、1番驚いていたのは、自分自身のことだった。

前なら、2人のそんな雰囲気を見て、心を荒らしていて、隣にいた水無月に助けてもらっていた。

でも、今は制御装置が無くても、俺は平常心を保つことができていた。

これが成長し、前を向くってことなのだろうか。

「2人も一緒に登校なんて、本当に仲が良いんだね」

「まあ、一応は」

そんな当たり障りない返答をしていると、俺の左手に圧力がかかり、急激に熱を帯びていく。

見なくても分かる。

この感触は、何回も何回も味わったものだから。

水無月が俺の手を握ってきたのだ。

俺の心はいたって平常心だが、水無月の目にはそうは映らなかったのだろうか?

どちらにせよ、拒む理由も特にないため、されるがままにしている。

「水無月さんと如月くんは付き合ってるのかい?」

「付き合ってませんけど」

俺がそう即答すると、握られていた左手の圧力がさらに強くなる。

一部分だけ、ピンポイントでつねられている感覚だった。

隣にいる水無月を見ると、涼しい顔をしながらそっぽを向いていた。

「そうなんだ。とてもそうには見えなかったからさ」

「そうですか」

「付き合う予定とかはないのかい?」

前回はすぐに立ち去った先輩と四月だったが、今日は何故だか、俺達の事に関してやたらと質問をしてくる。

主に先輩の方がだがな。

四月は、先輩の隣で、相変わらず暗い表情を浮かべていた。

そんなんじゃ、先輩が変に気を使うだろうが。

「どうなんですかね」

「おっ! 否定はしないって事は意味深な発言だね!」

「・・・茶化さないでくださいよ」

「あははっ! ごめんごめん。でも2人はお似合いだと俺は思うな。ね、七?」

そう言うと先輩は、隣にいた四月には同意を求めた。

四月は、一瞬俺の方を見た。

その表情は、とても苦しそうだった。

だが、すぐに満面の笑みを作った。

何度も見たことあるようで、初めて見るその苦しそうな笑顔は、少しだけ俺の心を痛めた。

「・・・うん! 六日と如月くんはお似合いだと思うな!」

「だよね、そう思うよね!」

四月に関しては、無理やり言わされた感がすごく強かった。

だが、俺は前を向いた。

まだまだ、中途半端に揺れ動くほどには、脆い感情かもしれないけど、それでも踏み出さなきゃなにも変わらないんだよ。

四月が今、どんな思いで気持ちでいるのかは分からない。

でも、俺と同じ様に前を向いて欲しかった。

そんな分かりやすく悲しい表情をしないでくれ。

そんな分かりやすく苦しい表情をしないでくれ。

四月おまえと先輩が付き合っている以上、俺はお前にしてあげられることはないんだ。

お互いに気がつくのも、動き出すのも遅すぎたんだ。

「まあ、人生は何があるか分からないですからね」

「そうだね。でも、2人はお似合いの夫婦だと思うよ!」

「なんで付き合う過程吹っ飛ばして、もう結婚してるんすか・・・?」

「あははっ! これ以上2人の時間を奪うのも性に合わないから、僕達は行こうか」

「・・・はい」

そう言うと、前回と同じように先輩と四月は、俺達の前を歩く。

どんどん2人との距離は遠くなる。

決して、俺たちの歩くスピードが遅いわけではない。

2人は逃げるように歩くスピードが速くなる、主に四月の方が早歩きになっていた。

やがて2人の姿は見なくなった。

俺と水無月はまだ手を繋いだままだった。

「別に、俺病んでないけど?」

「ん。知ってるよ」

「は? じゃあなんで手握ってきたんだよ」

「握りたかったから」

水無月は恥ずかしがる事もなく、淡々とそう言ってきた。

こりゃまた随分と積極的なようで。

「あっそ」

「あ、照れた?」

「別に照れてない」

「素直じゃないんだから~」

「お前ほどじゃない」

「あたしは素直だよ」

「どこがだよ」

水無月とあーでもないこーでもないと、会話をしている内に、目の前に学校が見えてきた。

俺と水無月の歩くスピードは、何故か少しだけ遅くなった気がした。

ただ単に疲れていたのか、この時間をまだ過ごしていたかったか。

そのどちらなのか、はたまたまた別の何かなのか。

「今度さ、土日のどっちかでデートしよ」

「デート?」

不意に、水無月が俺にそんな事を言ってきた。

幸か不幸か、今週の土日は偶然にも空いていた。

元々、土日に予定が埋まるほどリアルが充実しているわけではないが。

「うん。どうせ暇でしょ?」

「・・・実際そうなんだけどそう言われると断りたくなるな」

「時間と場所は後で連絡するから」

「人の話を聞けよ」

「細かい男は嫌われるよ?」

「お前本当いい性格してるな・・・」

「六日」

「は?」

「お前じゃない。あたしの名前は水無月 六日。だから六日」

「そう呼べと?」

「・・・分かってるなら言わせないでくれる?」

水無月は、俺に自分を下の名前で呼ぶように言ってきた。

若干頬を赤く染めているようにも見えたが、ここでツッコむと後々めんどくさいことになると思い、いじるのはやめた。

何だかんだで学校はもう目の前だ。

そして、響き渡る1回目のチャイムの音。

それは予鈴だった。

「やっべ」

俺と水無月は2人で走り出した。

遅刻寸前のはずなのに、おかしいほどに俺と水無月は笑っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

果たされなかった約束

家紋武範
恋愛
 子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。  しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。  このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。  怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。 ※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

平民の方が好きと言われた私は、あなたを愛することをやめました

天宮有
恋愛
公爵令嬢の私ルーナは、婚約者ラドン王子に「お前より平民の方が好きだ」と言われてしまう。 平民を新しい婚約者にするため、ラドン王子は私から婚約破棄を言い渡して欲しいようだ。 家族もラドン王子の酷さから納得して、言うとおり私の方から婚約を破棄した。 愛することをやめた結果、ラドン王子は後悔することとなる。

私が死ねば楽になれるのでしょう?~愛妻家の後悔~

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢オリヴィアは伯爵令息ダーフィトと婚約中。 しかし結婚準備中オリヴィアは熱病に罹り冷酷にも婚約破棄されてしまう。 それを知った幼馴染の伯爵令息リカードがオリヴィアへの愛を伝えるが…  【 ⚠ 】 ・前半は夫婦の闘病記です。合わない方は自衛のほどお願いいたします。 ・架空の猛毒です。作中の症状は抗生物質の発明以前に猛威を奮った複数の症例を参考にしています。尚、R15はこの為です。

処理中です...