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いつか見た光景
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あれから、なんだかんだで2ヶ月が過ぎようとしていた。
先輩と四月が付き合い出してからは、3ヶ月くらいが経っただろうか。
俺は、あの日以来は壊れてはいない。
最も、今も俺の隣にいる、水無月のおかげなんだろうな。
「なに見てんの?」
「いや、別に」
「ふ~ん。変態」
「待て、そんないやらしい目で見てないからな」
「女の子ってそういう視線に敏感なんだよ」
「だから濡れ衣だ。冤罪だ」
俺と水無月は、朝からそんな他愛のない話をしながら、一緒に登校していた。
だが、そんな時に神様はとんだ偶然を運んでくる。
いや、これは必然なのだろうか。
だとしたら、神様も酷な奴なんだなと思った。
あの日と同じ、まさしくデジャブだった。
楽しそうに、声音が弾んでいる音が聞こえてきた。
何度も聞いたその声は、段々と近づいてくる。
「あ、水無月さんと如月くんじゃないか。おはよう!」
「おはようございます」
「うっす」
俺たちの姿を見つけると、先輩は爽やかな笑顔を振りまきながら、俺達に挨拶をしてきた。
あー、眩しいことこの上ないな。
そんな先輩の影に隠れて、四月は暗い表情を浮かべていた。
前回と同様に、先輩に四月が繋いでいた手は、四月の方から解かれていた。
「・・・七は恥ずかしがり屋さんだね!」
「えへへ・・・!」
今のこの瞬間はぎこちなかったものの、2人はちゃんと恋人同士なんだなって思った。
そして、1番驚いていたのは、自分自身のことだった。
前なら、2人のそんな雰囲気を見て、心を荒らしていて、隣にいた水無月に助けてもらっていた。
でも、今は制御装置が無くても、俺は平常心を保つことができていた。
これが成長し、前を向くってことなのだろうか。
「2人も一緒に登校なんて、本当に仲が良いんだね」
「まあ、一応は」
そんな当たり障りない返答をしていると、俺の左手に圧力がかかり、急激に熱を帯びていく。
見なくても分かる。
この感触は、何回も何回も味わったものだから。
水無月が俺の手を握ってきたのだ。
俺の心はいたって平常心だが、水無月の目にはそうは映らなかったのだろうか?
どちらにせよ、拒む理由も特にないため、されるがままにしている。
「水無月さんと如月くんは付き合ってるのかい?」
「付き合ってませんけど」
俺がそう即答すると、握られていた左手の圧力がさらに強くなる。
一部分だけ、ピンポイントでつねられている感覚だった。
隣にいる水無月を見ると、涼しい顔をしながらそっぽを向いていた。
「そうなんだ。とてもそうには見えなかったからさ」
「そうですか」
「付き合う予定とかはないのかい?」
前回はすぐに立ち去った先輩と四月だったが、今日は何故だか、俺達の事に関してやたらと質問をしてくる。
主に先輩の方がだがな。
四月は、先輩の隣で、相変わらず暗い表情を浮かべていた。
そんなんじゃ、先輩が変に気を使うだろうが。
「どうなんですかね」
「おっ! 否定はしないって事は意味深な発言だね!」
「・・・茶化さないでくださいよ」
「あははっ! ごめんごめん。でも2人はお似合いだと俺は思うな。ね、七?」
そう言うと先輩は、隣にいた四月には同意を求めた。
四月は、一瞬俺の方を見た。
その表情は、とても苦しそうだった。
だが、すぐに満面の笑みを作った。
何度も見たことあるようで、初めて見るその苦しそうな笑顔は、少しだけ俺の心を痛めた。
「・・・うん! 六日と如月くんはお似合いだと思うな!」
「だよね、そう思うよね!」
四月に関しては、無理やり言わされた感がすごく強かった。
だが、俺は前を向いた。
まだまだ、中途半端に揺れ動くほどには、脆い感情かもしれないけど、それでも踏み出さなきゃなにも変わらないんだよ。
四月が今、どんな思いで気持ちでいるのかは分からない。
でも、俺と同じ様に前を向いて欲しかった。
そんな分かりやすく悲しい表情をしないでくれ。
そんな分かりやすく苦しい表情をしないでくれ。
四月と先輩が付き合っている以上、俺はお前にしてあげられることはないんだ。
お互いに気がつくのも、動き出すのも遅すぎたんだ。
「まあ、人生は何があるか分からないですからね」
「そうだね。でも、2人はお似合いの夫婦だと思うよ!」
「なんで付き合う過程吹っ飛ばして、もう結婚してるんすか・・・?」
「あははっ! これ以上2人の時間を奪うのも性に合わないから、僕達は行こうか」
「・・・はい」
そう言うと、前回と同じように先輩と四月は、俺達の前を歩く。
どんどん2人との距離は遠くなる。
決して、俺たちの歩くスピードが遅いわけではない。
2人は逃げるように歩くスピードが速くなる、主に四月の方が早歩きになっていた。
やがて2人の姿は見なくなった。
俺と水無月はまだ手を繋いだままだった。
「別に、俺病んでないけど?」
「ん。知ってるよ」
「は? じゃあなんで手握ってきたんだよ」
「握りたかったから」
水無月は恥ずかしがる事もなく、淡々とそう言ってきた。
こりゃまた随分と積極的なようで。
「あっそ」
「あ、照れた?」
「別に照れてない」
「素直じゃないんだから~」
「お前ほどじゃない」
「あたしは素直だよ」
「どこがだよ」
水無月とあーでもないこーでもないと、会話をしている内に、目の前に学校が見えてきた。
俺と水無月の歩くスピードは、何故か少しだけ遅くなった気がした。
ただ単に疲れていたのか、この時間をまだ過ごしていたかったか。
そのどちらなのか、はたまたまた別の何かなのか。
「今度さ、土日のどっちかでデートしよ」
「デート?」
不意に、水無月が俺にそんな事を言ってきた。
幸か不幸か、今週の土日は偶然にも空いていた。
元々、土日に予定が埋まるほどリアルが充実しているわけではないが。
「うん。どうせ暇でしょ?」
「・・・実際そうなんだけどそう言われると断りたくなるな」
「時間と場所は後で連絡するから」
「人の話を聞けよ」
「細かい男は嫌われるよ?」
「お前本当いい性格してるな・・・」
「六日」
「は?」
「お前じゃない。あたしの名前は水無月 六日。だから六日」
「そう呼べと?」
「・・・分かってるなら言わせないでくれる?」
水無月は、俺に自分を下の名前で呼ぶように言ってきた。
若干頬を赤く染めているようにも見えたが、ここでツッコむと後々めんどくさいことになると思い、いじるのはやめた。
何だかんだで学校はもう目の前だ。
そして、響き渡る1回目のチャイムの音。
それは予鈴だった。
「やっべ」
俺と水無月は2人で走り出した。
遅刻寸前のはずなのに、おかしいほどに俺と水無月は笑っていた。
先輩と四月が付き合い出してからは、3ヶ月くらいが経っただろうか。
俺は、あの日以来は壊れてはいない。
最も、今も俺の隣にいる、水無月のおかげなんだろうな。
「なに見てんの?」
「いや、別に」
「ふ~ん。変態」
「待て、そんないやらしい目で見てないからな」
「女の子ってそういう視線に敏感なんだよ」
「だから濡れ衣だ。冤罪だ」
俺と水無月は、朝からそんな他愛のない話をしながら、一緒に登校していた。
だが、そんな時に神様はとんだ偶然を運んでくる。
いや、これは必然なのだろうか。
だとしたら、神様も酷な奴なんだなと思った。
あの日と同じ、まさしくデジャブだった。
楽しそうに、声音が弾んでいる音が聞こえてきた。
何度も聞いたその声は、段々と近づいてくる。
「あ、水無月さんと如月くんじゃないか。おはよう!」
「おはようございます」
「うっす」
俺たちの姿を見つけると、先輩は爽やかな笑顔を振りまきながら、俺達に挨拶をしてきた。
あー、眩しいことこの上ないな。
そんな先輩の影に隠れて、四月は暗い表情を浮かべていた。
前回と同様に、先輩に四月が繋いでいた手は、四月の方から解かれていた。
「・・・七は恥ずかしがり屋さんだね!」
「えへへ・・・!」
今のこの瞬間はぎこちなかったものの、2人はちゃんと恋人同士なんだなって思った。
そして、1番驚いていたのは、自分自身のことだった。
前なら、2人のそんな雰囲気を見て、心を荒らしていて、隣にいた水無月に助けてもらっていた。
でも、今は制御装置が無くても、俺は平常心を保つことができていた。
これが成長し、前を向くってことなのだろうか。
「2人も一緒に登校なんて、本当に仲が良いんだね」
「まあ、一応は」
そんな当たり障りない返答をしていると、俺の左手に圧力がかかり、急激に熱を帯びていく。
見なくても分かる。
この感触は、何回も何回も味わったものだから。
水無月が俺の手を握ってきたのだ。
俺の心はいたって平常心だが、水無月の目にはそうは映らなかったのだろうか?
どちらにせよ、拒む理由も特にないため、されるがままにしている。
「水無月さんと如月くんは付き合ってるのかい?」
「付き合ってませんけど」
俺がそう即答すると、握られていた左手の圧力がさらに強くなる。
一部分だけ、ピンポイントでつねられている感覚だった。
隣にいる水無月を見ると、涼しい顔をしながらそっぽを向いていた。
「そうなんだ。とてもそうには見えなかったからさ」
「そうですか」
「付き合う予定とかはないのかい?」
前回はすぐに立ち去った先輩と四月だったが、今日は何故だか、俺達の事に関してやたらと質問をしてくる。
主に先輩の方がだがな。
四月は、先輩の隣で、相変わらず暗い表情を浮かべていた。
そんなんじゃ、先輩が変に気を使うだろうが。
「どうなんですかね」
「おっ! 否定はしないって事は意味深な発言だね!」
「・・・茶化さないでくださいよ」
「あははっ! ごめんごめん。でも2人はお似合いだと俺は思うな。ね、七?」
そう言うと先輩は、隣にいた四月には同意を求めた。
四月は、一瞬俺の方を見た。
その表情は、とても苦しそうだった。
だが、すぐに満面の笑みを作った。
何度も見たことあるようで、初めて見るその苦しそうな笑顔は、少しだけ俺の心を痛めた。
「・・・うん! 六日と如月くんはお似合いだと思うな!」
「だよね、そう思うよね!」
四月に関しては、無理やり言わされた感がすごく強かった。
だが、俺は前を向いた。
まだまだ、中途半端に揺れ動くほどには、脆い感情かもしれないけど、それでも踏み出さなきゃなにも変わらないんだよ。
四月が今、どんな思いで気持ちでいるのかは分からない。
でも、俺と同じ様に前を向いて欲しかった。
そんな分かりやすく悲しい表情をしないでくれ。
そんな分かりやすく苦しい表情をしないでくれ。
四月と先輩が付き合っている以上、俺はお前にしてあげられることはないんだ。
お互いに気がつくのも、動き出すのも遅すぎたんだ。
「まあ、人生は何があるか分からないですからね」
「そうだね。でも、2人はお似合いの夫婦だと思うよ!」
「なんで付き合う過程吹っ飛ばして、もう結婚してるんすか・・・?」
「あははっ! これ以上2人の時間を奪うのも性に合わないから、僕達は行こうか」
「・・・はい」
そう言うと、前回と同じように先輩と四月は、俺達の前を歩く。
どんどん2人との距離は遠くなる。
決して、俺たちの歩くスピードが遅いわけではない。
2人は逃げるように歩くスピードが速くなる、主に四月の方が早歩きになっていた。
やがて2人の姿は見なくなった。
俺と水無月はまだ手を繋いだままだった。
「別に、俺病んでないけど?」
「ん。知ってるよ」
「は? じゃあなんで手握ってきたんだよ」
「握りたかったから」
水無月は恥ずかしがる事もなく、淡々とそう言ってきた。
こりゃまた随分と積極的なようで。
「あっそ」
「あ、照れた?」
「別に照れてない」
「素直じゃないんだから~」
「お前ほどじゃない」
「あたしは素直だよ」
「どこがだよ」
水無月とあーでもないこーでもないと、会話をしている内に、目の前に学校が見えてきた。
俺と水無月の歩くスピードは、何故か少しだけ遅くなった気がした。
ただ単に疲れていたのか、この時間をまだ過ごしていたかったか。
そのどちらなのか、はたまたまた別の何かなのか。
「今度さ、土日のどっちかでデートしよ」
「デート?」
不意に、水無月が俺にそんな事を言ってきた。
幸か不幸か、今週の土日は偶然にも空いていた。
元々、土日に予定が埋まるほどリアルが充実しているわけではないが。
「うん。どうせ暇でしょ?」
「・・・実際そうなんだけどそう言われると断りたくなるな」
「時間と場所は後で連絡するから」
「人の話を聞けよ」
「細かい男は嫌われるよ?」
「お前本当いい性格してるな・・・」
「六日」
「は?」
「お前じゃない。あたしの名前は水無月 六日。だから六日」
「そう呼べと?」
「・・・分かってるなら言わせないでくれる?」
水無月は、俺に自分を下の名前で呼ぶように言ってきた。
若干頬を赤く染めているようにも見えたが、ここでツッコむと後々めんどくさいことになると思い、いじるのはやめた。
何だかんだで学校はもう目の前だ。
そして、響き渡る1回目のチャイムの音。
それは予鈴だった。
「やっべ」
俺と水無月は2人で走り出した。
遅刻寸前のはずなのに、おかしいほどに俺と水無月は笑っていた。
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