恋愛相談から始まる恋物語

菜の花

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溺れて

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放課後の屋上から、今日の物語は始まった。

「それで、先輩との初デートは上手くいったのか?」

「もち! もうラブラブだったよ!」

嬉しそうに笑う四月と、その言葉が少し胸に刺さる俺。

四月が楽しんだんなら、良かったんじゃねーのかよ。

そう思いながら俺は、屋上にくる途中に買ったいちごみるく味の紙パックジュースを飲み出した。

「何か収穫はあったのか?」

せっかくのデートなんだ、今後の為に何かしらの有利になる情報は得てきたんだろうな?

次に繋げられる為に。

そんな思いを込めて、四月に聞いてみる。

「んとね、手繋いだよ!」

「・・・ほう」

「しかもね、こうやって! 普通に握るんじゃなくてね、こうやって恋人繋ぎしたの!」

そう言いながら、四月は俺の手を使いその時の状況を説明してきた。

そのせいで、俺と四月の手が無理やり繋がれてしまった。

四月には悪気はないんだろうが、俺とはこういった形でした手を繋げないんだと、そんならしくもない事を思ってしまった。

「・・・良かったじゃん」

「うん!」

俺のそんな素っ気ない反応にも、満面の笑みで答えてくる四月に、申し訳ない気持ちになる。

このまま中途半端な気持ちで、四月に接してていいのだろうか。

最近はそんな事ばかり言っている。

四月の前では何もないように取り繕って、水無月の前では見栄はって嘘ついて。

最高にかっこ悪い男だよ、本当。

この気持ちを心の奥にしまいこもうと言っていたはずなのに、そんな意思なんかもうとっくに揺らいでる。

揺らいですらない、もう完全に崩れ落ちていた。

その後も、四月に先輩とのデートの内容を聞かされた。

その事を四月は楽しそう話していた。

本当に、笑顔で楽しそうにな。

だが、俺はその内容までは覚えていなかった。

そして俺は1人、屋上で見ていたくないほど綺麗で歪な夕焼け空を見つめていた。

いつ四月が帰ったのかは分からない。

別れ際にどんな言葉を交わしたのかも覚えていない。

「なに黄昏てんの?」

そんな俺に話しかけてきたのは、四月の親友の水無月だった。

相変わらず、俺が落ち込んでいる時には大体現れるよな、水無月って。

エスパーか何かかよ、とついツッコンでしまう。

「・・・夕焼けが綺麗で、ついな」

また、そんな嘘を水無月に吐く。

俺の曇った視界には、本来ならば綺麗なはずの夕焼けも、今はそんなもんじゃなかった。

「嘘」

俺の言葉を聞いた上で、水無月が返してきた言葉は意外なものだった。

まさか嘘と見破られるとはな・・・。

だが、俺はその水無月の言葉に何も返せずにいた。

「黙ってちゃ、認めたってのと一緒だよ」

「・・・分かってるならいちいち言ってくるなよ」

「うん、ごめん」

そう言いながら俺の隣に来る水無月。

ここ最近、やたら水無月と一緒に居る気がした。

だから、こんなに近い距離感でも何も焦る事はなくすんなりと受け入れてられた。

「苦しい?」

「・・・・・・」

「辛い?」

「・・・・・・」

水無月の問いに俺は何も答えなかった。

いや、答えられなかった。

苦しいし、辛い。

だけど、それを思っていても口にしてはいけない。

そうしたら、何もかも終わってしまうから。

そこは男の意地だった。

こんなどうしようもない、俺のちっぽけなプライドがそう言っていた。

「正直さ、今のあんたを見てると、こっちが気を使うんだよね。自分の意思で相談に乗って、それを聞いて勝手に落ち込んで」

全く水無月の言う通りだった。

嫌々で渋々でも引き受けた以上は真っ当しなきゃいけない。

それが責任というものだ。

「だからね、七は悪くないと思う。あんたは自分で自分を苦しめてるよ」

分かってる・・・言われなくてもそんな事は分かってるんだ。

でも、苦しい気持ちと同じくらいあいつと一緒にいたいって思っちゃうんだよ。

今の俺には、この状態より四月と絡めなくなる現実の方がもっと辛くて苦しいものになると思う。

だから・・・だからさ、尚更なんだよ・・・。

「・・・自分でも、どうしたらいいか、分からないんだ・・・」

離れても地獄、離れなくても地獄。

忘れる事なんて出来ない。

前にも進めなくて、後ろにも戻れない状態で、俺にどうしろって言うんだよ・・・。

「・・・かっこ悪・・・」

こんな時でも、こんな状態になっても、水無月は俺を慰めようとはしない。

こいつの中で俺が癌になっている以上、俺には優しくしないだろう。

それがこの水無月 六日という女の性格だからだ。

そう、冷たい一言を言い出す。

「・・・見せてあげる」

また罵倒の言葉がくると思っていたが、その予想に反して水無月は、全く見当のつかない言葉を言ってきた。

すると、水無月は俺の手を優しく握ってきた。

水無月のその行動に俺は驚き、彼女を見た。

「・・・夢、見せてあげる」

「・・・夢?」

「そう。七と例の先輩がくっつくまでの間、あたしが、あんたの感情をコントロールする、制御装置になってあげる」

そう言って水無月は、頬を染めながら俺から視線を外した。

夕焼け色に照らされるその横顔はとても綺麗だった。

「・・・なんでそんなこと・・・」

「べ、別にあんたの為じゃない。七の為、大切な親友の恋路を、他の男に邪魔されたくないだけ」

こんな時にまで、とって付けたような不器用な言い分で捲し立てられる。

でも、水無月が親友の幸せを願っているのは本当の事だろう。

呆気に取られている俺に、水無月が抱きついてきた。 

その行為に俺は驚き、また更にフリーズしてしまう。

そんな俺の耳元で、水無月は囁いた。

焦っていた俺の思考でも、その言葉はすんなりと入ってきた。






「あたしに・・・溺れて」
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