恋愛相談から始まる恋物語

菜の花

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お見舞い作戦

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理由は分からないが、放課後に四月に屋上に呼び出された。

暫く待っていると屋上に四月が現れたが、何やら様子がおかしい。

普段は無駄に底抜けに明るくバカな四月だが、今の四月にはそんな印象は全くなかった。

「四月くん、大変だよ・・・」

「どうした? 体重でも増えたか?」

「・・・バカ、真面目に言ってるのに・・・」

リラックスさせようとしたが、ガチトーンで四月に怒られてしまった。

普段は逆の立場で言いたいことは沢山あるが、今は四月を変に刺激しない方がいいな。

「悪い。んで、どうしたんだ?」

「五月先輩が部活中に倒れて入院したんだって・・・」

とても悲しそうな表情を浮かべて、そう話す四月。

なるほど、だから様子がおかしかったのか。

「でも、入院ってそんなに大怪我だったのか?骨折とか」

「ううん、部活中にいきなり倒れちゃったみたい。原因とか詳しい所までは分からないけど検査も含めて暫く入院なんだって・・・」

「そうか、それは災難だったな」

そのままゆっくりとした足取りで、俺の座っているベンチの横まで歩み寄ってくる四月。

そして横に座ると、俺の左方に自分の頭を預けてきた。

いきなりの事に俺は動揺してしまったが、四月は何も悪びれる事なく、俺の肩から頭を退けようとはしなかった。

「・・・私に何か出来ることはないかなぁ」

暫く沈黙だったが、ポツリと四月がそんな言葉を零した。

一瞬ドキっとしたが、すぐにその考えは捨てた。

四月が好きなのはあの先輩だ。

俺はその手助けをしているに過ぎない。

とりあえず俺は、四月にある事を提案してみることにした。

「そんなに心配なら、差し入れでも持ってお見舞いに行ったらどうだ?」

「お見舞い?」

「おう。入院してる部屋が個室か大部屋から知らんが、どちらにせよ、病院は大人数では押しかけられない場所だろ? それに、お見舞いに来てくれたとなると絶対印象に残るからな」

俺は絶対とか必ずとか、そんな言葉はあまり好きではない。

だが、何となくだが四月にはいつもの底抜けに明るい四月でいて貰いたかったから、あえて強調させる様に言った。

それで、少しでも元気になってくれるといいが。

「そっかぁ。お見舞いか。うん。その手があったね!」

いつもの四月とまではいかないが、先程よりかは多少元気になった様な気がする。

「先輩の様子も見に行けて印象も残せる! 流石恋愛マスター如月くん!」

いや、俺そもそも恋愛経験無いからな・・・。

ま、何とか元気を取り戻してくれたなら何よりだ。

「そうと決まればお見舞い品の買い物に行こう!」

「ちゃんとしたの買えよ?」

「え? 如月くんも一緒だよ?」

「は? 俺はお見舞いには行かないぞ?」

「如月くんそれでも人間なの!?」

俺、人としての存在を否定されたんですけど・・・。

「俺と四月で2人で行っても効果がないだろ? 四月一人で行く事に意味があるんだよ」

「え? なんで?」

またしても、ハテナマークが5つくらい浮かべてる表情をしてくる四月。

少し考えれば分かる事だろうに。

「四月は1度顔を合わせてはいるが、俺は合わせていない。そんな俺がお見舞いだなんて不自然だ。それに、俺と四月の2人で行ってカップルと間違えられたらそれはお前にとっても良くねーだろ?」

「2人で行っただけで、そんな印象持たれちゃうかな?」

「それは正直分からないが、とりあえずリスクは避けた方がいいって話だ」

「う~ん、如月くんの言い分も一理あるね~。うむ~」

すると、目の前で何やら考え込んでいる四月。

暫くすると、何かを閃いたかの様に笑顔で顔を上げる。

「途中までは付いてきてよ! お見舞い品、何をあげればいいか一緒に考えてよ!」

「そんなもん、俺より他の人に考えてもらった方が良くないか?」

「いいから行くのっ!」

「あっ、ちょっ、引っ張るな、伸びる伸びる」

俺は四月に連行されてしまい、途中まで一緒に行く事になった。





 

 

「そういや、入院してる病院の場所は知ってるのか?」

「当たり前だよ! そこはちゃんと教えてもらったから!」

流石の四月も、そこまではヌケていなかった様で一安心した。

場所がわからなきゃ、今回の作戦の実行は不可能だからな。

そんなこんなで、俺と四月はスーパーマーケットに来ていた。

目的は、お見舞いの品物探しだ。

軽い飲み物やゼリー等を買う為だ。

量も各3つくらいで申し分ないだろう。

そう思いながら目的の場所へ向かおうとしたが、先程まで隣にいた四月の姿がない。

「あ? どこいったあいつ」

辺りをキョロキョロ見回すと、少し遠くに四月の姿を捉えた。

そして、何やら両手で籠みたいな物を持っていた。

「如月くん! これでいいんだよね!?」

そう言って四月が俺に見せてきたのは、ガチもんのフルーツバスケットだった。

いや、確かにお見舞いといえばこれを想像するだろうが、ここまでがっつりはやらなくてもよくないか?

「間違ってはいないけど、そんなにがっつりとしたものあげるか? 普通に飲み物とゼリーとかでよくないか?」

「そんな物でいいの? ケチくさいとか思われないかな?」

「別に四月が加害者って訳でもないし、それよりわざわざお見舞いに来てくれたって気持ちの方が、品物上げるよりも嬉しいと思うけどな」

俺が逆の立場でもそう思う。

別にお見舞いは義務じゃないからな。

だから自分の時間をわざわざ割いてまで、俺の心配をしてくれて様子を見にきてくれたとなると好感度は上がるだろうに。

異性なら尚更だな。

「・・・・・・」

どうも納得していない様子の四月。

そもそも学生なんだから、そんな背伸びする必要がないっつーの。

「自分に置き換えて見れば話が早い。もし四月が体調崩して入院して、そこに俺がお見舞いに行ったら嬉しくないか?」

「そこのポジションは五月先輩でもいいの?」

「・・・別に構わんが」

「だとしたらすっごい嬉しくて、私舞い上がっちゃうと思うな!」

「今の流れ的に、俺がお見舞いに行ったら嬉しくないって言ってるんですが・・・?」

「嬉しいよ! でも五月先輩ならもっと嬉しい!」

多分、悪気はないんだろうけど・・・。

いや、別にいっか。

俺は四月の好感度を上げたい訳じゃないし、この解釈で理解してもらえたならそれでいい。

「それで、その時に先輩が手ぶらで来ても気にしないだろ?」

「え? それは気になるよ? 意味わからないもん」

俺の予想に反して、四月は俺の意見を否定してきた。

あれ? 物ってそんなに重要なのか?

「それってそんなに重要か? 気持ちだけでも嬉しくないか?」

「気持ちは嬉しいけど、手ブラでしょ? 嫌だよそんなの、見てて恥ずかしいし・・・」

ん? 見てて恥ずかしい?

そんなに失礼な事ではないと思うが?

そして言葉を返そうと四月を見ると、何やら不思議な仕草をしていた。

四月は自分の胸に自分の両手をあてがっていた。

何してるの、この人?

「ううん、やっぱり嬉しくないよ、こんな変態な事・・・」

顔を真っ赤にしながら、そう呟いた四月。

あーうん、全てを察した。

四月と俺の、認識の整合性が取れていなかったのだ。

俺は、何も手に持たないって意味を持った手ぶら。

四月は、自らの手で胸を覆い隠すって行為の手ブラ。

俺だって手ブラで来られたら、そりゃ嬉しくはないけど、会話の流れて的にそっちの意味にならなくないか?

やはり四月のポンコツ加減は、期待を裏切らなかった。

「・・・四月、そっちの意味の手ブラじゃなくて何も手に持たないって意味の手ぶらだからな?」

「へ? ・・・えぇぇ!?」

いや、この流れからのお前の解釈の方が驚きだからな?

「いや、普通にこっちの解釈になるだろうが。お前の頭は煩悩だらけかよ」

「そ、そんな事ないもん! これは如月くんの巧妙な罠だよ! 密室殺人だよ! 証拠は闇の中だよ!」

「言ってる事がめちゃくちゃ過ぎるんだが・・・」

結局の所、俺の考えてた様に飲み物とゼリーを買って渡す事に。

病院の中までは俺は付いていかない為、そこからは四月自身の実力でどうにかしないといけない。

「・・・・・・」

「そんなに緊張するか?」

「うん・・・」

そう答える四月に、俺は盛大な溜息をついた。

そして右手を大きく広げ、四月の背中をめがけて叩く。

「痛っ! 何するの変態!!」

「喝入れてやったんだよ喝を。しょぼくれてるお前によ」

「う、うるさい! 全然平気だし! なんならもう今日から付き合っちゃうんだからっ!」

「へいへい。そうなったら報告だけよろしくな。ほら、行ってこい」

「うん・・・」

そう言いながら、四月は何かを決意したかの様に顔を上げ、真っ直ぐと病院の入り口へと向かって行った。

暫く歩いた所で、俺の方へ振り返り、満面の笑みで俺に手を振ってきた。

それに俺も、軽く手を振り返す。

そんな四月の笑顔が、夕陽とも相まって、俺にはとても輝いて見えたのは内緒の話だ。
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