旅への手順

蒼穹月

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番外編

帰城

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 勇者・・・サリヤさんの騒動から半年。
 僕達は今、ライ君のお城にいる。王様に用意された客間で、僕は椅子に座りつつ空を見ている。
 この半年の間、行く先々でサリヤさんの噂を聞いた。皆悪口ばかり言うけど、それでサリヤさんを死に 追いやったという話は聞かない。新しい噂が上がる度に僕は何時もほっとする。

 「まぁ、確かに許せない事だったんだけど」

 今まで見て来た惨状を思い出すと、やるせない気持ちになって、溜息と共に呟く。

 「なあに?まだサリヤの事気にしてんだ」

 ティルが僕の頭の上から顔をひょっこり出してくる。

 「う~。そりゃ・・・あれだけ嫌な噂ばかり聞いてたら・・・」

 だって、彼の心情は僕も重なるんだもん。もしかしたら、僕が言われてたかもしれない言葉・・・。

 「ほんと、莫迦なんだから」

 ティルはクスリと苦笑いをすると、そう言って僕の目の前に移動する。

 「いいこと?よく聞きなさい。
 サリヤは確かに周りに流されて、ああなったのかもしれない。でもね、最後に判断するのは結局自分自身でしかないのよ。
 ああいう暴挙に出たんじゃ、自分を貶めるだけ。やればやる分だけ自分で自分を追い詰める。
 どこかで自分で自分を制御しなくちゃ、成長しないわ。
 成長しない人生は、ただそこにあるだけの石と同じじゃない?」

 両手を腰に当てて、力説するティルに頷く。

 「うん。それは・・・分るんだけど。でも、人は一人じゃ成長するための情報が集め難いよ」

 俯き、上目遣いにティルを見る。

 「そうね、『何か変な方向に行ってるなぁ』って気付いたら、教えてあげなきゃね。
 それが今回はたまたま私達だった訳だけど。そこに到達するまでが遅かったから、今回みたいな惨事になっちゃった。
 だから、本当は彼と関わった全ての人達も、反省すべき点が沢山あるって事よね」

 痛い頭を押さえるかの様に片手を当て、悩ましげな溜息を一つ零す。
  
 「けれど、それは私達止める側の反省。彼は行ってしまった側だから、その反省をしなくちゃね」

 最後に指を立てて、『めっ』って怒る時の顔になる。

 「・・・次は・・・早く支える」

 窓辺で黙っていたルック君がぼそりと呟く。
 ピクリとも動かないから、目を開けたまま寝てるのかと思った(汗)。

 「うん・・・。次は絶対間に合わせる。次が無ければ一番良いんだけど・・・」
 「それは、生きている限り無理だろ。間違えない人間なんていねー。
 誰も彼もが多かれ少なかれ、大なり小なりの間違いを犯してんだ。
 だから人間ってのは群れて暮らしてんじゃねーのか?
 誰かに止めて貰うため、誰かを止めてやる為。支え合って生きてんだ」

 突然乱入してきた声に、ふと入口を見る。
 入口に腕をつきながら、ライ君が立っていた。

 「・・・って今回の事でちっと思った」

 僕達の視線を感じると、ふいっとソッポをを向いて言い足すライ君。心なしか頬が赤い気がする。

 「あら、そういう格好してれば一応王子に見えるわね」

 ティルがじと眼でライ君を見る。

 「一応ってなんだ、一応って」

 今までこの客間にいなっかったライ君。
 お城に入るなり、世話役さんやメイドさんがライ君を取り囲み、口々に『こんなボロボロで』とか『汚れて』とか言って何処かへ連れ去っちゃった。
 そんな僕達もお風呂に入れられて、用意された服を着せられて、この客間に案内された訳だけど・・・。
 どこに行ってたんだろ?

 「言っとくが、俺の状況を分かってねーのトニーだけだぞ」

 ライ君がじと眼で言う。

 「って、ティルとルック君は分かってるの?」

 ちょっとパニックになって何度も交互に二人を見る。

 「まー。ルックは何度か城に来てるしな。
 ティルは、まー脳味噌が年増だからか」
 「ライ?それは何かしら、逆襲のつもり?なら受けて立つわよ」

 ティルとライ君の間に火花が散る。
 でも今僕は其れ処じゃない。一人だけ分かってないなんて・・・!

 「誘拐・・・?」

 思いついたのを言ってみる。

 「何が悲しくてこんな真昼間に自分で誘拐なんぞされにゃならんのだ」

 ライ君が僕の顔面を足蹴にする。なんかその時『みしっ』って聞こえた気がする。

 「トニー。大丈夫よ。天変地異が起きたって、こんな可愛げ無いの誰も誘拐なんてしないから」

 聖女の如き微笑みで僕を諭すティル。

 「んだと~?」

 ライ君はドスの利いた声音でティルを睨む。そのまま、ティルを掴もうと手を振る。
 でもティルは小回りの利いた体でひょんひょんと逃げる。

 「ライってば一応ここの王子だから、王子らしい格好に仕立て上げられに行っていたのよ」

 逃げながら教えてくれる。

 「そっかぁ。だからそんなにキラキラしてるんだぁ」

 合点がいって、コクコク頷いていると、ライ君が脱力した。

 「きらきら・・・きらきらか・・・」

 何だかもの凄く厭そうだ。

 「ところで、王様おとうさんには会って来たの?」

 僕の問いに沈んでいたライ君が我に返る。

 「・・・あー。今は責務に追われててな。近付くと手伝われそうだから逃げて来た」

 づかづかと中に入り、どっかと椅子に腰を掛ける。

 「ていうか手伝いなさいよ。王子」

 ティルがじと眼で詰る。

 「例の勇者事件の事後処理だからな。
 ほっといたって後で俺に話が来るんだ。
 ならせめてそれまではサボらせろ」

 堂々とだらけるライ君。そして僕とティルを見て、

 「それより・・・だ。何で俺は此処しろに居んだ?」

 と、苛立たしげに睨まれた・・・。

 「サリヤだって自分と向き合い始めてるのに、諭した私達が逃げてたんじゃ格好付かないじゃない」

 きょとんとしてティルが言う。

 「うん。でも僕達のエルフの里は結界で閉ざされて、追放された僕達はもう入れないし、ルック君の一族はもう・・・。
 そうすると行ける所ってライ君のとこだけなんだよね」

 向かいに座るライ君を上目遣いに見やる。
 だって・・・。ライ君から何か怖いオーラが出てて、真正面から見れないんだもん(泣)。
 暫くじーっと僕達を睨んでいたけど、大きく溜息を吐くと頭をワシャワシャ掻く。
 せっかくキラキラにセットされてたのに・・・何時もの髪型に戻っちゃった。

 「まー・・・。俺も今回の事は報告しねーとなー。とは思ってたから良いけどよ」

 ズガン!

 「にっっ!?」

 ラ、ライ君が目に見えるようなドス黒いオーラを発して、机を蹴った・・・!

 「俺の意見総無視で無理やり連れて来る事無いだろーが!」
 「ティルぅ。やっぱり怒ったよう」
 「いいのよ。ぐだぐだ言って先延ばしにしようとしてたのが悪いんだから」
 「・・・来たくなければ・・・逃げる」

 ルック君がライ君に近づき、軽く肩を叩く。

 「まー・・・。そうだけどな」

 ルック君に苦笑を返す。

 「あー。それよりどっか遊び行」
 「兄様!帰られたのですね!」

 ライ君の言葉を遮り、明るい声が響く。
 ライ君が入ってきた入口から、ちっちゃいライ君が入ってきた。

 「ドッペルゲンガー?」

 僕が首を傾げると、ちっちゃいライ君は今僕達に気付いた様で、慌てて姿勢を正す。

 「申し訳ありません。兄様の御客人には見苦しい処をお見せしました。
 私はホルテウスの第二王位継承者、ヴィルケイス・リ・ホルテウスと申します。
 ビリーとお呼び下さい」

 恭しく一礼をする。
 ライ君の弟!話には聞いてたけど。

 「天使と悪魔の違いね」

 僕が思った事をもっとキツくした表現で、ティルがザックリと言う。

 「悪かったな。悪魔で」

 ぶすっとして言う。
 あれ?いつもなら反論してくるのに。

 「ビリー。まだ第二と言っているのか。私はお前に継承権を渡すと申し伝えた筈だが」

 ラ!?ライ君が『私』!?喋り方も変!
 困ってティルを見ると、・・・なんだか気持ち悪い物を見た時の顔してる・・・。

 「ええ。聞きました。されど私は承諾など致しておりません。今後ともするつもりも御座いません」

 な・・・何だか会話に入っちゃいけない感が・・・!

 「承諾するもしないも、国の為にはお前こそが相応しい。玉座は遊びでは無いのだぞ」

 諭すような優しい顔と声。
 ほ、本当に誰!?

 「為ればこそ、兄様が相応しいと私は思っております!」
 「ライが・・・王?」

 僕にしか聞こえない声でボソッと漏らす。

 「想像・・・出来ないね」

 僕もティルにしか聞こえない声で呟く。
 あ、否。でも今の誰か分んないライ君ならポイかも・・・?

 「私は王位継承権を放棄する様な人間だぞ?」

 あ。それは何時ものライ君ならしそうな事だなぁ。

 「だからです。王位に固執する者は、やがてその欲が暴走をします」
 「そうとは限らないだろう。
 それに私は・・・、城に飽いている。
 私が王位に就けば、国を無くしかねん」

 自嘲気味に自分の手を見るライ君。

 「いいえ!」

 それをビリー君が打ち消す。

 「兄様に限ってそれはあり得ません!もしがあったとしても、私が共に居ります!
 貴方達!」

 急に僕達に向き、話を振る。

 「貴方達も兄様の御友人なら、兄様を支えて下さるでしょう!?」
 「ビリー!」

 何時にない太く通る声で、ビリー君を呼ぶ。

 「こいつ等はこいつ等だ。巻き込むなっ」

 ピリピリした空気は、何だか氷の檻に閉ざされた様。
 いつもは、もっと自分を出すのに。
 もっと、僕達を頼ってくれるのに・・・。
 まるで、ライ君は一人で居ようとしているみたい。

 「ティルぅ・・・。僕は何だか、何時ものライ君が良い。プンプンしてて、バシバシして。元気一杯で、一杯巻き込んでくれるライ君が良いよ」

 思わず半泣きで漏らす僕。
 僕が言うと、一瞬皆が静止する。
 一番初めに変化があったのはライ君。
 『ぼっ』って音が聞こえそうな程、一気に赤面する。

 「んなっ!」

 それを見て、ティルが噴き出す。
 最後にルック君がふっと笑むと、ライ君の頭を撫でまわす。

 「・・・形無し・・・だな」
 「ほんっと。
 いっつもはトニーの方がやられてるのに。
 ほんと、トニーのおバカな純粋さには誰も敵わないわね」
 「それ、褒めてるの?」

 良く分らなくなって、聞いてみる。

 「貶して欲しい?」

 意地悪そうにティルが言う。
 勿論嫌なので、思いっきり首を横に振るう。

 「・・・兄様」

 信じられない様なものを見るかの様に、ボー然と呟くビリー君。

 「あー・・・」

 湯でタコになった頬をポリポリ掻いて、目を泳がせるライ君。
 意を決したような顔をするとビリー君を見て、

 「まぁ、そういう訳で俺は気ままな琉浪人が良いって事で」

 何時もの口調で、悪戯っ子の顔で言う。

 「兄様・・・」

 考えあぐねるビリー君。

 「んーと。僕はライ君が王様良いと思うよ。そしたら、僕は此処の園丁に成りたいな」

 良く分らないけど何と無く言いたくなって、ライ君に言ってみる。

 「あら、良いわね。そうしたら私はライ専属の教育係ね」

 メラメラと闘志を燃やしてライ君を見る。

 「・・・馬屋番・・・」

 ルック君が何やら楽しげな事を考えながら言う。
 僕達の言葉にビリー君は、意欲を戻す。

 「はい!それでしたら、私は兄様の補佐役が良いです!」

 目をキラキラさせて、ライ君を見つめる。

 「お前らなー」

 口角をひくつかせながら、肩を落とすライ君。
 何がダメなのかなぁ。
 暫く沈んでいたライ君。
 大丈夫かなぁって心配しだしたら、肩を震わせて笑いだした。

 「くっくく。はははははははは!」

 えーと。

 「笑い茸でも食べたのかなぁ」

 バシン!

 「んな訳ねーだろ!」

 笑ってるのか怒ってるのか分らない顔をして、どこから出したのか分らないハリセンで僕を叩く。

 「ま。しゃーねーな。気が向いたらお前の代わりになってやるよ。王様」

 やる気の無い態度で、笑いを噛み殺しながらビリー君に言う。
 ビリー君は満面の笑みで元気良く頷く。

 「はい!きっとですよ!」

 ビリー君の中ではもう、ライ君は王様決定だった。

 「そろそろ宜しいでしょうか」

 話が纏まった頃、またもや入口から声が掛かる。
 そこには年長の執事さんがいた。

 「ん?ああ。クリケットか。久しいな」

 ライ君がぞんざいに挨拶する。

 「はい。お久しぶりで御座います。ルァスヴィル王子殿下」
 「ライで良いといつも言っていただろう」
 「王子殿下に対し、その様に愛称で呼ぶなど恐れ多い事で御座います」

 恭しく礼をするクリケットさん。
 軽く溜息を吐き、半眼でクリケットさんを見やる。

 「で、何用か」
 「はい。陛下が御呼びで御座います。供の者を連れ、至急玉座の間にお越し下さいませ」
 「供・・・だと?」

 胡乱な顔で訊き返す。

 「はい」

 無表情で断言するクリケットさん。

 「陛下がその様に仰られたのか」

 眉間に皺を寄せて、唸るように言うライ君。

 「はい」

 またも無表情で断言するクリケットさん。
 彼に何を言っても無駄だと分かり、片手を振る。

 「~分った。下がれ」
 「はい。失礼致します」

 恭しく礼をすると、去って行く。

 「そういう訳だ。玉座の間に行くぞ」

 立ち上がり、僕達を促す。

 「人に言われるのは嫌なのね」

 行きすがら、ティルがライ君の耳元でからかい交じりに言う。

 「お前達を供と思った事は無い。・・・友とは思っているがな」

 真面目な顔して言われ、さしものティルも怯む。

 「す・・・素直なライってこんなに気持ち悪いものだったのね」

 所在無げにうろうろ飛び、僕の頭に隠れるティル。

 「んだと~?俺様は何時だって素直だろうがっ」

 平常心を保ちつつ、セリフだけは怒っている。
 ライ君って器用だなぁ。

 「ライのは素直なんじゃなくて、自分に正直なだけよ」

 僕に隠れつつ言うティル。
 僕には見えないけど何やらもぞもぞ動いてた。ちょっとこそばゆい。

 「うん。まぁ大まかにはティルの言う通りだけど・・・根は素直だと思うよ?僕は」

 僕が言うと一瞬ライ君の動きが止まった。

 「それは貶してるのか?褒めてるのか?」

 無表情をしてるけど、何だろう、血管が浮き出て見えるような・・・。

 「貶しても、褒めても無いけど・・・」

 取り敢えず正直な気持ちを言っただけだしなぁ。

 「あー。まーお前はそういう奴だよな・・・っと玉座の間だ。心の準備はいいか?」

 え?

 「準備いるの?」

 キョトンとして聞き返すと、ライ君は数度気温が下がる様な気を発しつつ頷く。
 そんなに怖いお父さんなのかぁ。
 でも、まぁ。

 「ん。大丈夫」

 ティル以上に怖い人なんていないと思う。
 こんなに必要あるのか分らない大きな両開きの扉が、左右の警備兵によって開かれる。
 人間てなんで無意味に派手好みなんだろう?とても合理的じゃ無いのにねぇ。
 玉座の間まで進んだ僕は、半分腰を落とし、片膝を立てた状態で頭を下げる。事前に教わった礼節だ。
 何だか難しい挨拶が、王様の側近とライ君の間で交わされる。
 人間の王族って堅苦しいぃしまどろっこしいなぁ。

 「さて、ルァスヴィルよ。かような紙切れ一枚残し城を出た理由を申せ」

 本題に入ったと思ったら、王様から尋問みたいな発言が出る。
 ていうか、そういう家出の仕方してたのか!それは流石に皆怒るようねぇ。仮にも王子様だし。

 「書面に記した通りで御座います」

 落ち着き払った声で言っているけど、ライ君の周りの温度がどんどん下がっていく。

 「ふむ。ここには自分には玉座は分が過ぎる故、第一位王位継承権の返上及び、第二位王位継承者ヴィルケイスの補佐に廻るべく、見聞を広めに旅に出ると記してあるな」

 パサリと軽く紙を広げる音がする。

 「されどこれでは言いたい事しか伝わらぬ上、許可も出せぬな」
 「かような暴挙に出ぬ限り、私は平民に交じり、同じ目線での旅には出られませぬ故」

 ライ君から見えない闘志が沸き起こる気配がする。きっとライオンさんの姿をしてるんじゃないかなぁ。

 「それでその後政がどれだけ乱れ、皆に迷惑を掛けたか考えたことは無いのか?」

 王様からも負けじと・・・ううん、もっと怖い闘志が溢れている気配がする。きっと龍の姿をしてるよっ。

 「そうならぬ様、綿密にスケジュール管理を行いました。不具合は出ておらぬでしょう」

 ライ君と王様の間でバチバチ音がする。

 「そこまで出来て分が過ぎるとは良く言えたものだ」
 「そういう事ばかり得意なだけで御座います」
 「ふん。ああ言えばこう言う」

 ああああ、この空気。いつまで耐えないとダメなのかな~。
 僕はどんどん重くなる空気に耐えられなくてさっきからプルプルしちゃう。

 「兎に角お前の言い分は認めん。

 今日まで皆に迷惑を掛けた分、みっちり働いてもらう故、覚悟せよ」

 「!?お断りします!」
 「お前の言い分は聞かんと申した」
 「~!ならばまた勝手に出ていくのみです!そしてヴィルケイスが王と為るまで戻りません!」
 「!そこまで言うなら二度とこの国に帰って来るな!」

 親子ゲンカになってない?

 「有難い!今すぐ出ていかせていただむぐ!」

 ライ君の発言をティルの突進が阻んだ。

 「え?ティルってライ君の事好きだったの!?」
 「んなわけないでしょ!」
 「だってライ君にちゅー」
 「してないから!口外してるから!むしろ頬打っただけだから!」

 なーんだそっかー。僕ライ君に嫉妬するとこだったよー。
 ・・・。ん?嫉妬?なんでだろ。
 あ、そうかティルとは家族だもんね。除け者はやだもんね。
 僕が安堵の溜息を付いていると、パンパンと小気味いい音が玉座の間に響いた。
 王様の側近さんが手を叩いたみたい。

 「何が面白かったんだろ」

 僕のつぶやきは無視された。
 ヒドイ。ぐすん。

 「まったく、不作法無礼は人間族ではないからいいとして。
 人の話の腰を折るのはいかがなものかな」

 厭味ったらしく王様が言うものだからティルの目が座っちゃた。
 ・・・逃げて良いかな?
 ダメ?

 「あら、王族とて人の子でしょ。
 人としての尊厳位守ってあげたら?
 それともそんな余裕もない位この国って切羽詰まっているのかしら。
 だいたい、頭ごなしに否定しかしないからライだって相談する気も無くなるんじゃない。
 そんな事にも気づけないで良く王様なんて出来るわね。
 もしかして王様なら何しても許されるとでも思ってる?
 そんな訳ないわよね。だってこの国の国民達は総じて明るいもの。
 大体、王様なんて絶対血族じゃないといけないなんて誰が決めたのよ。
 そんなの過去の自分の名誉を守りたい矮小な人間が自分の子供や子孫に押し付けた単なる我が儘じゃない。
 自分が好き勝手やっといて自分の子供には無理強いする?
 はっ、鼻で笑ってヘソで茶を沸かしちゃうわ。
 そもそも国にとって重要なのは王様じゃなくて指導者であり纏め役ってだけでしょう。
 なら何も王様である必要なんてないじゃない。
 他の国では議員選挙制のとこもあるし、それで上手くいってるわよ。
 それがあんたは何?
 たった二人しかいない自分の息子とも真面に接せられないわけ!?」

 ティルの長い説教は、もはや誰にも止められない域に達したみたい。
 口を挟もうとするそこからポンポンと話が進むから、皆金魚さんみたいに口をパクパクさせてる。

 「それが」
 「ティル、もうその辺でいい。
 親父が白目剥いてる」
 
 でもライ君には関係なかったね!

 「でも!」
 「ん。サンキュな。
 お陰でスッキリした」
 「スッキリしたで済む問題では・・・!」

 王様の側近さんが何か言おうとしてたけど、良い笑顔のライ君とティルを見てソッポを向いた。
 うん。ライ君とティルのコンボは最強だよね。

 結局王様が起きないから解散になったけど、帰り際にティルが「まだ何かあるようならいつでも続きを言うわよ」って言ってた。
 それは怖い。僕は側近さんと揃って震えちゃった。

 その後王様が起きた後でライ君がティルを連れてお話合いしに行ってたけど。
 僕は連れてって貰えなかったからルック君とお留守番してた。

 「結局どうなったの?」

 僕が首を傾げて聞くと、ライ君は遠い目をした。
 ?何があったんだろ。

 「だーいじょうぶよ。
 万事解決。万事OK。
 ライは見聞の旅続行して、王様が引退する前に王位継承は決めるって事になったから」
 「ほんと!?
 良かった~。まだまだ行ってないとこあるもんね」

 「神獣の里・・・」
 「うん。そこも行こうねって約束してたもんね」
 「ま、そーいう訳で。
 これからもよろしく頼むぞよ」

 ライ君が胸をそらしてエッヘンと言った。
 キラキラ衣装でやられると何だろう・・・微妙・・・?

 「おっしトニー表でろや」
 「え?やだ。寒いもん」

 ライ君てば何言ってんだろ。今夜だよ?
 ライ君は脱力して、それからお腹抱えて笑い出した。
 笑い茸でも食べたのかな。

 「ははは。やっぱお前らといんのが面白いよな!」
 「そーそ。
 これからも長いんだから、さっさと勇者の事件纏め上げて終わらせてよね。
 じゃないと旅が始まんないんだから」
 「わーてるよ!明日中には終わらせてやらぁ!」
 「うん。じゃあ僕達は明日は旅の準備してるね」

 何はともあれティルの説教魔人降臨のお陰で、ぼく達は無事旅を続けられる事になった。
 良かったー。

 ライ君も王様との確執が解消されたみたいだしね!
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