旅への手順

蒼穹月

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第2歩旅立つためには

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「うへー。噂には聞いてたが、んとに多いな。食いモンに群がる蟻みてーだ」
ソシリアに到着して改めて現状を目の当たりにした僕に抱えられたライ君は、感想を言った。
確かに街っていう餌に群がる、魔物(アリ)って感じだなぁ。
アークさんとリアさんを見ると、顔面蒼白になってる。無理ないけど・・・。
だってその数は半端無いんだもん。街の見える範囲より多いんだから。
「情報どうりだね。広場らしい所に魔物の子供が大量虐殺されてる」
「ふん。莫迦らしい。こういうのを自業自得っつうんだ」
「同情の余地無しね」
僕達の尤もな意見に、二人は非難の目を向ける。
「魔物は百害あって一利なし!倒して何が悪いんです!」
ルック君を揺さぶる。いいなぁ。楽しそう。
「自分の命に関わればな」
「関わるでしょう⁉魔物は人を襲う!」
言ってるのはライ君なのに、ルック君に詰め寄る。面白い人だなぁ。
「お腹が空いていたり、自分の身に危険を感じたらね」
僕が当然そうに言うのが、気に入らなかったらしく、
「馬鹿は黙ってろ!」
と言う。
「馬鹿はテメェ等だ。トニーは、当たり前の事を言ってるにすぎねぇよ。
トニーも馬鹿にされたぐらいでいちいち黙んな」
「・・・うん」
でも、堪えるよ。エルフの里を思い出して。
「街の中に入ってまで襲うなんて、今回みたいに理由が無い限り、無いのよ」
「ミッシーの村とか!」
ミッシーの村って、二十年位前に魔物によって滅ぼされたとされる村?
「あれってご飯を求めて村に下りたら、村の人達に攻撃されて、仲間を殺されて怒った魔物が暴れたんだよね」
僕はエルフだからその頃には、すでに物心あったから覚えてる。
「そうそう。わざわざ襲うの、人同様の知識を持った生き物だけよ」
僕達に、当然そうに見つめられ、二人は言葉に詰まった。
「まあ、俺達はともかく、トニー(こいつ)に諭されるのは納得行かないだろうが、これは旅人なら常識的なことだ」
ああ!人を指差しちゃいけないのに!
「とにかく。領主に会うわよ」
僕達は、人々が集まってるらしい、中央街の大きな建物に入った。ライ君が言うには、ここは領主の館だって。
元は立派な物だったんだろうけど、何だか今は錆びれて見える。
「うらっ。領主ントコ連れてきやがれ」
「な!なんて尊大な!領主様に謁見賜ろうと言うのに!」
アークさん。ライ君は何時だって尊大だよ。
ずがん!
ライ君に頭蹴られた(泣)。
「いったーい!
何すんのさ!ライ君酷い!」
「うるせー。何か頭にきたんだよ。
テメー。ムカつく事考えなかったか?」
「え・・・考えてないよ?」
「ほぉぉう」
ずごん!
踵落としされた。しくしく(泣)。
「ちょっとあんた達。街の人が何時会話に入ったものか困ってるわよ」
気付いたら、皆の視線が・・・。
僕の顔変かな~?
「あの・・・。
街を救いに来て下さった方ですか?」
ガッシリした体系の、ちょっと偉そうなおじさんが、一歩前に出て口を開いた。
「さあな。領主は何処だ」
またも尊大に、ずいっと前に出て言う。
「私がそうだが」
ちょっと偉そうなおじさんが、ごほんと咳を一つして、ライ君に負けじと、凄く偉そうにずいっと前に出て言った。
「風邪ひいてるのに無理して」
僕がボソッと言ったら、横からティルが、「違うから」と言った。
「ふん。お前じゃねぇな。
ここの領主とは、すっげぇ嫌だが、顔見知りでね。領主が代わったとも聞いてねえし。そういう人試しは効かねえよ」
「な。領主様と知り合い⁉
嘘でしょう!こんな不精で礼儀の欠片も無い様な奴が!」
ああ!だから指差しちゃ駄目だってば!しかもそんな力の限り思いっきり・・・。
うわっ!ライ君が恐くなってる!
「あーく?殺(け)すぞ?マジで」
「あのねっ、あのね?
僕達みたいな旅人は、王様とかと面識あっても可笑しくないんだよ?人柄によれば」
「じゃあ、あんたもここの領主様と面識あるのか」
「ううん。僕とティルは無い」
「は?」
僕のあっさりした否定に、不思議がる二人。
「えっと。ルック君は?」
頭を横に振るルック君。
「ルック君も無いみたい」
「じゃあ、何でこいつだけ・・・」
「さあ?」
傾げる僕のこめかみを、ライ君が拳でグリグリする。凄く痛い(泣)。
「俺様の自己紹介を忘れ去るたぁ、良い度胸だな。とにー?」
そんな昔の事言われたってー(泣)。
「おらっ。領主んとこ行くぞ」
グリグリしながら、奥に向かう。引っ張られてなお痛い(号泣)。
領主さんの部屋に入った僕達は、先ず一番初めに・・・、
大いに笑い転げた。
『ぶっ!
どわぁっはっはっはっは!ひぃぃぃぃはっはっは!あはははははは!ぎゃへひー!ひょほへはほあははは!』
ほんっと、変な顔―!苦しすぎて話が出来ないー!お腹が捩れ死んじゃうー!
大きくって丸い赤っ鼻!
睫毛ビシビシ、眉毛ぶさぶさ!
たらこ唇!なるとホッペ!
目の下に、おっきく膨れ上がるほくろ!
しかも三つ星!
もんのすんごぉいデブ!
極め付けに、頭は、頭は!
親父ハゲーーーーーーっ!
「ぎゃほぅっはっはははー!ハゲハゲハゲハゲハー!」
「ぐあっはっはっは!駄目だ!笑いがとまんねー!だから、こいつと顔見知りは嫌なんだ!あーっはっはっははー!まいっかい、ははは!腹捩れる思いすんだよ!」
「あは!ふふふふふふ!だ!駄目よ!ふふ!そんな失礼なこと言っちゃぁ!あははははははははははははは!」
「笑うのだって同罪だー!ぎゃははは!」
うーん。人の顔でこんなに笑うのって、久し振りだなぁ。確か4年前にもこんなにも笑ったなぁ。あの時はたまたま立ち寄った国で、サーカスやってて、ピエロが出てきた時だったなぁ・・・。
あ!
「そうか!人を外見だけで笑わせる・・・。
領主さん元ピエロでしょ!」
僕のもっともな指摘に、ライ君とティルは、スッとハリセンを出した。
どこから出したんだろぉ。
て、考えてる間も無く、それで後頭部を思いっきり叩かれた。
『んなわけあるかっ!』
―ねぇ。何でいつも僕を叩くの?
なぁんて言ったら、更に叩かれそうだったから、出かけたのを口の中に押し込んだ。
「ふっふっふ」
急に領主さんが逆光を背にして、含み笑いをした。はっきりいって、相当恐い。
「ティルとライ君くらい・・・」
どずごがん!
「トニー?何か言ったかしら?
ねぇ?この口で、何か、ほざきやがったかしら?」
僕の口を殴った手をそのままグリグリ押し付ける。顔は笑ってるのに、なんだかとっても恐いんだ。
「ふんっ。トニーのくせに生意気な」
僕の背中を蹴り倒した足をそのまま乗せて、グリグリ押し潰す。本当に恐い。顔からしてすんごく怒ってる。
「何すんのぉ?僕何か言ったぁ(号泣)?」
「へぇ~?口に出した事に自覚無しなんて、トニーらしいわねぇ」
だから!その笑顔が恐いよう!
「あのぅ。領主様の目がこっちを凝視してますよー」
恐る恐る、口を挟むリアさん。
とりあえずそっちを見ると、含み笑いを続けてた領主さんが口を大きく開けた。
「その通り!私は元ピエロさあ!」
『ええ⁉』
驚愕の発言に、僕以外皆驚く。
ほらあ。やっぱピエロだ。
「って。んな訳あるかー!」
『遅!』
えー。違うのー?
領主さんてば、ノリ突っ込みしただけー?
「こいつやっぱ阿保だ!ノリ突っ込みの上、おせぇ!」
「ていうか、遅すぎよ!」
「失礼とは思いますが本当に遅かった!」
「遅かったわ!」
ライ君、ティル、アークさん、リアさんに口々に言われ真っ赤な顔になる。タコさんだ。
「どやかましい!
ホルテウスんとこの家出倅も!さっさと国に帰らんか!この街を助けてから!」
助けてからなんだ。
「やなこった」
べー。っとおっきく舌を出すライ君。ほんとにおっきい舌。
「何だと⁉」
怒り狂う領主さん。
領主さんもカルシウムたんないよ。
「テメェは、相変わらず自業自得なんだよ。
そこが一番ムカつく位嫌気が差す」
「でぇい!
来るたび生意気な事言いおって!小童!」
「テメェも王族に嘗めた口きいてんじゃねえよ。たかだかちっせえ街如きの領主が」
「ぐう!家出人が何を偉そうに!」
なんか、二人だけで喧嘩始めちゃった。
「いつもこうなんですよ」
ライ君と領主さんをボーっと見てたら、領主さんの近くに居た秘書さんが、僕の横に来て耳打ちした。
そんなにしょっちゅう会ってんだぁ。
「て、いうか。何か気になる単語聞いた様な・・・」
「ねぇ?国とか、王族とか」
アークさんとリアさんが、ポカーンとして、言った。
「あ。思い出した」
僕が宙を見ながらボソッと言うと、二人が僕に跳び付いた。また倒れるかと思った。
『何がです⁉』
なんだか、二人とも不吉な事を考え付いた顔してる。
「あぁっとぉ。ホロテウス大国の第一王位継承者だった」
さらっと言ったら、二人はこの世の終わりみたいな顔で、
「!!!!!!!?!」
声になってない、声を発した。
気持ち。分からなくも無いけど・・・。
ライ君見てたらー、忘れたってしょうがないよねー。
「うんうん。あれじゃ、分からなくて当然。貴方達が恥じる事じゃないわ」
ティルが真顔でキッパリと言い切った。
「恥じてるんじゃない!あれが王子~?
嘘だろ!あんな奴が王子なんて、世の中どうなってんだ!」
ドカッ!
ライ君。今日も、絶好調に地獄耳(汗)。
良かった。僕は口にしないで。
「ごごごご、ごみぇんなさひ・・・!」
アークさん。舌回ってないよ。
確かに、領主さんと口喧嘩しながら、後ろ手に剣をなげ放つライ君は、もんのすごーく恐いけど。
「でもなぜ、一国の王位継承者が、貴方達の様な人と旅を?」
リアさんが、僕とティルとルック君を交互に見ながら言った。
「まさか!貴方方もどこかの・・・⁉」
「あはは。まさかぁ。王子様はライ君だけだよ。僕はエルフの里を追い出された、唯のエルフでしかないよ」
そう。龍術を身につけたその日に里にいちゃ駄目って、長に言われちゃったんだ・・・。
「私は、トニーが生まれた時、場所に一緒に生まれて以来、ずっとトニーと一緒」
「ルック君は・・・。
そういえば知らないね、ルック君の生い立ち。召喚士一族の生き残りなのは知ってるけど。ルック君てば、無口だから。キレると話してくれるけど」
「主に、突っ走った事をね」
ティルが補正してくれた。
「でも、ライ君が城出する切っ掛けってライ君に聞いたけど。城で何かあってルック君に助けられたとか、られないとか」
ふと見るとアークさんとリアさんは呆然としていた。
そんなに変な事でもないと思うけど。
「おら。話しつけてやったぞ」
いちいち、僕を蹴らなくても・・・。
ライ君と領主さんを見ると、双方共に鼻息荒い。
「ぶ・・・」
!危ない。危うく言っちゃうとこだった。
豚さんみたい、って。ライ君がすぐ目を光らせたから、九死に一生スペシャルだったよ。
「えっと。えーと。それでどうなったの?」
僕のナイスな話のすり替えに、まんまとひっかっかるライ君。っち!とか聞こえたのは気のせいだろう。気のせいだよね。気のせいだといいな・・・。
「テメェ等のケツぐれぇ、テメェ等で噴け。っつっといた」
かーっぺ!と唾を吐きそうな勢いで、壁に靴の泥を擦り付けながら言い放った。
「そんな!それじゃぁ、僕達の旅はどうなるんですか!」
必死に言ってるけど逃げ腰だよ、アークさん・・・。
「知るか。元々、これは、テメェ等の問題だ。つー訳で命令。テメェ等であの、爆笑人間と話付けて来い」
下僕命令を思い出し、小声で悪態吐きながら領主さんの近くへ行く二人。でも・・・、ライ君に聞こえちゃってます!恐い!
「トニー。後であいつらに電撃放て」
どうやらとうとう、キレちゃったみたい。
本当に、キレると人任せになる癖何とかしてほしいなぁ。
「でもさぁ」
電撃の話は聞かなかった事にして、二人が領主さんに悪戦苦闘している姿を見ながら呟いた。
「なんだよ」
ライ君が恐い目で聞き返してくる。
あえて見ないでおこう。
「普通、一般人は領主さんと中々話せないよねぇ」
僕は一般的な事を言った。
「だから?」
言葉に棘が有る。そういえば最近、そういう言葉の違いも分かる様になってきたなぁ。
「ライ君って。優しい所有るよね」
ライ君の反応が見たくて、今度はしっかり顔を見て言う。
案の定、ライ君は顔を赤くして動揺した。
「!何だよ!」
ライ君から、すっかりと恐い感じ消えてる。
「話せる様にしてくれたんでしょ?だから、優しい所あるなーって」
動揺してるライ君を見て、自然に笑みが零れる。
「馬鹿かっ、俺は元から優しいんだよ!」
照れ隠しに一発殴られた。でも、いつもより痛くないや。
機嫌も直った事だし、これで電撃しなくてすむだろう!良かったぁ。
そうして、僕達の考え通り、アークさんとリアさんは、自分達が手を貸す事にしたと、僕達に言ってきた。
ライ君は、馬鹿な連中が非を認めなくなるだけだって、プリプリしてたけど。言葉に棘は無かった。

 「つー訳で、命令。俺達4人分の飯持って来い。それと、風呂と寝床の用意だ」
 領主さんの部屋を出てからライ君は下僕こと、アークさんとリアさんに命令した。
 二人は後少しの辛抱だと、黙って言われた物を用意しに行った。
 「成る程ね~。それでライは二人を下僕にしたって訳ね」
 それで・・・って。
 「えええぇ⁉女王様とお呼びってする為じゃ無かったの⁉」
 「当たり前だボケェェェ!!!」
 どぐはぁっ!
 あうううう。思いっきりアッパーされたぁぁぁぁぁ(泣)!
 「ひぃん!じゃぁ何でぇ?」
 床に水溜りを作りながら聞いた。
 「1・手を貸す積もり無かった。
 2・ライは王子でも、今は家出中の一旅人。
 3・あの様子から、会う度喧嘩している。
 4・そんな相手に、寝床やご飯は与えない。
 よって、依頼を引き受け、領主にお願いできる立場になる二人を下僕という形にした」
 おぉぉぉ。成る程ぉ。びきに履いて鞭でビシバシする為じゃ無かったのかぁ。
 下僕になってる二人はライ君の言うこと聞くし、二人にお願いしてご飯貰うためかぁ。
 暫くして僕達は街の人達とご飯を食べた。
 街がこんな状態だから、たいした物は無かったけど。
 5人が泊まれる部屋に行くと直ぐ作戦会議が始まった。
 二人が何とかするという事は、二人が魔物を何とかするのを手伝うように依頼された僕達も結局は手を貸すという事になる。
 と言っても、あまり手は出さないつもりだけど。これを何とかできないなら旅はしない方がいいからねぇ。
 「一番手っ取り早いのは殺された魔物の子を全て森に返し、且つ魔物を森に追いやる事。殺すのは逆に良くないわ。同じ事を繰り返すだけだし何より、生態系が狂っちゃうから」
 相変わらず頭の回転いいなぁ、ティルって。
 「手っ取り早そうに聞こえないのですが」
 リアさんが、引き攣った笑顔で汗を掻いて言った。
 う~ん。法術で結界を張ってあるものの、周りは火の海だからねぇ。あっついんだね?
 「暑いなら、氷結魔法しようか?」
 「手っ取り早くは無いわよ。只これ以外だと時間も掛かるし、周りにも影響掛かる」
 ティルが冷たく言い放った。
 僕の話聞こえなかったのかなぁ。
 「ねぇ。氷け」
 「暑くないから」
 ティルがサラリと言って、
 「他に、案があるなら言って」
 話を続けた。
 でも、汗掻いてるけど。
 「冷や汗です」
 僕が悩んでると、リアさんがサラリと言い、
 「亡骸を運ぶのはいいです。魔物はどうやって森に返すんですか?」
 話を続けた。
 なんだ。冷や汗か。
 「あら。これ位思いつかないようじゃ。
 止めたら?旅」
 冷たく言い放つ。
僕にお説教する時のティルだ。
二人が話し合っているのを僕達は横で聞きながら待った。
ちなみに僕だったら、傷を癒してあげて謝った後亡骸を森に返しながら幻覚術と緩和術で、森まで連れてく。
実力があるなら威圧を与えて追いやる方法もある。
本当は街への危害を考えないなら、毒を撒き散らす方法や、大技で一気に消滅させる方法のが簡単且つ、すぐ終るんだけど。
そういうのは、二人には内緒。
殺さずに済めばその方が全然いい。時間が掛かってもね。危険だからって排除するんだったら、簡単に人も魔物も動物も魚も植物も殺せる人間が、先ず排除されなくちゃいけなくなっちゃう。エルフは無意味な殺しはしないからセーフ!だから僕排除されなぁい!
だって僕エルフだもん!
それに、余計なことしなければ、魔物だってエサ求めて以外人襲わないよ。
殺されそうになった時だけ牙を向く。そうでなければ魔物だって納得しない。彼らだってエサを求める時は覚悟してる。
まあ。この考えはエルフの物だなって、ライ君言ってたけど。
それに、魔物が人間の子を育てたって例がいっぱいあるんだ。魔物には小さい物を守る習性があるって、旅して初めて気付いた。
里にいたらきっと気付けなかった。
「亡骸で釣って、森まで連れて行く?」
リアさんがおずおずと言った。
「そうね。でもそれだけで、全ての魔物を釣れるかしら?」
もう一度悩んで
「幻覚で釣るのは、あんなにいっぱいは無理だし」
アークさんが溜息吐きつつ言った。
「僕できるよ」
ごく自然にサラリと言った僕に、二人は眉を顰める。理解できなかったのかな?
「こ」
アークさんが言葉を漏らした。
こ。って何だろう。子?粉?
「こんな奴が俺達より上・・・。すっげーショックだ」
震える声で、顔に手を添える。
感動してくれたのかな?
「感動じゃなくて、以外すぎて動揺してるだけだから」
アークさんを見たままでティルが、照れてる僕に言った。
また・・・。僕って心読まれ易いのかな?
「性格と実力は違うから。
それでどうするの?」
ティル。さっきから、無表情だなー。
・・・もしかして。
「ティル眠いの?」
「眠いわよ。けど、だから無表情してる訳じゃなくて、真剣なだけだから」
ティルだけに聞こえるように言った僕に、僕だけに聞こえるように、ティルがサラリと言った。ちょっと冷たい感じがした。
「あの、お願いでき」
「却下」
僕に何か言おうとしていたリアさんの言葉を、ティルが割り込んで断った。
「じゃあどうしろってんだ!
あれも駄目これも駄目。何も出来ないじゃないか!」
アークさんがキレた。
「旅をするって事はそういう事よ。
大体、他力本願で旅なんて出来る訳が無いでしょう。あなた達には、学ぼうとか、教えを乞おうという考えが無いわけ?
できないなら、出来る様になりなさい!」
ティ、ティルが怒った・・・。
ティルが怒った瞬間。僕とライ君とルック君は部屋の隅に退避した。
ティルって、怒るとお母さんや先生みたいな説教魔人になるのだ。巻き込まれたくないなら逃げるに限る。三十六計逃げるにしかず。この為に作られた言葉じゃないか、ってたまに思っちゃう。
ティルの迫力にびびって、口をパクパクさせるアークさんとリアさん。
そんなアークさんとリアさんに、次々と説教を繰り出すティル。
流石、魔人!妖精だけど!
アークさんとリアさんは、たまらず水道から出る水の如く、泣きながら凄い勢いで僕の方に近寄ってきた。その顔は、ちょっと気持ち悪恐い。
ていうか、僕を巻き込まないで欲しい!
僕は、慌てて離れようとしたけど、その前にアークさんに羽交い絞めで捕まっちゃった。
「すすすすみみみませせん!魔法教おし教えて下さいいいいい!」
意味理解困難ですぅぅ!
「まだこっちの話は終ってないわよ!」
うわあああ!ティルが凄い形相で来た!
「わ、分かったから向こう行ってぇ!」
何とか離れようとしてるんだけど、アークさん、実は馬鹿力の持ち主だぁ!離れてくんないよぅ!
「話の途中で急に何処かへ行くんじゃない!いい?用がある時は、必ず一言断りなさい!そんな事は、旅人以外でもやるのが礼儀ってものでしょう!
トニーも!こっちの話が終って無い時は、こっちを優先する様に相手に言いなさい!」
うわーん(泣)!とばっちりだぁ!
ライ君とルック君はいつの間にか何処かに行っちゃってるし。ずるいぃ!
「あ、あの、あの!
い、今は魔物の事を話し合う方が先じゃないですか?」
ナイスフォロー!リアさん!
ティルはギラッとリアさんを見ると、
「術の教えを請うって事で決まったのでしょう!なら、問題はありません!」
キッパリ言った。
うわーん!魔人節が止まんないよぅ!
「あ、あの、あの!
私は一分一秒でも早く、術を教わる方が今は懸命ではないかと思います!」
ナイス食い下がり!リアさん!女の人って諦め悪い人多い気がするの!とても感謝したいって、今始めて思えたかも!
「ぬ~。そうね・・・。
で。術が得意なのはどっち?」
取り敢えず、魔人は納まったみたい。
本当に!心の底から良かった!
「私です!」
ガッツポーズを付けながら、勢い良く名乗りを上げた。
ふぅ。やっと話が進むよ。
「それじゃ、リアはトニーと外で練習して」
テキパキと指示を出す。僕達は逃げ出すように外に出た。
「あんたはまだよ」
再び魔人顔で、一緒に出て行こうとしたアークさんを、捕まえる。
ちっちゃいティルに引き摺られてるってことは、魔法使ってるな(汗)。
つまり。・・・本気だ。ティル。今日は別の場所で寝させてもらおう。
リアさんも、アークさんを生贄の如く、見捨てて早足で部屋から離れた。
部屋からは、アークさんの悲痛な叫びが聞こえる。気がする。
僕達は早速外で特訓を開始した。
やってみると、意外にもリアさんは飲み込みが早く、これなら徹夜で猛特訓すれば何とか使えるだろうと、さらに特訓に勤しんだ。
「へー。こりゃ、リアの方は旅出ても何とかやってけんじゃねーか?」
先に避難していたライ君が、リアさんの頑張ってる姿を見ながら言った。
「うん。そだね」
僕が同意すると、ライ君はくすくす笑った。
「こりゃ、アークはお荷物だな。力はあるみてーだが、技術がねぇ。その内尻に敷かれ始めるぞ」
うん。そんな感じ。
でも僕は、リアさんの失敗のフォローに出たから口に出せなかった。
日が昇るころ、何とか使える位になったから、僕達はいったん寝る事にした。
起きて、朝食を食べる頃にはすっきりした顔のティルと、げっそりした顔のアークさんもやって来た。やっぱり徹夜だったね・・・。
食べ終わってから、リアさんの提案通り、アークさんが亡骸の搬送、ライ君、ルック君はその手伝い、同時にリアさんが術を使い、僕とティルは監督さんをする事になった。
その前に、火を消す必要があったから、僕とティルとルック君とリアさんで、今日一日消火活動した。街の人達の中にも術を使える人は手伝った。他力本願しようとしていた人達に、ティルが活を入れてからだけど(汗)。
相変わらずルック君の召喚獣、リック君の水技は凄い。
リック君は大蛇の様な姿に鋭い牙と鳥の様な足と魚の様なヒレを持つ獣。目のあたり何かは丸くてキョロキョロしてて可愛いけど、不用意に近づくと鋭い爪で引っ掻かれるから要注意なんだ。
ほとんどリック君が火を消してくれた。そして僕達はほとんどリック君の水技に見惚れていた。
「消火は終ったわ。問題は明日ね。
今日はゆっくり寝て、明日に備えるわよ」
という訳で、あっという間に一日が過ぎた。
今日は忙しかったもんなぁ。明日はもっと忙しくなるねぇ。
リック君の雄姿を思い出しながら、僕は眠りに落ちた。
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アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

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