獣神娘と山の民

蒼穹月

文字の大きさ
上 下
329 / 345
本編

竹の子狩りで

しおりを挟む
 三巳は今、久し振りの竹の子狩りに参加しています。

 「オリンピック……間に合わなかった……」

 大きな籠を背に背負ってしょもんと項垂れています。楽しみにしていた分ガッカリは大きいのです。

 「まあまあ気を落とすなって三巳姉!」

 背負い籠ごとパンパンと背中を叩くのはロハスです。あれから年長組の仲間入りをしたロハスは、年中組の時から更にグンと背も伸びて大人の男らしさが出て来ました。
 頼もしくなったロハスをロダは嬉しそうに見ています。
 今回の竹の子狩り参加は、保護者兼護衛としてロジンとロダ。その他はロハス達年長組に、年中組とその母親か父親か又はその両方です。子育て中の母熊が近くに居なければ、毎年行う子供達のお楽しみ行事なのです。

 「ロハスはもうすっかりお兄さんだなー」

 何年経っても子供達の成長は嬉しいものです。
 三巳は頼もしくなったロハスにホロリと涙しています。

 「まーな!ってもロダ兄にはまだまだ追いつかねーけど」

 グヌヌと悔しそうに力瘤を震わせるロハスに、隣を歩くミオラが呆れた溜め息をこれ見よがしに吐きます。

 「ロダ兄ちゃんはロウ村長に次ぐ人だよ?そう簡単に追い付ける訳ないじゃない」
 「そうだけどよー……」

 冷静な指摘にロハスはそれでも悔しそうに肩を落とします。

 「ほらほら。楽しくお喋りするのも良いけど、足元や周囲の気配を疎かにしないようにね」

 幾許か速度が落ちていたロハス達を、ロダが直ぐに気付いて注意します。ロダは殿しんがりを務めているので皆の動きが良く見えているのです。

 「「はーい」」

 それに頷きつつも唇を尖らせるロハスは、周囲を見て息を吐きます。

 「そうは言っても最近モンスターって俺達襲って来ないんだよな」

 ロハスはボソリとミオラにだけ聞こえる様に呟きます。
 ミオラも苦笑して頷きつつも、

 「油断大敵だよ」

 と嗜めます。

 「ミオラはお姉さんになったなー」

 それを全て聞こえていた三巳がまたしてもホロリと涙しました。
 それはそれとして三巳はミオラの言葉でふと周囲を確認します。

 (居るは居る。けど、確かに何かしたがってる感じはしないなー)

 何年か前までは三巳の目がない所は自然界の営み弱肉強食の世界でした。しかしリリが来てから少しづつ変化していた山の生き物達は、山の民達に攻撃性を見せなくなっていたのです。

 (まあ、リファラのモンスターが人族と夫婦になって子供も産まれてるしなー)

 もしかしたらもう家族の一員みたいになってるのかなと、三巳は平和な空気に酔いしれます。
 とはいえ理性でカバー出来ないのが子育て中の母熊です。彼女達は子供達しか見えていません。三巳ですら子育て中は近付いたら威嚇されるのです。
 そんな事を思っていたからでしょうか。漸く竹の子のエリアに入った所で熊の気配を感じ取りました。
 ロジンとロダは一気に警戒体勢になります。
 そんな2人にいち早く気付いた保護者組が警戒体勢に入り、次いで子供達が防衛体勢に入りました。
 三巳は邪魔をしない様にお口にチャックをするが如く、毛を膨らませて毛玉三巳になります。お顔だけだして様子を伺っていると、竹藪からガサゴソと近付く音がしてきます。
 緊張感が高まる中、ロダがロジンと先頭を変わります。
 ロジンが最後尾に付いた頃合いで竹藪から黒い影が見えたと思ったら、ゆっくりとロダ達に近寄りすっかり大きな熊の形を見せました。
 息を呑む子供達を他所に、大きな熊はその場にペタリと座ります。そしてその後ろから可愛い可愛い子熊達が顔を出したではありませんか。
 これにはもう皆ビックリです。三巳も開いた口が塞がりません。
 子育て中の母熊の気の立ち用は、話し合いが通じないレベルの筈だからです。

 「ええっと?僕達竹の子取りに来たんだけれど、良い……のかな?」

 警戒体勢はまだ解きませんが武器からは手を離したロダが尋ねます。
 母熊は脚にしがみ付きつつも興味深そうにロダ達を見る子熊を見ます。そしてロダを見て、

 「がう」

 と言いました。
 全く威嚇感が無い所か、穏やかなその様子にロダは困惑します。そしてこの異常事態に三巳を見ました。

 「良いかな三巳」

 山の主は三巳です。母熊が良しとしても三巳が良しとしなければ良しではないのです。
 三巳はトトトと母熊に近寄ってみます。一歩離れた所で止まってしゃがむと子熊達を観察します。
 その間母熊は様子は見ていても特に何もして来ません。
 子熊達は初めて目にした生き物達に興味津々。でも怖い。という感情を如実に表しています。

 「うーにゅ。どーしたんだ?警戒しないのか?」

 三巳も初めての事に困惑しています。
 母熊は穏やかな表情で三巳に顔を近付けると、その頬をペロリと舐めました。

 『この山は子育てするのにとても良い環境ね。最近はとても心が落ち着いているのよ。それはきっと貴女という神の守護と、リリの癒し手のお陰』

 母熊の話に三巳は成る程と得心がいきました。
 リリの癒しの力は動物やモンスターの心に作用しています。だからこそリリには動物やモンスターが心を許しているし、リファラも共存出来るまでになったのでしょう。
 そして今リリが住むこの山でも同じ事が起きようとしているのです。

 「それじゃあ一緒に竹の子狩りする?」

 楽しい予感に三巳は尻尾をワサワサと振って興奮気味に聞きました。
 それに母熊はニコリと笑って頷きます。

 『是非一緒させて欲しいわ』

 そんな訳で竹の子狩りは、急遽参加者が増えて賑やかに行われたのでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)

こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位! 死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。 閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話 2作目になります。 まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。 「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」

料理人がいく!

八神
ファンタジー
ある世界に天才料理人がいた。 ↓ 神にその腕を認められる。 ↓ なんやかんや異世界に飛ばされた。 ↓ ソコはレベルやステータスがあり、HPやMPが見える世界。 ↓ ソコの食材を使った料理を極めんとする事10年。 ↓ 主人公の住んでる山が戦場になる。 ↓ 物語が始まった。

聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】

青緑
ファンタジー
 聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。 ——————————————— 物語内のノーラとデイジーは同一人物です。 王都の小話は追記予定。 修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。

異世界転生したけどチートもないし、マイペースに生きていこうと思います。

児童書・童話
異世界転生したものの、チートもなければ、転生特典も特になし。チート無双も冒険もしないけど、現代知識を活かしてマイペースに生きていくゆるふわ少年の日常系ストーリー。テンプレっぽくマヨネーズとか作ってみたり、書類改革や雑貨の作成、はてにはデトックス効果で治療不可の傷を癒したり……。チートもないが自重もない!料理に生産、人助け、溺愛気味の家族や可愛い婚約者らに囲まれて今日も自由に過ごします。ゆるふわ癒し系異世界ファンタジーここに開幕!

王都から追放されて、貴族学院の落ちこぼれ美少女たちを教育することになりました。

スタジオ.T
ファンタジー
☆毎日更新中☆  護衛任務の際に持ち場を離れて、仲間の救出を優先した王都兵団のダンテ(主人公)。  依頼人を危険に晒したとして、軍事裁判にかけられたダンテは、なぜか貴族学校の教員の職を任じられる。  疑問に思いながらも学校に到着したダンテを待っていたのは、五人の問題児たち。彼らを卒業させなければ、牢獄行きという崖っぷちの状況の中で、さまざまなトラブルが彼を襲う。  学園魔導ハイファンタジー。 ◆◆◆ 登場人物紹介 ダンテ・・・貴族学校の落ちこぼれ『ナッツ』クラスの担任。元王都兵団で、小隊長として様々な戦場を戦ってきた。戦闘経験は豊富だが、当然教員でもなければ、貴族でもない。何かと苦労が多い。 リリア・フラガラッハ・・・ナッツクラスの生徒。父親は剣聖として名高い人物であり、剣技における才能はピカイチ。しかし本人は重度の『戦闘恐怖症』で、実技試験を突破できずに落ちこぼれクラスに落とされる。 マキネス・サイレウス・・・ナッツクラスの生徒。治療魔導師の家系だが、触手の召喚しかできない。練習で校舎を破壊してしまう問題児。ダンテに好意を寄せている。 ミミ・・・ナッツクラスの生徒。猫耳の亜人。本来、貴族学校に亜人は入ることはできないが、アイリッシュ卿の特別措置により入学した。運動能力と魔法薬に関する知識が素晴らしい反面、学科科目が壊滅的。語尾は『ニャ』。 シオン・ルブラン・・・ナッツクラスの生徒。金髪ツインテールのムードメーカー。いつもおしゃれな服を着ている。特筆した魔導はないが、頭の回転も早く、学力も並以上。素行不良によりナッツクラスに落とされた。 イムドレッド・ブラッド・・・ナッツクラスの生徒。暗殺者の家系で、上級生に暴力を振るってクラスを落とされた問題児。現在不登校。シオンの幼馴染。 フジバナ・カイ・・・ダンテの元部下。ダンテのことを慕っており、窮地に陥った彼を助けにアカデミアまでやって来る。真面目な性格だが、若干天然なところがある。 アイリッシュ卿・・・行政司法機関「賢老院」のメンバーの一人。ダンテを牢獄送りから救い、代わりにナッツクラスの担任に任命した張本人。切れ者と恐れられるが、基本的には優しい老婦人。 バーンズ卿・・・何かとダンテを陥れようとする「賢老院」のメンバーの一人。ダンテが命令違反をしたことを根に持っており、どうにか牢獄送りにしてやろうと画策している。長年の不養生で、メタボ真っ盛り。 ブラム・バーンズ・・・最高位のパラディンクラスの生徒。リリアたちと同学年で、バーンズ家の嫡子。ナッツクラスのことを下に見ており、自分が絶対的な強者でないと気が済まない。いつも部下とファンの女子生徒を引き連れている。

おさがしの方は、誰でしょう?~心と髪色は、うつろいやすいのです~

ハル*
ファンタジー
今日も今日とて、社畜として生きて日付をまたいでの帰路の途中。 高校の時に両親を事故で亡くして以降、何かとお世話になっている叔母の深夜食堂に寄ろうとした俺。 いつものようにドアに手をかけて、暖簾をぐぐりかけた瞬間のこと。 足元に目を開けていられないほどの眩しい光とともに、見たことがない円形の文様が現れる。 声をあげる間もなく、ぎゅっと閉じていた目を開けば、目の前にはさっきまであった叔母さんの食堂の入り口などない。 代わりにあったのは、洞窟の入り口。 手にしていたはずの鞄もなく、近くにあった泉を覗きこむとさっきまで見知っていた自分の姿はそこになかった。 泉の近くには、一冊の本なのか日記なのかわからないものが落ちている。 降り出した雨をよけて、ひとまずこの場にたどり着いた時に目の前にあった洞窟へとそれを胸に抱えながら雨宿りをすることにした主人公・水兎(ミト) 『ようこそ、社畜さん。アナタの心と体を癒す世界へ』 表紙に書かれている文字は、日本語だ。 それを開くと見たことがない文字の羅列に戸惑い、本を閉じる。 その後、その物の背表紙側から出てきた文字表を見つつ、文字を認識していく。 時が過ぎ、日記らしきそれが淡く光り出す。 警戒しつつ開いた日記らしきそれから文字たちが浮かび上がって、光の中へ。そして、その光は自分の中へと吸い込まれていった。 急に脳内にいろんな情報が増えてきて、知恵熱のように頭が熱くなってきて。 自分には名字があったはずなのに、ここに来てからなぜか思い出せない。 そしてさっき泉で見た自分の姿は、自分が知っている姿ではなかった。 25の姿ではなく、どう見ても10代半ばにしか見えず。 熱にうなされながら、一晩を過ごし、目を覚ました目の前にはやたらとおしゃべりな猫が二本足で立っていた。 異世界転移をした水兎。 その世界で、元の世界では得られずにいた時間や人との関わりあう時間を楽しみながら、ちょいちょいやらかしつつ旅に出る…までが長いのですが、いずれ旅に出てのんびり過ごすお話です。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈 
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

処理中です...