獣神娘と山の民

蒼穹月

文字の大きさ
上 下
325 / 352
本編

スキーの誕生

しおりを挟む
 猛吹雪でヴィンも炬燵で蜜柑と添い寝をしている日の事です。今日も今日とて三巳は精霊探しを頑張っています。
 ネイチャースキーにハマった三巳は村にいる時から魔法の板を生成しています。そこへ山の民がやって来ました。

 「何だい?それは」

 山の民は魔法の板を指差して尋ねます。
 三巳はいざ行かん!と気合いの入った前進ポーズのまま動きを止めて、上半身だけを声の主へと向けました。

 「山スキー?」

 実はスキーの種類は詳しく無い三巳です。山で遊ぶから山スキーと認識していました。
 また新しい言葉に山の民は目を輝かせます。だって三巳が突如思い出す物事は、大抵楽しいが詰まっているのですから。
 山の民は見様見真似で魔法のスキーの板を生成します。そして三巳の隣に並びました。

 「一緒に行っても良いかな?」
 「良ーけど、猛吹雪なんだよ?」

 視界は隣の人なら何とか見える程度の真白の世界です。
 しかし山の民はめげません。伊達に子供の頃から三巳と遊んでいないのです。

 「雪山は僕の領分なのさ。寧ろ最近鈍っていたから丁度良いよ」
 「うぬ。その心意気や良き。じゃあ三巳の精霊探し手伝ってくれるか?」
 「ああ、ヴィンの為だね。それなら喜んで手伝うよ」
 「それじゃあ宜しくな、ロスカ」

 三巳はストック持った手を上げてニカリと犬歯を剥き出しにして笑います。
 ロスカと呼ばれた山の民はその手にコツンと拳を合わせてニッコリ笑います。

 「宜しく、三巳」

 そんな訳でこの日は山の民と一緒にネイチャースキーです。
 取り敢えず手始めにスキーの動かし方からレクチャー開始です。とは言え三巳も遊びでしかした事がないので三巳流ですが。

 「こういう平の所とか登りはこうやって足を動かすんだよ」

 言いながら足を進めてみせると、ロスカも見様見真似で足を動かします。

 「へえ、これは雪に埋もれなくて便利だね」
 「うぬ!そんでな、登りキツかったらこうやって逆八の字でエッジ?をきかせるんだよ」

 思いっきり漢字で説明していますが、勿論山の民達の言語は日本語でも中国語でもありません。
 しかし三巳の謎言語には慣れています。ロスカは直ぐに八がスキーの向きを示していると気付きました。

 「こうだね。えっじ?はスキーの角の事で合っているかな?」
 「うぬ!多分あってる!」

 勿論専門知識皆無の三巳です。相変わらずの良い加減説明ですが、伝われば良い精神です。
 そんなこんなでいざ出発です。
 精霊は何処にいるのか、そもそもいるのかさえわからないのです。進む先は気分で決めます。

 「しかし精霊とはね。種類によっては視認が出来ない種もいるらしいけれど」
 「うにゅ?そーだっけ。三巳は普通に見えてるからなぁ」
 「そりゃ三巳だもの」

 三巳は精霊より神秘的な存在の自覚が皆無です。ロスカは神族だからの意味で言ったのですが、三巳は三巳凄いと自分を褒め讃えます。

 「んふー♪三巳けっこーな長生きさんだからかな?猫又じみてるんだなっ」

 ロスカは自分の言った意味を全く理解されていない事に気付きます。しかしスキーでも器用にスキップしだした三巳が可愛らしいので、黙っている事にしました。

 「そうだね。おっと、大分雪が深くなっているね。雪の精霊が遊んでいるのかな?」

 スキーを履いていても次から次へと降る雪で、魔法の板の上にも雪が積もってきています。ロスカは板を振って雪を落とすと周囲を見渡しました。

 「そいえば自然的な何かあると何々がどーしたーみたいな話って出て来るな。迷信じゃなくて実は意味あったりするのかな?」

 同じく板の雪を落として三巳が天を見上げます。
 見上げた空は真っ白で、轟々と降る雪が顔に当たっては解けて頬を滑り落ちていきます。吐く息も真っ白で、まるで自分が雪の一部になった様な錯覚を起こしてきます。

 「迷信もあるけれど、実際に起きた事もあるんじゃ無いのかな。実際に間欠泉が噴き出す時は大抵サラマンダーがご機嫌になっていたしね」
 「おお!そーだったのか!」

 新事実に俄然三巳のやる気は上げ上げです。猛吹雪の影からヒョッコリ精霊が顔を出すかもとキョロキョロしちゃいます。

 「真っ白」

 しかし猛吹雪過ぎて一寸先は白でした。
 ロスカはクスリと笑うと三巳の頭をポフリと撫でて慰めます。

 「これだけ勢いがあると中々難しいね」
 「うにゅぅー……」
 「気配を読んでみるかい?」
 「……んにゃ、恥ずかしがり屋さんだったら可哀想なんだよ。きっとビックシしちゃう」
 「そうだね、地道に探そうか」
 「んにゅ」

 という訳で視認で確認続行です。
 しかし真白の世界での精霊探しは難易度MAXでした。

 「見つからぬ」
 「見つからないね。もう時期夕方になるけれど、まだ続けるかい?」

 ロスカの問いに三巳は腕を組んで「フン」と鼻息を立てて考えます。

 (このまま続けたら父ちゃんのご飯冷めちゃうかも)

 帰る頃には夕飯時だと正しく計算して頷きます。

 「帰る」
 「そうだね、それが良いよ」

 という訳でこの日も収穫ゼロで帰還です。足を上手に動かして板の向きを反対にすると、その先は下り坂です。

 「残念だね。晴れていたら僕らの軌跡が見えただろうに」

 一寸先は白の世界では下り坂である事さえ判別不能です。
 三巳は晴れていた時の光景を思い描き残念そうに頷きました。

 「うぬ。また晴れてる時にスキーしよーな。取り敢えず危ないから三巳から離れない様に後ろ着いて……見えない……」

 三巳が先導して前へ進むとロスカの姿が白に消えました。

 「はっはっは!見事に見えないね!仕方ないから周囲の雪だけ魔法で避けるよ」

 ロスカは言うと風を操り周囲に降る雪だけを散らします。その分散らされた雪は他に積もっていくのでジッとしていると雪壁が出来そうです。

 「早めに抜けれるかな」

 心配するロスカですが三巳は得意そうに胸を張ります。

 「にゅっふっふー♪帰りはもっと楽しいんだよっ」

 三巳は板を真っ直ぐにしてストックをザックと前から後ろへと突き押し流します。するとス~っと登るよりスムーズに前へ進んで行きました。

 「おや!これは中々にどうして」

 驚いたロスカは楽しそうに目を輝かせると見様見真似で前へ進んでみます。そしてそれはとても気持ち良く、風を切る様に前へと進んで行きました。

 「あっは!ははは!良いね!これはとても良いものだよ!三巳っていうひとはこんなに楽しいものを今まで隠していたなんて!帰ったら根掘り葉掘り聞かせて貰わないとならないね!」

 新雪の上をスッスッス~ッと滑り降りて行く様は、スキー場を滑り降りるのとはまた違った楽しいがあります。とはいえスキー場を知らないロスカ達山の民にはこれだけでも十分刺激的な楽しさです。
 この日帰って三巳に聞けるだけを聞いたロスカが、アルペンもクロカンも何ならジャンプ台まで作るのはまだ少し先のお話です。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

強さがすべての魔法学園の最下位クズ貴族に転生した俺、死にたくないからゲーム知識でランキング1位を目指したら、なぜか最強ハーレムの主となった!

こはるんるん
ファンタジー
気づいたら大好きなゲームで俺の大嫌いだったキャラ、ヴァイスに転生してしまっていた。 ヴァイスは伯爵家の跡取り息子だったが、太りやすくなる外れスキル【超重量】を授かったせいで腐り果て、全ヒロインから嫌われるセクハラ野郎と化した。 最終的には魔族に闇堕ちして、勇者に成敗されるのだ。 だが、俺は知っていた。 魔族と化したヴァイスが、作中最強クラスのキャラだったことを。 外れスキル【超重量】の真の力を。 俺は思う。 【超重量】を使って勇者の王女救出イベントを奪えば、殺されなくて済むんじゃないか? 俺は悪行をやめてゲーム知識を駆使して、強さがすべての魔法学園で1位を目指す。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

処理中です...