獣神娘と山の民

蒼穹月

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本編

リリとロダの結婚 昼間の宴

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 結婚衣装に身を包んだリリとロダが診療所の中で並んで座っています。
 外へと向いて座った2人の目には、華やかなパーティーが開かれていました。

 「ふふふ。お料理気に入って貰えて良かったわ」

 診療所の中には2人しかいません。
 ロキ医師はもて成す幹事として話に華を咲かせたり、お酒を注いだり、リリ自慢をしています。

 「リリの料理はとっても美味しいからきっと直ぐに無くなっちゃうよ」
 「あら。それは大変だわ。もっと沢山作れたら良かったのだけれど」
 「いやいや充分沢山だったよ。僕ビックリしたもの。ただ三巳がいるからね」
 「そういえば三巳がご両親と住んでから、あまり手料理食べて貰えて無かったわ」
 「クロの手料理はリファラでもお店出せるレベルだしね。僕はリリの料理の方が好きだけれど」
 「まあ!うふふ、ならこれからも腕によりを振るうわ!楽しみね」
 「うん。これこらも宜しくね」
 「ええ。私こそお爺ちゃんあ婆ちゃんになるまで仲良くしましょう」

 そんな2人の会話を知ってか知らずか、外のパーティーは和やかに行われています。

 「う~ん。家の陰で良く見えない」

 ミナミがドリンク片手に中の様子を伺っています。

 「もう。さっき挨拶に入ったじゃない」
 「そうなんだけどさ。挨拶位じゃ時間短過ぎよ」
 「それは同意なんだよ。三巳ももっとリリとお話したかった」
 「リファラ式って大掛かりだけど、これから暫く2人きりにするの寂しいわ」
 「ヴィーナは盃交わして揃いの飾りを着け合うだけだものね」
 「そう言えばヴィーナ式はまだ見ていないわね。両方混ぜるって言ってたけど」
 「そもそもまだリファラ式の途中なのよね。長いわぁリファラ式」

 ミナミ達の会話に、三巳は若干遠い目をしました。
 だってヴィーナに結婚式を広めたのは三巳なのですから。
 三巳が広めたならそれはもう地球式です。その筈ですが、和式と洋式がごちゃ混ぜになってしまい、結果似て非なるものになってしまいました。

 (おかしいなぁ。三巳ちゃんと別物だって教えたと思ったのに)

 長い年月で今の形でも受け入れています。けれどもこれじゃ無い感はどうしたって残ってしまっています。
 そもそもウエディングドレスより着物の方が儀礼用として浸透してしまったのです。
 当時の山の民曰く。

 「ドレス?私達の着ているのと何が違うのかしら。色?確かに華やかだし裾は長いけれど」

 と、ワンピースに慣れ親しんでいたので明らかに形の違う着物に惹かれてしまったのでした。まさに着物に憧れる外国人のそれです。
 とはいえそのままの着物は動き辛いので、改良に改良を重ねて時代の変化と共に今の形になったのです。

 「服だけはヴィーナ感あるわね」

 ミナミが大きなレジャーシートに並べられた飲食物からワインを取りながら言います。ワインは勿論リファラ産です。
 三巳もどさくさに紛れてワインを取ろうとして、しかしその前にジュースを渡されてションモリ耳と尻尾を垂らしました。
 成神していても見た目は未成年です。ミナミ達の目もこの時ばかりは保護者になっています。
 仕方なくジュースをチミチミ飲んだ三巳は、胡座をかいた足に手を乗せます。

 「花見式なのはヴィーナ感出してるけどな。リファラはテーブルと椅子が有ったし、近くの飲食店もここぞとばかりに祝い食出してたから」
 「確かに花見っぽいわね。下が雪だけど」
 「でも冷たく無いわ。これ、シートの上に保温魔法掛けてるのね」
 「あら、食べ物の下は冷たい所と温かい所あるわ」
 「うぬ。お陰で美味しいが進む」

 冷たい物は冷たく。温かい物は温かく。三巳は口の中で繰り広げられる美味しい温度変化に舌鼓を打っています。
 それがあまりに美味しそうなので、ミナミ達もついつい何時もより多く食べてしまっています。

 「三巳が一緒だとダイエットにならないわー」
 「え?ダイエットなんてしてたの?」
 「いやー正月にちょっと食べ過ぎてさー。ていうかクリスマスから美味しい物が多過ぎるのよ!女子の敵だわ!食べるけど!」
 「ほんそれ。しかもイベントの食べ物って特に美味しい気がするわ」

 そこまで言ってミナミ達は目線を料理の数々に向けました。そのどれもが美味しそうです。誰かしらのゴクリと飲み込む音が聞こえます。

 「くぅっ!リリってば村に来た時には料理のりの字も出来なかったのにっ。腕を上げおってからにっ」

 と言って手を出しパクリと食べ、

 「最初は三巳とロキ医師に作ってたのに、今じゃロダへの愛情でしょっ」

 と言って手を出しパクリと食べ、

 「料理は愛情って本当ねっ」

 と言って手を出し其々に手を出し食べていきます。その手は止まる事を知りません。

 「うにゅ。でも今日の料理からは山の民達への感謝と親愛が込められてるんだよ」

 三巳はそれ以上に食べてご満悦に尻尾の先をピルピル振り回しています。料理からリリとロダの愛情が伝わって特に神気が漲る気がしています。

 「う。ま、まあ。そういう事なら」
 「残す訳にはいかないわね」
 「遠慮なく全部平らげてあげましょう」

 こうしてイベントの多いヴィーナでは食事制限のダイエットは続かないのでした。
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