獣神娘と山の民

蒼穹月

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本編

家族

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 ヴィーナ村の民家の玄関前にロダがいます。

 「それじゃあ今日からお願い」

 ロダは目の前で緊張して立っている子供の肩に手を添えて前に出して言いました。
 前に出された子供は寒さにか、それとも緊張でかわからないガチガチの動きで前に進みます。そして一度ロダに振り返りました。
 不安そうなその顔にロダはニコリと笑みを向け頷きます。リファラの子供達は大体顔見知りです。目の前の子も親を亡くし、リリに悲しみをぶつけた一人です。だからこそその子の為人からこの家なら大丈夫と笑顔で送り出しているのです。

 「あの……お邪魔します……」

 俯いた子供はオズオズと視線だけを上に上げて言いました。
 家の主はその様子に微笑みを浮かべるとゆっくりと近寄り、そして抱き締めました。

 「今日からはウチの子だよ。だからおかえりだね、ディオ」
 「さあ寒かったろう。中に入ってあったまろうねディオ」

 紹介をされた子供の名前はディオといいました。
 そして迎え入れた人は夫婦です。働き盛りの夫婦の横には女性がいます。

 「初めまして。私は今日からディオのお姉ちゃんになるミナミよ」

 そうです。今年で成人を迎えたミナミです。
 立派な大人なレディに成長したミナミは腰を落として目線を合わせています。
 ディオはその強くて優しい眼差しと美人に成長した女性らしい姿にドキドキします。ほっぺをポッと赤くして小さな声で

 「よろしくお願いします」

 と言いました。
 その姿にロダやミナミの両親は小さな恋を見ました。
 しかし当事者のミナミは全く気付いた様子がありません。ニコリとしてディオの頭を撫でました。

 「ディオの部屋はあるけど、当面は家族皆で寝ようね」
 「え」

 ミナミの姉としての優しさに、しかしディオはピシリと固まってしまいます。
 ミナミもそれに気付きました。

 (あら。そうよね。小さくたって男の子だもん。やっぱりお姉ちゃんとは寝てくれないかな?)

 しかし理解は斜めに進んでいます。自身も年上のロイドに恋をしているのに全く男心に気付いていません。笑顔を崩さず小首を傾げています。

 「まあ……。うん。おいおい。おいおい、な」

 鈍感なミナミと自分の気持ちに気付かず傷付くディオに、お父さんは同情してディオの肩を叩いて中に促し、

 「そうね。今は新しい家族の絆を作る所からよね」

 お母さんは苦笑してミナミの手を引き、

 「うん。なんか、そんな感じでディオのこと大事にしてあげてね」

 ロダは空笑いで後の事を託しました。

 「さて次へ行こうか」

 そして他の子供達やジン達家族を促して、うっすら氷の張る道の楽しみ方を伝授しながら他の家へと向かいます。

 「雪国って楽しいな」
 「薄い氷割って歩くの面白いね」

 子供達は最初の緊張感は何処へやら、すっかり薄い氷割りに夢中です。キャイキャイはしゃぎながら行く姿に、ロダもジンとシャナも安心です。
 だって都会から田舎に引っ越して、不便さに気付いて嫌気がさしたら悲しいですもんね。
 ジン夫婦は唯一のリファラの大人として子供達の未来を見守っていきたいのです。
 一応オーウェンギルド長もいますが、彼はリファラの民ではなくギルドの民なので保護者としてはいません。安全を護りはしますが教育にはノータッチです。
 だからこそジンとシャナは責任感を感じているのです。

 「この分なら直ぐに馴染めそうね」
 『そうだな。ここでなら安心してリンを育てられそうだ』

 奥歯を噛み締めて言うジンに、シャナはそっと寄り添います。
 列の最後尾でされる夫婦の会話はバッチシロダにも聞こえています。リファラで色々学んできたのでその言葉に重みを感じます。

 (リファラは色んな人が出入りしてるもんね。きっと色々悩んでここに来たんだろうな)

 ロダは眉根を寄せてそう思いました。ロダだって結果的には故郷にずっといる事になりましたが、リリがリファラに残ると言えば故郷を出るつもりだったのです。そこに至るまでに葛藤が無かったかと言えば嘘になるでしょう。

 「三巳の山だもの。何処よりも安全よ」
 『ああ。それに何よりリリがいる。この子もきっとリリを好きになる。出来ればリリの子供と友達になれたらと思ったが……どうやらそれはまだの様だな』

 列の最後尾で言う若い家族の言葉にロダは内心で動揺をします。

 (そ、そんなっ。リリとの子だなんてっ。ああ、でも絶対リリの子は可愛い!僕と、リリの……わああっ!そ、そんなまだ早いって!でも絶対可愛い!男の子でも女の子でも可愛い!)

 大人の仲間入りをしたロダは平静を装い子供達に冬の遊びを伝授して進んでいます。でもよぉく見ると実は右手と右足が一緒に出ています。あまりに自然にやっているので遊びに夢中の子供達は気付きません。

 「ふみ。あー」

 後ろではジンに抱っこされてるリンが楽しそうな子供達を見て手を伸ばしています。きっと混ざりたいんだと思うと微笑ましくて自然と笑みが漏れてきます。
 この山がこの家族にとって幸いであると良いと、ロダはそう願うのでした。
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