221 / 353
本編
寂しくて、離れ難くて
しおりを挟む
三巳は目的の物を手に入れました。
手に入れたので皆の所へ帰る時間です。
グランで仲良くなった人達とお別れし、今はジャングルをライオーガ姿のレオと進んでいます。
三巳も折角のパウが汚れる事を厭い、レオとサイズを合わせた獣神姿で隣にいます。
『ラオ君、ジャングルって楽しいな♪』
『そうかい。そりゃ良かった』
人型の時より大きい体はまた違った雰囲気を感じて自然と尻尾が揺れています。あまりに楽しくてじゃれたくなる三巳ですが、今は葉っぱに埋もれているので出来そうにありません。
『来た時と景色が違うんだよ』
『あの時は迷子だったろう。こっちは正規の最短ルートだ』
最短ルートという事はあっという間にジャングルを抜けてしまうという事です。
三巳は寂しさにしゅんと耳と尻尾が垂れてしまいました。
『ラオ君……三巳と一緒に来て欲しいんだよ』
レオと離れ離れになりたくなくて、自分から山への移住をおねだりしてみます。
『獣神自らに招待されるとはな。こりゃ有難い事なんだろうが、すまねえな。俺はここを護りてえから離れらんねぇんだ』
なんとなくそうかなと思っていた三巳は、直接そう言われてやっぱりなと思います。思いますし、諦めなきゃなんだとも思うのですが、理性と感情がバラバラになってしまった様です。素直にわかったと言えませんでした。
低く『うー』と唸る三巳を見て、レオは一つ嘆息すると頭を擦り合わせて耳元の毛を舐めてあやします。
『別に今生の別れじゃねえんだ。いつでも遊びに来りゃいいさ』
『うん。ラオ君も、山に遊びに来て欲しいんだよ』
『ああ。そんときゃ山を案内してくれよな』
『うぬ!任せるんだよ!』
紹介したい友達や場所が多い三巳は、何処から行こうか予定を立てるだけで寂しい気持ちが少し薄れました。それでもやっぱり離れ難い気持ちは無くなりません。
『お手紙書いたら読んでくれる?』
三巳は少しでも繋がりが欲しくて頭をグリグリ仕返しながら言いました。レオが文字を読める事はグランで分かっています。
『へえ、俺宛の手紙なんて初めてだな。それじゃあ俺も書こうか』
『ふわーっ、ホント!?ホントに書いてくれる!?』
『おっと』
興奮してのっしとレオに前脚を乗せてくる三巳を難なく受け止めるレオです。戯れて甘噛みをしてくる甘ったれ具合に苦笑が禁じえません。
『ほら、三巳は大人の女なんだろ。シャキッとしとけ』
軽く前脚で降ろされた三巳は、今回ばかりは大人でありたくないと思いました。
(もう少しラオ君と触れてたいんだよ)
指をキュキュッと握って我慢しますが、その目は未練が丸わかりです。
『それより。その手紙の宛名、何て書く気だ?まさかラオと書かないよな』
三巳の未練なんてお見通しのレオは意地悪な顔でニヤリと笑います。
三巳はそれにうぐっと喉を詰まらせました。
『俺の名前、教えたよな』
『う、うぬ』
『じゃあ言ってみな』
『うなっ、な、あ、うー』
クツクツと笑いを噛み殺して何処までも挑発する様な眼差しに、三巳は尻尾をクルンと股下に潜らせ耳を垂らしてしまいます。白い毛並みを赤くして戦慄かせますが、レオは言うのを待つ姿勢を崩してくれません。
『れ、レオ』
意を決して名前を呼びましたが、直後に言い知れぬ羞恥がブワワッと全身を駆け抜けて心の中で遠吠えが如くに雄叫びを上げました。
恥かし悶える三巳に、呼ばれたレオも自分で言っときながら照れてしまいました。
『宛名はキチンと書いてくれよ』
『うあい』
両前脚で顔を覆って震える三巳の姿にフッと温かい笑みを向けて前を見据えます。話しながらいつの間にかジャングルは抜けていました。目の前に広がる砂漠のその果てに、未だ見ぬ世界を思い目を細めます。
(長い事此処に居たが、たまには世界を回ってみんのもまあ、悪かねえな)
遠く思いを馳せるレオのたてがみを風が撫でて行きます。まるで一緒に行こうよと誘っている様です。
そんなレオの姿に三巳はさっきまでモジモジしてたのも忘れて見惚れました。
『やっぱしラオ君かっちょいーんだよ』
言葉に出すつもりがなかったその思いは、あまりに素直にレオの胸に入り込んで虚をつかれました。細めていた目を見開き三巳に振り返れば、ジッと見つめられている事に気付きます。その目は何処までも強く真っ直ぐで、三巳の自由奔放で元気いっぱいな心が映しだされています。
『またな』
柔らかく目を細め笑うレオは、近い内に会いに行こうと決めるのでした。
手に入れたので皆の所へ帰る時間です。
グランで仲良くなった人達とお別れし、今はジャングルをライオーガ姿のレオと進んでいます。
三巳も折角のパウが汚れる事を厭い、レオとサイズを合わせた獣神姿で隣にいます。
『ラオ君、ジャングルって楽しいな♪』
『そうかい。そりゃ良かった』
人型の時より大きい体はまた違った雰囲気を感じて自然と尻尾が揺れています。あまりに楽しくてじゃれたくなる三巳ですが、今は葉っぱに埋もれているので出来そうにありません。
『来た時と景色が違うんだよ』
『あの時は迷子だったろう。こっちは正規の最短ルートだ』
最短ルートという事はあっという間にジャングルを抜けてしまうという事です。
三巳は寂しさにしゅんと耳と尻尾が垂れてしまいました。
『ラオ君……三巳と一緒に来て欲しいんだよ』
レオと離れ離れになりたくなくて、自分から山への移住をおねだりしてみます。
『獣神自らに招待されるとはな。こりゃ有難い事なんだろうが、すまねえな。俺はここを護りてえから離れらんねぇんだ』
なんとなくそうかなと思っていた三巳は、直接そう言われてやっぱりなと思います。思いますし、諦めなきゃなんだとも思うのですが、理性と感情がバラバラになってしまった様です。素直にわかったと言えませんでした。
低く『うー』と唸る三巳を見て、レオは一つ嘆息すると頭を擦り合わせて耳元の毛を舐めてあやします。
『別に今生の別れじゃねえんだ。いつでも遊びに来りゃいいさ』
『うん。ラオ君も、山に遊びに来て欲しいんだよ』
『ああ。そんときゃ山を案内してくれよな』
『うぬ!任せるんだよ!』
紹介したい友達や場所が多い三巳は、何処から行こうか予定を立てるだけで寂しい気持ちが少し薄れました。それでもやっぱり離れ難い気持ちは無くなりません。
『お手紙書いたら読んでくれる?』
三巳は少しでも繋がりが欲しくて頭をグリグリ仕返しながら言いました。レオが文字を読める事はグランで分かっています。
『へえ、俺宛の手紙なんて初めてだな。それじゃあ俺も書こうか』
『ふわーっ、ホント!?ホントに書いてくれる!?』
『おっと』
興奮してのっしとレオに前脚を乗せてくる三巳を難なく受け止めるレオです。戯れて甘噛みをしてくる甘ったれ具合に苦笑が禁じえません。
『ほら、三巳は大人の女なんだろ。シャキッとしとけ』
軽く前脚で降ろされた三巳は、今回ばかりは大人でありたくないと思いました。
(もう少しラオ君と触れてたいんだよ)
指をキュキュッと握って我慢しますが、その目は未練が丸わかりです。
『それより。その手紙の宛名、何て書く気だ?まさかラオと書かないよな』
三巳の未練なんてお見通しのレオは意地悪な顔でニヤリと笑います。
三巳はそれにうぐっと喉を詰まらせました。
『俺の名前、教えたよな』
『う、うぬ』
『じゃあ言ってみな』
『うなっ、な、あ、うー』
クツクツと笑いを噛み殺して何処までも挑発する様な眼差しに、三巳は尻尾をクルンと股下に潜らせ耳を垂らしてしまいます。白い毛並みを赤くして戦慄かせますが、レオは言うのを待つ姿勢を崩してくれません。
『れ、レオ』
意を決して名前を呼びましたが、直後に言い知れぬ羞恥がブワワッと全身を駆け抜けて心の中で遠吠えが如くに雄叫びを上げました。
恥かし悶える三巳に、呼ばれたレオも自分で言っときながら照れてしまいました。
『宛名はキチンと書いてくれよ』
『うあい』
両前脚で顔を覆って震える三巳の姿にフッと温かい笑みを向けて前を見据えます。話しながらいつの間にかジャングルは抜けていました。目の前に広がる砂漠のその果てに、未だ見ぬ世界を思い目を細めます。
(長い事此処に居たが、たまには世界を回ってみんのもまあ、悪かねえな)
遠く思いを馳せるレオのたてがみを風が撫でて行きます。まるで一緒に行こうよと誘っている様です。
そんなレオの姿に三巳はさっきまでモジモジしてたのも忘れて見惚れました。
『やっぱしラオ君かっちょいーんだよ』
言葉に出すつもりがなかったその思いは、あまりに素直にレオの胸に入り込んで虚をつかれました。細めていた目を見開き三巳に振り返れば、ジッと見つめられている事に気付きます。その目は何処までも強く真っ直ぐで、三巳の自由奔放で元気いっぱいな心が映しだされています。
『またな』
柔らかく目を細め笑うレオは、近い内に会いに行こうと決めるのでした。
10
お気に入りに追加
113
あなたにおすすめの小説
神の使いでのんびり異世界旅行〜チート能力は、あくまで自由に生きる為に〜
和玄
ファンタジー
連日遅くまで働いていた男は、転倒事故によりあっけなくその一生を終えた。しかし死後、ある女神からの誘いで使徒として異世界で旅をすることになる。
与えられたのは並外れた身体能力を備えた体と、卓越した魔法の才能。
だが骨の髄まで小市民である彼は思った。とにかく自由を第一に異世界を楽しもうと。
地道に進む予定です。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる