獣神娘と山の民

蒼穹月

文字の大きさ
上 下
160 / 358
本編

月日は流れて

しおりを挟む
 それから月日が流れました。
 一部なオーウェンギルド長の懸念も虚しく、散り散りに逃げ延びていたライドゥーラの元民達はすんなりリファラに移民が完了していました。懐が広く、人類どころか会話が成立すれば皆兄弟なリファラの民にとって、生きるのにやっとな姿の方が悲しかったのです。
 リファラも増えた人口の力で復興が終わっています。なんならもう既に新しい国として成り立っています。
 リリもロダも日本ならば高校生な歳になりました。すっかりスラリと伸びた身長は、もう大人と遜色ありません。

 「なんでだ……。何で何だよ……」

 ただ、その2人の間に立って、三巳だけがどよんと肩を落としていました。

 「ええっと、あのね」

 一段と高くなったロダを見上げ、困った様に視線を合わせたリリ。今度はその視線を下げ、項垂れる三巳のつむじを見ました。

 「ほら、大人でも低い人はいるし」

 リリはオロオロとしながらフォローを入れました。
 そうです。月日が流れ、リファラとライドゥーラの人々の心の機微に触れながら、社会というものを改めて学んだ三巳でしたが、何という事でしょう。

 三巳は、背が伸びなかったのです。

 「ち、チビっとは伸びてるぞ!?」

 城の跡地の一角に建てられたログハウスの大黒柱には、3人の成長の軌跡が横線で描かれていました。
 その中でも群を抜いて伸びてるのはロダです。
 その次に伸びてるのはリリです。
 そのリリの最新の記録から遥か下に三巳の記録がほんの2ミリ更新されていました。
 居た堪れない三巳はなんだかちょっぴり涙目です。

 「うーん。三巳の場合見た目の成長は心の成長に直結してるんだよね?」

 ロダに言われてズガーンと雷が刺さります。

 「そ、それは……。三巳が大人になれてないって事なのか……?」

 三巳はショックでフルフル震えてロダを見上げます。
 その姿が雨に打たれるワンコを連想して、リリは可哀想になって抱き付きヨシヨシ頭を撫でました。

 「そんな事ないわっ。三巳がいっぱい助けてくれてた事、ちゃんと見てたものっ」

 お目々をウルウルさせて、でも撫でまくる手は止まる事なく、リリが力強く断言してくれます。
 そうして3人は今日までの大まかな出来事を脳裏に浮かべました。

 戦々恐々やって来た元ライドゥーラの民達。説得済みの、棘が抜けた人々は皆やさぐれではいても争う姿勢は見せませんでした。そんなすべからく疲れた心の人達は、モフモフの魅力がダイレクトアタックされ、モフモフファンクラブを結成し、三巳を甘やかしに甘やかす事になったのでした。

 「うん。まあ。三巳は良い仕事したんじゃないかな?」

 ロダは一つ頷くと男前になった笑顔でポンと三巳の肩を叩きました。

 「そうね。心の成長の先は人それぞれだもの。三巳はモフみに全振り三巳なりの成長したんじゃないかしら」

 リリは綺麗な女性の笑みをたたえて、随分と下になった三巳の頭をモフリモフリと撫でました。

 「そうかな?そうなのかな?三巳ちゃんと成長してるのかな?」
 『大丈夫!オーウェンギルドチョーも小さい!きっと三巳もそうだぞ!』

 涙ちょちょ切れそうな三巳に、ネルビーがフォローになっていないフォローをしました。
 三巳はちょっぴしちょちょ切れました。

 「ありがとうなーネルビー」

 美女母も父も普通の身長なので、遺伝的には大きくなっても良いのではないかと思いましたが、お礼だけは言いました。

 「うーにゅ。嘆いていても始まらないんだよ。取り敢えず三巳が大人になったか聞いてみるんだよ」

 散々落ち込んだ三巳でしたが、開き直りと立ち直りの早さは一級品です。気を取り直して耳を元気よくピンと上げました。

 「あてはあるの?」
 「あてというか」

 問われた三巳は、ニンと笑って答えます。

 「帰って母ちゃんに聞いてみるんだよ」

しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ
ファンタジー
地区最強のヤンキー・北条慎吾は死後、不思議な力で転生する。 だが転生先は底辺魔力の下級貴族だった!? 体も弱く、魔力も低いアルフィス・ハートルとして生まれ変わった北条慎吾は気合と根性で魔力差をひっくり返し、この世界で最強と言われる"火の王"に挑むため成長を遂げていく。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。 そこで木の影で眠る幼女を見つけた。 自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。 実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。 ・初のファンタジー物です ・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います ・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯ どうか温かく見守ってください♪ ☆感謝☆ HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯ そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。 本当にありがとうございます!

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...