獣神娘と山の民

蒼穹月

文字の大きさ
上 下
155 / 358
本編

救いの声と助け合い

しおりを挟む
 三巳は今、リリと一緒に集会所に来ています。

 「それじゃあ他にもライドゥーラの方が困っているかも知れないのね」
 「ああ。俺達は国を追われた後、散り散りに逃げたからな。
 アンタらに迷惑掛けた俺達が言える事じゃねぇのはわかってる。けど、リファラの国民として受け入れて貰えたからこそ、今もなお不遇の生活を送ってる仲間達を救ってやりてぇんだ」

 リリが念を押して確認すると、元武装した人達の中でもリーダー格だったジョナサンが頭を下げました。

 「俺ぁ今はこいつの親方だからな。ジョナの仲間なら手を貸してやりてぇんだ」

 ジョナサンの働き口は、大工でした。
 その職場でツラツラと別れた仲間の心配を口にした事で、あれよあれよと大工仲間が話し合いの場を整えてくれたのです。
 その大きく暖かく力強い懐のデカさに、ジョナサンはもう悪い事を考えた自分が恥ずかしく思っています。
 親方の大きな手で背中を押され、目頭が熱くなります。

 (本当に俺は何をやってたんだ。内実も知らず、上の言う事を鵜呑みにして、今はもうただ申し訳ない気持ちでいっぱいだ)

 「やめておけ、ジョナサン達はたまたま上手くいっただけだ。人数も増えれば管理なんぞ行き届かんぞ」

 苦言を呈するのはオーウェンギルド長です。
 酸いも甘いも経験しているからこそ、臭いものは全力拒否の姿勢です。

 「私は救えるなら救いたい」

 リリはあのかつてのジョナサン達の貧しい姿が頭を過り、胸が締め付けられる思いです。

 「でも、私は自分の事すら守れないちっぽけな存在で、ジョナサンさん達の事だってリファラのみんなが助けてくれた事だから」

 いくら自国の姫といえど、王国としては既に瓦解しています。みんな敬い大切にしてくれるけれど、最早王族としての権限はほぼ無くなっていました。
 いいえ、あったとしてもきっとリリなら独断で決めたりはしなかったでしょう。

 「姫様……。
 俺達は姫様の優しさにずっと癒されてきた。
 だからこそあの時、姫様だけでも逃げ延びてほしいと、国民みんなが願っていた。
 そして今、復興途中とはいえ安全な国に戻ったこの地に姫様は戻ってきてくれた。
 守れなかったあの時の分。俺達は姫様の思いになるべく答えてやりたいんだ」

 リリに願いを込めて見上げられたリファラの民の代表。長躯な体に似合わず付いた筋肉や傷が、これまで苦労してきたと物語る中々に頼れる風情の壮年男性です。

 「ゼリアス……」

 ゼリアスと呼ばれた男性は、不安そうな、でも強い意志を失っていないリリの瞳を見返して、ゆったりと微笑み返しました。

 「姫様は姫様のしたいようにしていいんだ。俺達はいつだってその心積りが出来てる。
 まあ、それにこの件に関しては俺達も何とかしたいと話していたんだけどな」

 ゼリアスは力強く頷きました。
 リリは、そしてジョナサンはその暖かさに嬉しくなって、じわりと顔を赤らめました。感動でお目々もウルウルです。

 『よくわからないけどおれはリリが嬉しい事が嬉しいぞ。
 リリにはおれがついてるし、リファラにはモンスターのみんながついてるからな』

 ネルビーもよくわかっていないけどリリがしたい事ならわかります。
 オーウェンギルド長を見上げ、元気よくヘッヘッと息巻いています。尻尾もブンブン振りまくりです。

 「だから。俺には犬っころの言ってる言葉わかんねぇっつの」

 やる気を見せるネルビーに、しかしオーウェンギルド長は眉を顰めました。
 すかさず三巳が通訳をします。けれども通訳を聞いた後の方が顰めて出来る皺が深くなりました。

 「それが目下一番の心配事だけどな」

 モンスターを平然と受け入れられるのはリファラの民だけです。
 ライドゥーラの元民達も今はリファラ籍に入ったとはいえ慣れません。ジョナサン達にはモンスター達の言葉がわからないのですから。

 「にゅ?」
 『わふ?』

 けれども存在が獣な三巳とネルビーはジョナサンに沢山遊んで貰っています。
 受け入れられないという状態が想像出来ず、ただただ不思議そうに首を傾げるのでした。
しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。 そこで木の影で眠る幼女を見つけた。 自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。 実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。 ・初のファンタジー物です ・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います ・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯ どうか温かく見守ってください♪ ☆感謝☆ HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯ そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。 本当にありがとうございます!

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...