獣神娘と山の民

蒼穹月

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本編

すっかりぽんと三巳ペース

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 怪我人と病人に出来る限りの応急処置が終わりました。
 敵対心を抱いていたのに優しく接せられ、すり減った心は温かいものに包まれています。

 『乗り物酔いちたら言ってなー』
 「大丈夫だ~」
 「こ、この程度。なんのこれしきっ」

 すっかりペースを持っていかれ、でもなんだかちょっぴし良い気分でライドゥーラの民は風に揺れていました。
 今、大きな大きな孔雀に変身した三巳が、もっと大きな大きなゴンドラを持って空を飛んでいます。勿論飾り羽根も大きく広げています。
 そんな状態でリファラに向かっていれば、見上げた人達がなんだなんだと騒ぎます。

 「って、おい!?この人数をいきなり国に入れる気か!?」

 流石に今は落ち着いているとはいえ、それはあまりに危険だとオーウェンギルド長が慌てて止めました。

 「大丈夫。事前にリファラのみんなと相談して決めた事なの」

 リリはそれに首をゆったりと横に振り、微笑みを浮かべて止めるのを止めました。

 『みんなー!ライドゥーラの民達連れて来たじょー!』

 リファラの一番広い広場の上空で、三巳が声を張り上げ伝えました。
 すると下にいた人達は慣れた様子でゴンドラの誘導を開始しました。もうすっかり三巳の奇行には慣れっこなんです。

 「いやー。まさか上から来るとは思わなかったけどな」

 オーライオーライと掛け声高くジェスチャーで知らせる人々は、苦笑いで楽しんでいました。
 言われた通りに徐々に徐々にゆっくりゆっくり下降して、最後にゴンドラをみんなで優しく地面に降ろします。
 ゴンドラが揺れなくなった事でライドゥーラの民はホッと一安心。胸を撫で下ろしています。
 やっぱり未確認生命体なクジャクのゴンドラは怖かったみたいです。

 「やあ!ようこそリファラへ!」
 「さあさ、疲れたろう。先ずは腰を落ち着ける場所に案内するよ」

 ゴンドラの枠が取り外されると、次から次へとリファラの民が押し寄せて、ライドゥーラの民の手を取っていきます。
 これにはライドゥーラの民は驚き慄き目がパチクリです。

 「お、お前達っ、オレ達が憎くないのか!?」
 「「「うん?」」」

 誰かが代表して上げた驚きの声に、しかしリファラの民は揃って小首を傾げました。

 「それを言ったらお兄さん達もあたし達が憎くないのかい?」

 リファラの中でも肝っ玉そうな女性が聞き返しました。
 思わず聞き返す位に今のライドゥーラの民は身形が貧しかったのです。

 「に、憎いさ!」
 「バカ!これは私達の自業自得だって言ったろ!」
 「でも!」

 これに反応して食ってかかった武装した男の人に、穏健派の人達が反論して仲間同士で喧嘩を始めてしまいます。

 「あらあら、喧嘩するのも仲が良い証拠って言うけどね。今はみんな体を休めるのが先が良いよ」

 その間に入って止めたのは穏やかそうなリファラのお婆ちゃんです。

 「ほら、疲れたりお腹が空いてるとイライラしちゃうからね。こっちへおいでなさいな」

 腰が曲がっているのにピンシャンとした動きで武装した男の人の手を取ります。
 皺くちゃだらけの手で包むと、見た目を裏切る力強さで男の人を引っ張って行ってしまいました。

 「おいっ、婆ちゃん!」
 「はいはい。お話なら後でちゃぁんとこの婆が聞きますよ」

 ニコニコ笑顔でゆったり優しく引っ張られ、さしもの武装した男の人もタジタジです。

 「なんだよ。何なんだよこれっ。くそっ!調子の狂う!」

 文句を言いながらも周りの目があまりにも穏やかで、見守る空気に大人しく連れて行かれました。
 因みに調子が狂い始めた原因は三巳クジャクの所為だったりします。人間予期せぬ大事の前には小事は疎かになりがちです。今回意図せずそれが功を奏していた事は、三巳は全く気付いていません。

 (なーんだ。悪い事言っててもみんな怖い人じゃなかったんだよ。良かったー)

 とまで呑気に思う位には気付いていません。
 結局この日どころか体が本調子になるまで、ライドゥーラの民はお世話になりまくるのでした。
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