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本編
山の民、楽しいを作る。
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さてはて。歩き出したら止まらない。それがロウ村長です。何をするかとニマニマ考えを巡らせます。
楽しい事を探してキョロキョロしながら歩いていると、コロコロ転がって来る物が見えました。目で追っているとデコボコ道にフラフラしながらも止まる事なく足に当たります。
「お?これは何時ぞやの三巳犬のボールだな」
ヒョイと手に取り見れば、それは「とってこーい!」をして遊んだボールでした。
「やあすまないロウ村長」
声を掛けられたので顔を上げれば、そこにはボールを作った青年、ロナがいました。
「どうしたのだ?」
「いやあ、ボールを弄ってると三巳を思い出してな。壁に投げては拾うを繰り返してたらついうっかり飛んでいってしまったんだ」
「ああ、成る程な」
ロウ村長もボールであの時の三巳を思い出した所です。直ぐに得心がいってボールを返そうとし、ロナの手に乗せる前にふと思い付いて止まりました。
「ロウ村長?」
「うむ。良い事を思い付いた。ロナよ、このボールを借りても良いか?」
「勿論。楽しい事なら一枚噛ませてくれ」
ロウ村長が良い事と言えば、それはきっとみんながワクワクする事に違いありません。ロナはロウ村長同様のキラキラした目で即座に頷きました。
「みんなでこのボールを投げて、キャッチして、投げ返す遊びをしたらきっと楽しいと思わんか?」
「な、なんて事を思いつくんだロウ村長!
そんなの絶対楽しいに決まってる!特に子供達が喜びそうじゃないか!直ぐにみんなを広場に集めよう!」
ロウ村長が思い付いたのは、いわゆるキャッチボールというものでした。
山には今までボールが無かったので球技というものが存在しませんでした。そこにきてのキャッチボールです。このワクワク。止まりません。
思い付いたら即行動の山の民です。広場には老若男女が「なんだなんだ」とザワザワしながら集まりました。
ロウ村長はいつもの如く一段高い所から周囲を見回し、うむうむと満足そうに頷きます。
「うむ。みな良く集まってくれた。
という訳で第一回ボール投げ取り大会を開始する!」
そして説明なんていらない。楽しいが全てだと言わんばかりにボールを掲げて意気揚々と宣言しました。
集まった山の民達はそのボールを見てハッとします。あの楽しかった日はつい昨年の新しい記憶です。直ぐにみんなの心がひとつになりました。頭の中は元気な三巳犬で埋め尽くされています。
「「「うおおおおおおおお!!」」」
何をするのかはいまいちわかりませんでしたが、楽しい事だけは理解して、地面を揺らす勢いで雄叫びを上げました。
「はっはっは!これでこそ山の民だ!さあ!ワシの投げる第一球、見事キャッチするのは誰かな!?」
見事な盛り上がりに気を良くしたロウ村長は、豆まきの要領で「そーい!」とボールを投げました。
山の民達はボールを目指して動き出します。
先にボールを見事にキャッチしたのは竹の子狩りのリーダーロジンでした。なんとロジンはロウ村長のフォームを見て、予め軌道を予測して待っていたのです。
ロジンはドヤ顔でボールを掲げます。そして子供達がいる方に向かって投げました。
「きゃー!ボールきたー!」
「おれっ、おれとる!」
子供達はボールを取ろうとおしくらまんじゅう状態で目一杯両腕を上げました。
接戦の末見事受け取ったのはミオラです。
「きゃーっ!とれた!とれたー!」
ピョンピョン飛んで大はしゃぎです。ミオラは両手で「えいっ」と投げました。
流石に子供の力なのでそんなに高くも遠くにも飛びません。近くにいたロハスが落ちる寸前でキャッチして直ぐに高く投げました。
さっきよりも高く遠くに飛んだボールは、放物線を描いて落ちて行きます。
今度はたまたまそこにいたミナミが受け取ります。そしてさあどこに向かって投げようかとキョロキョロすれば、興奮した沢山の視線に気付いてヒクリと喉を鳴らしました。
「うわぁ……。これ、近くに投げたらごった返し決定だよね」
独りごちたミナミは、フッと悟りを開いた顔をすると、渾身の力で思いっきりぶん投げました。
「あ。強すぎたかな?」
ミナミは年長組みの中でもロダの次に強いと言わしめる女の子です。そんな子が投げれば、ボールはキラーン!と流れ星の如く早く遠くへ飛んでしまいました。
ボールの行き着く先にはまだ誰もいません。あわや民家の窓にぶつかりそうになります。
『こ、怖いモー!』
すんでのところで鍬を持ったタウろんが通り掛りました。新しい畑を作る場所を求めて彷徨っていたのです。
タウろんは迫りくるボールに思わずギュッと目を瞑り、持っていた鍬を思いっきりフルスイングしました。
カッキ―――ン!
ボールは見事に木の棒の真ん中に当たります。良い当たりをしたボールは今度は更に高く遠くに飛んでいきました。
けれども山の民達はボールを追いかけません。
「な、何……今の」
「か、かきーん……」
「このドキドキする良い音は何……?」
山の民達は誰も彼もが今の流れに胸を打たれていました。
「ロウ村長!」
「ああ!」
ボールを投げたり取ったりするよりも、もっと楽しい事が始まる予感がしました。
直ぐに円陣を組むと、どうやったら今のがもっと楽しめるようになるのか話し合いを始めます。色んな意見がバンバンと出て、ロウ村長はそれをウンウンと聞いて纏めていきます。
纏めた結果、チームを作り、攻守を分けて遊ぶやり方を思いついたのです。
こうして第一回ボール投げ取り大会は終わりを迎え、代わりに山の村に野球に似たスポーツが出来るのでした。
三巳がそれを知って「野球じゃん!」というのはまだ先の事。
楽しい事を探してキョロキョロしながら歩いていると、コロコロ転がって来る物が見えました。目で追っているとデコボコ道にフラフラしながらも止まる事なく足に当たります。
「お?これは何時ぞやの三巳犬のボールだな」
ヒョイと手に取り見れば、それは「とってこーい!」をして遊んだボールでした。
「やあすまないロウ村長」
声を掛けられたので顔を上げれば、そこにはボールを作った青年、ロナがいました。
「どうしたのだ?」
「いやあ、ボールを弄ってると三巳を思い出してな。壁に投げては拾うを繰り返してたらついうっかり飛んでいってしまったんだ」
「ああ、成る程な」
ロウ村長もボールであの時の三巳を思い出した所です。直ぐに得心がいってボールを返そうとし、ロナの手に乗せる前にふと思い付いて止まりました。
「ロウ村長?」
「うむ。良い事を思い付いた。ロナよ、このボールを借りても良いか?」
「勿論。楽しい事なら一枚噛ませてくれ」
ロウ村長が良い事と言えば、それはきっとみんながワクワクする事に違いありません。ロナはロウ村長同様のキラキラした目で即座に頷きました。
「みんなでこのボールを投げて、キャッチして、投げ返す遊びをしたらきっと楽しいと思わんか?」
「な、なんて事を思いつくんだロウ村長!
そんなの絶対楽しいに決まってる!特に子供達が喜びそうじゃないか!直ぐにみんなを広場に集めよう!」
ロウ村長が思い付いたのは、いわゆるキャッチボールというものでした。
山には今までボールが無かったので球技というものが存在しませんでした。そこにきてのキャッチボールです。このワクワク。止まりません。
思い付いたら即行動の山の民です。広場には老若男女が「なんだなんだ」とザワザワしながら集まりました。
ロウ村長はいつもの如く一段高い所から周囲を見回し、うむうむと満足そうに頷きます。
「うむ。みな良く集まってくれた。
という訳で第一回ボール投げ取り大会を開始する!」
そして説明なんていらない。楽しいが全てだと言わんばかりにボールを掲げて意気揚々と宣言しました。
集まった山の民達はそのボールを見てハッとします。あの楽しかった日はつい昨年の新しい記憶です。直ぐにみんなの心がひとつになりました。頭の中は元気な三巳犬で埋め尽くされています。
「「「うおおおおおおおお!!」」」
何をするのかはいまいちわかりませんでしたが、楽しい事だけは理解して、地面を揺らす勢いで雄叫びを上げました。
「はっはっは!これでこそ山の民だ!さあ!ワシの投げる第一球、見事キャッチするのは誰かな!?」
見事な盛り上がりに気を良くしたロウ村長は、豆まきの要領で「そーい!」とボールを投げました。
山の民達はボールを目指して動き出します。
先にボールを見事にキャッチしたのは竹の子狩りのリーダーロジンでした。なんとロジンはロウ村長のフォームを見て、予め軌道を予測して待っていたのです。
ロジンはドヤ顔でボールを掲げます。そして子供達がいる方に向かって投げました。
「きゃー!ボールきたー!」
「おれっ、おれとる!」
子供達はボールを取ろうとおしくらまんじゅう状態で目一杯両腕を上げました。
接戦の末見事受け取ったのはミオラです。
「きゃーっ!とれた!とれたー!」
ピョンピョン飛んで大はしゃぎです。ミオラは両手で「えいっ」と投げました。
流石に子供の力なのでそんなに高くも遠くにも飛びません。近くにいたロハスが落ちる寸前でキャッチして直ぐに高く投げました。
さっきよりも高く遠くに飛んだボールは、放物線を描いて落ちて行きます。
今度はたまたまそこにいたミナミが受け取ります。そしてさあどこに向かって投げようかとキョロキョロすれば、興奮した沢山の視線に気付いてヒクリと喉を鳴らしました。
「うわぁ……。これ、近くに投げたらごった返し決定だよね」
独りごちたミナミは、フッと悟りを開いた顔をすると、渾身の力で思いっきりぶん投げました。
「あ。強すぎたかな?」
ミナミは年長組みの中でもロダの次に強いと言わしめる女の子です。そんな子が投げれば、ボールはキラーン!と流れ星の如く早く遠くへ飛んでしまいました。
ボールの行き着く先にはまだ誰もいません。あわや民家の窓にぶつかりそうになります。
『こ、怖いモー!』
すんでのところで鍬を持ったタウろんが通り掛りました。新しい畑を作る場所を求めて彷徨っていたのです。
タウろんは迫りくるボールに思わずギュッと目を瞑り、持っていた鍬を思いっきりフルスイングしました。
カッキ―――ン!
ボールは見事に木の棒の真ん中に当たります。良い当たりをしたボールは今度は更に高く遠くに飛んでいきました。
けれども山の民達はボールを追いかけません。
「な、何……今の」
「か、かきーん……」
「このドキドキする良い音は何……?」
山の民達は誰も彼もが今の流れに胸を打たれていました。
「ロウ村長!」
「ああ!」
ボールを投げたり取ったりするよりも、もっと楽しい事が始まる予感がしました。
直ぐに円陣を組むと、どうやったら今のがもっと楽しめるようになるのか話し合いを始めます。色んな意見がバンバンと出て、ロウ村長はそれをウンウンと聞いて纏めていきます。
纏めた結果、チームを作り、攻守を分けて遊ぶやり方を思いついたのです。
こうして第一回ボール投げ取り大会は終わりを迎え、代わりに山の村に野球に似たスポーツが出来るのでした。
三巳がそれを知って「野球じゃん!」というのはまだ先の事。
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