獣神娘と山の民

蒼穹月

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本編

リファラの今

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 三巳達はハンナを囲んで歩いています。
 お互いの自己紹介はリリがしてくれました。

 「この人はハンナ。侍女頭で私を守ってくれた一人なの」

 侍女頭というとウィンブルドンで聞いた、リリを森に隠してくれた人です。
 行方不明になっていましたが、なんとか生き延びていたのです。
 リリはもう離さないと言いたげに、ハンナと手を繋いでいます。そして離れた後の事を聞きました。

 「そう。それじゃあ城の人で残っているのはハンナだけなのね……」
 「はい……。みな、真に忠義篤いもののふでした。お陰で姫様を御守り出来て、今頃さぞ喜んでいる事でしょう」
 「……みんな。良い人達だったわ……。なのにもう、あの笑顔を見る事は出来ないのね……」

 哀しさと、寂しさと、辛さをないまぜにした複雑な顔でリリが俯いてしまいます。
 ロダは何も出来ない自分がもどかしく思い、せめてとリリの手を握りました。
 ハンナはそれを目敏く見つけ、推し量る様にロダを見ます。リリは一度酷く傷付いているので、男の子には敏感にならざるを得ません。でもロダがリリを好きな気持ちは溢れていて、ハンナは直ぐにニッコリと安堵しました。

 「ああ、見えて来ましたよ。まだまだ復興の途中ですが中々良い感じでしょう?」

 一本道を真っ直ぐ歩いて森の切れ間が見えた頃、ハンナがその先を指差して言いました。
 切れ間からは夕陽の紅く萌える光が差して、リリは一瞬ビクリと肩を震わせます。けれどその先に見えた今のリファラを見て、大粒の涙を流しながらホッと笑み崩れるのでした。
 森を抜けた丘の上から、紅い夕陽に照らされるリファラを一望出来ます。
 三巳は、且つてリリの夢で見た炎の紅で覆い尽くされた悲しい街並みを思い、リリの横顔を見ます。
 リリは止めどなく流れる涙を拭いながら、リファラの街並みを端から端までじっくり見ては笑みを深めていました。

 (同じ紅でも滅びと再生でここまで印象は違う)

 修繕された家々や、新しく建てられた家々。そこを行き来する人々は誰もが活気に満ち溢れています。

 (とは言っても起きた出来事は大き過ぎた。
 日本でも原爆落とされて、それで戦争は終結したけど。失ったものを抱えて今日を生き、未来の子供達に更なる明日を届ける。みんなそうやって必死に繋いでくれてるんだよな)

 三巳は一応神様の部類です。本人も忘れがちですが。なので人々の中に癒えない心の傷を感じ取っていました。それでも前を向く力強さも。

 「リファラの民は強いな」

 三巳は目の前の光景が眩しく映りました。
 人心としてとっても加護を与えたくなりましたが、神心としてはおいそれポンポンと与える訳にはいきません。先ずはリファラの民を知る事から始まるのです。
 というよりリリの事で頭がいっぱいでしだが、そもそも今回の旅は三巳の勉強の旅です。けれどもやっぱり三巳はすっかりその事が頭から離れて帰って来ませんでした。

 「よーし!三巳達も何か手伝える事ないかな?」

 ハンナのエプロンをちょいちょい摘んでリリの為に頑張ると意気込んでいます。

 「僕も!頑張る!」

 ロダもリリの事でいっぱいなので負けじと意気込んでいます。

 『おれも負けないぞ!おれはリリの守護獣だからなっ。エッヘン!
 だからあそこで手伝ってるモンスター達には負けないんだぞ!』

 ネルビーも飛んで跳ねて主張を強くします。
 けれどそれが三巳とリリとロダに疑問を持たせる事になりました。

 「おおっ、ネルビーもやる気だな。その息だ、他のモンスターに負け……モンスター?」
 「「モンスター?」」

 先ず気付いたのは三巳でした。
 ネルビーを鼓舞しようとして、ハタとします。そして繰り返し言いながら街の様子をもう一度具に観察しました。
 そんな三巳に同調してリリとロダも目をパチクリさせて同じく街を見ます。
 そして漸く状況を理解するのでした。

 「「「!!?モンスターが人族と街の復興してる!!」」」

 そうです。
 リファラの今は、人族とモンスターが共存する世にも珍しい国となっていたのでした。
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