獣神娘と山の民

蒼穹月

文字の大きさ
上 下
94 / 353
本編

雪ん子

しおりを挟む
 「ゆぅきや吹雪♪
 アラレも吹雪♪
 降っては降っては埋め尽くすー♪」

 今日も今日とて元気いっぱいの三巳が、猛吹雪の雪山をスキップ踏んで駆け回っています。
 山も大きくなると雪が沢山降る側とあまり降らない側があります。村はあまり降らない側ですが、それでもしっかりと降り積もります。
 この日は稀に見る猛吹雪で、山の民達も自宅で家を守りつつ待機です。
 でも三巳はどんな大災害でもヘッチャラなので、こうして一人遊びを楽しんでいました。

 「にょほほー!
 踏んでも踏んでもあっという間に足跡消えるー!」

 あっちにズボリ。
 こっちにズボリ。
 足跡を付けては消えていく様を楽しんでいます。
 因みに本来積りたての雪でスキップなんて踏めません。埋まるし、場合によっては滑ります。でも三巳は物理現象を無視して駆け回っています。

 「とおー!」

 三巳は一番ふかふかそうな真っ白いなだらかな雪を見つけて勢いよくジャンプしました。そして大の字になるとそのまま腹からダイブしました。
 バフン!っと良い音立てて埋まると、雪の中でクプクプ笑い声を上げます。形を崩さない様に上半身を上手に上げて、三巳型を見たらニヤリと口角が上がって更に大笑いです。

 「にょほほーっ、銀世界の独り占めー」

 ジッとしてると直ぐに吹雪に埋まるので、満足したら駆け出します。
 今日は流石に人間も動物もモンスターでさえジッと吹雪が過ぎ去るのを待っています。動いているのは三巳だけです。ハイテンションで駆け回っても身咎める生き物はいません。
 三巳は飽きるまで雪山を転がって大笑いしていました。
 その時です。
 小さな振動と何かがズレる音がしました。
 けれど遊びに夢中の三巳はちっとも気付きません。
 楽しそうにピョンピョン跳ねている所に、ゴッという音と振動と共に雪崩が起きました。
 三巳はあっという間に雪に埋れて見えなくなってしまいました。
 普通なら命が無くなる大惨事です。
 でも三巳は無事でした。
 雪に押し潰されてギュウギュウです。けれど三巳はそれさえも然も可笑しそうに笑っていました。顔が塞がっているので忍び笑いになっていますが。

 「むーっ!むがーっ!むきょー!」

 くぐもった叫び声と共にジタバタ手足を動かせば、あっという間に空洞が出来ました。
 三巳は自由になった体で右拳を高く上げて大ジャンプをしました。
 するとバカーン!っと雪を上に押し上げて自力で雪崩から脱出したのです。

 「にゃはー。ちと暴れすぎたかな?」

 上空高く飛び上がった三巳は雪崩後を見て反省するのでした。
 雪崩に巻き込まれた子がいないかサーチで確認したら、この日は満足げに診療所に帰って行きましたとさ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

皇女殿下は婚約破棄をお望みです!

ひよこ1号
ファンタジー
突然の王子からの破棄!と見せかけて、全て皇女様の掌の上でございます。 怒涛の婚約破棄&ざまぁの前に始まる、皇女殿下の回想の物語。 家族に溺愛され、努力も怠らない皇女の、ほのぼの有、涙有りの冒険?譚 生真面目な侍女の公爵令嬢、異世界転生した双子の伯爵令嬢など、脇役も愛してもらえたら嬉しいです。 ※長編が終わったら書き始める予定です(すみません)

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...