獣神娘と山の民

蒼穹月

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本編

年の瀬

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 クリスマスも終われば次は年末年始です。
 三巳が転生したこの星は、星の大きさと太陽との距離、ハビタブルゾーンが地球と太陽より遠いのか、一年が少し長いです。だから地球のカレンダーが当てはまりません。だから三巳は長い年月を掛けて、山の民達とカレンダーを作り上げました。
 カレンダーは代々村長宅に誰でも見られるように飾られています。

 「今年もあと少しで終わりだなー」
 「うむ。今年は災害もあったが、民も増えて村にはいつも以上の活気があった。
 新しい年が始まるまで気を抜かず、まったり生こう。」

 カレンダーを指差し数えて言う三巳に、ロウ村長は家の玄関先に超巨大な鏡餅を置いて答えました。その大きさはロウ村長よりずっと大きいです。

 「毎年の事ながらデカいよなー。
 作るの大変だったろ」
 「何の何の。代々レシピは受け継がれているから問題ない。
 この餅の大きさは山の民の人数に比例するから、その計算だけは大変だがな」

 労う三巳に、ロウ村長はガッハッハと大笑いします。
 確かにロウ村長は肉体労働の方が向いていそうな風態をしていますし、実際そうです。村長故にキチンと頭も使いますが、有事の際には先陣を切りたいタイプです。
 三巳も深く考えるのは苦手なタイプなので、割とロウ村長とは気が合います。
 「そうだなー」と一緒に笑ってウンウン頷きます。

 「ロウ村長が若かった頃は、机上の空論するより三巳と冒険してたもんなー」

 昔を懐かしみ言う三巳に、ロウ村長も目を細めて昔を思い出します。
 今とは違う名前で呼ばれていた若かりし頃は、良く三巳にくっ付いて山中を駆け回っていたものです。
 獣神である三巳の本気の山遊びは、下手をすれば何処ぞの王国騎士の訓練など、軽く凌駕する程激しくキツいものです。
 ロウ村長はそんな三巳の遊びにも付いて行く強者の一人だったのです。

 「それが今や立派に村長してる。
 三巳はとっても嬉しい。
 そして正月のお年玉をとっても楽しみにしている」

 三巳はロウ村長を上げるだけ上げて、さり気無くお年玉を強請りました。

 「がっはっは!そんな目で見上げても何時も通りしかあげないぞ!」

 ロウ村長は豪快に笑い、三巳を見下ろします。昔は見上げていた触り心地の良いフワフワな頭。今は見下ろしてピコピコと良く忙しなく動く耳を持つその頂に、大きく無骨な手でワシワシと撫でました。その触り心地は昔より随分指通りが良くなっています。毎日リリが欠かさずブラッシングをしているからです。
 三巳は「ちぇー」と口を尖らせて拗ねる、振りをして二へ~と目が嬉しそうに緩みました。

 (三巳のが年上なのに、ロウ村長は毎年くれるんだよなー)

 気分は孫にお年玉を貰うお婆ちゃんです。
 尤もお年玉と言っても金銭の存在しないこの村では、子供達に渡すのは別の物ですが。

 お正月の準備もみんな終われば、後はのんびり年越しを待つだけです。
 其々の家で思い思いに今年最後を家族で過ごします。
 家族といない三巳は、年毎に過ごし方が違います。山で過ごしたり、お呼ばれすればロウ村長の家にお邪魔したり。
 でも今年は違います。
 今年はロキ医師の元でリリとネルビーと一緒です。
 リビングで炬燵を囲んで温んでいます。
 炬燵は橙の妖精が作ってくれた物で、初めて目にしたそれを、山の民達は目を白黒させて驚いたものです。
 今ではこうして家族を団欒させる魔法の卓だと持て囃されています。人を駄目にする卓とも揶揄されていますが。
 今も四つの塊が首まですっぽり覆って出て来ません。

 「ぬは~。炬燵最高~。またこの至福に与れる日が来るとは~。まさに天国はここに有り~」

 もう何百年も炬燵の魅力を我慢してきた三巳は、思わず橙の妖精を五体投地で拝む程喜んだものです。

 「はわ~……。私もう出られる気がしないわ……」
 『おれもうココに住む……』
 「ほっほっ、これはワシにも治せない『出られない病』じゃのぅ」

 仲良くだらんと弛緩する四者は、次第にウトウトし始めます。
 特に三巳とネルビーが顕著で、頭をグラグラさせて夢の中まで秒読み体制です。

 「あー……年越し迎える前に寝そうだー……。
 うー……眠気覚ましにコーヒー入れよう」

 物凄く億劫な動作で何とか炬燵の誘惑から抜け出ると、両肩を摩り、ブルブル震える体を尻尾で包みながらキッチンに向かいました。

 「おーい三巳や、ワシにも一つおくれ」

 そこに全く誘惑に抗う気の無いロキ医師が声を掛けました。

 「おーわかったー。
 リリとネルビーはどうする?」

 一つ返事で了承した三巳は、キッチンから顔と尻尾だけ出して尋ねました。
 リリはンーと唸り考えましたが、ネルビーは苦虫を噛み潰したような顔で舌を出しました。

 『おれこーひー苦手だ。
 あんな苦いの人間は良く飲めるな』
 「私も、少し苦手だわ。
 砂糖とミルクたっぷりなら飲めるけど」

 二人の子供舌に三巳とロキ医師はフワリと笑いました。
 普段大人顔負けの働き振りを見せるリリも、矢張りまだまだ子供なんだと安心したからです。

 「じゃあ、リリとネルビーには砂糖とミルクたっぷりな」

 三巳は一つ尻尾をゆらりと揺らすと、お湯を沸かしに奥へ消えて行きました。
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