90 / 358
本編
年の瀬
しおりを挟む
クリスマスも終われば次は年末年始です。
三巳が転生したこの星は、星の大きさと太陽との距離、ハビタブルゾーンが地球と太陽より遠いのか、一年が少し長いです。だから地球のカレンダーが当てはまりません。だから三巳は長い年月を掛けて、山の民達とカレンダーを作り上げました。
カレンダーは代々村長宅に誰でも見られるように飾られています。
「今年もあと少しで終わりだなー」
「うむ。今年は災害もあったが、民も増えて村にはいつも以上の活気があった。
新しい年が始まるまで気を抜かず、まったり生こう。」
カレンダーを指差し数えて言う三巳に、ロウ村長は家の玄関先に超巨大な鏡餅を置いて答えました。その大きさはロウ村長よりずっと大きいです。
「毎年の事ながらデカいよなー。
作るの大変だったろ」
「何の何の。代々レシピは受け継がれているから問題ない。
この餅の大きさは山の民の人数に比例するから、その計算だけは大変だがな」
労う三巳に、ロウ村長はガッハッハと大笑いします。
確かにロウ村長は肉体労働の方が向いていそうな風態をしていますし、実際そうです。村長故にキチンと頭も使いますが、有事の際には先陣を切りたいタイプです。
三巳も深く考えるのは苦手なタイプなので、割とロウ村長とは気が合います。
「そうだなー」と一緒に笑ってウンウン頷きます。
「ロウ村長が若かった頃は、机上の空論するより三巳と冒険してたもんなー」
昔を懐かしみ言う三巳に、ロウ村長も目を細めて昔を思い出します。
今とは違う名前で呼ばれていた若かりし頃は、良く三巳にくっ付いて山中を駆け回っていたものです。
獣神である三巳の本気の山遊びは、下手をすれば何処ぞの王国騎士の訓練など、軽く凌駕する程激しくキツいものです。
ロウ村長はそんな三巳の遊びにも付いて行く強者の一人だったのです。
「それが今や立派に村長してる。
三巳はとっても嬉しい。
そして正月のお年玉をとっても楽しみにしている」
三巳はロウ村長を上げるだけ上げて、さり気無くお年玉を強請りました。
「がっはっは!そんな目で見上げても何時も通りしかあげないぞ!」
ロウ村長は豪快に笑い、三巳を見下ろします。昔は見上げていた触り心地の良いフワフワな頭。今は見下ろしてピコピコと良く忙しなく動く耳を持つその頂に、大きく無骨な手でワシワシと撫でました。その触り心地は昔より随分指通りが良くなっています。毎日リリが欠かさずブラッシングをしているからです。
三巳は「ちぇー」と口を尖らせて拗ねる、振りをして二へ~と目が嬉しそうに緩みました。
(三巳のが年上なのに、ロウ村長は毎年くれるんだよなー)
気分は孫にお年玉を貰うお婆ちゃんです。
尤もお年玉と言っても金銭の存在しないこの村では、子供達に渡すのは別の物ですが。
お正月の準備もみんな終われば、後はのんびり年越しを待つだけです。
其々の家で思い思いに今年最後を家族で過ごします。
家族といない三巳は、年毎に過ごし方が違います。山で過ごしたり、お呼ばれすればロウ村長の家にお邪魔したり。
でも今年は違います。
今年はロキ医師の元でリリとネルビーと一緒です。
リビングで炬燵を囲んで温んでいます。
炬燵は橙の妖精が作ってくれた物で、初めて目にしたそれを、山の民達は目を白黒させて驚いたものです。
今ではこうして家族を団欒させる魔法の卓だと持て囃されています。人を駄目にする卓とも揶揄されていますが。
今も四つの塊が首まですっぽり覆って出て来ません。
「ぬは~。炬燵最高~。またこの至福に与れる日が来るとは~。まさに天国はここに有り~」
もう何百年も炬燵の魅力を我慢してきた三巳は、思わず橙の妖精を五体投地で拝む程喜んだものです。
「はわ~……。私もう出られる気がしないわ……」
『おれもうココに住む……』
「ほっほっ、これはワシにも治せない『出られない病』じゃのぅ」
仲良くだらんと弛緩する四者は、次第にウトウトし始めます。
特に三巳とネルビーが顕著で、頭をグラグラさせて夢の中まで秒読み体制です。
「あー……年越し迎える前に寝そうだー……。
うー……眠気覚ましにコーヒー入れよう」
物凄く億劫な動作で何とか炬燵の誘惑から抜け出ると、両肩を摩り、ブルブル震える体を尻尾で包みながらキッチンに向かいました。
「おーい三巳や、ワシにも一つおくれ」
そこに全く誘惑に抗う気の無いロキ医師が声を掛けました。
「おーわかったー。
リリとネルビーはどうする?」
一つ返事で了承した三巳は、キッチンから顔と尻尾だけ出して尋ねました。
リリはンーと唸り考えましたが、ネルビーは苦虫を噛み潰したような顔で舌を出しました。
『おれこーひー苦手だ。
あんな苦いの人間は良く飲めるな』
「私も、少し苦手だわ。
砂糖とミルクたっぷりなら飲めるけど」
二人の子供舌に三巳とロキ医師はフワリと笑いました。
普段大人顔負けの働き振りを見せるリリも、矢張りまだまだ子供なんだと安心したからです。
「じゃあ、リリとネルビーには砂糖とミルクたっぷりな」
三巳は一つ尻尾をゆらりと揺らすと、お湯を沸かしに奥へ消えて行きました。
三巳が転生したこの星は、星の大きさと太陽との距離、ハビタブルゾーンが地球と太陽より遠いのか、一年が少し長いです。だから地球のカレンダーが当てはまりません。だから三巳は長い年月を掛けて、山の民達とカレンダーを作り上げました。
カレンダーは代々村長宅に誰でも見られるように飾られています。
「今年もあと少しで終わりだなー」
「うむ。今年は災害もあったが、民も増えて村にはいつも以上の活気があった。
新しい年が始まるまで気を抜かず、まったり生こう。」
カレンダーを指差し数えて言う三巳に、ロウ村長は家の玄関先に超巨大な鏡餅を置いて答えました。その大きさはロウ村長よりずっと大きいです。
「毎年の事ながらデカいよなー。
作るの大変だったろ」
「何の何の。代々レシピは受け継がれているから問題ない。
この餅の大きさは山の民の人数に比例するから、その計算だけは大変だがな」
労う三巳に、ロウ村長はガッハッハと大笑いします。
確かにロウ村長は肉体労働の方が向いていそうな風態をしていますし、実際そうです。村長故にキチンと頭も使いますが、有事の際には先陣を切りたいタイプです。
三巳も深く考えるのは苦手なタイプなので、割とロウ村長とは気が合います。
「そうだなー」と一緒に笑ってウンウン頷きます。
「ロウ村長が若かった頃は、机上の空論するより三巳と冒険してたもんなー」
昔を懐かしみ言う三巳に、ロウ村長も目を細めて昔を思い出します。
今とは違う名前で呼ばれていた若かりし頃は、良く三巳にくっ付いて山中を駆け回っていたものです。
獣神である三巳の本気の山遊びは、下手をすれば何処ぞの王国騎士の訓練など、軽く凌駕する程激しくキツいものです。
ロウ村長はそんな三巳の遊びにも付いて行く強者の一人だったのです。
「それが今や立派に村長してる。
三巳はとっても嬉しい。
そして正月のお年玉をとっても楽しみにしている」
三巳はロウ村長を上げるだけ上げて、さり気無くお年玉を強請りました。
「がっはっは!そんな目で見上げても何時も通りしかあげないぞ!」
ロウ村長は豪快に笑い、三巳を見下ろします。昔は見上げていた触り心地の良いフワフワな頭。今は見下ろしてピコピコと良く忙しなく動く耳を持つその頂に、大きく無骨な手でワシワシと撫でました。その触り心地は昔より随分指通りが良くなっています。毎日リリが欠かさずブラッシングをしているからです。
三巳は「ちぇー」と口を尖らせて拗ねる、振りをして二へ~と目が嬉しそうに緩みました。
(三巳のが年上なのに、ロウ村長は毎年くれるんだよなー)
気分は孫にお年玉を貰うお婆ちゃんです。
尤もお年玉と言っても金銭の存在しないこの村では、子供達に渡すのは別の物ですが。
お正月の準備もみんな終われば、後はのんびり年越しを待つだけです。
其々の家で思い思いに今年最後を家族で過ごします。
家族といない三巳は、年毎に過ごし方が違います。山で過ごしたり、お呼ばれすればロウ村長の家にお邪魔したり。
でも今年は違います。
今年はロキ医師の元でリリとネルビーと一緒です。
リビングで炬燵を囲んで温んでいます。
炬燵は橙の妖精が作ってくれた物で、初めて目にしたそれを、山の民達は目を白黒させて驚いたものです。
今ではこうして家族を団欒させる魔法の卓だと持て囃されています。人を駄目にする卓とも揶揄されていますが。
今も四つの塊が首まですっぽり覆って出て来ません。
「ぬは~。炬燵最高~。またこの至福に与れる日が来るとは~。まさに天国はここに有り~」
もう何百年も炬燵の魅力を我慢してきた三巳は、思わず橙の妖精を五体投地で拝む程喜んだものです。
「はわ~……。私もう出られる気がしないわ……」
『おれもうココに住む……』
「ほっほっ、これはワシにも治せない『出られない病』じゃのぅ」
仲良くだらんと弛緩する四者は、次第にウトウトし始めます。
特に三巳とネルビーが顕著で、頭をグラグラさせて夢の中まで秒読み体制です。
「あー……年越し迎える前に寝そうだー……。
うー……眠気覚ましにコーヒー入れよう」
物凄く億劫な動作で何とか炬燵の誘惑から抜け出ると、両肩を摩り、ブルブル震える体を尻尾で包みながらキッチンに向かいました。
「おーい三巳や、ワシにも一つおくれ」
そこに全く誘惑に抗う気の無いロキ医師が声を掛けました。
「おーわかったー。
リリとネルビーはどうする?」
一つ返事で了承した三巳は、キッチンから顔と尻尾だけ出して尋ねました。
リリはンーと唸り考えましたが、ネルビーは苦虫を噛み潰したような顔で舌を出しました。
『おれこーひー苦手だ。
あんな苦いの人間は良く飲めるな』
「私も、少し苦手だわ。
砂糖とミルクたっぷりなら飲めるけど」
二人の子供舌に三巳とロキ医師はフワリと笑いました。
普段大人顔負けの働き振りを見せるリリも、矢張りまだまだ子供なんだと安心したからです。
「じゃあ、リリとネルビーには砂糖とミルクたっぷりな」
三巳は一つ尻尾をゆらりと揺らすと、お湯を沸かしに奥へ消えて行きました。
20
お気に入りに追加
113
あなたにおすすめの小説
地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件
フランジュ
ファンタジー
地区最強のヤンキー・北条慎吾は死後、不思議な力で転生する。
だが転生先は底辺魔力の下級貴族だった!?
体も弱く、魔力も低いアルフィス・ハートルとして生まれ変わった北条慎吾は気合と根性で魔力差をひっくり返し、この世界で最強と言われる"火の王"に挑むため成長を遂げていく。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される
マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。
そこで木の影で眠る幼女を見つけた。
自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。
実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。
・初のファンタジー物です
・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います
・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯
どうか温かく見守ってください♪
☆感謝☆
HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯
そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。
本当にありがとうございます!
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる