獣神娘と山の民

蒼穹月

文字の大きさ
上 下
79 / 345
本編

観光プランB~リリとロダの進展?②~

しおりを挟む
 リリは今葛藤しています。

 (ロダはミナミを好きじゃない。ミナミとは兄弟同然。つまりは私とネルビーみたいな関係って事で。
 ロダのミナミに対するのが兄弟に対するものだとしたら、私に優しくしてくれていつも一緒にいてくれるのは?
 あれ?そもそもなんで私はこんなにロダの事気になっているのかしら?)

 グルグルグルグル。リリの頭は今ロダの事でいっぱいです。ロダが知ったら喜びに咽び泣きそうです。
 そんなロダは真っ赤になって黙り込んでしまったリリの反応をどう解釈したら良いかで悩んでいました。

 (誤解解けたのかな!?解けたよね!?それで赤いのは少しは期待して良いってことかな!?それともただ単に勘違いが恥ずかしかっただけかな!?)

 お互い意識し過ぎて動けずにいます。

 「おーい。……オイラの声聞こえてないのかな」

 橙の妖精がリリの耳元で話しても、心の迷宮に入り込んだリリには全く聞こえていない様です。
 橙の妖精は詰まらなそうにリリの肩から飛び立って、三巳の頭の上に陣取りました。

 「うーん。ロダが告れば早そうなんだがなー」
 「オイラの声も聞こえてないのに告って意味あるの?」
 「がうっ!ぐるるる!」
 「案外ロダの声なら届くかもだぞ、だいやん。
 そんで熊五郎は今は混乱するからロダに喧嘩売らないでなー。リリが欲しければ俺を倒せって、何処の熱血パパだー?今時逸んないぞー、そゆの」

 蚊帳の外な三巳達は簡単に言ってのけますが、当事者はなかなか理想通りに行動に移せないものです。特にロダは事リリに関しては好きが暴走して頭が働かなくなります。暴れる熊五郎を両腕で抑えつつ三巳は(ここは頑張り所だぞー)と心の中で叱咤激励しました。

 「リ、リリっ!聞いて欲しい!」
 「ふぁ!?ふぁい!」

 三巳の心の応援が聞こえたのか、悩みに悩んで悩み過ぎたロダは、聴けぬなら言ってしまえホトトギスとばかりに開き直りました。
 リリの両肩に手を乗せたロダは、リリの意識を自分に向けさせる事に成功しました。可愛く驚きの声で返事をするリリに、熱意の込めた眼で見つめます。
 リリもその真剣で熱く潤む瞳に吸い寄せられるかの様に見つめ返します。

 「!こりゃいかん」

 三巳は告白秒読み体勢を悟り、急いで熊五郎とタウろんを連れて棚田の奥に引っ込みました。フラッシュモブでも無いなら知人な第三者はいない方が良いと判断したのです。
 素早く音も無く行われた神業に気づく事なく、ロダは震える喉で想いの丈をぶつけます。

 「僕はリリが好きですっ」

 一瞬の静寂。
 その一瞬の間に一連の流れからロダの好きの種類を読み取って、リリはグルグルと目を回しました。
 口をハクハク開閉させて、意味も無く指を動かしながらリリは考えます。

 (こっ、コレってそれよね。こ、告白っされたのよね。ロダが、私を好き)

 改めてロダの想いを反芻したところで、自身に芽生えていた淡い想いに気付かされます。
 ロダの想いが嬉しくて叫び出したい衝動に駆られたのです。けれども同時に怖くもなりました。

 (嬉しい。でも怖い。また、失ったら……今度こそ生きて行ける自信が無いわ)

 未だに悪夢に見る光景が、その想いに重く蓋をします。
 どうしたら良いかわからなくて、リリは赤いのに青いという器用にも不思議な顔で困った様な、泣きそうな笑みを見せました。
 リリの最悪の怪我を目の当たりにしていたロダは、リリを安心させる様に柔らかく、そしてなるべく気が抜けてくれる様に微笑みます。

 「ありがとう。僕の気持ちを聞いてくれて」

 答えは無くても良い。そんな気持ちを込めて、ロダはお礼を言いました。拒絶されなかっただけ大の字だと胸を撫で下ろします。
 リリは答えたい気持ちと、答えたくない気持ちがせめぎ合って今にも涙が零れ落ちそうになってしまいます。

 「わた、わたしっ……!」

 ロダはそんなリリの目元をそっと拭います。

 「焦らないで。ゆっくりで、大丈夫たから。
 考えるの辛かったら、ずっと言わなくても良いよ。
 それでも僕はきっと、ずっとリリが大好きだから」

 思いが報われないのは辛いだろう。リリは過去の経験からそれを理解していました。だからこそロダの優しさが胸に沁みます。いつだって山の民達はリリの心の傷に深く入らない様に気を付けてくれています。今回もロダはきっとリリの為に答えを先延ばしにしたのだと感じました。
 
 (!ああ、なんてロダは優しいんだろう。
 ああ、なんて山の民は暖かいんだろう。
 そう、まるで生まれ故郷の人々の様に)

 リリは今は亡き、赫い炎に沈んだ祖国を思い、震える目蓋をそっと閉じました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男女比崩壊世界で逆ハーレムを

クロウ
ファンタジー
いつからか女性が中々生まれなくなり、人口は徐々に減少する。 国は女児が生まれたら報告するようにと各地に知らせを出しているが、自身の配偶者にするためにと出生を報告しない事例も少なくない。 女性の誘拐、売買、監禁は厳しく取り締まられている。 地下に監禁されていた主人公を救ったのはフロムナード王国の最精鋭部隊と呼ばれる黒龍騎士団。 線の細い男、つまり細マッチョが好まれる世界で彼らのような日々身体を鍛えてムキムキな人はモテない。 しかし転生者たる主人公にはその好みには当てはまらないようで・・・・ 更新再開。頑張って更新します。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

神様に転生させてもらった元社畜はチート能力で異世界に革命をおこす。賢者の石の無限魔力と召喚術の組み合わせって最強では!?

不死じゃない不死鳥(ただのニワトリ)
ファンタジー
●あらすじ ブラック企業に勤め過労死してしまった、斉藤タクマ。36歳。彼は神様によってチート能力をもらい異世界に転生をさせてもらう。 賢者の石による魔力無限と、万能な召喚獣を呼べる召喚術。この二つのチートを使いつつ、危機に瀕した猫人族達の村を発展させていく物語。だんだんと村は発展していき他の町とも交易をはじめゆくゆくは大きな大国に!? フェンリルにスライム、猫耳少女、エルフにグータラ娘などいろいろ登場人物に振り回されながらも異世界を楽しんでいきたいと思います。 タイトル変えました。 旧題、賢者の石による無限魔力+最強召喚術による、異世界のんびりスローライフ。~猫人族の村はいずれ大国へと成り上がる~ ※R15は保険です。異世界転生、内政モノです。 あまりシリアスにするつもりもありません。 またタンタンと進みますのでよろしくお願いします。 感想、お気に入りをいただけると執筆の励みになります。 よろしくお願いします。 想像以上に多くの方に読んでいただけており、戸惑っております。本当にありがとうございます。 ※カクヨムさんでも連載はじめました。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

異世界転移の特典はとんでも無いチートの能力だった。俺はこの能力を極力抑えて使わないと、魔王認定されかねん!

アノマロカリス
ファンタジー
天空 光(てんくう ひかる)は16歳の時に事故に遭いそうな小学生の女の子を救って生涯に幕を閉じた。 死んでから神様の元に行くと、弟が管理する世界に転生しないかと持ち掛けられた。 漫画やゲーム好きで、現実世界でも魔法が使えないかと勉強をして行ったら…偏った知識が天才的になっていたという少年だった。 そして光は異世界を管理する神の弟にあって特典であるギフトを授けられた。 「彼に見合った能力なら、この能力が相応しいだろう。」 そう思って与えられた能力を確認する為にステータスを表示すると、その表示された数値を見て光は吹き出した。 この世界ではこのステータスが普通なのか…んな訳ねぇよな? そう思って転移先に降り立った場所は…災害級や天災級が徘徊する危険な大森林だった。 光の目の前に突然ベヒーモスが現れ、光はファイアボールを放ったが… そのファイアボールが桁違いの威力で、ベヒーモスを消滅させてから大森林を塵に変えた。 「異世界の神様は俺に魔王討伐を依頼していたが、このままだと俺が魔王扱いされかねない!」 それから光は力を抑えて行動する事になる。 光のジョブは勇者という訳では無い。 だからどんなジョブを入手するかまだ予定はないのだが…このままだと魔王とか破壊神に成りかねない。 果たして光は転移先の異世界で生活をしていけるのだろうか? 3月17日〜20日の4日連続でHOTランキング1位になりました。 皆さん、応援ありがとうございました.°(ಗдಗ。)°.

前世で家族に恵まれなかった俺、今世では優しい家族に囲まれる 俺だけが使える氷魔法で異世界無双

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
家族や恋人もいなく、孤独に過ごしていた俺は、ある日自宅で倒れ、気がつくと異世界転生をしていた。 神からの定番の啓示などもなく、戸惑いながらも優しい家族の元で過ごせたのは良かったが……。 どうやら、食料事情がよくないらしい。 俺自身が美味しいものを食べたいし、大事な家族のために何とかしないと! そう思ったアレスは、あの手この手を使って行動を開始するのだった。 これは孤独だった者が家族のために奮闘したり、時に冒険に出たり、飯テロしたり、もふもふしたりと……ある意味で好き勝手に生きる物語。 しかし、それが意味するところは……。

処理中です...