獣神娘と山の民

蒼穹月

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本編

ワンコ三巳再び

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 「三巳聞いたわよ」

 ある日の昼下がり、凄い形相で三巳に詰め寄るリリがいました。

 「お、おお?なんだー?」

 三巳はあまりの迫力に、思わず一歩後ずさって距離を取ります。

 「完全獣化出来るって!
 ワンコ形態になってボールと戯れてたって!
 私聞いてないわ!混ざりたかった~!」

 どうやら先日三巳が犬変身した事を山の民の誰かに聞いた様です。

 「おーそう言う事かー。
 ワンコ好きなのか?」
 「以前実家で飼っていたのよ……」

 急に気持ちが沈んだリリに、三巳は深く聞かずに「そっかー」と言うに留めました。

 「遊んでくれるならワンコになるぞ?」
 「本当!?」

 三巳の提案にリリは前のめりになって目を輝かせます。

 「お、おー」

 あまりの迫力と熱意に三巳は、耳と尻尾をピーンと張って後退ります。
 あまりにも嬉しそうにキラキラされるので、三巳は若干照れながら秋田犬に変身しました。

 「!!!!!」

 ワンコ特有の愛くるしさと円らな瞳に、リリはノックアウトされました。
 言葉も無くその場で悶えています。
 あまりに悶えて構って貰えないので、三巳はチョコチョコ近寄ります。
 その瞬間。目をキラーンと光らせたリリは、両手をワキワキさせて三巳に跳びかかりました。

 「わきゅーん!?」

 咄嗟の事で対応出来なかった三巳は、驚きの声を上げます。

 「はあああ~っ。ワンコだ~、ワンコ可愛い、ワンコ~」

 ピルピル震える三巳を他所に、リリは「わーしゃわしゃわしゃ」と三巳の全身をくまなく堪能しています。

 「はあ~、三巳の獣型はこんなに可愛いワンコだったのね~」
 「?」

 三巳のもふ毛をウットリと堪能しながらリリは言いました。
 それに疑問符が付いた三巳は首を傾げます。

 (あ、そーかー。
 リリまだ魔力が安定してないんだなー。
 誰も言ってないんだなー。態々言う事でもないしなー)

 三巳が鼻をフンフンさせながらリリの顔に近づけます。

 「はわ~、もふもふ~。ふわふわ~。
 三巳可愛いね~」

 思うところがあった三己でしたが、リリに顔を撫で繰り回されて直ぐにどうでも良くなりました。
 だってリリの手は動物界のゴッドハンドなのですから。
 恍惚としする三己は最早何も考えられません。

 「ああ、三己ワンコ可愛い。
 こんなもの作って貰ったけど……遊ぶ?」
 「!わん!(フリスビー!)」

 満足行くまでモフリ倒したリリは、徐に平たい板を取り出しました。
 それに気付いた三己は弛緩していた体を勢い良く立たせました。
 リリが作って貰ったのは、まさしくフリスビーだったのです。

 「わん!(投げて!)わん!(投げて!)」

 それで遊びたい三己は、飛び跳ねながらリリの周りをグルグル回ります。
 そしてそれに悶えるリリ。はなぢ出そうです。

 「行くよ~」

 外に出たリリは勢い良くフリスビーを投げました。
 リリの手の動きを顔全体で追っていた三己は直ぐに反応します。
 だっと駆けだしてあっという間にフリスビーに追いついて空中キャッチ!
 ストンと見事な着地を決めると、銜えたまま戻って来ました。
 リリの前でお行儀よくお座りして尻尾を大きく振ります。

 「~!」

 リリはいちいち悶えています。
 「取らないの?」と言いたげに首を傾げる三己の口からフリスビーを受け取ります。

 「そ~れ~」

 そしてまた投げました。
 今度はちょっと高めに投げています。
 それでも三己は高い位置で上手に加えて戻って来ます。
 このやり取りをロキ医師が止めるまで三己とリリは、青春の汗を煌めかせてキャッキャうふふと楽しんでいました。

 この日はリリにとって最高の一日になりました。
 三己も沢山遊んで貰ってとっても満足な一日だったようです。
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