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本編
三巳の耳
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三巳の耳は三角お耳。
右に左に後ろに前に。周囲の音を聞き逃しません。本気を出したなら山の先から先まで小さな小石が転がる音まで逃しません。
今日も楽しそうな音を拾って、山の天辺から山の麓まで元気に駆けずり回ります。
三巳が川辺を散策していた時です。
ガラガラガッシャーン!大きな音が川上から聞こえてきました。
三巳は耳をピーンと立てて、川上を見上げて駆けだします。その表情は真剣そのものです。遊びの顔ではありません。
それもその筈。三巳の耳にはちゃーんと、大きな音に紛れて小さな悲鳴が聞こえていたのです。
三巳は川沿いを一足飛びで駆け上がります。
小さな滝の麓まで着いた三巳は立ち止まり耳をピクピク動かします。鼻もヒクヒク動かします。尻尾はピーンと張り詰めています。
「ロン。三巳が来たぞ。今助けるからな」
辺りは前日の長雨で地盤が緩んでいたのでしょう。滝が崩れて岩が転がり落ちています。その時の衝撃で辺りは水と土埃の混じった靄で視界も悪くなっています。
小さい滝とは言っても滝は滝です。人間が巻き込まれたら一溜りも無いでしょう。
三巳は匂いを辿って落ちた岩場へ慎重に進みます。
「み……こ……」
三巳の掛け声に答える小さな声がありました。動く気配は伝わりません。動けない状況にある可能性があります。
しかし、小さな小さな声でしたが、三巳はしっかりと場所を特定出来ました。
急いで。でも慎重に。崩れた岩場を刺激しない様に衝撃を与えない様に裸足でひょーいひょいと向かいます。
果たしてそこには壮年の男性が崩れた岩に挟まれて身動きが取れなくなっていました。
幸いなのは、地面の窪みに入りこんで致命傷を避けられた事です。もし平らな場所で岩に圧し掛かられていたらペッシャンコになっていた事でしょう。
三巳も状態を確認して一先ず安堵の息を吐きます。
流石の獣神の三巳でも死んだ人は生き返せません。
でも、怪我をしていない訳ではありません。
三巳は素早く男性、ロンに結界を張って、周囲の岩をどかします。
ひょーい、ひょい。紙屑でも拾うように軽く危なくない場所へ片付けます。
とうとうロンの周りには岩は無くなりました。
三巳は素早く状態を確認して、重大な大怪我がない事を確認します。
特に無さそうでしたので、三巳は濡れないウオーターベッドを作り出し、その上に優しく風でロンを運んで寝かせます。
「三巳じゃ人間の体の事判らないからな。ロキ医師に診せるぞ」
「ありがとう」
三巳は自分が怪我も病気もしないので回復の事は専門外です。
前世では怪我も病気もしましたので、その辛さは判りますが。
とにかく急いで医師の元へ連れて行きました。
医師の診たてでは軽い打撲と擦り傷のみという結果でしたので、様子を見に来た山の民一同ホッと一安心で解散していきました。
もっとも脳震盪は後から出る可能性もありますので、ロンは暫く入院です。
「川の様子を見に行った俺がこの様じゃ笑い話だな」
ボヤくロンに医師は軽く小突いて「大事にならなかったから言っていられるんじゃよ」と呆れて言いました。
でも確かにその通りです。火事場を見に行く。なんて人は結構いますけれど、自分の身の安全はきちんと確保しないといけませんよね。
心配事も判りますし、誰かが調べないといけない事もあるでしょう。だからこそ助け合いは必要でもあります。
「いざという時の救命講習は大事だな」
三巳だけは、前世で習った救命講習を思い出して暫く医師に師事しようと決めたのでした。
右に左に後ろに前に。周囲の音を聞き逃しません。本気を出したなら山の先から先まで小さな小石が転がる音まで逃しません。
今日も楽しそうな音を拾って、山の天辺から山の麓まで元気に駆けずり回ります。
三巳が川辺を散策していた時です。
ガラガラガッシャーン!大きな音が川上から聞こえてきました。
三巳は耳をピーンと立てて、川上を見上げて駆けだします。その表情は真剣そのものです。遊びの顔ではありません。
それもその筈。三巳の耳にはちゃーんと、大きな音に紛れて小さな悲鳴が聞こえていたのです。
三巳は川沿いを一足飛びで駆け上がります。
小さな滝の麓まで着いた三巳は立ち止まり耳をピクピク動かします。鼻もヒクヒク動かします。尻尾はピーンと張り詰めています。
「ロン。三巳が来たぞ。今助けるからな」
辺りは前日の長雨で地盤が緩んでいたのでしょう。滝が崩れて岩が転がり落ちています。その時の衝撃で辺りは水と土埃の混じった靄で視界も悪くなっています。
小さい滝とは言っても滝は滝です。人間が巻き込まれたら一溜りも無いでしょう。
三巳は匂いを辿って落ちた岩場へ慎重に進みます。
「み……こ……」
三巳の掛け声に答える小さな声がありました。動く気配は伝わりません。動けない状況にある可能性があります。
しかし、小さな小さな声でしたが、三巳はしっかりと場所を特定出来ました。
急いで。でも慎重に。崩れた岩場を刺激しない様に衝撃を与えない様に裸足でひょーいひょいと向かいます。
果たしてそこには壮年の男性が崩れた岩に挟まれて身動きが取れなくなっていました。
幸いなのは、地面の窪みに入りこんで致命傷を避けられた事です。もし平らな場所で岩に圧し掛かられていたらペッシャンコになっていた事でしょう。
三巳も状態を確認して一先ず安堵の息を吐きます。
流石の獣神の三巳でも死んだ人は生き返せません。
でも、怪我をしていない訳ではありません。
三巳は素早く男性、ロンに結界を張って、周囲の岩をどかします。
ひょーい、ひょい。紙屑でも拾うように軽く危なくない場所へ片付けます。
とうとうロンの周りには岩は無くなりました。
三巳は素早く状態を確認して、重大な大怪我がない事を確認します。
特に無さそうでしたので、三巳は濡れないウオーターベッドを作り出し、その上に優しく風でロンを運んで寝かせます。
「三巳じゃ人間の体の事判らないからな。ロキ医師に診せるぞ」
「ありがとう」
三巳は自分が怪我も病気もしないので回復の事は専門外です。
前世では怪我も病気もしましたので、その辛さは判りますが。
とにかく急いで医師の元へ連れて行きました。
医師の診たてでは軽い打撲と擦り傷のみという結果でしたので、様子を見に来た山の民一同ホッと一安心で解散していきました。
もっとも脳震盪は後から出る可能性もありますので、ロンは暫く入院です。
「川の様子を見に行った俺がこの様じゃ笑い話だな」
ボヤくロンに医師は軽く小突いて「大事にならなかったから言っていられるんじゃよ」と呆れて言いました。
でも確かにその通りです。火事場を見に行く。なんて人は結構いますけれど、自分の身の安全はきちんと確保しないといけませんよね。
心配事も判りますし、誰かが調べないといけない事もあるでしょう。だからこそ助け合いは必要でもあります。
「いざという時の救命講習は大事だな」
三巳だけは、前世で習った救命講習を思い出して暫く医師に師事しようと決めたのでした。
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