上 下
17 / 23

その頃テルロは 第一話

しおりを挟む
 アスター殿下がやらかした。
 その知らせは瞬く間に城中に広がった。
 箝口令を布いた所で一度耳に入った情報は消える事は無い。皆口々に陰口を叩くのを目にした。
 耳に入る陰口はとても気分の良いものではなく、私に言わせれば子供相手に大の大人が何を言うのかと眉を顰める。
 失敗をしない子供はいないし、元よりやらかす前に殿下に近しい大人が諭し教え導くべきでは?
 そう思ったが俺は一介の騎士に過ぎない。そうそう立場ある方のお側に行けないと、見て見ぬ振りをした時点で同罪だろう。
 己の不甲斐なさを反省した私は、議題に上がっていた監視役に自ら志願した。
 こうして初日の監視役に選ばれた私は、平民となったアスターを連れて街に下りた。

 陛下がご用意くださった家は、平民としては立派な方で、陛下のご子息への愛が伺い知れた。
 被害を受けた貴族が大貴族でなければ、陛下はアスターを手元に残していた事だろう。貴族というのは厄介で面倒くさい存在だ。
 そんなせめてもの情けが伺いしれる家だが、城の暮らしになれたアスターは不服だと文句を垂れる。
 贅沢は一度身に着くと中々抜けないと聞く。暫くは言いたいだけ言わせておくしかないだろうと無心で聞いていた。
 そんな私も不服の一つだったのだろう。交代の騎士が来た時に私にした様に言いたい事を言った。
 しかし相手が悪かった。相手はアスターを悪し様に言っていた一人だったのだ。
 その者は平民となったアスターになら何をしても許されるとでも思ったのか、事もあろうに苛立ち任せにアスターを殴り飛ばした。
 呆気に取られたが彼のした事は騎士にあるまじき行為だ。直ぐ様城に使いを出し、引き返させた。
 他にも同じ事をする騎士がいるかもしれない。
 そう思った私は、信頼のおける仲間を見つけるまでは一人で監視の任に着く事にした。そして事が起こった後だったが故に、又陛下のたっての願いも有ってそれは叶えられた。

 明くる日。前日に何も食べていないアスターが腹を空かせて食事を求めた。
 しかし私は監視であり使用人ではない。自炊をしなければいけないと知ると愕然としていたが、何かを食べねば倒れてしまうだろう。一先ず街で安い食堂を探す事にした様だ。
 しかしそれが間違いだった。
 アスターは金銭感覚がまるで無かった。そして入った場所が悪かった。
 古めかしい飯屋だからと高を括った結果、まさかのドラゴン種の肉を出されて一気に所持金を減らしたのだ。
 窮地に立たされ恐怖したのか、しきりに城に帰りたがったが、勿論それは生涯叶えられる事は無い。その理由を教え諭すと、アスターはやっと自分のした事の重大さを理解してくれたようだ。
 横柄な態度は霧散し、代わりにどこか頼り気の無い子供の顔になった。
 後悔の念を滲ませ泣く姿に、私はここからが手の貸し所だと思った。
 後悔が出来たなら、次に繋ぐ事が出来る。

 今度こそ私はアスターの良き隣人となろう。



 しかしアスターに「父であったなら」と言われるとは……。まだ二十代なのでせめて兄と言って欲しかった。
 ……。そんなに老けて見えるのだろうか……?
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

[完結]本当にバカね

シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。 この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。 貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。 入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。 私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

魔法が使えなかった令嬢は、婚約破棄によって魔法が使えるようになりました

天宮有
恋愛
 魔力のある人は15歳になって魔法学園に入学し、16歳までに魔法が使えるようになるらしい。  伯爵令嬢の私ルーナは魔力を期待されて、侯爵令息ラドンは私を婚約者にする。  私は16歳になっても魔法が使えず、ラドンに婚約破棄言い渡されてしまう。  その後――ラドンの婚約破棄した後の行動による怒りによって、私は魔法が使えるようになっていた。

はじめまして、期間限定のお飾り妻です

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【あの……お仕事の延長ってありますか?】 貧しい男爵家のイレーネ・シエラは唯一の肉親である祖父を亡くし、住む場所も失う寸前だった。そこで住み込みの仕事を探していたときに、好条件の求人広告を見つける。けれど、はイレーネは知らなかった。この求人、実はルシアンの執事が募集していた契約結婚の求人であることを。そして一方、結婚相手となるルシアンはその事実を一切知らされてはいなかった。呑気なイレーネと、気難しいルシアンとの期間限定の契約結婚が始まるのだが……? *他サイトでも投稿中

王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない

エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい 最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。 でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。

処理中です...