魔王になったら何をする?

蒼穹月

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ケースF ~ファンタジー世界へ転生した場合~

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 Fさんは魔王に転生した!

 「ここどこ?」

 Fさんは迷子になった!

 「ええっと・・・」

 迷うFさんの前で奇怪な生物が横を通り過ぎた!

 「・・・うん。取り合えず地球じゃない事は判った」

 地球にはカモノハシの嘴が猫の顔に付いた白鳥の羽を持つ爬虫類は存在しないので地球じゃ無いのは丸わかりだ。

 「夢・・・て感じじゃないし。明らかに非現実な現実・・・だよな」

 Fさんはホッペを抓ったり叩いたり地面を弄ったり草花を弄ったり戻って来た奇怪な生物を撫でてはお腹を見せたのでお腹を撫でたりして現実である事を確かめた。

 「そもそも俺何してたんだっけ?」

 Fさんは物忘れを発症している。
 Fさんは思い出そうとうんうん唸っている。
 Fさんは思い出せないので取敢えず奇怪な生物を構いたおし始めた。

 「全然逃げないなーこいつ」

 Fさんは「きゅーきゅー」鳴って4本脚をパタパタさせる奇怪な生物に絆されている。
 
 「あ、思い出した。悪ガキ共に虐められてんのに逃げない猫を助けようとして乱闘に発展してたんだ。
 そうか、結構致死量位出血してたし、そのままおっちんじまったんだな」

 ポンっと気軽に手を打つが、思い出した内容がハートフルに見せかけた殺伐だった件について議論を醸したい。

 「そっかーここがあの世かー。あの世って現実っぽいんだなー」

 Fさんは遠い目をしている。
 Fさんの遠い目の先にはドラゴンが様子を伺っている!

 「あの世ってドラゴンまでいるんだなー
 あの世のドラゴンって人間喰うのかなー」

 Fさんは逃げるか否かの瀬戸際に立たされた!
 ドラゴンが真っ直ぐFさんに向けて滑空してきた!
 Fさんピーンチ!

 「うわっ!まぢで来たし!ヤベーし!カモ子逃げるぞ!」

 Fさんは奇怪な生物に名前を付けた!
 Fさんはカモ子を担いで全力ダッシュした!
 Fさんは魔王のスピード力に付いていけず足を縺れさせて倒れこんだ!

 「!?!?」

 Fさんは混乱している!
 ドラゴンがFさんの真後ろに降り立った!
 Fさんは更に混乱している!

 『お探し申し上げておりました。我らが魔王陛下」

 ドラゴンはFさんに向かって深々と頭を垂れた!
 Fさんは混乱の極みに入ってしまった!Fさんは気を失った!
 ドラゴンはFさんとカモ子を抱えて飛び立った!


 
 Fさんはキングサイズを優に超えるベッドに寝かされている。
 カモ子は心配そうに顔の辺りをうろついている。
 ドラゴンはベッドの脇で頭を垂れて大人しくしている。

 「う・・・」

 Fさんは目を覚ました!
 カモ子は大喜びでFさんの顔にカモノハシの嘴を押し付けている!

 「うわ何!?ってナニコレ・・・いやそうだカモ子だ・・・。
 あれ?どこだココ。え?ベッド?でか!」

 Fさんはシルクの肌触りを堪能している。

 『そろそろ宜しいでしょうか。我らが魔王陛下』
 
 じっとしているのに耐えられず、ドラゴンが声を掛けた。

 「どぅわ!?どどどどど!?
 ドラゴン!?え?あれ?ここ室内!なんででっかいトカゲがいるの!?」

 恐れ戦いてカモ子を抱きしめるが、実はトカゲ呼ばわりするくらいには余裕があるのかもしれない。
 カモ子は思いのほか締め付けられて「ぐえ」と鳴いた。

 『大きさは自在に変えられます。このように』

 ドラゴンはドロンと煙に包まれた!
 煙からぬいぐるみの様なチビドラゴンが現れた!

 「うわ!縮んだ!これなら怖くねーや!」

 Fさんはドラゴンを抱きしめた!

 『ぐえ。ち、力・・・緩め・・・』

 ドラゴンは手足をバタつかせて抗議した!

 「あ、ごめん」

 Fさんは大人しくドラゴンを離した。

 「で?結局何な訳?」

 Fさんは話の本筋を問いかけた。

 『この度前魔王陛下がご逝去召された為、魔王陛下が魔王陛下としてお生まれになったのです』

 ドラゴンは長いようで短い説明をした。

 「え゛」

 Fさんは石化した!(比喩)

 ~Fさんは状況をのみ込み中につきしばしお待ちください~

 (つまり俺ってば魔王に生まれ変わったのか)
 「それで結局何すればいいんだ?」

 Fさんは結局要領を得なかった。

 『魔王陛下は我らをお導き戴く存在です」
 「て言われてもなー。
 前の魔王って何してたん?」
 『人間共侵略行為よりお守り頂いておりました』
 「え?逆じゃないの?」
 『?そんなことをして何の意味があるのですか?』
 「領土拡大とか」
 『特に領土という概念が我らにはございません』
 「ですよねー」

 ほぼほぼ野生動物と同じ様な生活を送る者達に国家は必要無かった。

 「え?じゃあ何。世界中の魔物?だか魔族?だか動物?の様なものを俺一人で何すんの?」
 『過去の魔王陛下は各々の好きなようになさっておいででした』
 「例えば?」
 『人間を滅亡させようとしたり』
 「結局してんじゃん!」
 『?滅亡と侵略は違うものでございましょう』
 「え?じゃあ何で滅ぼそうとしたの」
 『人間共が我らを虐殺するからでございます』
 「それは人間襲う生き物だからじゃねーの?」
 『?人間共とて肉を食んでおりますが、何が違うというのでしょうか』

 尤もな疑問だった。現在進行形で魔王のFさんはぐうの音も出なかった。

 『それに我らは食べる身が少なく、歯に詰まる物に身を包んだ人間は好んで食べませぬ』

 ですよねー。服とか、多分鎧とか、下手したら喉に詰まるよねー。
 Fさんは遠い目をした。

 「あーまあ、人間を一回でも襲えば害獣扱いとか良くあるよなー。
 絶対襲わないなら知恵位だすよ。カモ子可愛いし」

 Fさんはカモ子を愛ペットとして認定している!
 飼い主馬鹿な魔王陛下ここに爆誕!


 こうしてFさんは「三十六計逃げるに如かず」と「逃げるが勝ち」、「触らぬ神ならぬ人間に祟りなし」を知恵を持つ人間以外の生物に浸透させた。


 長い年月の果てに人間社会では知恵のある魔物は伝説上の生き物となった!
 
 結果論としてFさんは勇者という存在概念を打ち砕いた!
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