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エクリプス王子の栄光と地獄
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ライドゥーラ王国には王子が多い。故に末の王子の継承権は極めて低く、奇跡が起きない限り王になる事は無い。
故にエクリプス・ウィ・ライド・ライドゥーラは幼い頃から燻っていた。
「おれさまのほうがあたまもいいし、けんだってつよいのに。このおれさまがおうになれないなんておかしい!」
継承権の高い者との扱いの差を見せつけられる毎日。
鬱憤は溜まる一方だった。
そんなある日。紳士的な物腰を身に付けられた頃。エクリプスは天啓を得た。
「ここ。この国には王女1人しかいないのか」
それは地理の勉強の時だった。
近隣諸国の情勢、特産品などを学ぶ場で、出て来たのがリファラ王国。その国は後継者が1人しかいないと言う。それもエクリプスと年の近い年下の王女だ。
「わたしはこの者と婚姻する!」
その瞬間。エクリプスには壮大な計画が作れ上げられた。
自国が駄目なら他国で王になれば良い、と。
そこからのエクリプスの行動は早かった。
リファラ王国の王女、リシェイラ・リズ・リファラに婚約者がいないと知るや否や、婚約の打診を行なったのだ。
これには父王も大いに賛同した。
それはそうだろう。上手くすれば国が増やせるのだから。
上手いこと話しを進めて初めてリファラ王国を訪ねた時。エクリプスはガッカリした。余りに凡庸な国。余りに凡庸な国民。
リファラ王国は優しいお国柄ではあったが、それがエクリプス好みでは無かった。
(まあいい、王になった暁には変えてやろう)
悪い心は蓋をして王子らしい微笑みを貼り付ける。
一頻り挨拶が終わり改めて見るリシェイラ王女。
(やはり凡庸な顔だ)
つまらなそうに思うエクリプスだが、彼はまだ小さな少年である。リシェイラに至ってはまだ幼い、幼女と言ってもいい位の少女である。
それにリシェイラの顔は世間一般的に可愛い部類に入る。ただ、エクリプスの好みが派手好みなだけで。
「素敵な歓待を有難う御座います」
好みでない事にガッカリはするが野望の為に一度は結婚する必要があるだろう。
王子スマイルで微笑んで言えば、リシェイラは嬉しそうに顔を赤らめた。
(ふん。俺に惚れない女はいない)
自惚れではなく、実際にエクリプスに思いを寄せる少女は多かった。それが政治的な兼ね合いにしろ、王子の外見につられたにせよ。
最初の出会いから1、2年は体裁を保つ為リファラ王国に何度か訪れ、また手紙のやり取りもし、交流を図った。
しかしそれもリシェイラとの婚約が揺るぎなくなった頃から頻度は徐々に下がっていった。
そんなある日。エクリプスは本人曰く、運命の出会いをした。
それはライドゥーラ王国で行われたとある夜会での事だ。
その少女は美しかった。
緩くウェーブのかかるピンクブロンドの髪に、パッチリとした大きな瞳。ピンク色の唇は小さく弧を描き、少女ながらに主張する胸。其れ等を強調する色合いで、ボディラインを強調するドレスを着こなしている。
何よりリシェイラや他の令嬢と違い、その胸を押し付けるようにしな垂れかかり甘える仕草に女を感じた。
「其方の様に愛らしい者に会ったことが無い。
名をなんと申す」
「まあ、嬉しい♡わたしはチェリーって言います♡
貴方の様に格好良くて男らしい人他にいないわ♡」
2人は周囲の目も気にする事なく密着し、親睦を深めた。
その日からエクリプスとチェリーは頻繁に出会い、愛を深めた。
それに反比例するように、リファラ王国へは行かなくなり、リシェイラからの手紙も読まずに捨てるようになった。勿論返信もしていない。
けれど周囲はこれを良く思う訳もない。
言っても聞かない2人に業を煮やし、とうとう王が自らエクリプスと対峙する事になった。
あわや引き裂かれるかと思われたが、エクリプスは既に奇策を講じていた。
「父上は彼の国が手に入れば良いのでは?
それも私達に都合のいい国として」
その通りだった王は、エクリプスの策を聞き賛同の意を示す。
「成る程それは良い」
王は協力を約束し、直ぐさまエクリプスの支援体制を整えた。
こうしてライドゥーラ王国は全ての国へリシェイラの悪い噂を流布し、また秘密裏に軍備を整えていった。
そして更に数年の月日が流れエクリプスが若いながらも精悍な青少年へと成長を遂げた頃。舞台は動きだす。
「いよいよ明日、リファラ王国へ断罪に行く。
それが終われば私は旧リファラ王国の新たな王だ。
そして君は王妃となる」
「ステキです♡エクスと共になら絶対に(わたしに都合の)悪い王女を斃して良い国を作れます♡」
決戦前夜、2人は睦みあいながら己に酔いしれ、お互いに酔いしれ、未来に酔いしれた。
それが地獄への片道切符だとは知らずに。
断罪日当日。
先触れ無しでリファラ王国へと赴いたエクリプスとチェリー、そして兵士達。
無理矢理応接室へと案内させ、悪役の到着を待つ。
謁見の間の方が舞台としては華やかしいが、地の利が無いので反撃の隙を与えない為にもそれよりは狭い 応接室を選んだのだ。相手の首が届くなら如何様にもなるのだから。
応接室へ先に来たのはリファラ王と王妃だ。
エクリプスは醜悪な笑みで向かい入れ、兵士に剣を向けさせて牽制した。
それから直ぐにリシェイラもやって来た。
リシェイラは嬉しそうに早足で来たが、エクリプスの顔を見るなり困惑を示し、歩みを止めた。
エクリプスはその様子を見ただけで、胸のすく思いをした。
今までの鬱屈した思いがそれだけで晴れ、またその間抜けな表情にニヤリと笑みが零れた。
「来たな。悪女め」
リシェイラは、ライドゥーラ王国の兵士が自分達に剣を向ける意味がわからず立ち尽くしている。
「これはどう言う事でしょう・・・?」
リシェイラは震える声で問い掛けた。
「お前は一国の王女である事を鼻に掛け、我が最愛のチェリーを危険に晒した。
その罪、万死に値する。
そしてこれは国家間の問題であり、リファラ王国が我が国ライドゥーラ王国への宣戦布告と見做し、我が国は其れに応じる事とした」
エクリプスが断罪し宣言をすれば、リシェイラは真っ青な顔で震えた。
「わたくしには、何の事だか・・・」
リシェイラが恐怖に彩られ歯をカチカチ鳴らす様にエクリプスの気分は高揚する。そして鼻で笑ってやった。
「真実なんて物はどうでも良い。
ただリファラ王国が宣戦布告したと民達に知らしめる事が重要である」
詰まる所、この現状は只の茶番である。
開戦の合図をする事で、戦争が始まる。
優しいこの国は為す術もなく蹂躙されて敗北するだけだ。
そしてこの土地はライドゥーラ王国の物となる。
真っ青な顔で震える、最早敵国となったリファラ王国の王侯貴族達に愉悦の笑みを浮かべて帰るのは容易かった。
何せ相手は軍事などあってない様な物だからだ。
その上エクリプスは不意を突いた為、対応も遅れている。
颯爽と自軍へ戻ったエクリプスは、直ぐ様進撃の合図を出した。
「年寄りはいらん。
女は褒美として好きに扱って良い。ただし殺すなよ。これから多くの奴隷を産ませるからな。
男も好きにして良し。ただし労働力位は残しておけ」
まさに一方的な蹂躙の合図だった。
そこからは地獄絵図となる。
リファラ国民は抵抗する者も、投降する者も、等しく蹂躙され、捕えられた。
国は燃え盛り、エクリプス曰く凡庸な国の面影は何処にも無くなっていく。
火の手は王城にまで及び、エクリプスの指揮する軍に為す術もなく落城した。
最後までライドゥーラ王国への平和協定を打診して来たリファラ国王に、エクリプスは嗜虐的な笑みで迎え入れ、そして残虐的により理不尽を感じるようにその命を奪った。
リファラ国王に代わり、城に残り防衛を続けていた美しきリファラ王妃は、兵達の格好のご褒美となり、最後にはその命を落とした。
「これで残す元王族の血はリシェイラのみだ。直ぐにでも母親と同じ末路を辿らせてやろう」
チェックメイトに愉悦に浸るエクリプスとチェリー。
しかし小賢しくもリシェイラに化けた侍女に踊らされ、呆気なく逃してしまう。
後一歩で狂わされた計画に、エクリプスはわかりやすく不機嫌になった。
「何をしている!?早くその首を持って来い!」
直ぐに包囲網を展開したがまたしても侍女にしてやられた。侍女を捉え行方を聞き出す前に侍女は自害してしまったのだ。
エクリプスは直ぐ様国境にまで捜索の手を広げた。
その判断は正しかった。隣国でリシェイラの魔力を検知したのだ。
直ぐに兵士が向かったが、着いた時には逃げ出した後だった。
けれどいる場所がわかれば後は囲い込むだけだ。
エクリプスは隣国に事リシェイラの事に関しては不干渉、そして兵を差し向ける許可を取り、大半の兵士を差し向けた。
人海戦術は功を奏しリシェイラを追い詰めたが、そこでリシェイラが魔力暴走を引き起こした。
魔力暴走は自滅をもたらす。例え堪えたとしても事はモンスターの蔓延るエリアで起こった為、やがて餌食となるだろう。それより問題は魔力暴走に釣られて来たモンスターに巻き込まれる危険性である。
兵士達は最早リシェイラは跡形も無く助からないと判断し、エクリプスの元へ戻って行った。
報告をした兵士の手には、血の付着したリファラ王国の紋入りのハンカチがあった。
途中で犬が咥えていたのを発見したらしい。
「ふん。遺体の確認が出来ないのは詰まらんが仕方あるまい」
血の付着したハンカチがあった事で、リシェイラの死は確実と思われた。
エクリプスは初陣の完全勝利に酔い痴れ、その夜はチェリーと久し振りに盛り上がった。
こうして憂いを除いたエクリプスは幸せの絶頂の中、元リファラ王国・現エクリプス王国の王として自由に過ごしていたが、それもリシェイラの目撃情報が入った事で終わりを告げる。
「何てしぶとい女なんだ!まるでゴキ◯リの様だ!」
幸せから一転不愉快に心を乱したエクリプスは直ぐ様手配書を回した。
それは功を奏し、徐々にリシェイラを追い詰めていった。
しかし人里を追われたリシェイラは迷いの森と呼ばれる山の奥の奥へと逃げて行ってしまった。
「ちっ!迷いの森か!厄介な!」
「え~?そのまま追わせればいいじゃな~い」
エクリプスの焦燥を他所に、状況を良くわかっていないチェリーはしな垂れ掛かりながら無責任な発言をした。
それに若干イラつきを見せたエクリプスだが、ふと別段自分が行くわけじゃない事に気付きほくそ笑んだ。
「成る程、確かにその通りだな。
あんな小娘一人まともに捕らえられない無能な兵士は、死ぬ気で任務を遂行すべきだ」
「ふふ、でしょ♡」
「やはり私のチェリーは素晴らしい」
一頻りチェリーと愛を深めた後、その様に命令を下した。
これがエクリプスの地獄への始まりだとも知らずに。
己の事しか考えない国の兵士は、死に地への命令に反目を抱いた。
結果エクリプスの城はアリの子どころか大きな厄災すら入り放題の、無防備な城となり、様々な国のスパイが入り放題となった。そして入り放題なのは人間だけでは無くモンスターもだった。
優しい王国の王女、リシェイラは民に愛され、動物に愛され、そして厄災級のモンスターにも愛されていたのだ。
だからこそモンスター蔓延るこの世界で逃げ続ける事が出来たのだが。
そのリシェイラを愛する動物やモンスターが、不遇に晒された原因を突き止めるべく動いていた。
今までは守りが堅くその内情を探れなかったが、入り放題となった今遠慮をするの者は居なかった。
エクリプスの赤裸々な情事は勿論、睦言にて明かされたリシェイラへの冤罪劇。そして戦争を仕掛けた意味は瞬く間に広まった。
「な!?何故予告もなく他国が攻めてくる!?」
「いやぁん!チェリー怖いですぅ!
エクスやっちゃって!」
「馬鹿者!一国なら兎も角周辺諸国が挙って来ているのだぞ!?」
そう。エクリプスの暴挙は瞬く間に諸外国へと響き渡り、余りの横暴さに激怒した国々が結託して攻めてきたのだ。
それだけでは無く、同時にスタンピードも起こった。
一時混迷を極めるかと思われたが、スタンピードと思われたモンスター集団はライドゥーラ王国とエクリプス王国の者だけを攻撃し、連合軍には目もくれなかった。
さらに旧リファラ王国の民は助け出していたのには連合軍も驚愕した。
「どういう事だこれは」
それはどこの国の者が言ったのか。
けれど確実にみんなの心を代弁した言葉だった。
様々な種類のモンスター達。その統率の取れた行動。
「これはスタンピードと言っていいのか」
連合軍は直ぐ様緊急会議を開き、又同時にモンスターを調査した。
「我々にも牙を剥かない」
「それどころか率先して敵の居場所やリファラ王国の民の居場所を知らせてくれる」
「リファラ王国の民に関しては丁重に我らの元へ連れてくるぞ」
会議は混迷を極めたが、取り敢えず害は無いと判断した。
そして再開される戦争。
人間とモンスターが力を合わせる前代未聞の戦争は、あっという間に終結をした。
命からがら逃げ出したライドゥーラ王家ならびにチェリー。
しかしモンスターの察知能力の前では無力そのもの。
生け捕りにされた彼等彼女等。
泣き喚き、汚物を垂れ流し、不様に命乞いをする者。
未だにいけ高々に尊大に振る舞う者。
全てが一箇所に集められた。
「くそっ!くそっ!貴様等ぁー!!
私は王だ!最も王に相応しい傑物だぞ!」
「知らない!知らない!こんなの知らない!私は悪く無いわ!?」
王族どころか一般庶民にさえ劣る様なボロボロの様相で、エクリプスとチェリーは喚いている。
「貴様あああ!ワシを謀り冤罪を謀ったな!?
申し訳ない!皆の者!息子の、いや!最早貴様など息子では無いが!彼奴の妄言にまんまと騙されてしまったのだ!」
嬉々として援軍を用意していたライドゥーラ王は、全てエクリプスになすり付け延命を図っている。
「民あっての国王。それを理解できず、ただ喚くだけの者などただの幼児だ。
子供ですら未だ聞き分けがある」
連合軍のとある国の大将がクズを見る蔑んだ目で見下して言った。
「そして煽った者はそれを行った者より尚タチが悪い。知らない以前の問題だ。
知らないと言いたければ命を張って止めるべきだったな」
また別の国の騎士団長が気持ち悪い虫を見る目で吐き捨てた。
「何より王たる者、国家間の問題を調べもせず行うなど愚の骨頂。
これに関しては鵜呑みにせずとも調査せず、静観していた我等にも非はある。我等の王達はこれを機に位を譲る算段を整えておられる。
今回の簒奪者の王として、子育てを誤った親として、その身を以て責任を取られよ」
最後に最も力ある帝国の宰相が、剣の切っ先をライドゥーラ王の喉元に突きつけ冷徹に言い放った。
本来なら戦場に立つ事は無い宰相だが、今回の事は重く受け止め、最後の談判の為に参加していたのだ。
実は各国家の王や首脳も挙って参加したがったが、国同士を纏める方に尽力して貰っている。
「巫山戯るなあああ!!
これは内政干渉だ!!抗議を申し立てる!!」
「貴殿は敗戦国の元王だ。それは聞き入れられない。
覚悟召されよ」
各々諦め悪く罵り、罵倒し、反論し、命乞いをしたが、連合軍の者達を白けさせただけに終わった。
あまりに口煩い彼等を、肉体言語で黙らせる。
「これ以上見苦しい物を見たくは無いものだな」
「こちらとしてもこんな気分の悪い戦はサッサと終わらせたい」
「では今回の条約通りの処刑を行うとしよう」
その言葉通り、ライドゥーラ王国の主だった元王侯貴族はその日の内に刑を執行された。
その処刑内容は、悪辣な者ほど酷いものとなった。
主犯であるエクリプスとチェリー、ライドゥーラ王は、市中引き回しの上磔をされた。
生きたまま行われたそれ等は、彼等に怨みを持つ者達によって、それは凄惨なものとなった。
その中にはモンスターや動物達までいて、エクリプスは最後には慟哭の上生まれた事を後悔してその生涯を閉じた。
彼は最後までリファラ王国の者達、ひいては元婚約者のリシェイラに謝罪の言葉一つ言う事は無かった。
今回の一連の騒動は、この後長きに渡り戒めとして、また唯一人とモンスターが手を合わせた戦争として語り継がれる事になるのだった。
故にエクリプス・ウィ・ライド・ライドゥーラは幼い頃から燻っていた。
「おれさまのほうがあたまもいいし、けんだってつよいのに。このおれさまがおうになれないなんておかしい!」
継承権の高い者との扱いの差を見せつけられる毎日。
鬱憤は溜まる一方だった。
そんなある日。紳士的な物腰を身に付けられた頃。エクリプスは天啓を得た。
「ここ。この国には王女1人しかいないのか」
それは地理の勉強の時だった。
近隣諸国の情勢、特産品などを学ぶ場で、出て来たのがリファラ王国。その国は後継者が1人しかいないと言う。それもエクリプスと年の近い年下の王女だ。
「わたしはこの者と婚姻する!」
その瞬間。エクリプスには壮大な計画が作れ上げられた。
自国が駄目なら他国で王になれば良い、と。
そこからのエクリプスの行動は早かった。
リファラ王国の王女、リシェイラ・リズ・リファラに婚約者がいないと知るや否や、婚約の打診を行なったのだ。
これには父王も大いに賛同した。
それはそうだろう。上手くすれば国が増やせるのだから。
上手いこと話しを進めて初めてリファラ王国を訪ねた時。エクリプスはガッカリした。余りに凡庸な国。余りに凡庸な国民。
リファラ王国は優しいお国柄ではあったが、それがエクリプス好みでは無かった。
(まあいい、王になった暁には変えてやろう)
悪い心は蓋をして王子らしい微笑みを貼り付ける。
一頻り挨拶が終わり改めて見るリシェイラ王女。
(やはり凡庸な顔だ)
つまらなそうに思うエクリプスだが、彼はまだ小さな少年である。リシェイラに至ってはまだ幼い、幼女と言ってもいい位の少女である。
それにリシェイラの顔は世間一般的に可愛い部類に入る。ただ、エクリプスの好みが派手好みなだけで。
「素敵な歓待を有難う御座います」
好みでない事にガッカリはするが野望の為に一度は結婚する必要があるだろう。
王子スマイルで微笑んで言えば、リシェイラは嬉しそうに顔を赤らめた。
(ふん。俺に惚れない女はいない)
自惚れではなく、実際にエクリプスに思いを寄せる少女は多かった。それが政治的な兼ね合いにしろ、王子の外見につられたにせよ。
最初の出会いから1、2年は体裁を保つ為リファラ王国に何度か訪れ、また手紙のやり取りもし、交流を図った。
しかしそれもリシェイラとの婚約が揺るぎなくなった頃から頻度は徐々に下がっていった。
そんなある日。エクリプスは本人曰く、運命の出会いをした。
それはライドゥーラ王国で行われたとある夜会での事だ。
その少女は美しかった。
緩くウェーブのかかるピンクブロンドの髪に、パッチリとした大きな瞳。ピンク色の唇は小さく弧を描き、少女ながらに主張する胸。其れ等を強調する色合いで、ボディラインを強調するドレスを着こなしている。
何よりリシェイラや他の令嬢と違い、その胸を押し付けるようにしな垂れかかり甘える仕草に女を感じた。
「其方の様に愛らしい者に会ったことが無い。
名をなんと申す」
「まあ、嬉しい♡わたしはチェリーって言います♡
貴方の様に格好良くて男らしい人他にいないわ♡」
2人は周囲の目も気にする事なく密着し、親睦を深めた。
その日からエクリプスとチェリーは頻繁に出会い、愛を深めた。
それに反比例するように、リファラ王国へは行かなくなり、リシェイラからの手紙も読まずに捨てるようになった。勿論返信もしていない。
けれど周囲はこれを良く思う訳もない。
言っても聞かない2人に業を煮やし、とうとう王が自らエクリプスと対峙する事になった。
あわや引き裂かれるかと思われたが、エクリプスは既に奇策を講じていた。
「父上は彼の国が手に入れば良いのでは?
それも私達に都合のいい国として」
その通りだった王は、エクリプスの策を聞き賛同の意を示す。
「成る程それは良い」
王は協力を約束し、直ぐさまエクリプスの支援体制を整えた。
こうしてライドゥーラ王国は全ての国へリシェイラの悪い噂を流布し、また秘密裏に軍備を整えていった。
そして更に数年の月日が流れエクリプスが若いながらも精悍な青少年へと成長を遂げた頃。舞台は動きだす。
「いよいよ明日、リファラ王国へ断罪に行く。
それが終われば私は旧リファラ王国の新たな王だ。
そして君は王妃となる」
「ステキです♡エクスと共になら絶対に(わたしに都合の)悪い王女を斃して良い国を作れます♡」
決戦前夜、2人は睦みあいながら己に酔いしれ、お互いに酔いしれ、未来に酔いしれた。
それが地獄への片道切符だとは知らずに。
断罪日当日。
先触れ無しでリファラ王国へと赴いたエクリプスとチェリー、そして兵士達。
無理矢理応接室へと案内させ、悪役の到着を待つ。
謁見の間の方が舞台としては華やかしいが、地の利が無いので反撃の隙を与えない為にもそれよりは狭い 応接室を選んだのだ。相手の首が届くなら如何様にもなるのだから。
応接室へ先に来たのはリファラ王と王妃だ。
エクリプスは醜悪な笑みで向かい入れ、兵士に剣を向けさせて牽制した。
それから直ぐにリシェイラもやって来た。
リシェイラは嬉しそうに早足で来たが、エクリプスの顔を見るなり困惑を示し、歩みを止めた。
エクリプスはその様子を見ただけで、胸のすく思いをした。
今までの鬱屈した思いがそれだけで晴れ、またその間抜けな表情にニヤリと笑みが零れた。
「来たな。悪女め」
リシェイラは、ライドゥーラ王国の兵士が自分達に剣を向ける意味がわからず立ち尽くしている。
「これはどう言う事でしょう・・・?」
リシェイラは震える声で問い掛けた。
「お前は一国の王女である事を鼻に掛け、我が最愛のチェリーを危険に晒した。
その罪、万死に値する。
そしてこれは国家間の問題であり、リファラ王国が我が国ライドゥーラ王国への宣戦布告と見做し、我が国は其れに応じる事とした」
エクリプスが断罪し宣言をすれば、リシェイラは真っ青な顔で震えた。
「わたくしには、何の事だか・・・」
リシェイラが恐怖に彩られ歯をカチカチ鳴らす様にエクリプスの気分は高揚する。そして鼻で笑ってやった。
「真実なんて物はどうでも良い。
ただリファラ王国が宣戦布告したと民達に知らしめる事が重要である」
詰まる所、この現状は只の茶番である。
開戦の合図をする事で、戦争が始まる。
優しいこの国は為す術もなく蹂躙されて敗北するだけだ。
そしてこの土地はライドゥーラ王国の物となる。
真っ青な顔で震える、最早敵国となったリファラ王国の王侯貴族達に愉悦の笑みを浮かべて帰るのは容易かった。
何せ相手は軍事などあってない様な物だからだ。
その上エクリプスは不意を突いた為、対応も遅れている。
颯爽と自軍へ戻ったエクリプスは、直ぐ様進撃の合図を出した。
「年寄りはいらん。
女は褒美として好きに扱って良い。ただし殺すなよ。これから多くの奴隷を産ませるからな。
男も好きにして良し。ただし労働力位は残しておけ」
まさに一方的な蹂躙の合図だった。
そこからは地獄絵図となる。
リファラ国民は抵抗する者も、投降する者も、等しく蹂躙され、捕えられた。
国は燃え盛り、エクリプス曰く凡庸な国の面影は何処にも無くなっていく。
火の手は王城にまで及び、エクリプスの指揮する軍に為す術もなく落城した。
最後までライドゥーラ王国への平和協定を打診して来たリファラ国王に、エクリプスは嗜虐的な笑みで迎え入れ、そして残虐的により理不尽を感じるようにその命を奪った。
リファラ国王に代わり、城に残り防衛を続けていた美しきリファラ王妃は、兵達の格好のご褒美となり、最後にはその命を落とした。
「これで残す元王族の血はリシェイラのみだ。直ぐにでも母親と同じ末路を辿らせてやろう」
チェックメイトに愉悦に浸るエクリプスとチェリー。
しかし小賢しくもリシェイラに化けた侍女に踊らされ、呆気なく逃してしまう。
後一歩で狂わされた計画に、エクリプスはわかりやすく不機嫌になった。
「何をしている!?早くその首を持って来い!」
直ぐに包囲網を展開したがまたしても侍女にしてやられた。侍女を捉え行方を聞き出す前に侍女は自害してしまったのだ。
エクリプスは直ぐ様国境にまで捜索の手を広げた。
その判断は正しかった。隣国でリシェイラの魔力を検知したのだ。
直ぐに兵士が向かったが、着いた時には逃げ出した後だった。
けれどいる場所がわかれば後は囲い込むだけだ。
エクリプスは隣国に事リシェイラの事に関しては不干渉、そして兵を差し向ける許可を取り、大半の兵士を差し向けた。
人海戦術は功を奏しリシェイラを追い詰めたが、そこでリシェイラが魔力暴走を引き起こした。
魔力暴走は自滅をもたらす。例え堪えたとしても事はモンスターの蔓延るエリアで起こった為、やがて餌食となるだろう。それより問題は魔力暴走に釣られて来たモンスターに巻き込まれる危険性である。
兵士達は最早リシェイラは跡形も無く助からないと判断し、エクリプスの元へ戻って行った。
報告をした兵士の手には、血の付着したリファラ王国の紋入りのハンカチがあった。
途中で犬が咥えていたのを発見したらしい。
「ふん。遺体の確認が出来ないのは詰まらんが仕方あるまい」
血の付着したハンカチがあった事で、リシェイラの死は確実と思われた。
エクリプスは初陣の完全勝利に酔い痴れ、その夜はチェリーと久し振りに盛り上がった。
こうして憂いを除いたエクリプスは幸せの絶頂の中、元リファラ王国・現エクリプス王国の王として自由に過ごしていたが、それもリシェイラの目撃情報が入った事で終わりを告げる。
「何てしぶとい女なんだ!まるでゴキ◯リの様だ!」
幸せから一転不愉快に心を乱したエクリプスは直ぐ様手配書を回した。
それは功を奏し、徐々にリシェイラを追い詰めていった。
しかし人里を追われたリシェイラは迷いの森と呼ばれる山の奥の奥へと逃げて行ってしまった。
「ちっ!迷いの森か!厄介な!」
「え~?そのまま追わせればいいじゃな~い」
エクリプスの焦燥を他所に、状況を良くわかっていないチェリーはしな垂れ掛かりながら無責任な発言をした。
それに若干イラつきを見せたエクリプスだが、ふと別段自分が行くわけじゃない事に気付きほくそ笑んだ。
「成る程、確かにその通りだな。
あんな小娘一人まともに捕らえられない無能な兵士は、死ぬ気で任務を遂行すべきだ」
「ふふ、でしょ♡」
「やはり私のチェリーは素晴らしい」
一頻りチェリーと愛を深めた後、その様に命令を下した。
これがエクリプスの地獄への始まりだとも知らずに。
己の事しか考えない国の兵士は、死に地への命令に反目を抱いた。
結果エクリプスの城はアリの子どころか大きな厄災すら入り放題の、無防備な城となり、様々な国のスパイが入り放題となった。そして入り放題なのは人間だけでは無くモンスターもだった。
優しい王国の王女、リシェイラは民に愛され、動物に愛され、そして厄災級のモンスターにも愛されていたのだ。
だからこそモンスター蔓延るこの世界で逃げ続ける事が出来たのだが。
そのリシェイラを愛する動物やモンスターが、不遇に晒された原因を突き止めるべく動いていた。
今までは守りが堅くその内情を探れなかったが、入り放題となった今遠慮をするの者は居なかった。
エクリプスの赤裸々な情事は勿論、睦言にて明かされたリシェイラへの冤罪劇。そして戦争を仕掛けた意味は瞬く間に広まった。
「な!?何故予告もなく他国が攻めてくる!?」
「いやぁん!チェリー怖いですぅ!
エクスやっちゃって!」
「馬鹿者!一国なら兎も角周辺諸国が挙って来ているのだぞ!?」
そう。エクリプスの暴挙は瞬く間に諸外国へと響き渡り、余りの横暴さに激怒した国々が結託して攻めてきたのだ。
それだけでは無く、同時にスタンピードも起こった。
一時混迷を極めるかと思われたが、スタンピードと思われたモンスター集団はライドゥーラ王国とエクリプス王国の者だけを攻撃し、連合軍には目もくれなかった。
さらに旧リファラ王国の民は助け出していたのには連合軍も驚愕した。
「どういう事だこれは」
それはどこの国の者が言ったのか。
けれど確実にみんなの心を代弁した言葉だった。
様々な種類のモンスター達。その統率の取れた行動。
「これはスタンピードと言っていいのか」
連合軍は直ぐ様緊急会議を開き、又同時にモンスターを調査した。
「我々にも牙を剥かない」
「それどころか率先して敵の居場所やリファラ王国の民の居場所を知らせてくれる」
「リファラ王国の民に関しては丁重に我らの元へ連れてくるぞ」
会議は混迷を極めたが、取り敢えず害は無いと判断した。
そして再開される戦争。
人間とモンスターが力を合わせる前代未聞の戦争は、あっという間に終結をした。
命からがら逃げ出したライドゥーラ王家ならびにチェリー。
しかしモンスターの察知能力の前では無力そのもの。
生け捕りにされた彼等彼女等。
泣き喚き、汚物を垂れ流し、不様に命乞いをする者。
未だにいけ高々に尊大に振る舞う者。
全てが一箇所に集められた。
「くそっ!くそっ!貴様等ぁー!!
私は王だ!最も王に相応しい傑物だぞ!」
「知らない!知らない!こんなの知らない!私は悪く無いわ!?」
王族どころか一般庶民にさえ劣る様なボロボロの様相で、エクリプスとチェリーは喚いている。
「貴様あああ!ワシを謀り冤罪を謀ったな!?
申し訳ない!皆の者!息子の、いや!最早貴様など息子では無いが!彼奴の妄言にまんまと騙されてしまったのだ!」
嬉々として援軍を用意していたライドゥーラ王は、全てエクリプスになすり付け延命を図っている。
「民あっての国王。それを理解できず、ただ喚くだけの者などただの幼児だ。
子供ですら未だ聞き分けがある」
連合軍のとある国の大将がクズを見る蔑んだ目で見下して言った。
「そして煽った者はそれを行った者より尚タチが悪い。知らない以前の問題だ。
知らないと言いたければ命を張って止めるべきだったな」
また別の国の騎士団長が気持ち悪い虫を見る目で吐き捨てた。
「何より王たる者、国家間の問題を調べもせず行うなど愚の骨頂。
これに関しては鵜呑みにせずとも調査せず、静観していた我等にも非はある。我等の王達はこれを機に位を譲る算段を整えておられる。
今回の簒奪者の王として、子育てを誤った親として、その身を以て責任を取られよ」
最後に最も力ある帝国の宰相が、剣の切っ先をライドゥーラ王の喉元に突きつけ冷徹に言い放った。
本来なら戦場に立つ事は無い宰相だが、今回の事は重く受け止め、最後の談判の為に参加していたのだ。
実は各国家の王や首脳も挙って参加したがったが、国同士を纏める方に尽力して貰っている。
「巫山戯るなあああ!!
これは内政干渉だ!!抗議を申し立てる!!」
「貴殿は敗戦国の元王だ。それは聞き入れられない。
覚悟召されよ」
各々諦め悪く罵り、罵倒し、反論し、命乞いをしたが、連合軍の者達を白けさせただけに終わった。
あまりに口煩い彼等を、肉体言語で黙らせる。
「これ以上見苦しい物を見たくは無いものだな」
「こちらとしてもこんな気分の悪い戦はサッサと終わらせたい」
「では今回の条約通りの処刑を行うとしよう」
その言葉通り、ライドゥーラ王国の主だった元王侯貴族はその日の内に刑を執行された。
その処刑内容は、悪辣な者ほど酷いものとなった。
主犯であるエクリプスとチェリー、ライドゥーラ王は、市中引き回しの上磔をされた。
生きたまま行われたそれ等は、彼等に怨みを持つ者達によって、それは凄惨なものとなった。
その中にはモンスターや動物達までいて、エクリプスは最後には慟哭の上生まれた事を後悔してその生涯を閉じた。
彼は最後までリファラ王国の者達、ひいては元婚約者のリシェイラに謝罪の言葉一つ言う事は無かった。
今回の一連の騒動は、この後長きに渡り戒めとして、また唯一人とモンスターが手を合わせた戦争として語り継がれる事になるのだった。
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