姫と王子の男女問題!?

蒼穹月

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いけない恋のはじまり!?前編

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 拝啓、天国の母上。

 隣国に嫁いで(と申しましても婚姻の儀は未だ為されておりませんが)早ひと月が過ぎました。

 未だに、いつ私が姫ではなく、王子だと知られるか戦々恐々とした日々を過ごしております。とりあえず今のところ大丈夫ですが。

 最近では、鶏の鳴き声に起こされても動じなくなりました。侍女に至っては鳴かれる前に起床出来るようになったようです。

 そうそう、先日等々宝探し(里芋堀り)を体験いたしました。土を掘り返して出てきた大小様々な里芋たち。私は見事1番大きな里芋を探し当てたのです!その後出た里芋料理の何と美味たるものか。あの時の興奮は未だに忘れられません。

 宝物は土に埋まっているものなのですね。

 そういえば、私も幼少の頃1番大切な宝物を大きな木の下に埋めて隠した事もあったと思い出したものです。

 そうして土に塗れて生活していると、訓練で泥まみれで帰って来る兄上達の漢らしい姿を思い出し、今の私漢らしくなれているのではないかと自賛しております。

 何故でしょう。今隣で侍女がジト目をした気がします。

 兎に角、日々農作業と勉学に明け暮れています。

 勉学といえば、祖国とこちらでは勉学の内容が違う為未だに王子に追いつけておりません。悔しいので、いづれ必ずや追い越して、私の漢らしさにひれ伏せさせてみせます。

 「姫様。嫌われる事が目的ではありませんでしたか」

 はぅ!?

 そうでしたそうでした。嫌われつつ漢度を上げて秘密を知るのです。

 というか、侍女よ独白を読むでない。
 読んで更に突っ込むなんて。えっち(意味はわかっていない)!

 最近の侍女は、この国に感化されたのかだいぶ気安くなっている気がする。
 いや、元々私の秘密を知る者達は実の妹の様に可愛がり、幼い頃はいけない事は優しく諭してくれていたものだけれど。
 成長するにつれ、気安さは気配のみになって寂しく思っていたので、幼い頃の様に接してもらえるのは嬉しく思う。

 そういえば、この侍女は昔から何も言わずとも私の思いを察する節があったような気がする様な?

 つい侍女の顔をまじまじと見てしまうと、侍女のほほがうっすら色付いた気もする。

 「姫様、そんなに見つめられると侍女は照れてしまい、大事な姫様のお世話が出来なくなってしまいますよ」

 楽しそうに意地悪げな顔を作り、すまして言われて我にかえる。

 「ごめんなさい。お世話してもらえないのは悲しいわ」

 こてんと首を傾げて、「許して?」と問うと侍女は苦笑して「はい」と頷いてくれる。

 「ありがとう」と天女の微笑み(と兄上から言われた)で返し、今日の予定の確認に移る。

 これから畑仕事。7時頃に朝食。そして畑仕事。昼食を頂き、午後は勉学。田んぼは稲刈りを終えてしまったので、私にできる事はないとの事。

 軍事訓練らしきものも剣の稽古らしきものも、未だに確認出来ていないのだけど・・・。していない、なんて事は無いよね?

 え?あれ?警戒されてる、って雰囲気は感じないのだけれど、まさかしてない。なんて事は流石にないよね?祖国との戦争で勝敗ついた事ない位には強い筈。

 「侍女よ。殿下の所に行きます」
 「仰せのままに」

 確認出来ていないなら、聞けば良いのだと気付いたので、いそいそとしかし周囲の目にはそうは見られない様に優雅に向かう。
 畑に出る前に、更衣室(農作業専用らしい)にて畑用の衣服に着替える。毎日の事なのでいい加減に慣れた。

 畑に出ると、キャベツのエリアに王子を見つけたので側による。
 キャベツをもいでいた王子も私に気付いて、側に来る。もちろんキラキラフラッシュ搭載の女性が喜び咽び泣く様な笑顔はデフォルトだ。しかしそんな笑顔には負けてない。ちょっと顔が熱い気がするのは朝日のせいだ。
 そうに違いない。だから侍女よ、その半顔はやめるのだ!だいたい侍女だって顔赤いではないか!
 
 内心プリプリしつつも、決して外には出さず(それすらも侍女にはお見通しだが)に天女の微笑み返し、キラキラエフェクト大輪の花付きで応戦する。
 
 「おはようございます。ドゥナフォルト殿下」
 「おはよう。アンジュ姫」

 しかし効かない様だ!
 王子は、顔を赤らめもせずにニコニコしている。邪気はないようだ。それが悔しい。私の笑顔に落ちない男がこの世に存在するなんて。
 むぅっとして祖国から付いてきていた護衛騎士、30代男独り身、に微笑んでみる。
 きちんと顔が赤らんだ。
 私の性別を知っていてもこうなのに、なんでだ!?

 「アンジュ姫」

 悶々としていると、王子が悩ましげな表情で私の頰に触れる。軍手は外してあるようなので汚れる心配はないな。
 いや違う。そうじゃない。
 軽く上を向くように促されままに王子に向くと、王子の顔も近づいて来ていて頭突きでもするのかと焦る。

 「他の男にその様に可憐な微笑みをされては嫉妬で身が焦がれそうになります」

 額が付きそうになる前に止まってはくれたが、その、何というか。その言葉と、その熱を孕んだような目に、瞬間冷凍されたかの様にピキンと音がしそうな程固まってしまう。

 え?何?どういう事?

 何度も言われた事を反芻し、その熱い目に息も忘れ、そして酸素不足でフラついてしまう。
 崩れかけた身体を王子に抱き支えられて我に返る。と、同時に密着した身体を意識し全身真っ赤に沸騰する。

 「!?ふにょわぁぁ!!?」
 「え?」

 思わず全力で飛び退ると王子もビックリしている。
 いやビックリしたの私ですやん!何してくれるの?密着って。異性が密着って!いや実際には男同士なのだけれども!?
 ハレンチです!
 恥ずかしさで死ぬる!両手で顔を覆い悶えてしまうが、プライドにかけてしゃがんで丸まりたい衝動だけは押さえてみせる。
 自分の事でいっぱいいっぱいになってしまった私は、すぐ側で侍女と王子が何か話しているのも聞こえる余裕もない。

 なので
 「発言をお許しください」
 と低頭のまま、前に進み出て許しをこう侍女も。
 「あ、はいどうぞ。あいえ、そのように許しを得なくても普通に話してください」
 困惑し、心配もしてくれてた王子が私を気にしつつ侍女に許しを与えるのも。
 「寛大なるお許し感謝致します。
 では恐れながらもうしあげます。
 我らが姫殿下は幼少の砌より、城より外に出た事など無く、ほぼ後宮にてお過ごしあそばれましたので、ご家族様以外の男性との接触は皆無でございます。それも密着などは(バレる危険がある為)ご家族様でも男性そのものとなされた事がございません。更に申し上げます。事、男女間の大人な関係性についての知識も幼児レベルに留められるという。端的に申しますと、結婚したら裸の付き合いがある事は理解しておられますが、その実際の内容は全く把握していない恋愛お子様でございます」
 一息に淡々と話した侍女に圧倒された王子が、一国の姫に対する不敬な物言いも「そ、そうですか」と一言の元に飲み込んでしまうのも気付けてはいなかった。

 「アンジュ姫。
 申し訳ない。急に抱いてしまい。
 あの大丈夫ですか?」

 割れ物を扱う用に一定の距離を保ったまま腰を落とし顔を伺う王子。
 男として、というより大人度で負けた気がして、恥ずかしさと悔しさもあとなんだかわからない感情がごちゃ混ぜになる。

 「っ。大丈夫です。
 ごめんなさい、殿方にだ、だ、抱きしめ、られた事が無かったので、お、驚いてしまっただけですわ」

 色々な感情を内にしまい、毅然と立ち直、れているかな?ぐるぐる回る目を彷徨わせて侍女を見つける。この侍女ならきっと私の聞きたい事がわかる筈。
 え?なんで可哀想なものを見る目で首を横に振るの?
 え?立ち直れてない?え?そこは首を縦に振るんだ?

 「えと。あの。
 そ、ソウデスワ。ワタクシデンカニオ伺イシタイコトがゴザイマシタノ」

 この場は引き伸ばしたら負けな気がしたので無理矢理にでも話を変えようっ。その方がいいよね?うん、いいヨー。
 だから、侍女よそのジト目祖国で見られたら不敬罪なヤツだから。私達だけならいいけど、ここ他国。しかも他国の王族前。侮られちゃうでしょ~。ぷんぷん。

 「ああ。そうでしたか。
 ええ、何でも聞いてください」

 王子もホッとした顔で、こちらの話にのってくれる。
 これ、祖国の王侯貴族なら突つけるだけ突かれそう状態なのに。いい人だな~、この国の王子。兄王子達も私にはいい兄上達だったけど。

 「あの、私の祖国では武芸の訓練の時間というのが必ずありましたの。こちらではどちらで訓練なさっていますの?」

 そうそう。これを聞きにここまで来たのでした。想定外な事故により忘れるところだったよ。
 気持ち持ち直した私は、こてんと首を傾げてついで軽く辺りを見回す。
 うん。やはりこの国の兵士が殆ど居ない。顔ぶれは毎日変わっているから、他の所にはいるはず。

 「訓練?避難訓練以外でですか?
 うーん。特にはしてないですね」

 『は??』

 私と私の侍女と警護は綺麗にハモった。

 いやいやいや。そんな訳で無いですよね。戦争してたでわないですかい。軍事訓練くらい普通するでしょ!?うちが普通じゃないの?そんな訳ないよね!?うちが普通だよね!?
 思わず、勢いよく侍女に振り向くと憮然とした面持ちで頷いてくれる。
 うん。やはりうちのが普通。

 「ああ、でもあれが鍛錬にはなっているのかな?」

 こちらの只ならぬ様子を見て思案してくれていた王子が、何事かに気付いたようだ。
 そうだろう。ナニカはあるだろう。

 「まあ。ありますのね?是非拝見させて頂きたいのですけど」

 秘技、きらきらお目々で上目遣いおねだり攻撃。これで落ちなかった兄上はいない。

 「う~ん。姫には危険な所なのですが」

 む。たかが訓練に危険もなにもないだろう。もしや秘密な内情だな?やった!ひと月過ぎてやっと伸展したっ。

 「あら。深窓の令嬢と思われているようですけれど、これでも武芸の国の者です。心得はありますわ」

 ツンとすまして言うと、思案していた王子に近くで見ていたらしい王と王妃が近づいてくる。
 畑に埋もれてて気付かなかった!

 「あらあらまあまあ。
 フォル、アンジュ姫も我が国民となるのです。いずれ知ることですもの、それが今機会が出来ただけよ」

 王子の援護かと思いきや王妃が味方してくれるとは。
 この王妃、始終にこにこのほほんとしててついその空気につられてのほのほしてしまうのだよね。にへらとしそうになる頬は強制矯正。
 しかし嫁いで来た者とはいえ、婚姻も済ませていない他国、それも冷戦している国の者に軍事秘密を明かそうなんて。王妃は政治介入していないのかな?
 首を傾げそうになるところを意識して正して事の成り行きを見守る事にする。

 「それに姫は王子が守るものなんだ、良いではないか。フォルが付いていて危ない事などないよ」
 
 まさかの王まで味方されました。

 え?まさか政治関係王族ノータッチなの?でもそれなら日がな一日農作業に明け暮れているのも頷ける。

 「そうですね。
 ではアンジュ姫、私の側を決して離れないとお約束下さい。
 お約束して頂けるのならお連れします」

 やった!ガッツポーズを心の中でして、外見は嫋やかに合わせた両手を口元に持ってきて嬉しそうに微笑む。

 「ありがとうございますわ。姫は決して殿下から離れませんわ」

 お茶目に了承すると、苦笑した殿下は頷いてくれる。そのまま更衣室にエスコートされそうになり、慌てて王子の袖を掴んで止める。
 不思議そうに微笑む王子。に不思議そうに微笑み返しする私。 

 「あの?畑仕事は宜しいの?」

 畑仕事はこのひと月で好きなものになっている。日々のお世話の大切さも学んだ。
 なのに途中でやめていいの?
 やる気満々でせっかく着替えて来たのに。

 「うん?
 家庭菜園は父と母だけでも手入れは出来るからね。大丈夫だよ」

 家庭菜園?

 家庭菜園が分からず、侍女に確認の視線を寄越すと、心得たように頷いてくれる。その顔は何故か驚いていたけど。

 「家庭菜園とは、専業の農家ではなく個人が営利目的ではなく、個人の趣味や食費の足しに行う小規模な農作業です」

 え?この広大な庭の所狭しと育てられているもの達が、全て趣味の範囲?
 これって小規模だったの?
 え?政治業務そっちのけで日々遊んでいたの?
 ドン引きでほほを引きつらせていると、気づいた王子が困ったように笑われる。

 「家庭菜園とは言っても、農の国としてトップが農業について知らなければ指針も示せないでしょう?
 それで過去の王家が始めたのです。
 実際にこのお陰でここまで農業が盛んになり、食に困った事は無いのですよ」

 祖国での王家が武芸を嗜んでいる様なものかな。武芸の代わりに農業か。それにしても時間取り過ぎな気もする。仕方ないとはいえ。
 話しが進まないのも困るので複雑な思いを飲み込んでなんとか頷く。

 改めて動きやすい武芸用の衣服に着替えて、王子の元へ向かう。
 エントランスにて、騎士の格好をした美丈夫が待っていた。こちらを振り向いた騎士は、僅かに紅潮する。その様も美しい。
 誰かと思ったら王子でした。農作業着姿に慣れ過ぎて一瞬惚けてしまう。
 キチンとした格好をした王子の破壊力は凄まじかった。
 私だって女物とはいえ、武芸用の衣服は騎士服に通じるものがあるのに。男として負けた瞬間である。いいもん。私は美少女だもんっ。もっと成長したら絶対美男子になるもんっ。
 ムクれ面を内面に隠し、わざと頬を染めて王子の側による。わざとだから。自然になった訳じゃないんだから。絶対に何が何でもわざとなんだからね!勝手に紅潮した訳じゃ、ないんだからね!
 侍女に無言の言い訳をしても、侍女は心得た様に頷くだけだった。

 「お待たせ致しましたわ。
 では、参りましょう?」

 精悍な顔(のつもり)で微笑すれば、更に王子は赤らんだ。

 「ふふ。
 姫はどの様な姿も似合いますね。
 良からぬ虫に好意を寄せられててしまうのではないかと不安になります。
 しかし私の姫なのだと思うと優越感でもありますね」

 困った様に眉を下げて、ついでチャーミングな笑顔でウィンクひとつ。イケメンは何をしてもイケメンとは正しい格言だったのですね。
   今度私も侍女に試してみようかと思案し、想像し止めた。私がやっても格好がつかない事が想像出来て悲しい。
   
   案内された場所は馬上でした。どうやら馬で向かうらしい。はてさて、どういうところなのか楽しみだ。
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