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晴人にチョコをあげよう! ~涙のバレンタインデー1~

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 二月と言えば女子たちが盛り上がり、男共は男共でそわそわする時期だ。そう、二月十四日はバレンタインデー。昔は女の子が好きな男子に愛を込めてチョコレートを渡すというお菓子業界の陰謀……いや、女の子から告白出来る聖なる日、男共からすれば女の子から告白される奇跡が起きるかもしれない日だったのだが、最近は義理チョコだけで無く友チョコなどと言うものが普及し、ますますお菓子業界の陰謀……いや、女の子同士でチョコやお菓子を贈りあう姿が良く見られる様になった。また、男が女の子にチョコを贈る事も解禁された様で、完全にお菓子業界の手の内……いや、とりあえず誰が誰にチョコをあげてもオッケーというよくわからない日に成り下がってしまった。嘆かわしい、実に嘆かわしい。

 豊臣学園でもお菓子業界に踊らされ……いや、バレンタインの話題で盛り上がる女の子の会話があちこちで繰り広げられている。

「明後日はバレンタインデーだね」

「そーだねー」

「タマちゃんはどうするの?」

「晴人君にあげるにゃー」

 由紀と結衣とタマの楽しそうな会話にピクっと反応する綾。順子はその耳元で囁いた。

「綾、今年こそは晴人君にチョコ、あげような」

「……うん」

 晴人の恋愛についての考え方をショッピングモールで聞いた綾は悩んでいた。

――でも、今のは晴人君の考え方。綾には綾の考え方があるんだからな――

 綾の頭の中に順子の言葉が頭に浮かぶ。でも、自分が想いを伝えることで晴人と自分が友達ではなくなってしまう。恋人になれれば良いが、もしダメだったら……悩む綾の前にタマが突然顔を出した。

「綾ちゃんはどうするにゃ?」

いきなり話を振られて戸惑う綾にタマは質問を繰り返す。

「晴人君にあげるにゃ?」

「……どうしようかな……?」

 口先だけで誤魔化そうとしているのでは無く、綾は本気で悩んでいる。そんな綾にタマは不思議そうな顔で言った。

「にゃんで~? 綾ちゃんからチョコもらったら、晴人君きっと喜ぶにゃ。」

 ストレートなタマの言葉は綾の心に響いた。

「ほら、タマちゃんも言ってることだし、覚悟を決めるんだな」

 順子が綾の肩をぽんっと叩く。

「……そうだね」

「そうだぞ。去年だって綾だけあげなかったじゃないか。みんなあげてるというのに」

「だって……」

「逆に思われてしまうぞ。嫌われてるんじゃないかって」

「……そうだね」

「そんなに固く考えないで、イベントなんだから軽い気持ちであげれば良いじゃないか」

 順子の言った通り去年のバレンタインデーで、晴人は義理チョコもあるだろうが、意外と多くのチョコをもらっていた。もちろんその中には結衣と由紀からのチョコもあったのだが、綾からのチョコは無かった。かと言って晴人の綾に対する態度が変わったわけでは無いが、実際のところ綾からチョコをもらえなかった事についてどう思ってるのかは順子にもわからない。とにかく一歩でも踏み出さないと何も始まらないと言う順子だった。二人に背中を押され、綾は静かに答えた。

「わかった……頑張る……」

「ところで、どんにゃチョコあげるのかにゃ?」

 綾が決心したところでタマが手を上げて質問してきた。

「心のこもった手作りチョコ……と言いたいところだが、寮の部屋にはキッチンなど無いからな。市販のチョコだが、どんなチョコを選ぶかがセンスの見せ所と言ったところだな」

 順子が綾に代わって答えると、タマが目を輝かせて言った。

「智香さんの部屋、お台所あったにゃ。一緒に作るにゃ!」

「えっ本当に?」

「そうにゃ。せっかくのバレンニャインデーにゃんだから気合入れるにゃ!」

「そうだな。じゃあ明日の放課後で良いかな? 智香さんによろしく言っておいてくれるか」

 順子は以前由紀と結衣が寮母室を訪れた際、いきなりタマがドアを開けて智香が恥ずかしい姿を晒してしまった事など知らない。もちろん順子と綾も翌日智香の恥ずかしい姿を見る事になるのは言うまでもなかろう。


「チョコ買いに行くにゃ!」

次の日の放課後、タマが順子と綾を材料の調達に誘った。

「あ、うん、ちょっと待って」

「えらく気合入ってるな」

 順子と綾が教科書とノートをカバンにしまうと突きと結衣がタマの声を聞いて寄ってきた。

「あっ、タマちゃんたち、チョコ買いに行くんだ」

「うん、実は智香さんの部屋で手作りチョコに挑戦するんだよ」

「由紀ちゃんも一緒にどうにゃ?」

 綾が答えると、タマは二人をチョコ作りに誘ったが、由紀は目を泳がせた。

「て、手作りと来ましたか。私は……パス! 敷居ガ高いデス。ネエ結衣」

 由紀はお菓子作りが苦手らしく、予想外の誘いにあたふたして片言になりながら結衣に助けを求めた。

「大勢で押しかけると智香さんに悪いから、私達は遠慮しとこうかな」

 逃げ腰の妹を庇う様に結衣が言うと、由紀は苦笑いしながら逃げる様に去っていった。

「じゃあ、行くにゃ」

 帰り支度が出来た綾と順子を従え、意気揚々と教室のドアを開けるタマ。しかし、その手が止まった。そして振り向いて一言。

「……どこのお店に行けば良いのかにゃ?」


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