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少女の願いと晴人の決意
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「猫又……マジか?」
建一が女の子の姿をまじまじと見る。ネコ耳はともかく、尻尾は色の白いお尻から本当に生えている様にしか見えない。
「と、とにかくその格好は目のやり場に困る。何か着るモノ……とりあえずコレ羽織っとけ」
肌を隠そうとしない女の子に晴人は制服の白いワイシャツを肩に羽織らせると、健一が妙な反応を見せた。
「ネコ耳尻尾に加えて裸ワイシャツか……萌え要素のオンパレードだな」
「とりあえずだと言ったろ。ま、確かに男のロマンではあるがな。まさかこんな形で実現するとは思わんかったが」
裸ワイシャツ。なんと魅惑的な響きだろう。モニターや、グラビアでしか見た事の無い恰好で女の子が目の前にちょこんと座っている。しかも、彼女は手をグーにして顔の横に持ってきてネコの様なポーズを取り、笑いかけてくる。
「ネコの頃はおばあちゃんにゃったけど、今はピチピチの女の子にゃんだよ~」
「ピチピチって言葉に年齢を感じるな」
憎まれ口をききながらも動揺を隠せない晴人。なにしろ目の前に半裸(少し前までは全裸)の女の子がかわいいポーズを取っているのだ。直視出来ずチラチラ見ながらふと口にした。
「それにしてもだ。猫又ってのは妖艶なお姉さんのイメージがあるんだが、どう見ても俺達と同じぐらいの年齢にしか見えんな」
「ああ、色っぽいとゆーより可愛い感じだ。猫又ってより猫娘だな」
健一が晴人の言葉に同意し、『可愛い』と口にすると、彼女は照れ臭そうに言った。
「やだにゃぁ建一君、かわいいだにゃんてそんにゃ……」
「えっ、なんで俺の名前知ってんだよ?」
聞き間違いでは無い。確かに彼女は健一の名前を呼んだ。驚く健一に彼女は呆れた顔で答えた。
「そりゃ、あにゃたたちが入学してからずっと見てきたもん。名前ぐらい覚えるわよ」
こうまで言われたらさすがの健一も彼女の言う事を信じざるを得なくなってしまう。
「お前、本当にタマなのか……?」
「もー、疑い深いにゃあ……そうだ、建一君、机の引出しの二段目開けてあげようか?」
震える声で言う健一に彼女は悪戯っぽく笑うと、建一は明らかに動揺した。
「たしかそこに建一君秘蔵のHにゃ本が……」
「うっ……貴様何故それを!?」
Hな本の三大隠し場所としてベッドの下、本棚の奥、そして机の引き出しの奥が挙げられるが、彼女は健一の隠し場所をピンポイントで言い当てた。恐れおののく健一に笑顔で彼女は答えた。
「言ってるでしょ、ずっと見てたって」
完全に絶句してしまった健一に晴人がチクリと言った。
「ズルいぞ建一、その本、俺にも見せろ」
「今はそーゆーコト言ってる場合じゃないだろ! アイツ、本当にタマみてぇだぞ」
健一は話を逸らした。『秘蔵のHな本』と言うからには親友の晴人にさえ見せられないほどマニアックな逸品なのだろうか? 追及したい気もするが、健一の言う通り今はそんな場合では無い。
「だから俺が何回も言ってるだろうが。アイツ、タマじゃねぇかって」
晴人は建一に言ったものの、あらためて自分たちがとんでもない事態に遭遇している事を認識し、顔を見合わせて言葉を失う二人。
「…………」
「…………」
少し経って、二人同時に彼女の顔を覗き込み、声を上げた。
「マジで?」
「うん!」
二人の声に満面の笑みで応える女の子――その正体はやはり猫のタマだった。
「さてタマ、お前は猫からめでたく猫又と昇格したみたいだが、これからどうするもりだ? 人間に恨みでもあるのか?」
晴人と建一が並んで座り、二人と向き合う様に正座しているタマ。二人はタマを尋問し始めた。猫又というのは妖怪だ。もし人間に害を為すと言うのであれば退治しなければならない。たとえ可愛がっていたタマだったとしてもだ。タマは、猫又はどう出るのか? 固唾を飲んで答えを待つ二人の耳にタマの声が届いた。
「そんなのにゃいよ~。わたしだってこんなコトににゃるにゃんて思ってにゃかったもん」
タマの声は邪気どころか緊張感すら全く感じさせないものだった。
「じゃあなんでいきなりこんなコトになるんだよ?」
「そうね、もしかしたら……」
タマが遠い目をして言う。
「私も人間の学園生活をしてみたいにゃ~って思ってたから。みんにゃの楽しそうな姿をずっと見てきたから。その想いがかにゃったのかな」
そう言いながら含羞んだ微笑みを浮かべるタマ。その笑顔は邪気を感じないどころか、抱きしめたくなるぐらいの強烈な可愛さだった。
「お子様向けアニメかよ」
せっかくちょっと良い感じの雰囲気になりそうだったのに、建一のツッコミがすべてを台無しにしてしまった。しかし晴人は彼女、タマの言う事を信じたいと思った。猫派の晴人はタマを可愛がっていたのだ。タマが晴人に危害を加える事など考えられないし、そもそも彼女が悪い妖怪だったとしても、一介の高校生でしかない晴人や健一には戦う術など無いのだから。
「それにしてもタマ、お前えらい流暢に会話してるよな」
晴人がふと素朴な疑問を口にした。
「にゃにかねー、自分でもよく解らにゃいけど言葉が頭の中に湧き上がってくるって言ったら良いのかにゃ……」
一生懸命説明しようとするタマだったが、よく見ると首を傾げながら話している。多分、当の本人、いや本猫もよく分かっていないのだろう。
「それも猫又の能力って訳だ」
「うん、多分」
タマが猫又となり、女の子の姿で目の前に座っている事自体が不条理なのだ、晴人は腹を決めた。
「そっかー、わかった。俺がタマの学園生活を応援してやるぜ!」
晴人はとんでもない事を言い出した。
「おいおい晴人、お前何言い出すんだよ?」
「いーじゃん、面白そうだし」
健一は止めようとしたが、晴人は涼しい顔で『面白そう』の一言で片付ける。
「お前、今年三年だぜ。受験勉強とかどーすんだよ?」
「建一……お前、進学するつもりか?」
「あ、ああ一応な」
「足利将軍って何だ?」
「えっと……昔の偉いさん?」
進学するつもりだと言った建一に晴人は足利将軍とは何かと尋ねたが、建一は案の定わかっていなかった。昨夜はレポートを作成していた筈なのに……呆れ果てた晴人の口から溜息が漏れる。
「ふう……建一、受験ってのを戦争と考えろ。戦争に必要なのは何だ?」
「武器……かな?」
晴人の更なる質問に健一が自信なさげに答えると、晴人は満足そうに頷いた。
「そうだ。武器が無いと戦争には勝てない。受験戦争での武器は知識なんだ。覚えるってことは銃に弾を込めることなんだ。お前は弾の入ってない銃を持って戦場に出るつもりか?」
「う……」
「タマの学園生活を応援するってことは、勉強も見てやらなきゃならないってことだ。お前も一緒に勉強すれば良い」
「お前の勉強はどうなるんだよ?」
「俺の学力では国公立はまず無理だろうからな。中堅私学ならなんとかなるだろ」
「なんとかなるだろって……お前、そんなんで良いんかよ?」
「ああ。考えても見ろ、猫又少女との学園生活なんて金払っても出来ないぜ」
健一は大学受験を引き合いに出して説得しようとしたが、あっさり晴人に論破されてしまった。彼の決意は固い様だ。こうなったら健一も腹を決めなければなるまい。
「そっか……わかった、もう何も言わねぇ。協力するぜ」
健一は晴人の親友として、手を引くわけにはいかなかった。確かに晴人の言う通り面白そうでもあることだし、出来るところまでは協力しようと腹を決めたのだった。しかし、健一は大きな問題点に気付き、晴人に尋ねた。
「ところで質問なんだが、どうやってコイツを学園に紛れ込ませるつもりなんだ?」
当然と言えば当然の疑問だが、まだそこまで考えて無かった晴人は固まってしまった。
「おいタマ、猫又ってどんな能力があるんだ?」
猫又の能力でどうにか出来ないかと考えた晴人が質問すると、タマは即座に答えた。
「人間に化ける」
「それは実際見てるから解ってる」
数分前に『こんな事になるなんて思ってなかった』とか言っていた気もするが、この『人間の姿になる』という事も自分の能力だとタマは解釈したのだろう。そして彼女は頭に浮かんだ『自分が出来ること』を次々と口にした。
「人間の言葉を話す」
「いや、実際こうして話してる訳だから解ってるって」
「人に取り付いて呪う」
「そんな危ない能力は使わんでくれ」
「うーんと……油を舐める?」
「それ、能力でもなんでも無いから」
タマは一つ一つ自分が出来る(であろう)ことを列挙するが、晴人はそれらをことごとく否定する。
「…………」
「…………」
タマに出来ることが出尽くした様で、二人の間に沈黙が訪れた。どうやら彼女に学園生活に紛れ込むのに役立つ能力は無い様だ。こうなると正攻法しか無い。しかし、どうする? 溜息を吐く晴人の頭にある人物の顔が思い浮かんだ。
「智香さんに相談してみるか」
寮母さんであり、タマの飼い主でもある智香なら力になってくれないだろうか? と甘い考えの晴人。しかし、所詮学生の晴人に大した事が出来る筈が無い。他力本願と言われても、一縷の望みを託すしか無いのだ。
「しかし、外に出るのにそのネコ耳と尻尾はいただけん。それ、隠せるか?」
ネコ耳尻尾の女の子を連れて寮を歩いた日には、みんなにマニアック野郎とか言われること間違い無い。晴人はタマにネコ耳尻尾を引っ込める様言ったが、タマはタマで、気が付けば今の姿になっていただけ。つまり変身のやり方などわかっていない。
「やってみる……って、どうやったら良いのかにゃ?」
逆に晴人に尋ねる始末だった。もちろんそんな事、晴人がわかる筈が無い。
「俺が知ってるワケないだろ。とりあえず……ネコ耳と尻尾が無い自分をイメージしてみろ」
「わかった。う~~~~~ん……どう?」
適当な事を言う晴人に従って、タマが目を閉じ、ネコ耳尻尾が無い自分の姿を思い浮かべると、驚いたことに彼女の頭からネコ耳が、お尻から尻尾が消えた。人間に化ける能力があると言うだけあって、意外と簡単にネコ耳と尻尾は隠せた様だ。
「やれば出来るもんだな。おっけー、とりあえず俺のジャージ着ろ」
あまりにもあっさり成功したことに拍子抜けしながらも晴人はタマに自分の体育用のジャージを着せると智香のもとへと向かった。寮母の智香なら学校での学園生活はともかく、寮内での学園生活ぐらいならなんとかしてくれるかも……という淡い期待を抱いて。
建一が女の子の姿をまじまじと見る。ネコ耳はともかく、尻尾は色の白いお尻から本当に生えている様にしか見えない。
「と、とにかくその格好は目のやり場に困る。何か着るモノ……とりあえずコレ羽織っとけ」
肌を隠そうとしない女の子に晴人は制服の白いワイシャツを肩に羽織らせると、健一が妙な反応を見せた。
「ネコ耳尻尾に加えて裸ワイシャツか……萌え要素のオンパレードだな」
「とりあえずだと言ったろ。ま、確かに男のロマンではあるがな。まさかこんな形で実現するとは思わんかったが」
裸ワイシャツ。なんと魅惑的な響きだろう。モニターや、グラビアでしか見た事の無い恰好で女の子が目の前にちょこんと座っている。しかも、彼女は手をグーにして顔の横に持ってきてネコの様なポーズを取り、笑いかけてくる。
「ネコの頃はおばあちゃんにゃったけど、今はピチピチの女の子にゃんだよ~」
「ピチピチって言葉に年齢を感じるな」
憎まれ口をききながらも動揺を隠せない晴人。なにしろ目の前に半裸(少し前までは全裸)の女の子がかわいいポーズを取っているのだ。直視出来ずチラチラ見ながらふと口にした。
「それにしてもだ。猫又ってのは妖艶なお姉さんのイメージがあるんだが、どう見ても俺達と同じぐらいの年齢にしか見えんな」
「ああ、色っぽいとゆーより可愛い感じだ。猫又ってより猫娘だな」
健一が晴人の言葉に同意し、『可愛い』と口にすると、彼女は照れ臭そうに言った。
「やだにゃぁ建一君、かわいいだにゃんてそんにゃ……」
「えっ、なんで俺の名前知ってんだよ?」
聞き間違いでは無い。確かに彼女は健一の名前を呼んだ。驚く健一に彼女は呆れた顔で答えた。
「そりゃ、あにゃたたちが入学してからずっと見てきたもん。名前ぐらい覚えるわよ」
こうまで言われたらさすがの健一も彼女の言う事を信じざるを得なくなってしまう。
「お前、本当にタマなのか……?」
「もー、疑い深いにゃあ……そうだ、建一君、机の引出しの二段目開けてあげようか?」
震える声で言う健一に彼女は悪戯っぽく笑うと、建一は明らかに動揺した。
「たしかそこに建一君秘蔵のHにゃ本が……」
「うっ……貴様何故それを!?」
Hな本の三大隠し場所としてベッドの下、本棚の奥、そして机の引き出しの奥が挙げられるが、彼女は健一の隠し場所をピンポイントで言い当てた。恐れおののく健一に笑顔で彼女は答えた。
「言ってるでしょ、ずっと見てたって」
完全に絶句してしまった健一に晴人がチクリと言った。
「ズルいぞ建一、その本、俺にも見せろ」
「今はそーゆーコト言ってる場合じゃないだろ! アイツ、本当にタマみてぇだぞ」
健一は話を逸らした。『秘蔵のHな本』と言うからには親友の晴人にさえ見せられないほどマニアックな逸品なのだろうか? 追及したい気もするが、健一の言う通り今はそんな場合では無い。
「だから俺が何回も言ってるだろうが。アイツ、タマじゃねぇかって」
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「…………」
「…………」
少し経って、二人同時に彼女の顔を覗き込み、声を上げた。
「マジで?」
「うん!」
二人の声に満面の笑みで応える女の子――その正体はやはり猫のタマだった。
「さてタマ、お前は猫からめでたく猫又と昇格したみたいだが、これからどうするもりだ? 人間に恨みでもあるのか?」
晴人と建一が並んで座り、二人と向き合う様に正座しているタマ。二人はタマを尋問し始めた。猫又というのは妖怪だ。もし人間に害を為すと言うのであれば退治しなければならない。たとえ可愛がっていたタマだったとしてもだ。タマは、猫又はどう出るのか? 固唾を飲んで答えを待つ二人の耳にタマの声が届いた。
「そんなのにゃいよ~。わたしだってこんなコトににゃるにゃんて思ってにゃかったもん」
タマの声は邪気どころか緊張感すら全く感じさせないものだった。
「じゃあなんでいきなりこんなコトになるんだよ?」
「そうね、もしかしたら……」
タマが遠い目をして言う。
「私も人間の学園生活をしてみたいにゃ~って思ってたから。みんにゃの楽しそうな姿をずっと見てきたから。その想いがかにゃったのかな」
そう言いながら含羞んだ微笑みを浮かべるタマ。その笑顔は邪気を感じないどころか、抱きしめたくなるぐらいの強烈な可愛さだった。
「お子様向けアニメかよ」
せっかくちょっと良い感じの雰囲気になりそうだったのに、建一のツッコミがすべてを台無しにしてしまった。しかし晴人は彼女、タマの言う事を信じたいと思った。猫派の晴人はタマを可愛がっていたのだ。タマが晴人に危害を加える事など考えられないし、そもそも彼女が悪い妖怪だったとしても、一介の高校生でしかない晴人や健一には戦う術など無いのだから。
「それにしてもタマ、お前えらい流暢に会話してるよな」
晴人がふと素朴な疑問を口にした。
「にゃにかねー、自分でもよく解らにゃいけど言葉が頭の中に湧き上がってくるって言ったら良いのかにゃ……」
一生懸命説明しようとするタマだったが、よく見ると首を傾げながら話している。多分、当の本人、いや本猫もよく分かっていないのだろう。
「それも猫又の能力って訳だ」
「うん、多分」
タマが猫又となり、女の子の姿で目の前に座っている事自体が不条理なのだ、晴人は腹を決めた。
「そっかー、わかった。俺がタマの学園生活を応援してやるぜ!」
晴人はとんでもない事を言い出した。
「おいおい晴人、お前何言い出すんだよ?」
「いーじゃん、面白そうだし」
健一は止めようとしたが、晴人は涼しい顔で『面白そう』の一言で片付ける。
「お前、今年三年だぜ。受験勉強とかどーすんだよ?」
「建一……お前、進学するつもりか?」
「あ、ああ一応な」
「足利将軍って何だ?」
「えっと……昔の偉いさん?」
進学するつもりだと言った建一に晴人は足利将軍とは何かと尋ねたが、建一は案の定わかっていなかった。昨夜はレポートを作成していた筈なのに……呆れ果てた晴人の口から溜息が漏れる。
「ふう……建一、受験ってのを戦争と考えろ。戦争に必要なのは何だ?」
「武器……かな?」
晴人の更なる質問に健一が自信なさげに答えると、晴人は満足そうに頷いた。
「そうだ。武器が無いと戦争には勝てない。受験戦争での武器は知識なんだ。覚えるってことは銃に弾を込めることなんだ。お前は弾の入ってない銃を持って戦場に出るつもりか?」
「う……」
「タマの学園生活を応援するってことは、勉強も見てやらなきゃならないってことだ。お前も一緒に勉強すれば良い」
「お前の勉強はどうなるんだよ?」
「俺の学力では国公立はまず無理だろうからな。中堅私学ならなんとかなるだろ」
「なんとかなるだろって……お前、そんなんで良いんかよ?」
「ああ。考えても見ろ、猫又少女との学園生活なんて金払っても出来ないぜ」
健一は大学受験を引き合いに出して説得しようとしたが、あっさり晴人に論破されてしまった。彼の決意は固い様だ。こうなったら健一も腹を決めなければなるまい。
「そっか……わかった、もう何も言わねぇ。協力するぜ」
健一は晴人の親友として、手を引くわけにはいかなかった。確かに晴人の言う通り面白そうでもあることだし、出来るところまでは協力しようと腹を決めたのだった。しかし、健一は大きな問題点に気付き、晴人に尋ねた。
「ところで質問なんだが、どうやってコイツを学園に紛れ込ませるつもりなんだ?」
当然と言えば当然の疑問だが、まだそこまで考えて無かった晴人は固まってしまった。
「おいタマ、猫又ってどんな能力があるんだ?」
猫又の能力でどうにか出来ないかと考えた晴人が質問すると、タマは即座に答えた。
「人間に化ける」
「それは実際見てるから解ってる」
数分前に『こんな事になるなんて思ってなかった』とか言っていた気もするが、この『人間の姿になる』という事も自分の能力だとタマは解釈したのだろう。そして彼女は頭に浮かんだ『自分が出来ること』を次々と口にした。
「人間の言葉を話す」
「いや、実際こうして話してる訳だから解ってるって」
「人に取り付いて呪う」
「そんな危ない能力は使わんでくれ」
「うーんと……油を舐める?」
「それ、能力でもなんでも無いから」
タマは一つ一つ自分が出来る(であろう)ことを列挙するが、晴人はそれらをことごとく否定する。
「…………」
「…………」
タマに出来ることが出尽くした様で、二人の間に沈黙が訪れた。どうやら彼女に学園生活に紛れ込むのに役立つ能力は無い様だ。こうなると正攻法しか無い。しかし、どうする? 溜息を吐く晴人の頭にある人物の顔が思い浮かんだ。
「智香さんに相談してみるか」
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「しかし、外に出るのにそのネコ耳と尻尾はいただけん。それ、隠せるか?」
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「やってみる……って、どうやったら良いのかにゃ?」
逆に晴人に尋ねる始末だった。もちろんそんな事、晴人がわかる筈が無い。
「俺が知ってるワケないだろ。とりあえず……ネコ耳と尻尾が無い自分をイメージしてみろ」
「わかった。う~~~~~ん……どう?」
適当な事を言う晴人に従って、タマが目を閉じ、ネコ耳尻尾が無い自分の姿を思い浮かべると、驚いたことに彼女の頭からネコ耳が、お尻から尻尾が消えた。人間に化ける能力があると言うだけあって、意外と簡単にネコ耳と尻尾は隠せた様だ。
「やれば出来るもんだな。おっけー、とりあえず俺のジャージ着ろ」
あまりにもあっさり成功したことに拍子抜けしながらも晴人はタマに自分の体育用のジャージを着せると智香のもとへと向かった。寮母の智香なら学校での学園生活はともかく、寮内での学園生活ぐらいならなんとかしてくれるかも……という淡い期待を抱いて。
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