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嫉妬?
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それから少し走り、一軒の家の前でハルカは止まった。トシヤが表札をチェックするとそこには『遠山』という文字が書かれている。そう、やはりココはハルカの家の前だったのだ。
『これはもしかして初めてのお呼ばれか?』とトシヤの胸は期待に膨らんだ。しかしハルカはママチャリから降りるとあっさりとトシヤに言った。
「ごめん、ちょっと着替えてくるから待っててくれる?」
何の事はない、ハルカは単に着替えをしたかっただけだった。炎天下、ハルカを待ちながら『世の中そんなに甘くはないな……』とトシヤが痛感していると、ガチャリという音と共に玄関ドアが開き、私服に着替えたハルカが姿を現した。
「お待たせ。ごめんね、暑かったでしょ」
言うとハルカはスポーツドリンクのペットボトルを差し出した。ちなみに今日のハルカは真っ白なTシャツに膝上のキュロットスカートという出で立ちで、さながら夏のスポーツドリンクのコマーシャルに出てくる美少女のようだ。すっかり見蕩れてしまって動きが止まったトシヤにハルカは首を傾げた。
「どうしたの? 暑さでやられちゃった?」
冗談めかして言いながらハルカは手にしていたペットボトルをトシヤの頬にピトっとひっつけた。
「ひあっ!」
頬にひっつけられたペットボトルの冷たさにトシヤは思わず声を上げた。
「ふふっ」
そんなトシヤを見てハルカは無邪気に笑った。これはもう、スポーツドリンクのコマーシャルどころか、夏アニメの1シーンだ。そんなことを考えたトシヤは顔に笑みが広がった。だが、その笑みはすぐに消えてしまった。
「どうしたの? あっ、もしかして怒っちゃった?」
ハルカが心配そうに顔を曇らせたトシヤに聞くが、この展開で怒る男なんて世界じゅうのどこを探してもいないだろう。
もちろんトシヤも怒っているわけでは無い。ただ、こんな展開がハルカと竹内君との間でも繰り広げられているのかと思うと心穏やかではいられないのだ。
だが、いつまでもウジウジしてはいられない。トシヤはツバを飲み込み、息を大きく吸いゆっくりと吐き出した。そして顔を覗き込むハルカに向かってゆっくりと口を開いた。
「ハルカちゃんのクラスに竹内っているよな?」
「えっ、竹内君? うん、いるよ。それがどうしたの?」
突然クラスの男子の名前を挙げたトシヤにハルカはキョトンとした顔で答えたが、すぐ昨日の補習の帰りの竹内君とのやり取りを思い出した。ハルカとしては一度『おっけー』したものの、その直後に竹内君とハルカの二人だけつまりデートの誘いだとわかった時点ですぐに『ごめんなさい』したのだからやましいところなど何一つ無い。しかしトシヤはハルカが『おっけー』したところで放心状態となり、その場から離脱した為にハルカがその後『ごめんなさい』したことを知らない。
トシヤは震える声で言った。
「夏休みは俺と一緒に遊びに行こうよ。竹内とじゃなくてさ」
ハルカは昨日の竹内とのやり取りをトシヤが見たのだと察し、トシヤに言った。
「もしかして、昨日、見たの?」
改めて言うがハルカにやましいところは無い。だがトシヤの声が震えていたのと、その表情が尋常でなかったのが気になったのだ。
黙って頷いたトシヤにハルカは静かに尋ねた。
「それって、妬いてるの?」
「う……」
「妬いてるんだよね?」
ハルカに図星を突かれて一瞬狼狽えたトシヤだったが、今日は元よりハルカに自分の気持ちを素直に伝えるつもりなのだ。この期に及んで見栄や意地を張ったところで何の意味も無い。それに『妬いてるんだよね?』と言ったハルカが何だか嬉しそうな顔をしている様に見えて仕方がない。
トシヤは思い切って言った。
「あ……ああそうだよ、だから夏休みは竹内なんかとじゃなく、俺と一緒にいようよ」
「えっ、トシヤ君、何言ってるの? 竹内君の誘いはちゃんと断ったじゃない」
「ええっ、マジで!?」
「うん。見てたんじゃなかったの?」
「いや、俺、途中で頭が真っ白になったから……」
バツが悪そうにトシヤがハルカと竹内君のやり取りを最後まで見届けられなかったことを白状した。
「そっか、妬いてるんだ」
ボソッと言ったハルカの顔は『何だか嬉しそう』ではなく『明らかに嬉しそう』だった。
トシヤがヤキモチを妬いている。それだけでもハルカは嬉しかったのだが、何か足りない。そう、トシヤの口から『好き』という言葉は出ていないのだ。
気持ちは伝わっていないことはない。だがハルカも女の子、やはり大事な言葉は口に出して言ってもらいたいではないか。とは言うもののトシヤの表情を見る限り、今この場でこれ以上を望むのは難しいと思われるし、そもそもそういうのは催促して言ってもらうものではない。それに家の前でそういうことを言われるのはさすがに恥ずかしい。
ハルカは場所を移そうとトシヤに言った。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
「う……うん」
トシヤはハルカの言葉に頷き、スポーツドリンクを一気に飲み干した。するとハルカがトシヤに向かって手を伸ばした。
「ペットボトル、捨ててくるね」
「あ……ああ、ありがとう」
「うん、ちょっと待ってね」
トシヤから受け取った空のペットボトルを捨てようとハルカが家に入ろうとした時、トシヤがハルカを呼び止めた。
『これはもしかして初めてのお呼ばれか?』とトシヤの胸は期待に膨らんだ。しかしハルカはママチャリから降りるとあっさりとトシヤに言った。
「ごめん、ちょっと着替えてくるから待っててくれる?」
何の事はない、ハルカは単に着替えをしたかっただけだった。炎天下、ハルカを待ちながら『世の中そんなに甘くはないな……』とトシヤが痛感していると、ガチャリという音と共に玄関ドアが開き、私服に着替えたハルカが姿を現した。
「お待たせ。ごめんね、暑かったでしょ」
言うとハルカはスポーツドリンクのペットボトルを差し出した。ちなみに今日のハルカは真っ白なTシャツに膝上のキュロットスカートという出で立ちで、さながら夏のスポーツドリンクのコマーシャルに出てくる美少女のようだ。すっかり見蕩れてしまって動きが止まったトシヤにハルカは首を傾げた。
「どうしたの? 暑さでやられちゃった?」
冗談めかして言いながらハルカは手にしていたペットボトルをトシヤの頬にピトっとひっつけた。
「ひあっ!」
頬にひっつけられたペットボトルの冷たさにトシヤは思わず声を上げた。
「ふふっ」
そんなトシヤを見てハルカは無邪気に笑った。これはもう、スポーツドリンクのコマーシャルどころか、夏アニメの1シーンだ。そんなことを考えたトシヤは顔に笑みが広がった。だが、その笑みはすぐに消えてしまった。
「どうしたの? あっ、もしかして怒っちゃった?」
ハルカが心配そうに顔を曇らせたトシヤに聞くが、この展開で怒る男なんて世界じゅうのどこを探してもいないだろう。
もちろんトシヤも怒っているわけでは無い。ただ、こんな展開がハルカと竹内君との間でも繰り広げられているのかと思うと心穏やかではいられないのだ。
だが、いつまでもウジウジしてはいられない。トシヤはツバを飲み込み、息を大きく吸いゆっくりと吐き出した。そして顔を覗き込むハルカに向かってゆっくりと口を開いた。
「ハルカちゃんのクラスに竹内っているよな?」
「えっ、竹内君? うん、いるよ。それがどうしたの?」
突然クラスの男子の名前を挙げたトシヤにハルカはキョトンとした顔で答えたが、すぐ昨日の補習の帰りの竹内君とのやり取りを思い出した。ハルカとしては一度『おっけー』したものの、その直後に竹内君とハルカの二人だけつまりデートの誘いだとわかった時点ですぐに『ごめんなさい』したのだからやましいところなど何一つ無い。しかしトシヤはハルカが『おっけー』したところで放心状態となり、その場から離脱した為にハルカがその後『ごめんなさい』したことを知らない。
トシヤは震える声で言った。
「夏休みは俺と一緒に遊びに行こうよ。竹内とじゃなくてさ」
ハルカは昨日の竹内とのやり取りをトシヤが見たのだと察し、トシヤに言った。
「もしかして、昨日、見たの?」
改めて言うがハルカにやましいところは無い。だがトシヤの声が震えていたのと、その表情が尋常でなかったのが気になったのだ。
黙って頷いたトシヤにハルカは静かに尋ねた。
「それって、妬いてるの?」
「う……」
「妬いてるんだよね?」
ハルカに図星を突かれて一瞬狼狽えたトシヤだったが、今日は元よりハルカに自分の気持ちを素直に伝えるつもりなのだ。この期に及んで見栄や意地を張ったところで何の意味も無い。それに『妬いてるんだよね?』と言ったハルカが何だか嬉しそうな顔をしている様に見えて仕方がない。
トシヤは思い切って言った。
「あ……ああそうだよ、だから夏休みは竹内なんかとじゃなく、俺と一緒にいようよ」
「えっ、トシヤ君、何言ってるの? 竹内君の誘いはちゃんと断ったじゃない」
「ええっ、マジで!?」
「うん。見てたんじゃなかったの?」
「いや、俺、途中で頭が真っ白になったから……」
バツが悪そうにトシヤがハルカと竹内君のやり取りを最後まで見届けられなかったことを白状した。
「そっか、妬いてるんだ」
ボソッと言ったハルカの顔は『何だか嬉しそう』ではなく『明らかに嬉しそう』だった。
トシヤがヤキモチを妬いている。それだけでもハルカは嬉しかったのだが、何か足りない。そう、トシヤの口から『好き』という言葉は出ていないのだ。
気持ちは伝わっていないことはない。だがハルカも女の子、やはり大事な言葉は口に出して言ってもらいたいではないか。とは言うもののトシヤの表情を見る限り、今この場でこれ以上を望むのは難しいと思われるし、そもそもそういうのは催促して言ってもらうものではない。それに家の前でそういうことを言われるのはさすがに恥ずかしい。
ハルカは場所を移そうとトシヤに言った。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
「う……うん」
トシヤはハルカの言葉に頷き、スポーツドリンクを一気に飲み干した。するとハルカがトシヤに向かって手を伸ばした。
「ペットボトル、捨ててくるね」
「あ……ああ、ありがとう」
「うん、ちょっと待ってね」
トシヤから受け取った空のペットボトルを捨てようとハルカが家に入ろうとした時、トシヤがハルカを呼び止めた。
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