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嘘も方便とはよく言ったもんだ

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 メッセージを送ってから数分、意外と早くトシヤのスマホからハルカからの返信を知らせる電子音が聞こえた。

「おっ、来たな」

 トシヤは嬉しそうにハルカからのメッセージを開き、本文を読んでからマサオに尋ねた。

「プールって、ドコのプールだ?」

 そう、ハルカは『行くか行かないか』を答える前に『ドコのプールか』と聞いてきたのだ。するとマサオからとんでもない答えが返ってきた。

「ドコ……って、んなモンまだ考えて無ぇよ」

「マサオ……お前、まさか……」

 トシヤは冷たい視線をマサオに突き刺した。そう、『プールのタダ券が四枚ある』なんて言っていたのは嘘っぱち、マサオはとりあえず約束さえ取り付けてしまえばどうにでもなると高を括っていたのだった。だがしかし、ハルカはそんなに甘くは無かった。

 さあ、どうする? マサオは脳細胞をフル活動させた。せっかく女の子とプールに行くのだ、どうせなら市民プールなんかでは無くウォータースライダーがあるプールに行きたいものだ。となると……
 マサオは遂に一つの結論にたどり着いた。

「しらパー、しらパーのプールだ! 大丈夫、タダ券なら俺が何とかする!!」

『しらパー』とは正式名称を『白方パーク』と言い、海外から進出してきたテーマパークの台頭で一時は存続が危ぶまれたが、独特な経営戦略と地道な努力で見事にV字回復を果たしたとテレビでも取り上げられた昔ながらの遊園地だ。その『しらパー』のプールにしようとマサオが口に出した時、トシヤのスマホにまたメッセージが入った。

「あれっ、ハルカちゃん、どうしたんだろ?」

 ハルカから続けざまにメッセージが届き、珍しい事もあるものだと思いながらトシヤが本文を確認すると、そこには驚くべき内容が記されてあった。

『なんてね。どうせマサオ君の策略で、本当はタダ券なんか無いんでしょ? 普通に誘ってくれたら良いのに』

 ハルカは『甘く無い』のでは無く『全てお見通し』だったのだ。トシヤは力の抜けた声で笑うとストレートに『明日、プールに行こうよ』と誘いのメッセージを送った。するとまたすぐにハルカから返事が来た。

『二人で?』

 夏は女を大胆にすると言うが、このハルカらしからぬ一言にトシヤは飛び上がらんばかりに喜び、即座にYES! と答えたいのは山々だが、マサオの手前そういうわけにも行かない。しかし……
 何と返そうかと悩むトシヤのスマホにまたハルカからメッセージが送られてきた。

『冗談よ。ルナ先輩に予定聞いてからまた連絡するね』

 こうやって見るとハルカはトシヤより一枚も二枚も上手みたいだが、その実ハルカはハルカでトシヤが本当に『二人だけでプールに行こう』と言ってきたら……と緊張半分期待半分でドキドキしていたのだった。もちろんトシヤはそんな事など知る由もなく、ほっとした様な、残念な様な複雑な思いで『ありがとう、連絡待ってるよ』とハルカに返信してからマサオに言った。

「……ってなワケだ。良かったな」

「いや、何言ってるのかわかんねぇよ」

 マサオはトシヤとハルカがどんなやり取りをしていたのかを知らされていないのだから話が見えないのは当然だ。そこでトシヤがちゃんと説明するとマサオは歓喜の声を上げた。

「そうか、じゃあハルカちゃんからの連絡待ちだな」

 嬉しそうなマサオだが、ルナの都合如何ではプールに行くのが明日になるか明後日になるか……いや、プールに行く事自体を断られるかもしれない。だが、マサオはそんな事は全く頭に無い様だ。
 そして数分後、そんなマサオの前向きな姿勢が天に通じたのか、ルナのオッケーが出たとハルカからメッセージが入り、明日ハルカの補習が終わってから四人で『しらパー』のプールに行く事が決まった。

「んじゃ、今日は帰るか」

「だな。明日が楽しみだぜ」

 トシヤが言うとマサオは心の底から嬉しそうに応え、二人は店を出てマサオの家へと戻り、トシヤはリアクトに乗って自分の家へと帰った。その夜、マサオもトシヤも明日への期待が大きく、興奮のあまりよく眠れなかったのだが、それはハルカとルナには秘密だ。


 そしてトシヤとマサオにとって長い夜が明けた。目を覚ましたトシヤが時計を見ると、とっくに10時を回っていた。まだ寝ていても問題無い時間だが、今頃ハルカは補習の真っ最中だ。そう思うとトシヤは寝ている気になれなくなった。

「あらトシヤ、早いわね。今日も自転車?」

 ベッドから出て二階の自室から一階のリビングに降りたトシヤに母親が声をかけてきた。

「今日はマサオ達とプール行くって、昨日言ったよね?」

 面倒臭そうに答えたトシヤに母親は「そう言えばそうだっけ」などと呑気に言うとトシヤに顔を洗うよう促し、朝食の用意を始めた。

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