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何故かボウリング対決に
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結局トシヤもマサオも赤のコラムスペーサーを買い、昼前にショップを出た。雨はまだ降り続いている。
「とりあえずメシでも食って、午後の事を考えようぜ。で、何にする?」
マサオが言うが、ルナもトシヤも遠慮して希望など言い出せない。するとハルカが満面の笑顔で言った。
「普段食べられない物が良いなー」
ハルカも恐ろしい事を言うものだ。マサオは少し考えた。女子高生が普段食べられない物とは? やはり高い物だろうか。だが、単に高い物というのも芸が無い。どうせなら面白い店が良いだろう。何よりルナが一緒なのだ、やはりお洒落な店が……
色々考えた挙句、マサオは近くにある一軒の店を思い出した。
「じゃあ、俺がよく行く店に行こうか」
ハルカはそれを聞いて喜んだ。お金持ちのマサオがよく行く店と言うからにはさぞ高級な店だと思ったのだ。だが、雨の中、少し歩いて着いた店構えを見てハルカは言葉を失った。マサオに連れられた店は、昭和の香りがする古い洋食屋だったのだ。
「おいマサオ、ココって……」
トシヤも驚いた様子でマサオに声をかけた。
「ああ。女の子だけだったらこんな店には多分来ないだろうと思ってな」
マサオはニヤリと笑った。そう、マサオは敢えて『外し』に出たのだ。この店は外見通り昭和からやっている所謂『老舗』で、知る人ぞ知る名店なのだが、残念ながらルナもハルカもそれを知らない。
「昭和レトロって感じのお店ね」
マサオにドアを開けてもらい、中に入ったルナが店内を見回して素直な感想を口にした。ハルカはテーブルに着くなり手書きの文字がコピーされた紙が茶色のカバーに入れられているだけの簡素なメニューに手を伸ばして目を丸くした。大した店では無いと高を括っていたハルカの想像を超えた金額が記載されていたのだ。
「ハンバーグがこんなにするの!?」
「ファミレスと一緒にするなよ。ちゃんとした洋食屋ならこんなもんだぜ」
思わず声に出してしまったハルカにマサオは平然と言った。だが、低価格路線のファミリーレストランしか知らないハルカにとってはちょっとしたショックだった。
「でも……コレって単品の値段だよね? ご飯とスープとサラダと飲み物を付けたらとんでもない値段に!」
奢ってもらう気満々のハルカもさすがに気が引けたのだろう、声が上擦っている。だがマサオは慌てる事無くページを捲って指差した。
「ほら、ランチメニューなら割とリーズナブルだぜ。俺のお勧めはBセットだな」
マサオお勧めのBセットはハンバーグと白身魚のフライ、そしてエビフライといかにも洋食屋らしいラインナップだ。マサオのお勧めなら間違い無いだろうと、ハルカがBセットに決めるとルナとトシヤもそれに倣い、結果四人全員がBセットと飲み物を注文する事となった。
「このエビ、プリップリで美味しい!」
「本当、美味しいわね」
待つ事数分、運ばれてきたBセットのエビフライに早速かぶり付いたハルカが声を上げ、ルナも老舗の洋食屋の味にご満悦の表情を見せた。
「気に入ってもらえたみたいで良かったぜ」
マサオは澄ました顔で言うが、心の中ではルナに自分のお勧めを気に入ってもらえた喜びでいっぱいだった。
「さて、これからどうしようか?」
食後のコーヒーを飲みながらマサオが言った。雨は未だ止む気配が全く無い。トシヤとマサオの二人だったらゲームセンターでも行くのだが、今日はルナとハルカが一緒なのだ。せっかく女の子と遊ぶのだから、もっと気の利いた所へ行きたいものだ。
「そうねー、どうしたものかしらねー」
ハルカが微妙な事を言い出した。このままでは今日はこれで解散となってしまいそうな雰囲気にマサオは焦った。
「雨の日に遊ぶったら、室内遊戯だな……ボウリングでも行くか?」
トシヤがボソっと言うと、ハルカが予想以上の食い付きを見せた。
「あっ、良いわね。私、ボウリングやりたい!」
この食い付きは単にボウリングがボーイッシュなハルカの琴線に触れたのか、或いはトシヤが言い出したからなのかは定かで無いが、とりあえずこれで解散の危機は回避出来たのだ。
「ボウリングか、ソイツは盲点だったな。いっちょ良いトコ見せてやるか」
喜んだマサオがハルカに調子を合わせる様に右肩を回しながら言うと、ハルカは思った以上にノってきた。
「へえ、自信満々じゃない。じゃあ、勝負してみる?」
「面白い。峠じゃ負けたが、ボウリングだったら負けないぜ」
ハルカの挑発に乗って鼻息を荒くするマサオだったが、ここで妙案を一つ思い付いた様だ。
「ただ、二人で勝負ってのはイマイチ面白味に欠けるな。ペアで勝負ってのはどうだ?」
「良いわよ。じゃあ、私とルナ先輩、マサオ君とトシヤ君の勝負ね」
ハルカが言うとマサオは大げさなポーズを取りながら「やれやれ……」といった体で言い返した。
「おいおい、それじゃ勝負にもなりゃしないぜ。やっぱ男女混合でペアを組むってのがセオリーだろ」
「わかったわ。私とトシヤ君チーム、ルナ先輩とマサオ君チームの対戦って事ね」
ハルカは見事にマサオの手中に嵌り、期待通りのチーム分けが決まった。まあ、もしかしたらハルカも密かにトシヤとペアを組む事を望んでいて、マサオの案を受け入れたのかもしれないが。ともかくマサオの思惑通りに事は運んだ。だが、マサオはこの後、想像を超えたルナのボウリング技術に驚愕する事になるのだった。
「ルールはワンフレームを二人で交互に投げる、それだけだ」
マサオが実にありがちなルールを決め、ハルカがそれに同意し、勝負が始まった。
「じゃあ、私から行くわね」
ハルカは記念すべき第一投目を見事にストライクで決め、思いっきりドヤ顔を見せつけた。
「なかなかやるじゃないか」
マサオが不敵な笑みを浮かべると、ドヤ顔のハルカとは対照的にルナが申し訳なさそうな顔でマサオに告げた。
「マサオ君、ごめんなさいね。私、ボウリング、下手くそなのよね……」
「いえいえ。俺がきっちりフォローしますから、大船に乗ったつもりで投げちゃって下さいな」
マサオは申し訳なさそうなルナを元気付けようと格好付けて言った。
「そう、ありがとう」
言うとルナはマサオに笑顔を見せた。それだけでも値千金、マサオはレーンに向かうルナの後ろ姿を愛でる様に眺めていた。
アプローチに立ったルナはロードバイクに乗っている時と同一人物だとは思えない様なぎこちない動きで歩き出し、ボールを投げた。そのボールはゆっくりと、だが真っ直ぐに転がって1番ピンを倒し、そのまま真っ直ぐ転がり続けると何本かのピンを倒してレーンの奥に消えた。結果、倒したピンは7本。ハルカのストライクと比べれば見劣りはするが女の子としては立派な数字だ。だが問題は残った三本のピンの位置にあった。4番と7番のピンは近いのだが、レーンの逆サイドに一本だけ10番のピン残っていたのだ。
「あちゃー、スプリットか……」
マサオは思ったが、声に出す訳にはいかない。だが、考えようによっては逆にチャンスだ。この難しい局面で格好良くスペアを決めればマサオの株が上がるに違い無い。
「大丈夫、任せてよ」
しょんぼりしているルナに格好付けて言うと、マサオは4番のピンの左側ギリギリを狙ってボールを投げた。
人間ノっている時は上手い具合に事が運ぶもので、マサオの投げたボールは狙い通り4番ピンの左を掠めて7番ピンを倒し、弾き飛ばされた4番ピンは見事に10番ピンを倒したのだ。
「見たか!」
マサオがこれ以上は無いというぐらいのドヤ顔で振り返った。さすがのハルカも見事なスペアに「おおーっ」と声を上げながら思わず拍手、ルナも嬉しそうに手を叩いている。
「マサオ君、凄いね!」
意気揚々と戻って来たマサオにルナが声をかけると、マサオは右手を上げてハイタッチを求めた。するとルナは少し躊躇う様な素振りを見せてからマサオの手にタッチし、パンっと軽快な音を立てた。この時マサオはルナが躊躇ったのを「こういう事に慣れて無いのかな?」ぐらいにしか考えていなかった。
「とりあえずメシでも食って、午後の事を考えようぜ。で、何にする?」
マサオが言うが、ルナもトシヤも遠慮して希望など言い出せない。するとハルカが満面の笑顔で言った。
「普段食べられない物が良いなー」
ハルカも恐ろしい事を言うものだ。マサオは少し考えた。女子高生が普段食べられない物とは? やはり高い物だろうか。だが、単に高い物というのも芸が無い。どうせなら面白い店が良いだろう。何よりルナが一緒なのだ、やはりお洒落な店が……
色々考えた挙句、マサオは近くにある一軒の店を思い出した。
「じゃあ、俺がよく行く店に行こうか」
ハルカはそれを聞いて喜んだ。お金持ちのマサオがよく行く店と言うからにはさぞ高級な店だと思ったのだ。だが、雨の中、少し歩いて着いた店構えを見てハルカは言葉を失った。マサオに連れられた店は、昭和の香りがする古い洋食屋だったのだ。
「おいマサオ、ココって……」
トシヤも驚いた様子でマサオに声をかけた。
「ああ。女の子だけだったらこんな店には多分来ないだろうと思ってな」
マサオはニヤリと笑った。そう、マサオは敢えて『外し』に出たのだ。この店は外見通り昭和からやっている所謂『老舗』で、知る人ぞ知る名店なのだが、残念ながらルナもハルカもそれを知らない。
「昭和レトロって感じのお店ね」
マサオにドアを開けてもらい、中に入ったルナが店内を見回して素直な感想を口にした。ハルカはテーブルに着くなり手書きの文字がコピーされた紙が茶色のカバーに入れられているだけの簡素なメニューに手を伸ばして目を丸くした。大した店では無いと高を括っていたハルカの想像を超えた金額が記載されていたのだ。
「ハンバーグがこんなにするの!?」
「ファミレスと一緒にするなよ。ちゃんとした洋食屋ならこんなもんだぜ」
思わず声に出してしまったハルカにマサオは平然と言った。だが、低価格路線のファミリーレストランしか知らないハルカにとってはちょっとしたショックだった。
「でも……コレって単品の値段だよね? ご飯とスープとサラダと飲み物を付けたらとんでもない値段に!」
奢ってもらう気満々のハルカもさすがに気が引けたのだろう、声が上擦っている。だがマサオは慌てる事無くページを捲って指差した。
「ほら、ランチメニューなら割とリーズナブルだぜ。俺のお勧めはBセットだな」
マサオお勧めのBセットはハンバーグと白身魚のフライ、そしてエビフライといかにも洋食屋らしいラインナップだ。マサオのお勧めなら間違い無いだろうと、ハルカがBセットに決めるとルナとトシヤもそれに倣い、結果四人全員がBセットと飲み物を注文する事となった。
「このエビ、プリップリで美味しい!」
「本当、美味しいわね」
待つ事数分、運ばれてきたBセットのエビフライに早速かぶり付いたハルカが声を上げ、ルナも老舗の洋食屋の味にご満悦の表情を見せた。
「気に入ってもらえたみたいで良かったぜ」
マサオは澄ました顔で言うが、心の中ではルナに自分のお勧めを気に入ってもらえた喜びでいっぱいだった。
「さて、これからどうしようか?」
食後のコーヒーを飲みながらマサオが言った。雨は未だ止む気配が全く無い。トシヤとマサオの二人だったらゲームセンターでも行くのだが、今日はルナとハルカが一緒なのだ。せっかく女の子と遊ぶのだから、もっと気の利いた所へ行きたいものだ。
「そうねー、どうしたものかしらねー」
ハルカが微妙な事を言い出した。このままでは今日はこれで解散となってしまいそうな雰囲気にマサオは焦った。
「雨の日に遊ぶったら、室内遊戯だな……ボウリングでも行くか?」
トシヤがボソっと言うと、ハルカが予想以上の食い付きを見せた。
「あっ、良いわね。私、ボウリングやりたい!」
この食い付きは単にボウリングがボーイッシュなハルカの琴線に触れたのか、或いはトシヤが言い出したからなのかは定かで無いが、とりあえずこれで解散の危機は回避出来たのだ。
「ボウリングか、ソイツは盲点だったな。いっちょ良いトコ見せてやるか」
喜んだマサオがハルカに調子を合わせる様に右肩を回しながら言うと、ハルカは思った以上にノってきた。
「へえ、自信満々じゃない。じゃあ、勝負してみる?」
「面白い。峠じゃ負けたが、ボウリングだったら負けないぜ」
ハルカの挑発に乗って鼻息を荒くするマサオだったが、ここで妙案を一つ思い付いた様だ。
「ただ、二人で勝負ってのはイマイチ面白味に欠けるな。ペアで勝負ってのはどうだ?」
「良いわよ。じゃあ、私とルナ先輩、マサオ君とトシヤ君の勝負ね」
ハルカが言うとマサオは大げさなポーズを取りながら「やれやれ……」といった体で言い返した。
「おいおい、それじゃ勝負にもなりゃしないぜ。やっぱ男女混合でペアを組むってのがセオリーだろ」
「わかったわ。私とトシヤ君チーム、ルナ先輩とマサオ君チームの対戦って事ね」
ハルカは見事にマサオの手中に嵌り、期待通りのチーム分けが決まった。まあ、もしかしたらハルカも密かにトシヤとペアを組む事を望んでいて、マサオの案を受け入れたのかもしれないが。ともかくマサオの思惑通りに事は運んだ。だが、マサオはこの後、想像を超えたルナのボウリング技術に驚愕する事になるのだった。
「ルールはワンフレームを二人で交互に投げる、それだけだ」
マサオが実にありがちなルールを決め、ハルカがそれに同意し、勝負が始まった。
「じゃあ、私から行くわね」
ハルカは記念すべき第一投目を見事にストライクで決め、思いっきりドヤ顔を見せつけた。
「なかなかやるじゃないか」
マサオが不敵な笑みを浮かべると、ドヤ顔のハルカとは対照的にルナが申し訳なさそうな顔でマサオに告げた。
「マサオ君、ごめんなさいね。私、ボウリング、下手くそなのよね……」
「いえいえ。俺がきっちりフォローしますから、大船に乗ったつもりで投げちゃって下さいな」
マサオは申し訳なさそうなルナを元気付けようと格好付けて言った。
「そう、ありがとう」
言うとルナはマサオに笑顔を見せた。それだけでも値千金、マサオはレーンに向かうルナの後ろ姿を愛でる様に眺めていた。
アプローチに立ったルナはロードバイクに乗っている時と同一人物だとは思えない様なぎこちない動きで歩き出し、ボールを投げた。そのボールはゆっくりと、だが真っ直ぐに転がって1番ピンを倒し、そのまま真っ直ぐ転がり続けると何本かのピンを倒してレーンの奥に消えた。結果、倒したピンは7本。ハルカのストライクと比べれば見劣りはするが女の子としては立派な数字だ。だが問題は残った三本のピンの位置にあった。4番と7番のピンは近いのだが、レーンの逆サイドに一本だけ10番のピン残っていたのだ。
「あちゃー、スプリットか……」
マサオは思ったが、声に出す訳にはいかない。だが、考えようによっては逆にチャンスだ。この難しい局面で格好良くスペアを決めればマサオの株が上がるに違い無い。
「大丈夫、任せてよ」
しょんぼりしているルナに格好付けて言うと、マサオは4番のピンの左側ギリギリを狙ってボールを投げた。
人間ノっている時は上手い具合に事が運ぶもので、マサオの投げたボールは狙い通り4番ピンの左を掠めて7番ピンを倒し、弾き飛ばされた4番ピンは見事に10番ピンを倒したのだ。
「見たか!」
マサオがこれ以上は無いというぐらいのドヤ顔で振り返った。さすがのハルカも見事なスペアに「おおーっ」と声を上げながら思わず拍手、ルナも嬉しそうに手を叩いている。
「マサオ君、凄いね!」
意気揚々と戻って来たマサオにルナが声をかけると、マサオは右手を上げてハイタッチを求めた。するとルナは少し躊躇う様な素振りを見せてからマサオの手にタッチし、パンっと軽快な音を立てた。この時マサオはルナが躊躇ったのを「こういう事に慣れて無いのかな?」ぐらいにしか考えていなかった。
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