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魔法王国アルテナでの日々

ファーストコンタクト

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「ルーク君だったよね、もう精霊を感じれたんだ」

 休憩時間になり、一人の少女がルークに声をかけてきた。

「凄いなぁ もしかして天才ってヤツ?」

「俺にもコツを教えてくれよ」

 続いて二人の男子がルークに歩み寄った。転校生に興味を持ったのだろうか? それとも転校生イジメでもしようというのか? 突然の乱入者達に戸惑うルークの顔を見て、男子の一人が慌てて自己紹介を始めた。

「おっとすまんすまん、いきなりだったか。俺はデイブ、コイツはエディ。で、コイツが……」

「ミレアよ。よろしくね」

 デイブと名乗る男子は魔法使いよりも戦士の方が似合うんじゃないかと思うぐらい筋肉質で大柄。エディと紹介された男子は対照的にスリムでいかにも魔法使い候補という感じだ。そしてミレアと名乗る少女は魔法使いというより使い魔の猫っぽい。

「あ、ルークです。こっちこそよろしく」

 ルークが少し安心した顔で言うとミレアが興味深そうな顔で切り出した。

「ルーク君って、ルフト出身なんですって?」

「うん ちょっと前に引っ越してきたんだ」

 もちろん戦乱に巻き込まれて逃れてきたなどとは口が裂けても言えない。だが、デイブが核心を突いてきた。

「ルフト、大変だったみたいだな」

「……ごめん。ボク、昔の記憶が無いんだ」

 ルークが申し訳なさそうに言うとミレアがデイブの頭をひっぱたいた。

「バカ! あんた、変な事言うんじゃないわよ」

 ミレアはデイブを罵倒するが、ルークは首を横に振り、強い意思を込めて言った。

「ううん、大丈夫だよ。そのうちに記憶は戻るだろうから、過去の記憶に囚われずに前を向いて生きるって決めたから」

「そっか。そうね、それが良いわよね」

 ミレアがうんうんと頷き、デイブとエディがルークに微笑みかけた。

 それがルークとデイブ達のファーストコンタクトだった。普通はここから趣味嗜好の話などが展開されるのだろうが、デイブは真剣な顔で質問してきた。しかも馴れ馴れしく呼び捨てで。

「ところでルーク、精霊の声ってどんな感じだった?」

「どんな感じって……どう言えば良いんだろう?耳元で囁かれる様な、遠くから話しかけてくる様な……」

 何の前触れも無く突然そんな事を聞かれても上手く説明出来るわけが無い。何しろそれはルークにとって初めての感覚なのだ。

「なんだそりゃ、真逆じゃないか」

 デイブが言うが、それが素直な感想なのだ。ルークは困った顔で言った。

「うん。だからどう説明すれば良いかわからないんだ」

「そっか……俺はよくわかんねぇんだよな。精霊の声ってヤツが」

「そもそもあんたは魔法使いより剣士の方が向いてるもんね」

 嘆くデイブをミレアの言葉が突き刺した。だがデイブは怒るわけでも無く、それを素直に認めて頷いた。

「俺もそう思うよ。でも、アルテナ国民なら魔法は使えないとって親父がよぉ……」

 デイブは父親に強制的に魔法学園に入れられたみたいだ。するとルークが剣士という言葉に反応した。

「剣士かぁ……ボクも自分は騎士になると思ってたんだよね」

「そりゃルフトの人間だったからそうだろうな」

「でも、剣技だけでなく、魔方も使える魔法剣士になれって兄さんが」

「お兄さんが?」

「お兄さんって何やってる人なの?」

 今度はエディとミレアがルークの『兄さん』という言葉に反応した。特にミレアはルークの兄に興味を持ったみたいだ。



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