10 / 85
騎士の国ルフト陥落
ソルドの本心
しおりを挟む
夜、騒がしい酒場で一人カウンターで静かにグラスを傾けるソルドの隣にドルフが座った。
「ソルド、待たせちまったか?」
「いや、一人で始めさせてもらってるから大丈夫だ。とりあえず一杯いけよ」
「ああ、サンキュ」
アルテナの街の酒場で職務も立場を忘れ、友人として飾らない顔、飾らない言葉で盃を酌み交わすソルドとドルフ。それはガイザスがルフトに攻め込む以前にはよく見られる光景だった。そしてその時はバカ話に花を咲かせ、翌日は二日酔いに苦しむという所謂『ダメな大人』だったのだが今日ばかりはそうでは無かった。
「今回はすまんな」
ソルドが神妙な顔で言ったのだ。
「バカな事言ってんじゃねぇよ、友人の一大事じゃねぇか」
「いやー、マジで一大事だからな。それにこれから忙しくなるしな」
「忙しくなる?」
らしく無いソルドを笑い飛ばそうとしたドルフだったが、ソルドの続く言葉で一気に緊張が走った。
「ああ。色々準備はしとかないといかんからな。ルーク様が成長するまでに」
「やっぱりガイザスにケンカ売って、ルフトを再興させるつもりなんだな」
ソルドはアルテナの王ゼクスの親衛隊の任の傍らルフト再興の為の準備を秘密裏に行うつもりなのだ。まあ、ドルフはそんな事だろうとは思っていたのだが、こうやって改めて言われると重みが違う。しかもソルドはドルフの思っている以上に恐ろしい事を言い出した。
「ケンカ売るんじゃねぇよ。一方的に潰す。ルフトがやられた様にな」
拳を握り締め、唇を噛むソルド。だがすぐに口元を緩めてニヤリと笑った。
「で、ルーク様が王になってステラ様と結婚、ステラ王妃の誕生だ」
ソルドの単純明快なビジョンにドルフは苦笑し、問題点を一つ取り上げた。
「じゃあアルテナはどうなる?」
ステラはアルテナの王女、しかも王位継承権一位の長女だ。するとソルドはそれがどうしたとばかりに言った。
「たしかステラ様には弟が居たろ?」
「コルト様か……って、まだ十二歳だぞ」
「アルテナ王にはまだまだ頑張ってもらわんとな」
言いながらソルドがククっと笑った。ステラは十六歳なのだからステラ王女とコルト王子のどちらが王位を継ぐにしてもゼクス王にはまだまだ頑張ってもらわなければならないのだが。それにルークもステラと同じ十六歳で王となるには若過ぎる気もしないでは無いが、これはまあルフトの王ロレンツが倒れた以上やむを得ないだろう。
「で、ガイザス領はどうするんだ? 属国として支配下に置くのか? それともルフトに組み入れるのか?」
ドルフがもう一つソルドに尋ねた。ガイザスに負けたという事は、ルフトは現在ガイザスの支配下に置かれていると考えて良いだろう。戦争に負けるというのはそういう事なのだから。逆に言えばソルドがルフトを再興し、ガイザスに勝利すれば当然ガイザス領はルフトのものとなる。だが、ソルドはとんでもない事を言い出した。
「ガイザス領は……そうだな、気分悪いからその辺の国にでもくれてやるか」
「これはまたえらい事言い出すもんだな」
ドルフはソルドの答えに目を丸くした。領土が広くなれば国力は増す。だがソルドはそれを周辺諸国にくれてやると言うのだ。信じられんといった顔のドルフにソルドは冷めた顔で言った。
「別に領土を広げたい訳じゃないだろ、ルフトもアルテナも」
「まあな」
「それに領土が広くなりすぎると統治も難しくなる。国の隅々まで目が届きにくくなっちまうからな。だから別にくれてやってもいいんじゃねぇか?」
「それもそうだな。領地をくれてやったら貸しも作れるかもしれんしな」
「だろ?」
ソルドにはソルドの考えがある様だ。吐き捨てる様に言うとソルドは一気に酒をあおって呟いた。
「ルフトは今頃どうなっちまってんのかな……」
「ソルド、待たせちまったか?」
「いや、一人で始めさせてもらってるから大丈夫だ。とりあえず一杯いけよ」
「ああ、サンキュ」
アルテナの街の酒場で職務も立場を忘れ、友人として飾らない顔、飾らない言葉で盃を酌み交わすソルドとドルフ。それはガイザスがルフトに攻め込む以前にはよく見られる光景だった。そしてその時はバカ話に花を咲かせ、翌日は二日酔いに苦しむという所謂『ダメな大人』だったのだが今日ばかりはそうでは無かった。
「今回はすまんな」
ソルドが神妙な顔で言ったのだ。
「バカな事言ってんじゃねぇよ、友人の一大事じゃねぇか」
「いやー、マジで一大事だからな。それにこれから忙しくなるしな」
「忙しくなる?」
らしく無いソルドを笑い飛ばそうとしたドルフだったが、ソルドの続く言葉で一気に緊張が走った。
「ああ。色々準備はしとかないといかんからな。ルーク様が成長するまでに」
「やっぱりガイザスにケンカ売って、ルフトを再興させるつもりなんだな」
ソルドはアルテナの王ゼクスの親衛隊の任の傍らルフト再興の為の準備を秘密裏に行うつもりなのだ。まあ、ドルフはそんな事だろうとは思っていたのだが、こうやって改めて言われると重みが違う。しかもソルドはドルフの思っている以上に恐ろしい事を言い出した。
「ケンカ売るんじゃねぇよ。一方的に潰す。ルフトがやられた様にな」
拳を握り締め、唇を噛むソルド。だがすぐに口元を緩めてニヤリと笑った。
「で、ルーク様が王になってステラ様と結婚、ステラ王妃の誕生だ」
ソルドの単純明快なビジョンにドルフは苦笑し、問題点を一つ取り上げた。
「じゃあアルテナはどうなる?」
ステラはアルテナの王女、しかも王位継承権一位の長女だ。するとソルドはそれがどうしたとばかりに言った。
「たしかステラ様には弟が居たろ?」
「コルト様か……って、まだ十二歳だぞ」
「アルテナ王にはまだまだ頑張ってもらわんとな」
言いながらソルドがククっと笑った。ステラは十六歳なのだからステラ王女とコルト王子のどちらが王位を継ぐにしてもゼクス王にはまだまだ頑張ってもらわなければならないのだが。それにルークもステラと同じ十六歳で王となるには若過ぎる気もしないでは無いが、これはまあルフトの王ロレンツが倒れた以上やむを得ないだろう。
「で、ガイザス領はどうするんだ? 属国として支配下に置くのか? それともルフトに組み入れるのか?」
ドルフがもう一つソルドに尋ねた。ガイザスに負けたという事は、ルフトは現在ガイザスの支配下に置かれていると考えて良いだろう。戦争に負けるというのはそういう事なのだから。逆に言えばソルドがルフトを再興し、ガイザスに勝利すれば当然ガイザス領はルフトのものとなる。だが、ソルドはとんでもない事を言い出した。
「ガイザス領は……そうだな、気分悪いからその辺の国にでもくれてやるか」
「これはまたえらい事言い出すもんだな」
ドルフはソルドの答えに目を丸くした。領土が広くなれば国力は増す。だがソルドはそれを周辺諸国にくれてやると言うのだ。信じられんといった顔のドルフにソルドは冷めた顔で言った。
「別に領土を広げたい訳じゃないだろ、ルフトもアルテナも」
「まあな」
「それに領土が広くなりすぎると統治も難しくなる。国の隅々まで目が届きにくくなっちまうからな。だから別にくれてやってもいいんじゃねぇか?」
「それもそうだな。領地をくれてやったら貸しも作れるかもしれんしな」
「だろ?」
ソルドにはソルドの考えがある様だ。吐き捨てる様に言うとソルドは一気に酒をあおって呟いた。
「ルフトは今頃どうなっちまってんのかな……」
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください
むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。
「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」
それって私のことだよね?!
そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。
でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。
長編です。
よろしくお願いします。
カクヨムにも投稿しています。
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる