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騎士の国ルフト陥落

ソルドの本心

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 夜、騒がしい酒場で一人カウンターで静かにグラスを傾けるソルドの隣にドルフが座った。

「ソルド、待たせちまったか?」

「いや、一人で始めさせてもらってるから大丈夫だ。とりあえず一杯いけよ」

「ああ、サンキュ」

 アルテナの街の酒場で職務も立場を忘れ、友人として飾らない顔、飾らない言葉で盃を酌み交わすソルドとドルフ。それはガイザスがルフトに攻め込む以前にはよく見られる光景だった。そしてその時はバカ話に花を咲かせ、翌日は二日酔いに苦しむという所謂『ダメな大人』だったのだが今日ばかりはそうでは無かった。

「今回はすまんな」

 ソルドが神妙な顔で言ったのだ。

「バカな事言ってんじゃねぇよ、友人の一大事じゃねぇか」

「いやー、マジで一大事だからな。それにこれから忙しくなるしな」

「忙しくなる?」

 らしく無いソルドを笑い飛ばそうとしたドルフだったが、ソルドの続く言葉で一気に緊張が走った。

「ああ。色々準備はしとかないといかんからな。ルーク様が成長するまでに」

「やっぱりガイザスにケンカ売って、ルフトを再興させるつもりなんだな」

 ソルドはアルテナの王ゼクスの親衛隊の任の傍らルフト再興の為の準備を秘密裏に行うつもりなのだ。まあ、ドルフはそんな事だろうとは思っていたのだが、こうやって改めて言われると重みが違う。しかもソルドはドルフの思っている以上に恐ろしい事を言い出した。

「ケンカ売るんじゃねぇよ。一方的に潰す。ルフトがやられた様にな」

 拳を握り締め、唇を噛むソルド。だがすぐに口元を緩めてニヤリと笑った。

「で、ルーク様が王になってステラ様と結婚、ステラ王妃の誕生だ」

 ソルドの単純明快なビジョンにドルフは苦笑し、問題点を一つ取り上げた。

「じゃあアルテナはどうなる?」

 ステラはアルテナの王女、しかも王位継承権一位の長女だ。するとソルドはそれがどうしたとばかりに言った。

「たしかステラ様には弟が居たろ?」

「コルト様か……って、まだ十二歳だぞ」

「アルテナ王にはまだまだ頑張ってもらわんとな」

 言いながらソルドがククっと笑った。ステラは十六歳なのだからステラ王女とコルト王子のどちらが王位を継ぐにしてもゼクス王にはまだまだ頑張ってもらわなければならないのだが。それにルークもステラと同じ十六歳で王となるには若過ぎる気もしないでは無いが、これはまあルフトの王ロレンツが倒れた以上やむを得ないだろう。

「で、ガイザス領はどうするんだ? 属国として支配下に置くのか? それともルフトに組み入れるのか?」

 ドルフがもう一つソルドに尋ねた。ガイザスに負けたという事は、ルフトは現在ガイザスの支配下に置かれていると考えて良いだろう。戦争に負けるというのはそういう事なのだから。逆に言えばソルドがルフトを再興し、ガイザスに勝利すれば当然ガイザス領はルフトのものとなる。だが、ソルドはとんでもない事を言い出した。

「ガイザス領は……そうだな、気分悪いからその辺の国にでもくれてやるか」

「これはまたえらい事言い出すもんだな」

 ドルフはソルドの答えに目を丸くした。領土が広くなれば国力は増す。だがソルドはそれを周辺諸国にくれてやると言うのだ。信じられんといった顔のドルフにソルドは冷めた顔で言った。

「別に領土を広げたい訳じゃないだろ、ルフトもアルテナも」

「まあな」

「それに領土が広くなりすぎると統治も難しくなる。国の隅々まで目が届きにくくなっちまうからな。だから別にくれてやってもいいんじゃねぇか?」

「それもそうだな。領地をくれてやったら貸しも作れるかもしれんしな」

「だろ?」

 ソルドにはソルドの考えがある様だ。吐き捨てる様に言うとソルドは一気に酒をあおって呟いた。

「ルフトは今頃どうなっちまってんのかな……」




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