上 下
2 / 85
騎士の国ルフト陥落

落城そしてルフトから逃れた二人

しおりを挟む
「ルーク様……うっ」

 ルークは頭から大量の血を流していた。ソルドはロレンツから離れてルークに駆け寄ると呼吸を確認して安堵の溜息を吐いた。

「大丈夫、まだ息はある」

「ソルド、頼んだぞ」

 ロレンツはそう言うと息を引き取った。ソルドはルークを背負い、王の間から外に繋がっている隠し通路を駆け、城から離れた湖のほとりの森にたどり着いた。
 振り返ると空が赤い。城が炎に包まれ、崩れようとしていた。こうして千年の歴史を誇るルフトはガイザスの強襲により、わずか一日で滅んだのだった。

          *

 城を脱出した二人は湖のほとりの森からアルテナ領に逃れ、アルテナの王城へと向かった。アルテナの街を歩くソルドもルークもボロボロで、人々は誰も背負われているのがルフトの王子だとは思わなかった。ただ、赤い空を見てルフトに一大事が起こって逃れて来たのだと理解し、憐れみの目を向けるばかりだった。

 ルークを背負い、休むことなく歩き続け、ソルドはなんとかアルテナの王城にたどり着いた。当然城門には衛兵が立ち、門を守っている。ボロボロの二人を見た衛兵は心配そうに声をかけてきた。

「君達はルフトから逃れて来たのか?」

「街の民が貴国の王城が燃えていると言っていたが、何があったんだ?」

「この方はルフトの王子、ルーク様です。ゼクス王にお取次ぎ願いたい」

 ソルドが答えたが、二人の姿に衛兵立ちは顔を見合わせて難色を示した。

「この方がルーク王子? いきなりそんな事言われても……」

「信じられんのか?」

「申し訳ありません。私も城門を守る責務がありますので、確認しないことには……」

「確かにそうだな。いきなりボロボロの男がやってきてもな」

 確かにいきなりやってきたボロボロの者が「自分は王子だから王に会わせてくれ」と言ったところで聞き入れられる事はまず無いだろう。仕方が無いといった顔で俯いたソルドに衛兵は優しい言葉をかけた。

「しかし、怪我をされているお二人を無碍に追い返すのは人として出来ません。まずは手当を。その間に確認は取れましょう」

「ありがとう。私は大丈夫ですからまずはルーク様を」

 衛兵に先導されてアルテナ城の医務室へと歩くソルド。するとその姿を見た一人の男が血相を変えて飛んで来た。

「ソルド殿ではありませんか! そちらはルーク様では?」

 声をかけてきたのはアルテナ王親衛隊のドルフだった。魔法の国アルテナと言えど衛兵や親衛隊は剣を携えており、ドルフはルフトとの合同演習でソルドと何度も手合わせをしているうちに、いつしか飲み友達にもなっていた男だ。

「おお、ドルフ殿。なら話は早い。ルーク様を……」

 知った顔に出会って緊張の糸が切れたのだろう、ソルドはそこまで言うと意識を失ってしまった。ドルフもまた空が赤く染まっていたのを見て、ルフトに異変が起こった事を察していた。そこに盟友ソルドが傷付きながら王子ルークを連れてアルテナに逃れて来たのだ、ドルフは思わず衛兵達を怒鳴りつけてしまった。

「お前達、ルフトの英雄ソルド殿の顔を知らんのか!」

 だがそんな事を言われても、衛兵達はドルフと違ってソルドと会う機会などそんなには無い。しかも今のソルドはいつもの威風堂々としたソルドとは違い、ボロボロの状態なのだ。返答に困り、黙ってしまった衛兵達にドルフは気を取り直して言った。

「いや、そんな事を言っている場合では無い。早く医者を! 私はゼクス様に知らせてくる!」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

処理中です...