9 / 85
騎士の国ルフト陥落
悲しい嘘
しおりを挟む
ソルド達が部屋を出て、ルークはステラと二人きりになってしまった。もちろんルークがこの部屋に運ばれて以来ずっと二人きりではあったのだが、意識を失っていたルークはそんな事知る由もない。
何を話せば良いか皆目見当もつかず何も言えないでいるルークと何か話せばそのまま泣き崩れてしまいそうで何も言えないでいるステラ。少しの間部屋を沈黙が支配したが、ルークが思い切って口を開いた。
「あの……色々お世話していただいたみたいでありがとうございました。ステラ様はアルテナの王女様なんですよね」
「ええ、そうですよ」
ステラはルークに『ステラ様』と他人行儀で呼ばれたのが悲しかったが、ほんの少しでも涙を零してしまえばその涙を止める事は出来無いと、無理して笑顔を作って答えた。するとルークはこの上なく愚かな質問をステラにしてしまった。
「何故、王女様がボクなんかにこんなに良くしてくださるのです?」
ちょっと考えればわかりそうなものではないか。正座させて思いっきり説教でもしてやりたいところだ。そんなバカな質問にステラは少し考えて答えた。
「昔、ソルドさん……あなたのお兄さんに昔助けてもらった事があるの」
もちろん嘘だ。つきたくもない嘘にステラの胸は締め付けられるばかりだった。
本当は言いたかった。
――あなたは私の大切な人だから――
でも、それは今は言えない。一国の王女の大切な人ともなればそれなりの地位にある人間であろう事は容易に考えられる。そしてそれはルークの記憶を戻すトリガーになりかねないのだ。
ステラの心はズキズキ痛んだ。本当の事を言えない歯痒さ、ルークに王子だった記憶を取り戻して欲しく無いという気持ちと自分の事を思い出して欲しいという想いの葛藤。それらは十六歳のステラには重すぎた。だからステラは事実もほんの少しだけ仄めかせた。
「一緒に遊んだ事もあるんですよ。忘れちゃったんですね」
何を話せば良いか皆目見当もつかず何も言えないでいるルークと何か話せばそのまま泣き崩れてしまいそうで何も言えないでいるステラ。少しの間部屋を沈黙が支配したが、ルークが思い切って口を開いた。
「あの……色々お世話していただいたみたいでありがとうございました。ステラ様はアルテナの王女様なんですよね」
「ええ、そうですよ」
ステラはルークに『ステラ様』と他人行儀で呼ばれたのが悲しかったが、ほんの少しでも涙を零してしまえばその涙を止める事は出来無いと、無理して笑顔を作って答えた。するとルークはこの上なく愚かな質問をステラにしてしまった。
「何故、王女様がボクなんかにこんなに良くしてくださるのです?」
ちょっと考えればわかりそうなものではないか。正座させて思いっきり説教でもしてやりたいところだ。そんなバカな質問にステラは少し考えて答えた。
「昔、ソルドさん……あなたのお兄さんに昔助けてもらった事があるの」
もちろん嘘だ。つきたくもない嘘にステラの胸は締め付けられるばかりだった。
本当は言いたかった。
――あなたは私の大切な人だから――
でも、それは今は言えない。一国の王女の大切な人ともなればそれなりの地位にある人間であろう事は容易に考えられる。そしてそれはルークの記憶を戻すトリガーになりかねないのだ。
ステラの心はズキズキ痛んだ。本当の事を言えない歯痒さ、ルークに王子だった記憶を取り戻して欲しく無いという気持ちと自分の事を思い出して欲しいという想いの葛藤。それらは十六歳のステラには重すぎた。だからステラは事実もほんの少しだけ仄めかせた。
「一緒に遊んだ事もあるんですよ。忘れちゃったんですね」
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる