4 / 37
出会い ~迷子の子猫と一人ぼっちの少女~
また明日(はぁと)
しおりを挟む
「えっ……」
岩橋さんは驚いた様な、戸惑った様な声を上げた。もちろん本当は友達以上になりたいよ。でも、いきなりそんな事を言うわけにもいかないだろう。まずはお友達からってヤツだ。そして俺はもう一つ、大事な事を付け加えた。
「和彦には彼女が居るし、そこから女の子の友達だって作れるんじゃないかな?」
岩橋さんは女の子。友達が男の俺だけというわけにはいかない。そこで俺の親友和彦の彼女である由美ちゃんに協力してもらって友達の輪を広げてもらおうと言う算段だ。我ながら見事な考えだと思うんだが、どうだろう? すると俺の期待通りのリアクションが返って来た。
「うん。ありがとう、加藤君」
岩橋さんは俺の提案を喜んでくれた様だ。こうして最初の一歩、俺と岩橋さんとの友達付き合いが始まったのだ。あの子猫には感謝だな。俺と岩橋さんを結びつけてくれたからキューピッドと命名しよう。いや、それじゃあまりにもストレート過ぎるな。岩橋さんに知れたら恥ずかし過ぎる、ここは無難にタマとでも呼んどくか……なんて呑気な事考えてる場合じゃ無ぇだろ、俺! 目の前に岩橋さんが居るんだからもっと話をしないと。だが、何を話せば良いものやら。まずは無難な話題から攻めていかないとな。
そこから俺は頑張って岩橋さんの趣味を質問したり、自分の好きな事について話したりした。正直言って、俺の好きな事など話されたところで面白くも何とも無いだろう。だが、岩橋さんは律儀にも頷いたり相槌を打ったりしながら聞いてくれた。
コンビニは通学路の途中にあるので当然俺達と同じ制服を着た生徒が何人も俺達の前を通り過ぎる。もし同級生が通って、俺と岩橋さんが二人で居るところを見られたらどう思われるだろう? 噂になったりするんだろうか? それはそれで俺としては寧ろウェルカムなんだが、幸か不幸か見知った顔は一つも通らなかった。
「そろそろ行こうか」
俺は岩橋さんがジュースを飲み終えたのを見計らってスポーツドリンクを一気に喉に流し込んだ。岩橋さんは「うん」と頷いて、俺に手を差し出した。これって握手か? それとも手を繋いで良いって事なのか? 悩んで動けないでいる俺に岩橋さんはにっこり笑って言った。
「加藤君のペットボトルも空でしょ? 捨ててくるから貸して」
うっわ、危ねぇ……思いっきり勘違いして、手を握っちまうトコだったぜ。まあ、世の中そんな甘く無いわな。
このコンビニのゴミ箱は店の中にある。俺から空のペットボトルを受け取った岩橋さんは店の中に入った。俺も一緒に行きたかったが、ココは我慢だ。岩橋さんが「捨ててくる」と言ったのに俺も一緒に行くと妙に思われるかもしれないからな。
「お待たせ」
紙パックとペットボトルを捨て、店から出て来た岩橋さんを笑顔でむかえる俺。何か良い雰囲気じゃないか? えっ、そう思うのは俺だけ? やっぱりそうか……まあ、そりゃそうだろうな。
ともかく俺と岩橋さんは二人並んで歩き出した。
歩きながら岩橋さんはずっと俺のたわいもない話を聞いて時には頷き、時には相槌を打ち、そして時には笑ってくれた。だが、幸せな時間は永遠には続かない。
「ほら、あのマンション。私、あそこに住んでるの」
岩橋さんは大きなマンションを指差した。東京にでも行けばもっと大きな、所謂タワーマンションとか言うヤツもあるのだろうが、残念ながら俺が住んでいる地方都市にはそんな代物など存在しない。しかしこの近辺としてはアレは高級マンションだ。岩橋さんの家って、お金持ちなのか?
などとまたつまらん事を考えている場合では無い。あのマンションに岩橋さんが住んでいるという事は、あと数分、いや、数十秒でサヨナラという事だ。名残惜しいがこればっかりはどうしようもない。ちなみに俺の家まではあと十分弱歩かなければならない。
「じゃあ、また明日ね。さよなら、加藤君」
マンションの前に着いてしまった時、岩橋さんはそう言った。
聞いたか? 『また明日ね』だって。そんな事女の子に言われたの、生まれて初めてだ。俺は舞い上がりそうになる自分を抑えるのに必死だった。
「うん、じゃあまた明日。さよなら、岩橋さん」
思いっきり無難な挨拶、と言うか岩橋さんが言った別れの挨拶と一緒じゃねーか。自分のボキャブラリーの無さに腹が立つばかりだ。
一人になって何歩か歩いた俺がふと立ち止まり、ちらっと振り返って見るとマンションのエントランスを歩く岩橋さんの後ろ姿が見えた。思わず立ち止まった俺の目に信じられないモノが映った。なんと岩橋さんも振り返って俺の方を見たのだ。
これは偶然なのか? いや、違う。これは必然だ。きっと岩橋さんは何度も振り返っていて、俺が振り返った事でやっと二人の視線がクロスしたんだ。きっとそうだ、そうに違い無い。異論は認めない。良いだろ、それぐらい夢見たって。
嬉しくなった俺が手を振ると、岩橋さんも手を振り返してくれた。これって、良い感じじゃないか? だが、あまりしつこいのも何だ、俺は手を降ろし、前を向いて歩き出した。もちろん顔が緩みきっている事は言うまでも無いだろう。
岩橋さんは驚いた様な、戸惑った様な声を上げた。もちろん本当は友達以上になりたいよ。でも、いきなりそんな事を言うわけにもいかないだろう。まずはお友達からってヤツだ。そして俺はもう一つ、大事な事を付け加えた。
「和彦には彼女が居るし、そこから女の子の友達だって作れるんじゃないかな?」
岩橋さんは女の子。友達が男の俺だけというわけにはいかない。そこで俺の親友和彦の彼女である由美ちゃんに協力してもらって友達の輪を広げてもらおうと言う算段だ。我ながら見事な考えだと思うんだが、どうだろう? すると俺の期待通りのリアクションが返って来た。
「うん。ありがとう、加藤君」
岩橋さんは俺の提案を喜んでくれた様だ。こうして最初の一歩、俺と岩橋さんとの友達付き合いが始まったのだ。あの子猫には感謝だな。俺と岩橋さんを結びつけてくれたからキューピッドと命名しよう。いや、それじゃあまりにもストレート過ぎるな。岩橋さんに知れたら恥ずかし過ぎる、ここは無難にタマとでも呼んどくか……なんて呑気な事考えてる場合じゃ無ぇだろ、俺! 目の前に岩橋さんが居るんだからもっと話をしないと。だが、何を話せば良いものやら。まずは無難な話題から攻めていかないとな。
そこから俺は頑張って岩橋さんの趣味を質問したり、自分の好きな事について話したりした。正直言って、俺の好きな事など話されたところで面白くも何とも無いだろう。だが、岩橋さんは律儀にも頷いたり相槌を打ったりしながら聞いてくれた。
コンビニは通学路の途中にあるので当然俺達と同じ制服を着た生徒が何人も俺達の前を通り過ぎる。もし同級生が通って、俺と岩橋さんが二人で居るところを見られたらどう思われるだろう? 噂になったりするんだろうか? それはそれで俺としては寧ろウェルカムなんだが、幸か不幸か見知った顔は一つも通らなかった。
「そろそろ行こうか」
俺は岩橋さんがジュースを飲み終えたのを見計らってスポーツドリンクを一気に喉に流し込んだ。岩橋さんは「うん」と頷いて、俺に手を差し出した。これって握手か? それとも手を繋いで良いって事なのか? 悩んで動けないでいる俺に岩橋さんはにっこり笑って言った。
「加藤君のペットボトルも空でしょ? 捨ててくるから貸して」
うっわ、危ねぇ……思いっきり勘違いして、手を握っちまうトコだったぜ。まあ、世の中そんな甘く無いわな。
このコンビニのゴミ箱は店の中にある。俺から空のペットボトルを受け取った岩橋さんは店の中に入った。俺も一緒に行きたかったが、ココは我慢だ。岩橋さんが「捨ててくる」と言ったのに俺も一緒に行くと妙に思われるかもしれないからな。
「お待たせ」
紙パックとペットボトルを捨て、店から出て来た岩橋さんを笑顔でむかえる俺。何か良い雰囲気じゃないか? えっ、そう思うのは俺だけ? やっぱりそうか……まあ、そりゃそうだろうな。
ともかく俺と岩橋さんは二人並んで歩き出した。
歩きながら岩橋さんはずっと俺のたわいもない話を聞いて時には頷き、時には相槌を打ち、そして時には笑ってくれた。だが、幸せな時間は永遠には続かない。
「ほら、あのマンション。私、あそこに住んでるの」
岩橋さんは大きなマンションを指差した。東京にでも行けばもっと大きな、所謂タワーマンションとか言うヤツもあるのだろうが、残念ながら俺が住んでいる地方都市にはそんな代物など存在しない。しかしこの近辺としてはアレは高級マンションだ。岩橋さんの家って、お金持ちなのか?
などとまたつまらん事を考えている場合では無い。あのマンションに岩橋さんが住んでいるという事は、あと数分、いや、数十秒でサヨナラという事だ。名残惜しいがこればっかりはどうしようもない。ちなみに俺の家まではあと十分弱歩かなければならない。
「じゃあ、また明日ね。さよなら、加藤君」
マンションの前に着いてしまった時、岩橋さんはそう言った。
聞いたか? 『また明日ね』だって。そんな事女の子に言われたの、生まれて初めてだ。俺は舞い上がりそうになる自分を抑えるのに必死だった。
「うん、じゃあまた明日。さよなら、岩橋さん」
思いっきり無難な挨拶、と言うか岩橋さんが言った別れの挨拶と一緒じゃねーか。自分のボキャブラリーの無さに腹が立つばかりだ。
一人になって何歩か歩いた俺がふと立ち止まり、ちらっと振り返って見るとマンションのエントランスを歩く岩橋さんの後ろ姿が見えた。思わず立ち止まった俺の目に信じられないモノが映った。なんと岩橋さんも振り返って俺の方を見たのだ。
これは偶然なのか? いや、違う。これは必然だ。きっと岩橋さんは何度も振り返っていて、俺が振り返った事でやっと二人の視線がクロスしたんだ。きっとそうだ、そうに違い無い。異論は認めない。良いだろ、それぐらい夢見たって。
嬉しくなった俺が手を振ると、岩橋さんも手を振り返してくれた。これって、良い感じじゃないか? だが、あまりしつこいのも何だ、俺は手を降ろし、前を向いて歩き出した。もちろん顔が緩みきっている事は言うまでも無いだろう。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
【完結】4公爵令嬢は、この世から居なくなる為に、魔女の薬を飲んだ。王子様のキスで目覚めて、本当の愛を与えてもらった。
華蓮
恋愛
王子の婚約者マリアが、浮気をされ、公務だけすることに絶えることができず、魔女に会い、薬をもらって自死する。
【完結】貴方のために涙は流しません
ユユ
恋愛
私の涙には希少価値がある。
一人の女神様によって無理矢理
連れてこられたのは
小説の世界をなんとかするためだった。
私は虐げられることを
黙っているアリスではない。
“母親の言うことを聞きなさい”
あんたはアリスの父親を寝とっただけの女で
母親じゃない。
“婚約者なら言うことを聞け”
なら、お前が聞け。
後妻や婚約者や駄女神に屈しない!
好き勝手に変えてやる!
※ 作り話です
※ 15万字前後
※ 完結保証付き
兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!
ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。
自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。
しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。
「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」
「は?」
母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。
「もう縁を切ろう」
「マリー」
家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。
義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。
対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。
「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」
都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。
「お兄様にお任せします」
実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。
記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
【完結】婚約者と幼馴染があまりにも仲良しなので喜んで身を引きます。
天歌
恋愛
「あーーん!ダンテェ!ちょっと聞いてよっ!」
甘えた声でそう言いながら来たかと思えば、私の婚約者ダンテに寄り添うこの女性は、ダンテの幼馴染アリエラ様。
「ちょ、ちょっとアリエラ…。シャティアが見ているぞ」
ダンテはアリエラ様を軽く手で制止しつつも、私の方をチラチラと見ながら満更でも無いようだ。
「あ、シャティア様もいたんですね〜。そんな事よりもダンテッ…あのね…」
この距離で私が見えなければ医者を全力でお勧めしたい。
そして完全に2人の世界に入っていく婚約者とその幼馴染…。
いつもこうなのだ。
いつも私がダンテと過ごしていると必ずと言って良いほどアリエラ様が現れ2人の世界へ旅立たれる。
私も想い合う2人を引き離すような悪女ではありませんよ?
喜んで、身を引かせていただきます!
短編予定です。
設定緩いかもしれません。お許しください。
感想欄、返す自信が無く閉じています
百姓貴族はお呼びじゃないと言われ婚約破棄をされて追放されたので隣国で農業しながら幸せになります!
ユウ
恋愛
多くの女神が存在する世界で豊穣の加護というマイナーな加護を持つ伯爵令嬢のアンリは理不尽な理由で婚約を破棄されてしまう。
相手は侯爵家の子息で、本人の言い分では…
「百姓貴族はお呼びじゃない!」
…とのことだった。
優れた加護を持たないアンリが唯一使役出るのはゴーレムぐらいだった。
周りからも馬鹿にされ社交界からも事実上追放の身になっただけでなく大事な領地を慰謝料変わりだと奪われてしまう。
王都から離れて辺境地にて新たな一歩をゴーレムと一から出直すことにしたのだが…その荒れ地は精霊の聖地だった。
森の精霊が住まう地で農業を始めたアンリは腹ペコの少年アレクと出会うのだった。
一方、理不尽な理由でアンリを社交界から追放したことで、豊穣の女神を怒らせたことで裁きを受けることになった元婚約者達は――。
アンリから奪った領地は不作になり、実家の領地では災害が続き災難が続いた。
しかもアンリの財産を奪ったことがばれてしまい、第三機関から訴えられることとなり窮地に立たされ、止む終えず、アンリを呼び戻そうとしたが、既にアンリは国にはいなかった。
本の虫令嬢は幼馴染に夢中な婚約者に愛想を尽かす
初瀬 叶
恋愛
『本の虫令嬢』
こんな通り名がつく様になったのは、いつの頃からだろうか?……もう随分前の事で忘れた。
私、マーガレット・ロビーには婚約者が居る。幼い頃に決められた婚約者、彼の名前はフェリックス・ハウエル侯爵令息。彼は私より二つ歳上の十九歳。いや、もうすぐ二十歳か。まだ新人だが、近衛騎士として王宮で働いている。
私は彼との初めての顔合せの時を思い出していた。あれはもう十年前だ。
『お前がマーガレットか。僕の名はフェリックスだ。僕は侯爵の息子、お前は伯爵の娘だから『フェリックス様』と呼ぶように」
十歳のフェリックス様から高圧的にそう言われた。まだ七つの私はなんだか威張った男の子だな……と思ったが『わかりました。フェリックス様』と素直に返事をした。
そして続けて、
『僕は将来立派な近衛騎士になって、ステファニーを守る。これは約束なんだ。だからお前よりステファニーを優先する事があっても文句を言うな』
挨拶もそこそこに彼の口から飛び出したのはこんな言葉だった。
※中世ヨーロッパ風のお話ですが私の頭の中の異世界のお話です
※史実には則っておりませんのでご了承下さい
※相変わらずのゆるふわ設定です
※第26話でステファニーの事をスカーレットと書き間違えておりました。訂正しましたが、混乱させてしまって申し訳ありません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる