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序章:ダンジョンに癒しを求めて。
休暇の冒険~もふもふなダンジョン~
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この日は“白の楽園”と呼ばれるダンジョンに来ていた。
…昨日遊園地に行かなかったか…って?
ナンノコトカナ?
私は休暇中だ!休んで何が悪い…!?
…こほん、今私達が居るのは“白の楽園”と呼ばれる白くてもふもふな魔物──角兎や、白狼、暗殺猫、詐欺鼠や白熊が多くいる祠ダンジョン──と言うが、ここも昨日行った遊園地同様、戦闘のないダンジョンだ。
白の楽園──と名付けたのも作ったのも私だ。
先のダンジョン同様ゲートを潜ると全員魔力を吸い取られる。
遊園地とは違って一律“2000”ポイント、3歳以下は入場不可だ。
因みにこれらの“娯楽ダンジョン”は自身の魔力がなければ、魔石での現物支払いも可だ。
…この世界、魔物が普通に居るので村の子供でもゴブリン程度なら2、3匹くらいなら同時に相手しても狩れる。
寧ろ、弱いのは罪だ。
…流石に10匹を越すゴブリンの群れだと苦労するが。
なのでそんな場合は冒険者を雇うか、街まで警備兵を呼ぶかする。
ステータスもレベルもあるので、どんな辺境の村人でもレベル10~15はある。
そのくらいだとMP2、300ある。
後は職業があると、尚良い。
魔力の上がり易い、魔力操作が高いスキルでもあれば…普通に生きていく分には何の問題もない。
「はあー、癒しだわ~~♪」
「にゃ~♪♪」
暗殺猫は見た目黒猫で紅い瞳のかわいい猫だ──ただ、隠密とか気配遮断とか暗殺術のスキルがマックスなだけのS級に指定されている魔物なだけで──
「おぅ。確かになっ♪」
このダンジョンはエリア毎に魔物の展示の仕方が変わる。
こうしたかわいい外見の魔物とふれあう草原エリアとガラス窓で仕切られた向こう側で自然を模した森に魔物が生活している様を見学する“展示エリア”、かわいい魔物とふれあいながら、カフェを楽しむ“もふもふカフェ”、体験コーナーとしてこれらの魔物と模擬戦闘をする“体育館”もある。
参加は無料だが、負けるとレベルを2ダウンされる。
…吸われた経験値は相対した魔物へと流れる。
今のところ、彼らに勝った者は居ない──皆レベルが90以上はあるから。シャルティエの意向で。
勝ったら──そんな魔物をテイムできる…かもしれない。
ここだけは武器の所持は“体育館内限定”で許可されている。
…それから、ダンジョンの外に宿が建っている。
その宿の隣は騎士団の詰所。
…小さいながら街が出来ている。
「草原でくつろいでもふもふをもふる…これ、危険なんだよな?」
「うん、レベル98だよ~その黒猫とか。ねー、くぅちゃん?」
「にゃ~♪」
黒猫の首元をくすぐって草原に敷物を敷いて転がる。
体長30㎝くらいしかないちょっと大きな猫──だけど、とっても危険。
今は猫じゃらしにじゃれているだけの愛くるしい猫だが…一度狩りになると──怖いっ!
気配なく近付いて、レベル90も越えていれば、普通に光学迷彩を持っているので気配遮断して、スキルを発動し、音も気配もなく近付いて急所を突く。
爪だろうと牙だろうと当たった瞬間に即死だ。
「にゃっ、にゃっ!」
「あ~かわいい~~っ♡」
元気な黒猫を愛でるシャルティエが主だと娯楽ダンジョンの魔物は知っている。
…普通に戦闘アリのダンジョンだと魔物は容赦なく襲ってくるそうだ。
「おおぅ、これか!これなのか!?」
こちょこちょと別の黒猫の腹をくすぐる。
「にゃっ、にゃっ!」
「にゃぁ~」
「にーにーにー」
「にゃにゃっ!?」
小さな小人族の子供に黒猫が追い掛けまわされている。
「つかまえろ~!!」
「にゃぁ!?にゃにゃっ!にゃ~♪♪」
小人族の見た目はロードなんとかリングのホビット族のように大人も子供も小さい。
見た目はエルフとそんなに変わらない──一説には小人族は精霊の仲間ともされている。
草原を駆けまわる小人族の子供の身長は80㎝ほどだ。
…これでも10歳なのだと言われても信じられない。
「つっかまえた~!きゃははっ♪♪」
「やったやったー♪♪」
「わーいわーい!」
ぎゅっと黒猫に抱き付く小人族の子供と、やっと捕まえれた兄弟?に手を叩いて喜んでいる小人族の女の子とぴょんぴょんと跳び跳ねて喜ぶ女の子…とても和む光景だ。
黒猫の方も子供達が捕まえ易いように、手加減しているし…皆楽しそうだ。
「和む…」
「和むな…平和ってこう言うのだと思う」
「確かに。」
「ん?あなたは…?」
ぺこり、と軽く会釈した男性は…人よりの狼獣人で朔の家庭教師だ。
この世界から来たばかりの頃、この世界の事を教えるようにシャルティエが手配した灰色の毛並みの耳と尾、髪は同色で頭頂部の所で括っている。
瞳は切れ長の金の瞳。
整った顔立ちは中性的で穏やかな気性そのものの微笑みを称えた二十歳前後の青年──まあ、エルフ同様獣人の彼も寿命が長い。
こんな見た目で200歳を軽く越えている。
「お久しぶりです、朔様。」
「ルディエル先生…はどうし──ああ、ご家族ですか?」
「ええ、たまには羽休めに来ようかと思いまして。」
「ととさま、このお兄さんは?」
「ああ、ルル──このお兄さんは俺の元生徒で名前は朔、ご挨拶して」
「あい!…はじめまして、ルル・ベルカライドですっ!オムライスが一番すきですっ。よろしくですっ!」
「ベルも、ほら」
「…ベルディナント・ベルカライド。ルルの兄だ。」
人懐っこい女の子がルル、ぶっきらぼうな少年がベルディナント。
二人は同じ色の毛並みで、耳も尾も父親のルディエルに似た形だ。
「初めまして。俺は朔…シャルの彼氏だ」
そんな紹介をされて、シャルティエが思わずむっとする。
「…朔っ、そこは婚約者とか──ぁっ!」
「…シャル…はあ、今のは忘れてください。」
「クスクス…ええ、何も聞いてませんよ?…くくっ」
顎に指を滑らせて上品に笑うルディエルに朔は呆れたような諦めたように窘めた。
「んん~??」
ルルが首を傾げる…よく分からなかったようだ。
「…シャルティエ様と結婚するなら、公爵様に気を付けろ。きっと駄々を捏ねるから」
と、ベルディナントは冷静に淡々と忠告した。
女の子の方は側にいる母親のピンク色の瞳、男の子の方は金の瞳だ。
「…おぅ。シャルから聞いた…すごかったって。」
「…ん。それで大体合ってる…気を付けろ、公爵様もシャルティエのお兄様もとても恐い人…でもシャルティエ様思いでシャルティエ様贔屓だ…覚悟しろ、きっと対戦を申し込まれるだろうからな。」
とても長文を話したのに息一つ乱さずに言うベルディナント…彼は意外と気遣いのできる紳士。まだ10歳の子供だけれど。
「…おぅ。肝に命じておく。ありがとうな、ベルディナント」
「…いい、お兄さんなかなか勇者だから」
「…勇者?」
「…エンハイム公爵家の至宝にプロポーズなんて…勇者以外の何者でもない。
…そう言った自殺志願者は漏れなくあの世に──ごほん、これ以上は言えないけど…皆“死ぬよりも”辛い目に遭ったのか…死んだような瞳をしていた。俺は知らないけど…あそこは危険だ、気を付けろ」
何度も“気を付けろ”と言われれば多少気にもなるが─…
「ふふっ、朔様ならきっと大丈夫ですよ。──恐らく。」
「先生…それってちっとも大丈夫じゃないですか」
ふふと笑うルディエルに同意は得られないようだ。
「…では、私は家族サービスに戻りますね、朔様。」
「……はい。」
スタスタと離れていくルディエル一家を見送る。
「…気にしてはだめよ、朔。」
「おぅ。そうだな…うん、もふもふを堪能しよう。」
敷物の上に腰掛けて近寄ってきた詐欺鼠──見た目はハムスター、ほら…何だったか?とっとこハ○太郎の○ム太郎の種類の…あれ。手に乗る。小さい。かわいい。
種族名…?そんなのは知らん。ググってくれ。お手元のスマホで、さあ!
…こほん。
但し、その額には赤い魔石が引っ付いているし、簡単には取れない。
──“詐欺鼠”ってついているのに愛くるしい…?
まあ、何も知らなければそうだろうねー。
「うわっ!?」
「ひぃっ!!」
「ぎゃぴ…っ!?」
いかにも悪そうな3人組が“詐欺鼠”に一人は吊し上げられ、一人は股間を強打され、一人は鳩尾に強烈な右ストレートを受けていた。
…うん?
意味が分からないって?
そんな事言われても。
「うっわ~~ないわ…。」
吊るされているロン毛の男はエッフェル塔のような高さの尖塔から蔦でキリキリと絞められ気絶…え、見ての通りだよ?
「…なんか股間がひゅってなったぞ!?これ、自分じゃなくても嫌だわ…」
…ああ、股間を蝿叩きで強打されている小太り禿げ──の被害者か。
ぶくぶくと謎の白い泡を口から垂れ流したまま、倒れている。
…これ、誰が運ぶの?
「鳩尾の奴も泡吹いて白目で寝ているの?迷惑でしょうが!せめて端に寄りなさい、往来の邪魔よ!!」
…いやいや、クーネさん?
無理ですからね??
倒れている人間に動けって…。
「あれ?クーネさん?」
「はい、クーネさんですよ?」
シャルティエ、首を傾げる。
深紅の髪に琥珀色の瞳の和服美女──その額には角が2つ。
…今日は丈の短い和装だ。
上は着物のようだが、下はスカートになっている。
「クーネさんも癒しに?」
「それ以外に何かあんの?」
「ないです。」
「でしょう?ふふ、この塔、見事ね。」
「はい…、じゃない、クーネさんは休暇で?」
「そうよ、私には癒しが必要なのよ!」
「…それ、昨日も言いませんでしたか?…と言うよりクーネさんが働いてる所、見たことないです。」
「あっはっはっ!照れるじゃん♪」
薄紫色、蝶が舞うレリーフの扇子を広げてぱたぱたと扇ぎながら、豪快に笑うクーネ。
…彼女は鬼人族だ。
まあ、“鬼”と言われる人種。
身体能力に優れ、特殊な符術を得意とする種族。
東の国から遠路遥々やってきた風来坊─…それがクーネに対する周りの認識である。
“働いたら負け”を地で行くニート思考な癖に妙に人タラシでろくでなし。
だが、優しく強い器の大きい女性──一応、シャルティエ達兄弟の体術の教師でもあった。
…娘過保護な“あの”公爵が認めた相手だ。
実力は折り紙付き…ただ、色々とダメな所がある。
賭博好きで散財しても周囲に泣き付いてお金の無心をしている姿が度々目撃されている。
「…いいじゃない、私の事は。二人、結婚するんでしょ?おめでとう。」
「ありがとうございます──お金は、貸しませんよ?」
「──チッ」
気を付けないといけないのは言質を取られること。金は貸してはいけない──帰ってこないから。
賭けもしてはいけない。
何か勝負する時は何も賭けないこと。
…ずるずると財布になるよ?
舌打ちしたクーネを一瞥して、シャルティエは膝上の猫の頭を撫でる。
眼前では詐欺鼠3匹がハイタッチしていた。
「キキッ!」
「チチチッ♪」
「キュッキュッ☆」
見た目は人畜無害のハムスター──その実体は対物攻撃&魔法攻撃のスペシャリスト。
しかもちまこい身体で縦横無尽に戦場を駆けまわる為、狙いづらいのだ。
胴体視力と魔力操作の上位互換である魔力支配のスキルを持つ彼らは、主であるシャルティエの影響か…人間並みの悪知恵と閃きが働く。
エッフェル塔も、蝿叩きで股間強打も、鳩尾にストレートもシャルティエの前世の記憶と人間として、“こんな姿は晒したくない”と思われる、人が嫌な事を熟知している。
しばらくはこのままオブジェだ。
“見た目に騙されてはいけない”──そう言う最たるものだろう。
「キキ、ララ、ベル…お疲れ様。悪いけど端に寄せてくれる?クーネさんが邪魔だって」
「キキッ!」
「キュッキュッ!」
「キュキュッ♪」
シャルティエの言葉に了承を示すように頷いて魔法でエッフェル塔を端に寄せる。
「おおっ、すげぇ…塔が勝手に…それに片手(片足?)でずるずる足を引き摺られている小太り禿げもなんか…草が顔面に刺さって痛そうだな…ああ、鳩尾に一撃貰ってた男が一番ましだな…気絶してるし」
と、端的に見えた光景を朔が解説する。
…まあ、これも一種の“恒例行事”となっている。
「今回も早かったな~。」
「あー、俺見逃した!」
「ドンマイ、また次があんだろ。」
「おぅ!…けどな~見たかったわ~。」
草原で寛ぐもふもふ好きの同士──冒険者の男達──はそんな会話をしながら、別の詐欺鼠を手に乗せて厳つい顔をでれでれの気持ち悪い表情にしながらも至福の時を満喫しているようだ。
その隣では黒猫をじゃらしで戯れるおっさんと肩からでん!と白熊に乗っ掛かられている筋肉ムキムキの男の図は─…色々と目に痛い。吐き気が…ぉぇっ。
「ここは暴れる所でも“あわよくば”でどうにかなるほど、レベルに差があると思うのだけど…どうしてあんなのが湧くのかしら?」
「それは、馬鹿だからよ。シャルシャル~♪」
「クーネさん…流石にそんな事は…」
ない、とは言いきれない。かもしれない。
こんな愛くるしい生物を拐って売ろうとする阿保は彼岸の実力差なんて気にもしない。
所詮粋がった盗賊崩れ。
鑑定スキルさえ持たない弱者。
成功例なんか一度も聞かないのに──尚も挑む無知さ。
「…まあ、一種のショーになっているからいっか。」
「いいのか?」
「うん、面倒い」
バカ王子に次ぐ阿保具合にいちいち気にしてられない。
今、自分は休暇中だ。
…あれらの問題は休暇開けでも十分だろう。
「…そうか。」
「うん、今はくぅちゃんと遊ぶのが私の仕事だもんね~♪」
「にゃにゃっ♪」
このエリアの魔物達は皆人懐っこいし、サービス精神旺盛だ。
子供と追い掛けっこをしてわざと負けてくれるし、ぐずっている子供が居たらすぐさま駆けつけてあやしてくれる。
…そのようにシャルティエが願いを魔力に込めて作った。
本来、野生の魔物はこのように人懐っこくはないし、獰猛で危険だ。
詐欺鼠は“鼠種全般”ならどんな鼠にも変化可能で、魔法と物理攻撃を併用してくる、非常に厄介な害獣でもある。
雑食で人間が食べるような火に掛けた料理も普通に食せるし、家畜も田畑も荒らす。
…その上、ゴブリンは粉砕して補食する…鼠なので、噛まれたり引っ掛かられると雑菌が傷口から侵入して心不全、脳卒中、意識混濁に陥り場合によっては死に至る。
…色々な動物や魔物を食するからだと言われる病気に罹る──ので、見つけ次第速攻駆除が原則だ。
本来Sランク指定の討伐依頼が毎年春の時期になると出ているほど。
(※詐欺鼠は春になると発情期──つまり、子孫を残そうと寒いところから温暖な地域に移動してくる)
「…ここではもふもふを堪能すればいいのよ、何も考えず、ね?」
「にゃ~♪」
黒猫を抱き締めごろごろと敷物の上で転がるシャルティエを微笑ましそうな顔でクーネに見下ろす。
「…まあ、あなたが作ったダンジョンだからいいんじゃないの?私も癒されるし。」
呆れたような溜め息を吐くが、自身も角兎を抱き締めているので強くは出られない。
…訪れる客よりも魔物の方が強いとは──これ、如何に?
「…普通はレベル20以上の詐欺鼠は見ないわ…それに、その前に冒険者に狩られてるからこんなに強くなるなんて誰も思わないわよ──まあ、レベル1か2の時に駆除されているのでダンジョン以外だとまず出会わないわね。…角兎もこんなに大人しくはないもの」
「きゅぅ~?」
白くてふわふわな兎の頭に顔を擦り寄せて額の鋭利な角を撫でる。
「…冷たいと思っていたら、意外と温かいのね…すごいわ。」
「きゅぅ~。」
鳴き声も愛らしい角兎を抱き締めながら、草原に腰掛けるクーネ。
シャルティエ達とはだいぶ離れた場所でうさうさをもふもふしていた。
クーネは兎好きだ。
猫も鼠ももふもふであるし、白狼や白熊よりも兎を愛でたい。
…そんなクーネの周りは兎が四方八方を囲んでいた。
このエリアは餌を売店で買うとそれぞれの魔物が寄って来るのだ。
例えば、鼠なら人が普通に食べる各種肉の串焼きだったり、角兎は反対に生の鳥の魔物肉を好み、白熊はリンゴと魚を生でそのまま、白狼は角兎と同じ餌を好む。
共通しているのは雑食だから、果物とかを買えばまあ、全員の受けはいい…ただ、ずっと同じ味は飽きるので餌の種類は変えた方が好かれやすい。
「…はぁ~、癒しね♪」
普段はこうやって愛でている角兎とは良くダンジョンで出会して速攻で狩っている敵だが──ここにいる間だけは忘れていられる。
こうして愛でているものと戦えるのか?
それは愚問、としか言えない。
冒険者がそんな折り合いもつけれずにどうすると言うのか。
この世は弱肉強食。
躊躇ったら、そこで死ぬ。
このダンジョンはこのダンジョン、そんな風に折り合いをつけられないのなら冒険者なぞ辞めてしまえばいい。
事実、このダンジョンを訪れた冒険者が冒険者を引退した、なんて話もざらではない。
…そんな者は実家を継いだり、このダンジョン近くの街で宿屋の従業員として働いたりしている。
「あー、かわいいなぁ~~」
…クーネはろくでなしの風来坊なので。参考にはならない。
クーネの職業は一応冒険者、だが…。
その後、3時間はずっともふもふを堪能していたシャルティエと朔だが今はもふもふカフェに移動している。
「もふもふを堪能しながら、腹を満たせる…ここは楽園ね♪」
「オーナーはお前だろ」
木目の焦げ茶色の床と天井、壁紙…白い丸いテーブルが数席、絨毯の上に白狼て黒猫が丸まっている。
すぅすぅと寝息が聞こえるので、寝ているのだろう。
「カフェだから、軽食しかないけどね~。
一応魔物達のおやつは売ってるけど。串焼きとか、魔物肉のステーキとか、果物とか。」
「…その代わり飲み物の種類が豊富だ。酒は一切ないと言うのも喫茶店らしいけどな」
レストランや酒場はダンジョンを出てすぐの街で済ませればいい。
ここを訪れる者は皆お行儀良くなるのだ。
…そんなシャルティエが独断と偏見と趣味に走って出来たこのダンジョンの魔物にぼこぼこにされて。
何度もやられてると流石に学習する…馬鹿でも阿保でもなければ。
落ち着いた店内でもふもふと戯れる。
ドリンクオーダー制で、その他もふもふ達のおやつなんかは別料金だ。
滞在時間は一人3時間まで。
それ以上は追加で何かを注文しなくてはいけない。
席は小人族用の小さめのから人間用のほどよい大きさのから、獣人族用の頑丈で大きめのテーブル席があちこちにある感じだ。
…それと誰でも座れる絨毯エリアがある。
10m×10mの四角形の赤い絨毯の上に小人族の家族と獣人族とエルフの男女が座って黒猫と白狼に埋もれていた。
「は~、最高だわ」
「同意。…ここは楽園。私はここに住みたい」
黒色の毛並み、赤い瞳の獣寄りの獣人族の男と白銀の髪をポニーテールに、つり目の金色の瞳をしたエルフの胸元は…少々寂しい。
「…誰が寂しいだと?」
ギロッと睨まれた。
「…あれ?リフィとガイも来てたのね」
「ん。久しぶり。…シャルとは2年前の武道大会以来…元気そう。良かった。」
「武道大会…懐かしいわね。朔もガイも出たでしょ?」
「おぅ。個人戦でぶつかって俺が勝ったんだ」
「…ああ、完膚なきまでに叩きのめされたな」
武道大会…それは“リフィ”と呼ばれたエルフの国の王都で4年毎に開かれる武の祭典──参加はエルフでなくとも構わない。
賞金や商品も出る。
結構大きな闘技場でチケットも毎回予約だけで完売する。
商業ギルドを中心に出店や露店、大会中は大会用の武器を扱う…それらは試合後返却が原則だ。
交渉次第では買い取りも可能だが──一定の攻撃力しかない武器と防具、試合中は大会指定のポーションが数個しか手渡されない。
これらは参加費から出ている。
「魔法部門と物理攻撃部門で分かれて…私とシャルは魔法部門で戦った。負けた…でも楽しかった。シャル、次の大会でまた戦おう」
2年前──シャルティエが16歳の時、武道大会でぶつかった相手だ。
互いに無詠唱で強力無比な魅せる魔法 を連発して観客を沸かせた好敵手、その試合後に連絡先を交換して友人となった。
派手で綺麗で当たると大ダメージを食らう魔法を連発するのだから…互いに気付いたのだ。同類と。
「ビッグバンとかダメでしょ」
「…シャルこそインデ○グネーションとか…どこのテイ○ズ?好きだけど。」
…とまあやたらと派手でカッコいい魔法のオンパレードだった。
いくら、試合会場のコーナー全域に広範囲結界が張られていても…術者のエルフ達が真っ青な顔をしながら、結界を維持していた。
「そのあとのタイダルウェーブとか…津波だろ、アレ?」
「おぅ、関東大震災の時を思い出したわ~」
ガイと朔が順に口にした言葉に二人が同意する。
「「それな!」」
グッと親指突き立ててサムズアップ。
「まったく同じタイミングで“津波かよっ!?”って突っ込んだわね♪」
「ん。魔法を撃ち合いながら、私達は沢山話した(魔法で)」
「お互い転生した身だから気が合うのよね~」
「そうそう」
黒猫に餌を与えながら、リフィ──リフィアはこくこくと頷く。
「…そうは言ってもパーティを組んでる訳ではないのな?」
「そうね。」
「ん。私はガイの方が楽。シャルは好きだけど…きっと見せ場の取り合いになる。」
「そうね。」
「…そうなのか?」
ええ、と頷くシャルティエに朔はなぜと問い掛けるも、ガイがなぜか答える。
「二人共に派手好きだからな~きっとぶつかるだろうな」
「ああ~なんとなく分かる…」
ガイの言葉に朔は普段のシャルの行動原理を思い返し納得した。
ダンジョン潜っていた方がシャルティエは生き生きしているのだ。
思いっきり派手で強力な魔法をぶっぱなしても、ダンジョンに余った魔力は吸収されるし、環境破壊とかない。
おまけに見せ場を作り放題。
ダンジョン以外の依頼も受けるが…その場合はパーティの後衛としてあまり出娑婆らず魔法要員に徹していた。
…それは派手な魔法で剥ぎ取りする部位を炭化させないためでもあったのだろう。
「だろ?リフィもシャルも基本は同じだからな。二人もリフィは要らん。俺はこいつと行動してるのが一番楽なんだよ、静かだしな」
「…ん。相棒はガイが適任。シャルは友達でいい…あと大会仲間?」
「戦うのが当然の仲間…ってなんだろうな」
「部活のようなものよ、朔。」
部活。
…確かにそう言われればそうかもしれない。
この二人の関係はなんだか、同じ部活に励む部員で友人、そんな雰囲気だ。
「絶対死なないのだから、いくらでも大胆になれる」
「大胆って…」
ふふふと笑うリフィアと呆れたような朔の視線が一瞬交差する。
「まあ、パーティなんてパーティ毎に違って当たり前だし、友達の関係性なんて人それぞれだろ。」
「…まあな」
狼獣人のガイと人間の朔が友人になれたように…時に妙な形で縁が刻まれる事もある。
こうして娯楽ダンジョンや街でたまに見掛ければ、互いに飲みに行ったり、レースを見に行ったりもする。
パーティを組んでいなくても不思議とつるむ…部活と言われればそうかもしれない。
「それより、2年後の武道大会…朔も出るの?」
「…ああ、それも良いかもしれねぇな。」
「俺も出るぜ。…朔、次こそはお前に勝ってみせる!」
「おぅ、吠え面描かせてやるよ」
そう言ってガイの毛に覆われた拳と朔の拳がコツン、と軽くぶつかる。
「…まあ、今はもふもふを愛するだけだな」
「ん」
「おぅ」
「そうね。」
…出会いは大会。
それからリフィアとシャルティエの交流は続いた。
似たような嗜好で魔法を放つ者同士、通じ合うものがあるのか、シャルティエがダンジョンマスターであると知って…“まさか”変わったダンジョンの数々はシャルティエがスキルで創った者だと知ってからは実はもふもふ好きでもあったリフィアは益々シャルティエと仲良くなった。
…どれくらいかと言うと、公爵家の玄関で“シャルに”の段階で通されるほど。顔パスである。
魔法の模擬戦(途中から本気になる)を地下で中庭でしたり。
一緒に汗を流したりもする。
姉妹のようであり、好敵手。
言葉数の少ない友人だが、シャルティエもシャルティエの家族も気に入っている。勿論、使用人や庭師、料理人も。
「…パーティ活動がまちまちだったのは公爵家での執務だけじゃなかったんだな」
「まあね。ずっと仕事な訳ないでしょ?友達と普通に遊んだり出掛けたりもするわよ」
こうして休暇でもふもふに囲まれるのも大事な時間だ。
癒される。
心に潤いが持てる。
シャルティエは18歳。
花も羨むピチピチの乙女。
…因みに朔は今年の夏に21歳になる。
“朔”の名前は八朔から取ったと以前に朔がシャルティエに言った言葉だ。
…今は建国記念日から2日が経って…5月7日。時刻は14:30。
朝の9:00からずっとこのダンジョンでこもっている。
因みにトイレもあるし、なんだったらもふもふ達の餌が人間と兼用している種も居るので普通に美味しい。
売店やお土産屋で食料品もある。
なんだったら、カフェで済ませてもいいのだ。
「はあ~、最高だわ♪」
「同意。もふもふは正義」
ごろんと寝転がるとそのまま腹に白狼と詐欺鼠を乗せて瞼を閉じるシャルティエの姿と、白狼の頭を撫でているのが見える。
…ゆったりとした時間がここにはある。
暗殺猫も詐欺鼠もここではただのかわいい小動物。
実体はそうでなくても、ここでの魔物は人を癒し、子供を慈しむ存在。
…普通のダンジョンじゃない?
それは、シャルティエに言って欲しい。
朔も公爵家も冒険者だって…思ったものだ。
“これ、違うよね?”
…聞き入れたことはないのだ。一度も。
このエンハイム公爵家の領地に住む者は。皆。
“戦わないダンジョン”“魔物を愛でるダンジョン”なんて…始めは馬鹿にされた。
何を言っているんだ、と。
魔物が人を襲わずに居られるか──それが目の前のこの光景。
愛くるしい魔物達と普通に交流ができる、襲われない、懐かれる…これで否定など出来ないだろう。
「もふもふ、最高!!」
「んっ!」
…。
…昨日遊園地に行かなかったか…って?
ナンノコトカナ?
私は休暇中だ!休んで何が悪い…!?
…こほん、今私達が居るのは“白の楽園”と呼ばれる白くてもふもふな魔物──角兎や、白狼、暗殺猫、詐欺鼠や白熊が多くいる祠ダンジョン──と言うが、ここも昨日行った遊園地同様、戦闘のないダンジョンだ。
白の楽園──と名付けたのも作ったのも私だ。
先のダンジョン同様ゲートを潜ると全員魔力を吸い取られる。
遊園地とは違って一律“2000”ポイント、3歳以下は入場不可だ。
因みにこれらの“娯楽ダンジョン”は自身の魔力がなければ、魔石での現物支払いも可だ。
…この世界、魔物が普通に居るので村の子供でもゴブリン程度なら2、3匹くらいなら同時に相手しても狩れる。
寧ろ、弱いのは罪だ。
…流石に10匹を越すゴブリンの群れだと苦労するが。
なのでそんな場合は冒険者を雇うか、街まで警備兵を呼ぶかする。
ステータスもレベルもあるので、どんな辺境の村人でもレベル10~15はある。
そのくらいだとMP2、300ある。
後は職業があると、尚良い。
魔力の上がり易い、魔力操作が高いスキルでもあれば…普通に生きていく分には何の問題もない。
「はあー、癒しだわ~~♪」
「にゃ~♪♪」
暗殺猫は見た目黒猫で紅い瞳のかわいい猫だ──ただ、隠密とか気配遮断とか暗殺術のスキルがマックスなだけのS級に指定されている魔物なだけで──
「おぅ。確かになっ♪」
このダンジョンはエリア毎に魔物の展示の仕方が変わる。
こうしたかわいい外見の魔物とふれあう草原エリアとガラス窓で仕切られた向こう側で自然を模した森に魔物が生活している様を見学する“展示エリア”、かわいい魔物とふれあいながら、カフェを楽しむ“もふもふカフェ”、体験コーナーとしてこれらの魔物と模擬戦闘をする“体育館”もある。
参加は無料だが、負けるとレベルを2ダウンされる。
…吸われた経験値は相対した魔物へと流れる。
今のところ、彼らに勝った者は居ない──皆レベルが90以上はあるから。シャルティエの意向で。
勝ったら──そんな魔物をテイムできる…かもしれない。
ここだけは武器の所持は“体育館内限定”で許可されている。
…それから、ダンジョンの外に宿が建っている。
その宿の隣は騎士団の詰所。
…小さいながら街が出来ている。
「草原でくつろいでもふもふをもふる…これ、危険なんだよな?」
「うん、レベル98だよ~その黒猫とか。ねー、くぅちゃん?」
「にゃ~♪」
黒猫の首元をくすぐって草原に敷物を敷いて転がる。
体長30㎝くらいしかないちょっと大きな猫──だけど、とっても危険。
今は猫じゃらしにじゃれているだけの愛くるしい猫だが…一度狩りになると──怖いっ!
気配なく近付いて、レベル90も越えていれば、普通に光学迷彩を持っているので気配遮断して、スキルを発動し、音も気配もなく近付いて急所を突く。
爪だろうと牙だろうと当たった瞬間に即死だ。
「にゃっ、にゃっ!」
「あ~かわいい~~っ♡」
元気な黒猫を愛でるシャルティエが主だと娯楽ダンジョンの魔物は知っている。
…普通に戦闘アリのダンジョンだと魔物は容赦なく襲ってくるそうだ。
「おおぅ、これか!これなのか!?」
こちょこちょと別の黒猫の腹をくすぐる。
「にゃっ、にゃっ!」
「にゃぁ~」
「にーにーにー」
「にゃにゃっ!?」
小さな小人族の子供に黒猫が追い掛けまわされている。
「つかまえろ~!!」
「にゃぁ!?にゃにゃっ!にゃ~♪♪」
小人族の見た目はロードなんとかリングのホビット族のように大人も子供も小さい。
見た目はエルフとそんなに変わらない──一説には小人族は精霊の仲間ともされている。
草原を駆けまわる小人族の子供の身長は80㎝ほどだ。
…これでも10歳なのだと言われても信じられない。
「つっかまえた~!きゃははっ♪♪」
「やったやったー♪♪」
「わーいわーい!」
ぎゅっと黒猫に抱き付く小人族の子供と、やっと捕まえれた兄弟?に手を叩いて喜んでいる小人族の女の子とぴょんぴょんと跳び跳ねて喜ぶ女の子…とても和む光景だ。
黒猫の方も子供達が捕まえ易いように、手加減しているし…皆楽しそうだ。
「和む…」
「和むな…平和ってこう言うのだと思う」
「確かに。」
「ん?あなたは…?」
ぺこり、と軽く会釈した男性は…人よりの狼獣人で朔の家庭教師だ。
この世界から来たばかりの頃、この世界の事を教えるようにシャルティエが手配した灰色の毛並みの耳と尾、髪は同色で頭頂部の所で括っている。
瞳は切れ長の金の瞳。
整った顔立ちは中性的で穏やかな気性そのものの微笑みを称えた二十歳前後の青年──まあ、エルフ同様獣人の彼も寿命が長い。
こんな見た目で200歳を軽く越えている。
「お久しぶりです、朔様。」
「ルディエル先生…はどうし──ああ、ご家族ですか?」
「ええ、たまには羽休めに来ようかと思いまして。」
「ととさま、このお兄さんは?」
「ああ、ルル──このお兄さんは俺の元生徒で名前は朔、ご挨拶して」
「あい!…はじめまして、ルル・ベルカライドですっ!オムライスが一番すきですっ。よろしくですっ!」
「ベルも、ほら」
「…ベルディナント・ベルカライド。ルルの兄だ。」
人懐っこい女の子がルル、ぶっきらぼうな少年がベルディナント。
二人は同じ色の毛並みで、耳も尾も父親のルディエルに似た形だ。
「初めまして。俺は朔…シャルの彼氏だ」
そんな紹介をされて、シャルティエが思わずむっとする。
「…朔っ、そこは婚約者とか──ぁっ!」
「…シャル…はあ、今のは忘れてください。」
「クスクス…ええ、何も聞いてませんよ?…くくっ」
顎に指を滑らせて上品に笑うルディエルに朔は呆れたような諦めたように窘めた。
「んん~??」
ルルが首を傾げる…よく分からなかったようだ。
「…シャルティエ様と結婚するなら、公爵様に気を付けろ。きっと駄々を捏ねるから」
と、ベルディナントは冷静に淡々と忠告した。
女の子の方は側にいる母親のピンク色の瞳、男の子の方は金の瞳だ。
「…おぅ。シャルから聞いた…すごかったって。」
「…ん。それで大体合ってる…気を付けろ、公爵様もシャルティエのお兄様もとても恐い人…でもシャルティエ様思いでシャルティエ様贔屓だ…覚悟しろ、きっと対戦を申し込まれるだろうからな。」
とても長文を話したのに息一つ乱さずに言うベルディナント…彼は意外と気遣いのできる紳士。まだ10歳の子供だけれど。
「…おぅ。肝に命じておく。ありがとうな、ベルディナント」
「…いい、お兄さんなかなか勇者だから」
「…勇者?」
「…エンハイム公爵家の至宝にプロポーズなんて…勇者以外の何者でもない。
…そう言った自殺志願者は漏れなくあの世に──ごほん、これ以上は言えないけど…皆“死ぬよりも”辛い目に遭ったのか…死んだような瞳をしていた。俺は知らないけど…あそこは危険だ、気を付けろ」
何度も“気を付けろ”と言われれば多少気にもなるが─…
「ふふっ、朔様ならきっと大丈夫ですよ。──恐らく。」
「先生…それってちっとも大丈夫じゃないですか」
ふふと笑うルディエルに同意は得られないようだ。
「…では、私は家族サービスに戻りますね、朔様。」
「……はい。」
スタスタと離れていくルディエル一家を見送る。
「…気にしてはだめよ、朔。」
「おぅ。そうだな…うん、もふもふを堪能しよう。」
敷物の上に腰掛けて近寄ってきた詐欺鼠──見た目はハムスター、ほら…何だったか?とっとこハ○太郎の○ム太郎の種類の…あれ。手に乗る。小さい。かわいい。
種族名…?そんなのは知らん。ググってくれ。お手元のスマホで、さあ!
…こほん。
但し、その額には赤い魔石が引っ付いているし、簡単には取れない。
──“詐欺鼠”ってついているのに愛くるしい…?
まあ、何も知らなければそうだろうねー。
「うわっ!?」
「ひぃっ!!」
「ぎゃぴ…っ!?」
いかにも悪そうな3人組が“詐欺鼠”に一人は吊し上げられ、一人は股間を強打され、一人は鳩尾に強烈な右ストレートを受けていた。
…うん?
意味が分からないって?
そんな事言われても。
「うっわ~~ないわ…。」
吊るされているロン毛の男はエッフェル塔のような高さの尖塔から蔦でキリキリと絞められ気絶…え、見ての通りだよ?
「…なんか股間がひゅってなったぞ!?これ、自分じゃなくても嫌だわ…」
…ああ、股間を蝿叩きで強打されている小太り禿げ──の被害者か。
ぶくぶくと謎の白い泡を口から垂れ流したまま、倒れている。
…これ、誰が運ぶの?
「鳩尾の奴も泡吹いて白目で寝ているの?迷惑でしょうが!せめて端に寄りなさい、往来の邪魔よ!!」
…いやいや、クーネさん?
無理ですからね??
倒れている人間に動けって…。
「あれ?クーネさん?」
「はい、クーネさんですよ?」
シャルティエ、首を傾げる。
深紅の髪に琥珀色の瞳の和服美女──その額には角が2つ。
…今日は丈の短い和装だ。
上は着物のようだが、下はスカートになっている。
「クーネさんも癒しに?」
「それ以外に何かあんの?」
「ないです。」
「でしょう?ふふ、この塔、見事ね。」
「はい…、じゃない、クーネさんは休暇で?」
「そうよ、私には癒しが必要なのよ!」
「…それ、昨日も言いませんでしたか?…と言うよりクーネさんが働いてる所、見たことないです。」
「あっはっはっ!照れるじゃん♪」
薄紫色、蝶が舞うレリーフの扇子を広げてぱたぱたと扇ぎながら、豪快に笑うクーネ。
…彼女は鬼人族だ。
まあ、“鬼”と言われる人種。
身体能力に優れ、特殊な符術を得意とする種族。
東の国から遠路遥々やってきた風来坊─…それがクーネに対する周りの認識である。
“働いたら負け”を地で行くニート思考な癖に妙に人タラシでろくでなし。
だが、優しく強い器の大きい女性──一応、シャルティエ達兄弟の体術の教師でもあった。
…娘過保護な“あの”公爵が認めた相手だ。
実力は折り紙付き…ただ、色々とダメな所がある。
賭博好きで散財しても周囲に泣き付いてお金の無心をしている姿が度々目撃されている。
「…いいじゃない、私の事は。二人、結婚するんでしょ?おめでとう。」
「ありがとうございます──お金は、貸しませんよ?」
「──チッ」
気を付けないといけないのは言質を取られること。金は貸してはいけない──帰ってこないから。
賭けもしてはいけない。
何か勝負する時は何も賭けないこと。
…ずるずると財布になるよ?
舌打ちしたクーネを一瞥して、シャルティエは膝上の猫の頭を撫でる。
眼前では詐欺鼠3匹がハイタッチしていた。
「キキッ!」
「チチチッ♪」
「キュッキュッ☆」
見た目は人畜無害のハムスター──その実体は対物攻撃&魔法攻撃のスペシャリスト。
しかもちまこい身体で縦横無尽に戦場を駆けまわる為、狙いづらいのだ。
胴体視力と魔力操作の上位互換である魔力支配のスキルを持つ彼らは、主であるシャルティエの影響か…人間並みの悪知恵と閃きが働く。
エッフェル塔も、蝿叩きで股間強打も、鳩尾にストレートもシャルティエの前世の記憶と人間として、“こんな姿は晒したくない”と思われる、人が嫌な事を熟知している。
しばらくはこのままオブジェだ。
“見た目に騙されてはいけない”──そう言う最たるものだろう。
「キキ、ララ、ベル…お疲れ様。悪いけど端に寄せてくれる?クーネさんが邪魔だって」
「キキッ!」
「キュッキュッ!」
「キュキュッ♪」
シャルティエの言葉に了承を示すように頷いて魔法でエッフェル塔を端に寄せる。
「おおっ、すげぇ…塔が勝手に…それに片手(片足?)でずるずる足を引き摺られている小太り禿げもなんか…草が顔面に刺さって痛そうだな…ああ、鳩尾に一撃貰ってた男が一番ましだな…気絶してるし」
と、端的に見えた光景を朔が解説する。
…まあ、これも一種の“恒例行事”となっている。
「今回も早かったな~。」
「あー、俺見逃した!」
「ドンマイ、また次があんだろ。」
「おぅ!…けどな~見たかったわ~。」
草原で寛ぐもふもふ好きの同士──冒険者の男達──はそんな会話をしながら、別の詐欺鼠を手に乗せて厳つい顔をでれでれの気持ち悪い表情にしながらも至福の時を満喫しているようだ。
その隣では黒猫をじゃらしで戯れるおっさんと肩からでん!と白熊に乗っ掛かられている筋肉ムキムキの男の図は─…色々と目に痛い。吐き気が…ぉぇっ。
「ここは暴れる所でも“あわよくば”でどうにかなるほど、レベルに差があると思うのだけど…どうしてあんなのが湧くのかしら?」
「それは、馬鹿だからよ。シャルシャル~♪」
「クーネさん…流石にそんな事は…」
ない、とは言いきれない。かもしれない。
こんな愛くるしい生物を拐って売ろうとする阿保は彼岸の実力差なんて気にもしない。
所詮粋がった盗賊崩れ。
鑑定スキルさえ持たない弱者。
成功例なんか一度も聞かないのに──尚も挑む無知さ。
「…まあ、一種のショーになっているからいっか。」
「いいのか?」
「うん、面倒い」
バカ王子に次ぐ阿保具合にいちいち気にしてられない。
今、自分は休暇中だ。
…あれらの問題は休暇開けでも十分だろう。
「…そうか。」
「うん、今はくぅちゃんと遊ぶのが私の仕事だもんね~♪」
「にゃにゃっ♪」
このエリアの魔物達は皆人懐っこいし、サービス精神旺盛だ。
子供と追い掛けっこをしてわざと負けてくれるし、ぐずっている子供が居たらすぐさま駆けつけてあやしてくれる。
…そのようにシャルティエが願いを魔力に込めて作った。
本来、野生の魔物はこのように人懐っこくはないし、獰猛で危険だ。
詐欺鼠は“鼠種全般”ならどんな鼠にも変化可能で、魔法と物理攻撃を併用してくる、非常に厄介な害獣でもある。
雑食で人間が食べるような火に掛けた料理も普通に食せるし、家畜も田畑も荒らす。
…その上、ゴブリンは粉砕して補食する…鼠なので、噛まれたり引っ掛かられると雑菌が傷口から侵入して心不全、脳卒中、意識混濁に陥り場合によっては死に至る。
…色々な動物や魔物を食するからだと言われる病気に罹る──ので、見つけ次第速攻駆除が原則だ。
本来Sランク指定の討伐依頼が毎年春の時期になると出ているほど。
(※詐欺鼠は春になると発情期──つまり、子孫を残そうと寒いところから温暖な地域に移動してくる)
「…ここではもふもふを堪能すればいいのよ、何も考えず、ね?」
「にゃ~♪」
黒猫を抱き締めごろごろと敷物の上で転がるシャルティエを微笑ましそうな顔でクーネに見下ろす。
「…まあ、あなたが作ったダンジョンだからいいんじゃないの?私も癒されるし。」
呆れたような溜め息を吐くが、自身も角兎を抱き締めているので強くは出られない。
…訪れる客よりも魔物の方が強いとは──これ、如何に?
「…普通はレベル20以上の詐欺鼠は見ないわ…それに、その前に冒険者に狩られてるからこんなに強くなるなんて誰も思わないわよ──まあ、レベル1か2の時に駆除されているのでダンジョン以外だとまず出会わないわね。…角兎もこんなに大人しくはないもの」
「きゅぅ~?」
白くてふわふわな兎の頭に顔を擦り寄せて額の鋭利な角を撫でる。
「…冷たいと思っていたら、意外と温かいのね…すごいわ。」
「きゅぅ~。」
鳴き声も愛らしい角兎を抱き締めながら、草原に腰掛けるクーネ。
シャルティエ達とはだいぶ離れた場所でうさうさをもふもふしていた。
クーネは兎好きだ。
猫も鼠ももふもふであるし、白狼や白熊よりも兎を愛でたい。
…そんなクーネの周りは兎が四方八方を囲んでいた。
このエリアは餌を売店で買うとそれぞれの魔物が寄って来るのだ。
例えば、鼠なら人が普通に食べる各種肉の串焼きだったり、角兎は反対に生の鳥の魔物肉を好み、白熊はリンゴと魚を生でそのまま、白狼は角兎と同じ餌を好む。
共通しているのは雑食だから、果物とかを買えばまあ、全員の受けはいい…ただ、ずっと同じ味は飽きるので餌の種類は変えた方が好かれやすい。
「…はぁ~、癒しね♪」
普段はこうやって愛でている角兎とは良くダンジョンで出会して速攻で狩っている敵だが──ここにいる間だけは忘れていられる。
こうして愛でているものと戦えるのか?
それは愚問、としか言えない。
冒険者がそんな折り合いもつけれずにどうすると言うのか。
この世は弱肉強食。
躊躇ったら、そこで死ぬ。
このダンジョンはこのダンジョン、そんな風に折り合いをつけられないのなら冒険者なぞ辞めてしまえばいい。
事実、このダンジョンを訪れた冒険者が冒険者を引退した、なんて話もざらではない。
…そんな者は実家を継いだり、このダンジョン近くの街で宿屋の従業員として働いたりしている。
「あー、かわいいなぁ~~」
…クーネはろくでなしの風来坊なので。参考にはならない。
クーネの職業は一応冒険者、だが…。
その後、3時間はずっともふもふを堪能していたシャルティエと朔だが今はもふもふカフェに移動している。
「もふもふを堪能しながら、腹を満たせる…ここは楽園ね♪」
「オーナーはお前だろ」
木目の焦げ茶色の床と天井、壁紙…白い丸いテーブルが数席、絨毯の上に白狼て黒猫が丸まっている。
すぅすぅと寝息が聞こえるので、寝ているのだろう。
「カフェだから、軽食しかないけどね~。
一応魔物達のおやつは売ってるけど。串焼きとか、魔物肉のステーキとか、果物とか。」
「…その代わり飲み物の種類が豊富だ。酒は一切ないと言うのも喫茶店らしいけどな」
レストランや酒場はダンジョンを出てすぐの街で済ませればいい。
ここを訪れる者は皆お行儀良くなるのだ。
…そんなシャルティエが独断と偏見と趣味に走って出来たこのダンジョンの魔物にぼこぼこにされて。
何度もやられてると流石に学習する…馬鹿でも阿保でもなければ。
落ち着いた店内でもふもふと戯れる。
ドリンクオーダー制で、その他もふもふ達のおやつなんかは別料金だ。
滞在時間は一人3時間まで。
それ以上は追加で何かを注文しなくてはいけない。
席は小人族用の小さめのから人間用のほどよい大きさのから、獣人族用の頑丈で大きめのテーブル席があちこちにある感じだ。
…それと誰でも座れる絨毯エリアがある。
10m×10mの四角形の赤い絨毯の上に小人族の家族と獣人族とエルフの男女が座って黒猫と白狼に埋もれていた。
「は~、最高だわ」
「同意。…ここは楽園。私はここに住みたい」
黒色の毛並み、赤い瞳の獣寄りの獣人族の男と白銀の髪をポニーテールに、つり目の金色の瞳をしたエルフの胸元は…少々寂しい。
「…誰が寂しいだと?」
ギロッと睨まれた。
「…あれ?リフィとガイも来てたのね」
「ん。久しぶり。…シャルとは2年前の武道大会以来…元気そう。良かった。」
「武道大会…懐かしいわね。朔もガイも出たでしょ?」
「おぅ。個人戦でぶつかって俺が勝ったんだ」
「…ああ、完膚なきまでに叩きのめされたな」
武道大会…それは“リフィ”と呼ばれたエルフの国の王都で4年毎に開かれる武の祭典──参加はエルフでなくとも構わない。
賞金や商品も出る。
結構大きな闘技場でチケットも毎回予約だけで完売する。
商業ギルドを中心に出店や露店、大会中は大会用の武器を扱う…それらは試合後返却が原則だ。
交渉次第では買い取りも可能だが──一定の攻撃力しかない武器と防具、試合中は大会指定のポーションが数個しか手渡されない。
これらは参加費から出ている。
「魔法部門と物理攻撃部門で分かれて…私とシャルは魔法部門で戦った。負けた…でも楽しかった。シャル、次の大会でまた戦おう」
2年前──シャルティエが16歳の時、武道大会でぶつかった相手だ。
互いに無詠唱で強力無比な魅せる魔法 を連発して観客を沸かせた好敵手、その試合後に連絡先を交換して友人となった。
派手で綺麗で当たると大ダメージを食らう魔法を連発するのだから…互いに気付いたのだ。同類と。
「ビッグバンとかダメでしょ」
「…シャルこそインデ○グネーションとか…どこのテイ○ズ?好きだけど。」
…とまあやたらと派手でカッコいい魔法のオンパレードだった。
いくら、試合会場のコーナー全域に広範囲結界が張られていても…術者のエルフ達が真っ青な顔をしながら、結界を維持していた。
「そのあとのタイダルウェーブとか…津波だろ、アレ?」
「おぅ、関東大震災の時を思い出したわ~」
ガイと朔が順に口にした言葉に二人が同意する。
「「それな!」」
グッと親指突き立ててサムズアップ。
「まったく同じタイミングで“津波かよっ!?”って突っ込んだわね♪」
「ん。魔法を撃ち合いながら、私達は沢山話した(魔法で)」
「お互い転生した身だから気が合うのよね~」
「そうそう」
黒猫に餌を与えながら、リフィ──リフィアはこくこくと頷く。
「…そうは言ってもパーティを組んでる訳ではないのな?」
「そうね。」
「ん。私はガイの方が楽。シャルは好きだけど…きっと見せ場の取り合いになる。」
「そうね。」
「…そうなのか?」
ええ、と頷くシャルティエに朔はなぜと問い掛けるも、ガイがなぜか答える。
「二人共に派手好きだからな~きっとぶつかるだろうな」
「ああ~なんとなく分かる…」
ガイの言葉に朔は普段のシャルの行動原理を思い返し納得した。
ダンジョン潜っていた方がシャルティエは生き生きしているのだ。
思いっきり派手で強力な魔法をぶっぱなしても、ダンジョンに余った魔力は吸収されるし、環境破壊とかない。
おまけに見せ場を作り放題。
ダンジョン以外の依頼も受けるが…その場合はパーティの後衛としてあまり出娑婆らず魔法要員に徹していた。
…それは派手な魔法で剥ぎ取りする部位を炭化させないためでもあったのだろう。
「だろ?リフィもシャルも基本は同じだからな。二人もリフィは要らん。俺はこいつと行動してるのが一番楽なんだよ、静かだしな」
「…ん。相棒はガイが適任。シャルは友達でいい…あと大会仲間?」
「戦うのが当然の仲間…ってなんだろうな」
「部活のようなものよ、朔。」
部活。
…確かにそう言われればそうかもしれない。
この二人の関係はなんだか、同じ部活に励む部員で友人、そんな雰囲気だ。
「絶対死なないのだから、いくらでも大胆になれる」
「大胆って…」
ふふふと笑うリフィアと呆れたような朔の視線が一瞬交差する。
「まあ、パーティなんてパーティ毎に違って当たり前だし、友達の関係性なんて人それぞれだろ。」
「…まあな」
狼獣人のガイと人間の朔が友人になれたように…時に妙な形で縁が刻まれる事もある。
こうして娯楽ダンジョンや街でたまに見掛ければ、互いに飲みに行ったり、レースを見に行ったりもする。
パーティを組んでいなくても不思議とつるむ…部活と言われればそうかもしれない。
「それより、2年後の武道大会…朔も出るの?」
「…ああ、それも良いかもしれねぇな。」
「俺も出るぜ。…朔、次こそはお前に勝ってみせる!」
「おぅ、吠え面描かせてやるよ」
そう言ってガイの毛に覆われた拳と朔の拳がコツン、と軽くぶつかる。
「…まあ、今はもふもふを愛するだけだな」
「ん」
「おぅ」
「そうね。」
…出会いは大会。
それからリフィアとシャルティエの交流は続いた。
似たような嗜好で魔法を放つ者同士、通じ合うものがあるのか、シャルティエがダンジョンマスターであると知って…“まさか”変わったダンジョンの数々はシャルティエがスキルで創った者だと知ってからは実はもふもふ好きでもあったリフィアは益々シャルティエと仲良くなった。
…どれくらいかと言うと、公爵家の玄関で“シャルに”の段階で通されるほど。顔パスである。
魔法の模擬戦(途中から本気になる)を地下で中庭でしたり。
一緒に汗を流したりもする。
姉妹のようであり、好敵手。
言葉数の少ない友人だが、シャルティエもシャルティエの家族も気に入っている。勿論、使用人や庭師、料理人も。
「…パーティ活動がまちまちだったのは公爵家での執務だけじゃなかったんだな」
「まあね。ずっと仕事な訳ないでしょ?友達と普通に遊んだり出掛けたりもするわよ」
こうして休暇でもふもふに囲まれるのも大事な時間だ。
癒される。
心に潤いが持てる。
シャルティエは18歳。
花も羨むピチピチの乙女。
…因みに朔は今年の夏に21歳になる。
“朔”の名前は八朔から取ったと以前に朔がシャルティエに言った言葉だ。
…今は建国記念日から2日が経って…5月7日。時刻は14:30。
朝の9:00からずっとこのダンジョンでこもっている。
因みにトイレもあるし、なんだったらもふもふ達の餌が人間と兼用している種も居るので普通に美味しい。
売店やお土産屋で食料品もある。
なんだったら、カフェで済ませてもいいのだ。
「はあ~、最高だわ♪」
「同意。もふもふは正義」
ごろんと寝転がるとそのまま腹に白狼と詐欺鼠を乗せて瞼を閉じるシャルティエの姿と、白狼の頭を撫でているのが見える。
…ゆったりとした時間がここにはある。
暗殺猫も詐欺鼠もここではただのかわいい小動物。
実体はそうでなくても、ここでの魔物は人を癒し、子供を慈しむ存在。
…普通のダンジョンじゃない?
それは、シャルティエに言って欲しい。
朔も公爵家も冒険者だって…思ったものだ。
“これ、違うよね?”
…聞き入れたことはないのだ。一度も。
このエンハイム公爵家の領地に住む者は。皆。
“戦わないダンジョン”“魔物を愛でるダンジョン”なんて…始めは馬鹿にされた。
何を言っているんだ、と。
魔物が人を襲わずに居られるか──それが目の前のこの光景。
愛くるしい魔物達と普通に交流ができる、襲われない、懐かれる…これで否定など出来ないだろう。
「もふもふ、最高!!」
「んっ!」
…。
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