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第二章:くっころの女騎士?は助けない
森の中の変なエルフと二人
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その日の晩、杏樹と錬夜は魔王城のアデルの寝室に来ていた。
「たっだいま~~っ!!なんて♪」
「おかえり…って、ここはアデルの家だろ?」
《うむ、まったく以てな》
久々の“ハニワ様”の登場である。
ふよふよ宙を漂う姿はやはりシュールだ。
赤褐色色のN字型のハニワ。目と口だけの空洞が三つ。それ以上でも以下でもない。
そんな彼女を伴って魔王の寝室を飛び出し、入り口へと移動する。
移動中に杏樹は目的を告げる。
「…この前、見せて貰ったでしょ?アデルの死体」
《うむ、三日前か…確かに見せたな》
「そう、それでね…“書物”の中に使えそうな術が一つだけ有ったのよ~♪」
《!?本当かッ!!》
あの本の中に記された“甦生魔法”や“魂魄術式”はハニワには使用不可である、と結論付けられた。
前者だともうハニワに“魂”が定着している為元の身体には戻れない。
後者だとそもそもが魔導生命体を創る過程で必要な技術の為“魔王”を創るものではない。
「─なら、“合わせれば”良いんじゃ…って、思ったわ・け♪」
《──ッ!?合わせる…とは…?》
首を傾げたようなアデルの反応…。
「アデルの元のMPは?」
《10億だが…》
10億…ほぅ、なるほど。
杏樹は一つ頷くと、歩きながら話す。
「なら四天王と私で分けて一人2億ずつ、注いで…“術式”を展開すれば良い感じね♪」
“賢者の石”と呼ばれる魔石がある。
グゼアでは“晶石”と呼ばれ武器や防具の素材ともなった超レアモノ、シーリアンテでは伝説の“魔水晶”と呼ばれ神聖視され、滅多にお目に掛かれない貴重品で、邪神の居たクリアナでは“神の御業”とされたのがこの宝石を差していた。
一つでMP10億くらい余裕で魔力を貯められる。
杏樹のスキル“宝石士”や久美の称号、“彫工士”があればこの宝石を創る事等容易い。
「…それでどうやって魔王様を復活なされるのですか、杏樹様?」
と、ウィルソンがいつの間にか隣に並んでいた。
ふっふっふっ、と勿体振るように不敵に笑うと
「素材はアデル(死体)に賢者の石5つに入った5人分の魔力。方法はアデル(死体)に魂魄術式を施し甦生魔法を掛ける」
《──なっ!?》
「そんな無茶な…っ!?」
ハニワとウィルソンが目を見開いて驚く。
「出来るわよ…─と言うか、どちらか片方だと成功しないわ」
どちらも魔力をかなり必要とする上になかなか成功しない難易度の高い魔法や術式なのだ。
魔族の中でもほとんどの者は成功しない、燃費の悪い魔法。
“魔王”ですらかなり難しいものなのだ。
《成功しない…?どう言う事だ、》
杏樹─の言葉は途切れた。
「術式と魔法、この二つを組み合わせてアデルを復活させる…本来なら私の身体を魔王が乗っ取り本来の身体に戻る筈だった─…そうよね?」
《─…、そうだ》
続いた杏樹の言葉にアデルは押し黙った。
「けど私が“魔王”を追い出しハニワに閉じ込めたことで魂がハニワに定着してしまった。
…だから、“魔王”復活は実質不可能となった…まあ、私が高々アデル如きに乗っ取られる筈はないのよ」
《──…?杏樹から伝わる地球の情報は魔法も魔物も居ない平和なものだろう?…なら、魔王に敵う筈等無い…まあ、事実“ハニワ”な訳だがな》
「この世界ではまだ強制解析が終わってないから…私とお兄ちゃんの正式な数値じゃないだけよ」
「おぅ、俺達は強い…あんたらより…な」
隣を歩く錬夜がにやっと笑って告げる。
《──ッ!?今見えている杏樹のステータスは本来のものじゃないのか…!?》
「1/10000も無いわよ、異世界転移を何回もこなしたら誰だってこうなるわ」
《…そう言えばそうも言っていたな、確か…》
「だから、アデルくらいポイッと出来るのよ…そんなスキルとか魔法とか…そもそも“憑依無効”も本来なら持っているのよ、私達」
「ああ…何故か空白になっていて不思議だったが…ハッキングが終わってないだけだと思って気にはしていなかった」
ぎゅっと左手を握り締められる。
少し冷たい兄の筋張った武骨な手の感触と左手薬の指輪の感触がする…。
「…表示はされなくても、普通に使えたから私にとってはどうでもいいわ」
ゲームとかに良くある勇者や勇者の仲間とかに憑依して追い詰める魔王…─等とはならない。
《…馬…鹿、な…っ》
…杏樹の底知れない力の一端が伝わったのだろう…アデルが青ざめて(?)ショックを受けている。
王城の入り口を出て、城下町を歩いて行く。
扇状の街並みをまっすぐ突っ切る。
門の外を出ると静かに浮遊魔法を唱える。
ふわり、と空高く舞う二人の姿はやがて上空1000㎞の地点で滞空した。
「それじゃ行こっか♪」
「おう」
《いやいやいやいや!?何で急にこんな高度で飛んでいる!?お前達の魔力はどうなっている!?》
アデルが驚愕したように矢継ぎ早に疑問を投げるが、
「あははっ♪」
と杏樹は悪戯が成功した子供のようにはしゃぐ。
そんな杏樹を“お姫様抱っこ”で抱き留めたまま、優しい目を向ける。
「浮遊魔法だろ、ただの。」
しれっと答える兄にアデルは再度牙?を向いた。
《いやいやいやいや…!そんな魔法があるのは知っている!!だが…これは…あまりにも─》
“あまりにも桁違いなのではないか?”とアデルは喉?まで出懸かった疑問符を飲み込んだ。
アデルが─〝ラスペリアで〟知られている浮遊魔法はせいぜい上空2000m迄のものだ。
それ以上は魔力を維持できなくなるとか、仮に魔力が有っても気圧や重力、脳や心臓に送る酸素濃度が著しく低下する為“術式”を維持できなくなるのだ。
だから、一般の魔法使いや魔術師は上空1000m迄の高さを推移している。
「言ったでしょ?私達の〝実力〟はまだ正確に表示出来てないって」
「俺達の強さ・スキル・魔法…どれもまだ全部じゃないんだよ、アデル」
《…ッ、それは…》
俄には信じられない、信じたくない。
そんな〝化け物〟が目の前にいる。
…アデルはこの時ばかりは“ハニワ”で良かった、と思っただろう。
「…さ、このままここに居ても意味ないし…お兄ちゃん、Go~♪」
「おぅ、近いところからな」
「うん♪」
お互いに見詰め合いラブい空気を出している二人はそのまま近場の─と言っても、直線距離20㎞は離れている森─ラプラスの森へと杏樹をお姫様抱っこしながら飛んで行く。
…きっと畏怖と未知成る者へと向ける“忌避”する、弱者と同じものだっただろう。
《…それで、今ラプラスの森へと向かっている訳か?》
空洞の瞳は何も写さず、唇もない空洞の口は恐れ戦く事もなく淀みなくアデルの本心を包み隠す。
「そそっ♪確か…“風乱のソォラ”が居るんでしょ?ラプラスの森の中央にある迷宮を拠点に近隣の国─」
魔導大国・アルサラー帝国、その南部に彼の迷宮はある。
“緑の楽園”は7段階評価(S・A・B・C・D・E・Fの中)で最も危険な階級──S級迷宮で、彼女魔族軍四天王<風乱のソォラ>はその迷宮奥に間借りしている。
「四天王全員からMPを込めて貰わないとだめだからねー?」
《…確かに四天王は任務でそれぞれ国を出ているが…。》
「そそ♪サクッと終わるから…ちゃちゃっと集めるわよ?」
魔王島から北に位置する大国は年中雪と氷に覆われた国。
大陸の西には火山があり、温泉が沸いている。
魔道具の開発に余念が無く、人間の国にしては珍しく他種族にも友好的な国だ。
火山の麓の街はドワーフが暮らしているし、その街の管理はエルフが領主として治めている。
森の半ばほどで降りると、優しく杏樹を下ろす。
そこは…鬱蒼と茂る緑の楽園だった。
「ん~~っ!!良い空気ね♪お兄ちゃん」
「おぅ、そうだな」
きらきらと木漏れ日が木々の隙間から漏れて反射する。
ガァ─ガァ──ッ!
と鳴く怪鳥や、
ブモォォオオオ─…ッツ!!
と明らかに4mは越えてそうな巨大な豚──ハイオークの声なんかが聞こえたとしても
「確か迷宮は中央の大樹の北側だったはず──そこを目指すわよ♪」
「おぅ、冒険だな♪」
《いっやいやいやいや!?ここ、わりかし危険な迷宮だぞ!?》
「危険?」
「そうなのか?」
二人が首を傾げる。
息ぴったり。
…アデルは頭を抱えたくなった。ハニワなので手はないが。
ドスドスドスッ!
ノッシノッシノッシッ!
カサカサカサ──ッ!
シュルシュルシュル~~ッッ!
と、賑やかに枝葉を踏み締めて魔物が現れた。
《言わんこっちゃない!ほら!魔物、来たぞ!どうするんだ!?多勢に無勢で!!》
そんなアデルの嘆きは二人には届かない。
「おお~~っ!すごいや♪」
「オーク…って、そこまで臭くないのな~」
(※杏樹&錬夜には状態異常無効があるので匂いに対しても耐性があります。
普通はごみ溜めを煮詰めたような悪臭が耐性がない者を気絶させるほどの悪臭である。)
《いや…もう何も言わん─って、それよりも…っ!?》
「邪魔」
襲い掛かるハイオークを無詠唱でファイヤーアローで 射抜いて、
「素材としてギルドに流そっかな~♪」
と嬉々と笑う杏樹。
無属性で拘束、闇属性で魔力を、体力を吸収されて頭の薄ピンク色の薔薇が萎れる花の女王、
ズリズリと時速10㎞ほどの速さ?遅さ?で根を這いずって現れた隆起する巨木を錬夜が3体共斬り倒していた。
女郎蜘蛛は谷間にある核を破壊されて停止している。
「大漁大漁♪剥~ぎ取り♪剥~ぎ取り~♪♪」
「おぅ。手早く、丁寧に…だぞ?」
「はーい♥️」
《…なんで、現れた瞬間に戦闘不能んだ!?…もう、我訳分からん》
そんなアデルの疑問もやはり、二人は気にしていないようだ。
「全力で相手しているわよ?…まあ、身体能力強化魔法は一切使ってないけど」
「おぅ、一応他所の冒険者に配慮して結界は張ったから…音も振動もないはずだぞ?」
…。
アデル、沈黙。
二人に倒された魔物も大人しく沈黙して─剥ぎ取られて──いた。
《…いくつ魔法使ったんだ、主ら…》
「あははっ♪」
そんなの
「決まっている」
「2つだけだよ♪」
結界と火矢だけ。
B級魔物であるハイオーク3体、花の女王4体、隆起する巨木2体がこのラプラスの森を徘徊する魔物の棲息域だ。
…この場には居ないがF級の魔物スライムやゴブリン、E級魔物のオークや魔精なんかも居たりする。
迷宮の前に彼らとの連戦で命を落とす者も少なくない。
寒冷地に於いて唯一手付かずの自然がそのまま残されているラプラスの森は中央にある大樹にエルフの国へと転移する転位陣があるとされるが─“証”がない者(人間)は見ることも触れることも叶わない。
気候は少し肌寒いくらいだ。
剥ぎ取り用のナイフで倒した魔物の腹や内臓を捌いていく…杏樹と錬夜。
《いやいや…!?常時発動している反射はそのままだよな!?》
「おぅ、そうだな」
「これで矢が来ようが鉛が降ろうが全て粉砕☆だよ♪」
杏樹と錬夜は異世界に来る時事前に無詠唱で物理・魔法攻撃反射を掛けている。
防衛本能のようなものだ。
どんどんと魔物を解体して部位毎にアイテムボックスへと仕舞う。
…ここまで10分と掛かっていない。
殲滅し剥ぎ取り…僅か7分ほどの出来事。
けろっと言ってのける杏樹は確かに最強だった。
勿論、聖剣で隆起する巨木を一刀両断していた錬夜も。
《…主ら、本当に人間か?》
「やっだな~っ☆」
「人間以外の何に見える?」
《…化け物め。》
はあ、と溜め息混じり?に呟かれた。
あは、と笑う杏樹は年相応─否、まるで幼子のような無邪気で楽しそうに嗤った。
「望んで手に入れた訳じゃないわよ」
「無能神のせいでもある…あの時あの日に俺達を早々に解放してくれれば良かったんだよ」
《…主ら…。》
全て剥ぎ取りアイテムボックスに仕舞い浄化魔法で身綺麗にして二人は歩き始める。
そうしなければ生きられなかった。
人の命がおっそろしいほどペラペラなあの世界 でモン○ンするしか、戦いに行かなければ解放される事はなかった。
「…行くか」
「うん♪」
ほんの少ししんみりとしつつも、森の散歩を続ける二人。
ガァ──ガァ──ッ…
ホエ──ッ、ホエ──ッ。
グエッグエッ!
ホエッ?
…何だか、微妙に会話?をしているようなカラフル羽根の怪鳥達…遠くから聞こえる鳴き声はダミ声だったり、甲高かったり…。
「…普通の森じゃねぇのなー」
「ええ…あれ、どう見ても魔物よね?」
《ああ、ロック鳥にガーゴイル…それに不死鳥も居たな?なんでこの森に…?》
ロック鳥やガーゴイルはまだ分かる。
だが…不死鳥は珍しい。
居るのは未開の地ルドミカ──地球で言うムー大陸のようなもの──に居るとされる伝説の鳥だ。
場所は世界の果てとも、次元の狭間とも空中に隠されているともされる─そんな、伝説のSSS級魔物。その顔は鶏のようでいて毛色は金色、鶏冠と嘴は赤。足は鷲の爪のように鋭い。
両翼は白鳥のようでいて、やはり顔と同じ黄金、羽先は極彩色。孔雀のような極彩色の尾羽根。鳴き声は「ホエーッ」だ。
何度でも甦る魔物。…その実“神の遣い”ともされ神聖視されている。
「さあ?」
「…なんか議論してんな~」
彼ら?の話し合いが終わったのか、一羽──不死鳥のみが近付いてきた。
「あれ?こっち来る…?」
「おお~綺麗な鳥だな♪」
バッサバッサと翼をはためかせて鶏冠の先から尾羽根の先端までの身長が4m、両翼広げて30mほどはあるその瞳は緑色。
とても理知的で空の覇者に相応しい佇まいで睥睨した。
ホエ─ッ、ホエ─ッ!
不死鳥は「なにか」を訴える。
「?なになに…へぇーほーそかそか。」
《?何か分かるのか?我でも魔物語は理解しておらん…そもそも不死鳥は存在事態が伝説だ。…その言語が分かるのはマニアックな研究者くらいだろう》
魔物の言語は種類別に魔王城の図書館に保管されている。
…何でも魔物使いが使役する魔物と彼らが書き記した友情の証だ。
…魔物言語を理解すると彼らと語り稀に魔物を使役する事がある。
…とは言え、そこまで数は居ないが。
問われ、杏樹はこくりと頷く。
「オーケ♪なら、私と契約しよう…代わりにあなたの仲間、助けてあげる♪」
ホエッ!?ホエ─ッ!ホエ~ッ♪
不死鳥は嬉しそうに甲高く鳴く。
「我が名は杏樹。不死鳥と友宜を結ぶ者…汝に新たな名を与え契約とする─イグラシオン」
イグラシオン─…古代語で“不滅”を意味する“イグラティア”に~の者と言う熟語“シアン”を捩って縮めた。
短く祝詞を挙げる杏樹。
差し出した杏樹の手の平に額を擦り付ける不死鳥。
《宜しく頼む…異世界の勇者、杏樹よ》
「私、勇者やるつもりないわよ?」
《解っている。…だが、私にはお前達だけが頼りなのだ》
「それも理解しているわよ…こうして契約すれば、ね?」
《!?主ら契約したのか?それに…》
「そうね」
「おぅ、そんな称号とスキルが合ったな、確か。」
アデルが驚愕に恐れ戦いていると、バサリッと片翼をはためかせて頷く。
《私の仲間が面倒な人間に見つかった》
「その程度殺せば──って、ああ…星法教会お手製の魔道具か」
《ああ…なんか、そんな事言っていた…奴等はこの先の迷宮に向かう、とか言っていた…頼む。助けてくれ》
「分かっているわ…そんな泣きそうな顔しないで」
錬夜とアデルには相変わらず「ホエッホエッ」としか聞こえない。
テイマーと使役獣には目に見えない絆が結ばれる。
テイマーが拒まない記憶や感情は互いに心の深くで繋がる。
そうしてお互いになくてはならない相棒となるのだ。魔物使いと使役獣は。
お互いの生きた軌跡を知り、歴史を知って感情を知る。
「…話しは纏まったか?」
「ええ、お兄ちゃん」
「おぅ」
《…目的は忘れてないだろうな?》
「ええ、勿論。」
「ソォラに協力を求めに行くんだろ?忘れてない」
頷いて歩き出した杏樹の傍らに不死鳥が宙にふわりふわりと漂う。
御大層な存在に祭り上げられているが、不死鳥は稀少で神聖視されがちだが、他の魔物と大差ない。
その見た目から誤解され安いが…彼らは別に熱い所を好む種ではない。
…ただ、そう言う場所の方が人目を避けられるから、火山の奥地で見掛ける事があるだけ、だ。
《我等不死鳥は種族的に温厚な種でな…可笑しな人に付け狙われて度々乱獲の的にされていた──否、今も…か。》
「あー…羽根一つで死を回避出来たりするし、嘴は確か─…エリクサーの材料だったりするものね?マンドゥラゴラと同じで。」
《ああ、我等の種族特性だから仕方ないとは思うのだ》
そんな事を話ながら森を突き進む杏樹達…
やがて──とても可笑しな女の喘ぎ声が耳に聞こえた。
「んっ、はっ…!やめ…ああっ!!」
…。
静かな森の中、艶めいた女のくぐもった、喘ぎ声と分かる声──が聞こえた。
「…ねえ、イグラシオン」
《我に聞くな…一応言っておくが─…違うぞ?》
「いやー…うん、それは分かる。じゃなくてな──」
そこは少し開けた場所だった。
拓けた森の“外周”のような、円を─螺旋を描くような岩肌のしたには“大樹”が聳え立っていて、青々とした枝葉は天を穿つほど高く太く力強く伸びている。
…その“大樹”に向かう道と、森の深部──“緑の楽園”へと向かう道の二つだ。
その、緑の楽園よりの道の真ん中で軟体魔物、伸びる手指(Eランク)とスライム(Fランク)と“触手プレイ”をしていた。
「「…。」」
伸びる手指は茶色で全体的にぬるぬるだ。
その名の通り10本ある触手を伸ばして攻撃する。属性は闇で、光属性の魔法か光属性が付加された武器や技で倒せる。
胴体と触手で行動原理が違う。
胴体は対象(餌)を補食しようとするが、触手は他種族の女限定で繁殖しようと躍起になるのだ。
それは本能のようなもので、人型をしている者限定で襲うのだ。
胴体には「口」とも言える部位はないが、真ん中の楕円形の部位が真ん中から縦にまっすぐ開いて伸びた無数の触手が対象を捕まえ丸呑みにする。
そして…ゆっくりと消化液と硫酸と見紛うほど強烈な胃酸で対象(餌)を溶かすのだ。その対象は人のみならず魔族や獣人、獣も対象とする。かなりの雑食だが、光属性の者や精霊、妖精には手を出さない──倒されるから。
触手は左右で10本…それら全ての先端から精子をメスの胎内に吐精する。
「くっ!こんな屈辱…ぁぁっ♥️」
触手1本1本は直径8㎝の程よい弾力の伸びる手指はEランクの魔物で危険度はスライムやゴブリンより上。
「…見てみよう、お兄ちゃん」
「おぅ、見学するか?」
《…!?い、いやいや…用事は?不死鳥の仲間は…っ!?》
《我は杏樹に従うのみだ…》
しれっと珍しい場面(『くっ!殺…っ』騎士)に出くわして好奇心駄々漏れに提案、スッとアイテムボックスからテーブルと椅子を取り出す。
アデル(ハニワ)のツッコミなど無視でしれっと気配遮断と沈黙の魔法を無詠唱&ノータイムで発動、展開する。
「ぁっ…ぁっ♥️そ、そこは…だめぇっ…んぁぁっ!!」
さらさらと金の髪は風にそよぐ…。
ポニーテールを振り乱し、クリーパーに四肢を拘束され、鎧をスライムに溶かされ中の衣服も溶け白く瑞々しい女性の肌が露になる。
「おお…っ!結構胸大っきいね?お兄ちゃん♪」
「エロゲのおバカなエルフ(女)にいそうだな~」
金の髪に整った顔立ち、それは欧米人に似た鼻の高い綺麗系の美女だ。蒼い瞳は快楽と愉悦に揺れている。
「あっ、ぁぁっ…!こんな…こんなの…ああ~~っ♥️♥️」
胸は辛うじて見えそうで見えない感じだ。
「うーん…この人、何やってんの?」
「?異種姦プレイじゃないのか?全然嫌がってないし…むしろ、悦んでるだろう?」
「…そう、なんだけど…ねぇ~~?」
《??何かあるのか?と言うか、もう迷宮に行かないか…?》
《我も特段興味ない。人の交尾など興味ない》
杏樹の言葉に錬夜が首を傾げ、アデルがイグラシオンの仲間も助けに行こう、と発破を掛け、イグラシオンが“興味ない”と2度に渡って否定する。
女性は白い鎧と鎧の下は膝丈までの赤色のワンピース(ほとんど、スライムの粘液で溶かされているが)と膝上までシルバーブーツを履いている…
「?」
ハッ…!
錬夜は青色のつるん、とした物体を見詰めた。
このスライム、靴下は脱がさない派か…!
スライムのゼリーのようなぶよぶよとした身体は尖った耳のエルフ女性─エロフの胸元に鎮座し、その衣服をみるみる内に溶かす…。
触手はするすると女性の黒レースのセクシーなパンティーの隙間から膣内(なか)に侵入している…と思われる。
「はっ!やめ…私はまだ処女なんだ…っ!こんな…こんなの…くっ、殺せッ…!!」
潤んだ瞳は期待に満ち満ちている。
…と言うか、めっちゃ悦んでいる。
“誰も来るな”“いや、来ても良いけど助けず侮蔑の目で見下してくれ”とその瞳は物語っていた。
「…お兄ちゃん、ほら、見て。“コレ”」
「ん?」
スッと差し出された空間に目を向ける…
「ああ~~」
と思わず呆れたような『マジか』と信じられない物を見たような顔をした。
《なんだ?》
《何か見えたのか?》
「たっだいま~~っ!!なんて♪」
「おかえり…って、ここはアデルの家だろ?」
《うむ、まったく以てな》
久々の“ハニワ様”の登場である。
ふよふよ宙を漂う姿はやはりシュールだ。
赤褐色色のN字型のハニワ。目と口だけの空洞が三つ。それ以上でも以下でもない。
そんな彼女を伴って魔王の寝室を飛び出し、入り口へと移動する。
移動中に杏樹は目的を告げる。
「…この前、見せて貰ったでしょ?アデルの死体」
《うむ、三日前か…確かに見せたな》
「そう、それでね…“書物”の中に使えそうな術が一つだけ有ったのよ~♪」
《!?本当かッ!!》
あの本の中に記された“甦生魔法”や“魂魄術式”はハニワには使用不可である、と結論付けられた。
前者だともうハニワに“魂”が定着している為元の身体には戻れない。
後者だとそもそもが魔導生命体を創る過程で必要な技術の為“魔王”を創るものではない。
「─なら、“合わせれば”良いんじゃ…って、思ったわ・け♪」
《──ッ!?合わせる…とは…?》
首を傾げたようなアデルの反応…。
「アデルの元のMPは?」
《10億だが…》
10億…ほぅ、なるほど。
杏樹は一つ頷くと、歩きながら話す。
「なら四天王と私で分けて一人2億ずつ、注いで…“術式”を展開すれば良い感じね♪」
“賢者の石”と呼ばれる魔石がある。
グゼアでは“晶石”と呼ばれ武器や防具の素材ともなった超レアモノ、シーリアンテでは伝説の“魔水晶”と呼ばれ神聖視され、滅多にお目に掛かれない貴重品で、邪神の居たクリアナでは“神の御業”とされたのがこの宝石を差していた。
一つでMP10億くらい余裕で魔力を貯められる。
杏樹のスキル“宝石士”や久美の称号、“彫工士”があればこの宝石を創る事等容易い。
「…それでどうやって魔王様を復活なされるのですか、杏樹様?」
と、ウィルソンがいつの間にか隣に並んでいた。
ふっふっふっ、と勿体振るように不敵に笑うと
「素材はアデル(死体)に賢者の石5つに入った5人分の魔力。方法はアデル(死体)に魂魄術式を施し甦生魔法を掛ける」
《──なっ!?》
「そんな無茶な…っ!?」
ハニワとウィルソンが目を見開いて驚く。
「出来るわよ…─と言うか、どちらか片方だと成功しないわ」
どちらも魔力をかなり必要とする上になかなか成功しない難易度の高い魔法や術式なのだ。
魔族の中でもほとんどの者は成功しない、燃費の悪い魔法。
“魔王”ですらかなり難しいものなのだ。
《成功しない…?どう言う事だ、》
杏樹─の言葉は途切れた。
「術式と魔法、この二つを組み合わせてアデルを復活させる…本来なら私の身体を魔王が乗っ取り本来の身体に戻る筈だった─…そうよね?」
《─…、そうだ》
続いた杏樹の言葉にアデルは押し黙った。
「けど私が“魔王”を追い出しハニワに閉じ込めたことで魂がハニワに定着してしまった。
…だから、“魔王”復活は実質不可能となった…まあ、私が高々アデル如きに乗っ取られる筈はないのよ」
《──…?杏樹から伝わる地球の情報は魔法も魔物も居ない平和なものだろう?…なら、魔王に敵う筈等無い…まあ、事実“ハニワ”な訳だがな》
「この世界ではまだ強制解析が終わってないから…私とお兄ちゃんの正式な数値じゃないだけよ」
「おぅ、俺達は強い…あんたらより…な」
隣を歩く錬夜がにやっと笑って告げる。
《──ッ!?今見えている杏樹のステータスは本来のものじゃないのか…!?》
「1/10000も無いわよ、異世界転移を何回もこなしたら誰だってこうなるわ」
《…そう言えばそうも言っていたな、確か…》
「だから、アデルくらいポイッと出来るのよ…そんなスキルとか魔法とか…そもそも“憑依無効”も本来なら持っているのよ、私達」
「ああ…何故か空白になっていて不思議だったが…ハッキングが終わってないだけだと思って気にはしていなかった」
ぎゅっと左手を握り締められる。
少し冷たい兄の筋張った武骨な手の感触と左手薬の指輪の感触がする…。
「…表示はされなくても、普通に使えたから私にとってはどうでもいいわ」
ゲームとかに良くある勇者や勇者の仲間とかに憑依して追い詰める魔王…─等とはならない。
《…馬…鹿、な…っ》
…杏樹の底知れない力の一端が伝わったのだろう…アデルが青ざめて(?)ショックを受けている。
王城の入り口を出て、城下町を歩いて行く。
扇状の街並みをまっすぐ突っ切る。
門の外を出ると静かに浮遊魔法を唱える。
ふわり、と空高く舞う二人の姿はやがて上空1000㎞の地点で滞空した。
「それじゃ行こっか♪」
「おう」
《いやいやいやいや!?何で急にこんな高度で飛んでいる!?お前達の魔力はどうなっている!?》
アデルが驚愕したように矢継ぎ早に疑問を投げるが、
「あははっ♪」
と杏樹は悪戯が成功した子供のようにはしゃぐ。
そんな杏樹を“お姫様抱っこ”で抱き留めたまま、優しい目を向ける。
「浮遊魔法だろ、ただの。」
しれっと答える兄にアデルは再度牙?を向いた。
《いやいやいやいや…!そんな魔法があるのは知っている!!だが…これは…あまりにも─》
“あまりにも桁違いなのではないか?”とアデルは喉?まで出懸かった疑問符を飲み込んだ。
アデルが─〝ラスペリアで〟知られている浮遊魔法はせいぜい上空2000m迄のものだ。
それ以上は魔力を維持できなくなるとか、仮に魔力が有っても気圧や重力、脳や心臓に送る酸素濃度が著しく低下する為“術式”を維持できなくなるのだ。
だから、一般の魔法使いや魔術師は上空1000m迄の高さを推移している。
「言ったでしょ?私達の〝実力〟はまだ正確に表示出来てないって」
「俺達の強さ・スキル・魔法…どれもまだ全部じゃないんだよ、アデル」
《…ッ、それは…》
俄には信じられない、信じたくない。
そんな〝化け物〟が目の前にいる。
…アデルはこの時ばかりは“ハニワ”で良かった、と思っただろう。
「…さ、このままここに居ても意味ないし…お兄ちゃん、Go~♪」
「おぅ、近いところからな」
「うん♪」
お互いに見詰め合いラブい空気を出している二人はそのまま近場の─と言っても、直線距離20㎞は離れている森─ラプラスの森へと杏樹をお姫様抱っこしながら飛んで行く。
…きっと畏怖と未知成る者へと向ける“忌避”する、弱者と同じものだっただろう。
《…それで、今ラプラスの森へと向かっている訳か?》
空洞の瞳は何も写さず、唇もない空洞の口は恐れ戦く事もなく淀みなくアデルの本心を包み隠す。
「そそっ♪確か…“風乱のソォラ”が居るんでしょ?ラプラスの森の中央にある迷宮を拠点に近隣の国─」
魔導大国・アルサラー帝国、その南部に彼の迷宮はある。
“緑の楽園”は7段階評価(S・A・B・C・D・E・Fの中)で最も危険な階級──S級迷宮で、彼女魔族軍四天王<風乱のソォラ>はその迷宮奥に間借りしている。
「四天王全員からMPを込めて貰わないとだめだからねー?」
《…確かに四天王は任務でそれぞれ国を出ているが…。》
「そそ♪サクッと終わるから…ちゃちゃっと集めるわよ?」
魔王島から北に位置する大国は年中雪と氷に覆われた国。
大陸の西には火山があり、温泉が沸いている。
魔道具の開発に余念が無く、人間の国にしては珍しく他種族にも友好的な国だ。
火山の麓の街はドワーフが暮らしているし、その街の管理はエルフが領主として治めている。
森の半ばほどで降りると、優しく杏樹を下ろす。
そこは…鬱蒼と茂る緑の楽園だった。
「ん~~っ!!良い空気ね♪お兄ちゃん」
「おぅ、そうだな」
きらきらと木漏れ日が木々の隙間から漏れて反射する。
ガァ─ガァ──ッ!
と鳴く怪鳥や、
ブモォォオオオ─…ッツ!!
と明らかに4mは越えてそうな巨大な豚──ハイオークの声なんかが聞こえたとしても
「確か迷宮は中央の大樹の北側だったはず──そこを目指すわよ♪」
「おぅ、冒険だな♪」
《いっやいやいやいや!?ここ、わりかし危険な迷宮だぞ!?》
「危険?」
「そうなのか?」
二人が首を傾げる。
息ぴったり。
…アデルは頭を抱えたくなった。ハニワなので手はないが。
ドスドスドスッ!
ノッシノッシノッシッ!
カサカサカサ──ッ!
シュルシュルシュル~~ッッ!
と、賑やかに枝葉を踏み締めて魔物が現れた。
《言わんこっちゃない!ほら!魔物、来たぞ!どうするんだ!?多勢に無勢で!!》
そんなアデルの嘆きは二人には届かない。
「おお~~っ!すごいや♪」
「オーク…って、そこまで臭くないのな~」
(※杏樹&錬夜には状態異常無効があるので匂いに対しても耐性があります。
普通はごみ溜めを煮詰めたような悪臭が耐性がない者を気絶させるほどの悪臭である。)
《いや…もう何も言わん─って、それよりも…っ!?》
「邪魔」
襲い掛かるハイオークを無詠唱でファイヤーアローで 射抜いて、
「素材としてギルドに流そっかな~♪」
と嬉々と笑う杏樹。
無属性で拘束、闇属性で魔力を、体力を吸収されて頭の薄ピンク色の薔薇が萎れる花の女王、
ズリズリと時速10㎞ほどの速さ?遅さ?で根を這いずって現れた隆起する巨木を錬夜が3体共斬り倒していた。
女郎蜘蛛は谷間にある核を破壊されて停止している。
「大漁大漁♪剥~ぎ取り♪剥~ぎ取り~♪♪」
「おぅ。手早く、丁寧に…だぞ?」
「はーい♥️」
《…なんで、現れた瞬間に戦闘不能んだ!?…もう、我訳分からん》
そんなアデルの疑問もやはり、二人は気にしていないようだ。
「全力で相手しているわよ?…まあ、身体能力強化魔法は一切使ってないけど」
「おぅ、一応他所の冒険者に配慮して結界は張ったから…音も振動もないはずだぞ?」
…。
アデル、沈黙。
二人に倒された魔物も大人しく沈黙して─剥ぎ取られて──いた。
《…いくつ魔法使ったんだ、主ら…》
「あははっ♪」
そんなの
「決まっている」
「2つだけだよ♪」
結界と火矢だけ。
B級魔物であるハイオーク3体、花の女王4体、隆起する巨木2体がこのラプラスの森を徘徊する魔物の棲息域だ。
…この場には居ないがF級の魔物スライムやゴブリン、E級魔物のオークや魔精なんかも居たりする。
迷宮の前に彼らとの連戦で命を落とす者も少なくない。
寒冷地に於いて唯一手付かずの自然がそのまま残されているラプラスの森は中央にある大樹にエルフの国へと転移する転位陣があるとされるが─“証”がない者(人間)は見ることも触れることも叶わない。
気候は少し肌寒いくらいだ。
剥ぎ取り用のナイフで倒した魔物の腹や内臓を捌いていく…杏樹と錬夜。
《いやいや…!?常時発動している反射はそのままだよな!?》
「おぅ、そうだな」
「これで矢が来ようが鉛が降ろうが全て粉砕☆だよ♪」
杏樹と錬夜は異世界に来る時事前に無詠唱で物理・魔法攻撃反射を掛けている。
防衛本能のようなものだ。
どんどんと魔物を解体して部位毎にアイテムボックスへと仕舞う。
…ここまで10分と掛かっていない。
殲滅し剥ぎ取り…僅か7分ほどの出来事。
けろっと言ってのける杏樹は確かに最強だった。
勿論、聖剣で隆起する巨木を一刀両断していた錬夜も。
《…主ら、本当に人間か?》
「やっだな~っ☆」
「人間以外の何に見える?」
《…化け物め。》
はあ、と溜め息混じり?に呟かれた。
あは、と笑う杏樹は年相応─否、まるで幼子のような無邪気で楽しそうに嗤った。
「望んで手に入れた訳じゃないわよ」
「無能神のせいでもある…あの時あの日に俺達を早々に解放してくれれば良かったんだよ」
《…主ら…。》
全て剥ぎ取りアイテムボックスに仕舞い浄化魔法で身綺麗にして二人は歩き始める。
そうしなければ生きられなかった。
人の命がおっそろしいほどペラペラなあの世界 でモン○ンするしか、戦いに行かなければ解放される事はなかった。
「…行くか」
「うん♪」
ほんの少ししんみりとしつつも、森の散歩を続ける二人。
ガァ──ガァ──ッ…
ホエ──ッ、ホエ──ッ。
グエッグエッ!
ホエッ?
…何だか、微妙に会話?をしているようなカラフル羽根の怪鳥達…遠くから聞こえる鳴き声はダミ声だったり、甲高かったり…。
「…普通の森じゃねぇのなー」
「ええ…あれ、どう見ても魔物よね?」
《ああ、ロック鳥にガーゴイル…それに不死鳥も居たな?なんでこの森に…?》
ロック鳥やガーゴイルはまだ分かる。
だが…不死鳥は珍しい。
居るのは未開の地ルドミカ──地球で言うムー大陸のようなもの──に居るとされる伝説の鳥だ。
場所は世界の果てとも、次元の狭間とも空中に隠されているともされる─そんな、伝説のSSS級魔物。その顔は鶏のようでいて毛色は金色、鶏冠と嘴は赤。足は鷲の爪のように鋭い。
両翼は白鳥のようでいて、やはり顔と同じ黄金、羽先は極彩色。孔雀のような極彩色の尾羽根。鳴き声は「ホエーッ」だ。
何度でも甦る魔物。…その実“神の遣い”ともされ神聖視されている。
「さあ?」
「…なんか議論してんな~」
彼ら?の話し合いが終わったのか、一羽──不死鳥のみが近付いてきた。
「あれ?こっち来る…?」
「おお~綺麗な鳥だな♪」
バッサバッサと翼をはためかせて鶏冠の先から尾羽根の先端までの身長が4m、両翼広げて30mほどはあるその瞳は緑色。
とても理知的で空の覇者に相応しい佇まいで睥睨した。
ホエ─ッ、ホエ─ッ!
不死鳥は「なにか」を訴える。
「?なになに…へぇーほーそかそか。」
《?何か分かるのか?我でも魔物語は理解しておらん…そもそも不死鳥は存在事態が伝説だ。…その言語が分かるのはマニアックな研究者くらいだろう》
魔物の言語は種類別に魔王城の図書館に保管されている。
…何でも魔物使いが使役する魔物と彼らが書き記した友情の証だ。
…魔物言語を理解すると彼らと語り稀に魔物を使役する事がある。
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問われ、杏樹はこくりと頷く。
「オーケ♪なら、私と契約しよう…代わりにあなたの仲間、助けてあげる♪」
ホエッ!?ホエ─ッ!ホエ~ッ♪
不死鳥は嬉しそうに甲高く鳴く。
「我が名は杏樹。不死鳥と友宜を結ぶ者…汝に新たな名を与え契約とする─イグラシオン」
イグラシオン─…古代語で“不滅”を意味する“イグラティア”に~の者と言う熟語“シアン”を捩って縮めた。
短く祝詞を挙げる杏樹。
差し出した杏樹の手の平に額を擦り付ける不死鳥。
《宜しく頼む…異世界の勇者、杏樹よ》
「私、勇者やるつもりないわよ?」
《解っている。…だが、私にはお前達だけが頼りなのだ》
「それも理解しているわよ…こうして契約すれば、ね?」
《!?主ら契約したのか?それに…》
「そうね」
「おぅ、そんな称号とスキルが合ったな、確か。」
アデルが驚愕に恐れ戦いていると、バサリッと片翼をはためかせて頷く。
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「その程度殺せば──って、ああ…星法教会お手製の魔道具か」
《ああ…なんか、そんな事言っていた…奴等はこの先の迷宮に向かう、とか言っていた…頼む。助けてくれ》
「分かっているわ…そんな泣きそうな顔しないで」
錬夜とアデルには相変わらず「ホエッホエッ」としか聞こえない。
テイマーと使役獣には目に見えない絆が結ばれる。
テイマーが拒まない記憶や感情は互いに心の深くで繋がる。
そうしてお互いになくてはならない相棒となるのだ。魔物使いと使役獣は。
お互いの生きた軌跡を知り、歴史を知って感情を知る。
「…話しは纏まったか?」
「ええ、お兄ちゃん」
「おぅ」
《…目的は忘れてないだろうな?》
「ええ、勿論。」
「ソォラに協力を求めに行くんだろ?忘れてない」
頷いて歩き出した杏樹の傍らに不死鳥が宙にふわりふわりと漂う。
御大層な存在に祭り上げられているが、不死鳥は稀少で神聖視されがちだが、他の魔物と大差ない。
その見た目から誤解され安いが…彼らは別に熱い所を好む種ではない。
…ただ、そう言う場所の方が人目を避けられるから、火山の奥地で見掛ける事があるだけ、だ。
《我等不死鳥は種族的に温厚な種でな…可笑しな人に付け狙われて度々乱獲の的にされていた──否、今も…か。》
「あー…羽根一つで死を回避出来たりするし、嘴は確か─…エリクサーの材料だったりするものね?マンドゥラゴラと同じで。」
《ああ、我等の種族特性だから仕方ないとは思うのだ》
そんな事を話ながら森を突き進む杏樹達…
やがて──とても可笑しな女の喘ぎ声が耳に聞こえた。
「んっ、はっ…!やめ…ああっ!!」
…。
静かな森の中、艶めいた女のくぐもった、喘ぎ声と分かる声──が聞こえた。
「…ねえ、イグラシオン」
《我に聞くな…一応言っておくが─…違うぞ?》
「いやー…うん、それは分かる。じゃなくてな──」
そこは少し開けた場所だった。
拓けた森の“外周”のような、円を─螺旋を描くような岩肌のしたには“大樹”が聳え立っていて、青々とした枝葉は天を穿つほど高く太く力強く伸びている。
…その“大樹”に向かう道と、森の深部──“緑の楽園”へと向かう道の二つだ。
その、緑の楽園よりの道の真ん中で軟体魔物、伸びる手指(Eランク)とスライム(Fランク)と“触手プレイ”をしていた。
「「…。」」
伸びる手指は茶色で全体的にぬるぬるだ。
その名の通り10本ある触手を伸ばして攻撃する。属性は闇で、光属性の魔法か光属性が付加された武器や技で倒せる。
胴体と触手で行動原理が違う。
胴体は対象(餌)を補食しようとするが、触手は他種族の女限定で繁殖しようと躍起になるのだ。
それは本能のようなもので、人型をしている者限定で襲うのだ。
胴体には「口」とも言える部位はないが、真ん中の楕円形の部位が真ん中から縦にまっすぐ開いて伸びた無数の触手が対象を捕まえ丸呑みにする。
そして…ゆっくりと消化液と硫酸と見紛うほど強烈な胃酸で対象(餌)を溶かすのだ。その対象は人のみならず魔族や獣人、獣も対象とする。かなりの雑食だが、光属性の者や精霊、妖精には手を出さない──倒されるから。
触手は左右で10本…それら全ての先端から精子をメスの胎内に吐精する。
「くっ!こんな屈辱…ぁぁっ♥️」
触手1本1本は直径8㎝の程よい弾力の伸びる手指はEランクの魔物で危険度はスライムやゴブリンより上。
「…見てみよう、お兄ちゃん」
「おぅ、見学するか?」
《…!?い、いやいや…用事は?不死鳥の仲間は…っ!?》
《我は杏樹に従うのみだ…》
しれっと珍しい場面(『くっ!殺…っ』騎士)に出くわして好奇心駄々漏れに提案、スッとアイテムボックスからテーブルと椅子を取り出す。
アデル(ハニワ)のツッコミなど無視でしれっと気配遮断と沈黙の魔法を無詠唱&ノータイムで発動、展開する。
「ぁっ…ぁっ♥️そ、そこは…だめぇっ…んぁぁっ!!」
さらさらと金の髪は風にそよぐ…。
ポニーテールを振り乱し、クリーパーに四肢を拘束され、鎧をスライムに溶かされ中の衣服も溶け白く瑞々しい女性の肌が露になる。
「おお…っ!結構胸大っきいね?お兄ちゃん♪」
「エロゲのおバカなエルフ(女)にいそうだな~」
金の髪に整った顔立ち、それは欧米人に似た鼻の高い綺麗系の美女だ。蒼い瞳は快楽と愉悦に揺れている。
「あっ、ぁぁっ…!こんな…こんなの…ああ~~っ♥️♥️」
胸は辛うじて見えそうで見えない感じだ。
「うーん…この人、何やってんの?」
「?異種姦プレイじゃないのか?全然嫌がってないし…むしろ、悦んでるだろう?」
「…そう、なんだけど…ねぇ~~?」
《??何かあるのか?と言うか、もう迷宮に行かないか…?》
《我も特段興味ない。人の交尾など興味ない》
杏樹の言葉に錬夜が首を傾げ、アデルがイグラシオンの仲間も助けに行こう、と発破を掛け、イグラシオンが“興味ない”と2度に渡って否定する。
女性は白い鎧と鎧の下は膝丈までの赤色のワンピース(ほとんど、スライムの粘液で溶かされているが)と膝上までシルバーブーツを履いている…
「?」
ハッ…!
錬夜は青色のつるん、とした物体を見詰めた。
このスライム、靴下は脱がさない派か…!
スライムのゼリーのようなぶよぶよとした身体は尖った耳のエルフ女性─エロフの胸元に鎮座し、その衣服をみるみる内に溶かす…。
触手はするすると女性の黒レースのセクシーなパンティーの隙間から膣内(なか)に侵入している…と思われる。
「はっ!やめ…私はまだ処女なんだ…っ!こんな…こんなの…くっ、殺せッ…!!」
潤んだ瞳は期待に満ち満ちている。
…と言うか、めっちゃ悦んでいる。
“誰も来るな”“いや、来ても良いけど助けず侮蔑の目で見下してくれ”とその瞳は物語っていた。
「…お兄ちゃん、ほら、見て。“コレ”」
「ん?」
スッと差し出された空間に目を向ける…
「ああ~~」
と思わず呆れたような『マジか』と信じられない物を見たような顔をした。
《なんだ?》
《何か見えたのか?》
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