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幼少期
女性の扱いには気をつけましょう。
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「にっ…兄様、落ち着いて!一旦落ち着きましょう!ほら、深呼吸して…!」
「僕は極めて落ち着いているよ、リュート」
うわぁ、こんな時ばっかりセイル兄様がお父様そっくり…!
何でこんな怒ってるの、私何かしたっけ!?
…いや、トレーネ嬢に関しては不安そうにしてたからフォローしたくらいで、これといって怒られるようなことはしていない筈。
その筈なのに、どうしてこんなに笑顔からプレッシャーを感じるんだろうか…。
「うぅ…ト、トレーネ嬢の事とは一体何でしょうか…?」
「…分からない?」
ごめんなさい分からないです…!と言える雰囲気ではなく、かといって嘘をつける雰囲気でもないため、ただ視線を彷徨わせる私。
その様子を黙ったまま見つめるセイル兄様。
しばらくその状態が続くかと思われたが、私が困り果てているのを哀れに思ったのか、セイル兄様は「仕方ないなあ」とでも言いたげにふぅ…と溜息をつき、表情を緩めてくれた。
…良かった、命拾いした…!
「まあ、分からないよね。リュートは意図したわけじゃないんだし。…リュートのたらしはいつものことだし」
「セイル兄様?」
何かを諦めたような顔で呟くセイル兄様。
最後の方は声が小さくてイマイチ聞こえなかったけど、なんか失礼なことを言われた気がする。
…まあいいけど。
私が微妙な顔をしながらセイル兄様の言葉を待っていると、その顔をどう思ったのかセイル兄様は苦笑しながら話し始めた。
「あのね、リュート。トレーネ嬢は挨拶を交わした時からリュートにそこはかとない好意を向けてたんだよ。それが、騒動の最中に起きた出来事によって本格的に想いへと変わってしまった。僕は罠に気を取られていてあまり見ていなかったけれど、トレーネ嬢を横抱きにしているリュートを見たときは正直頭を抱えたくなったね」
トレーネ嬢が私に、恋…?
どうしてそんなことになったのか分からないけど、それって割とまずくないか?
あの様子だとトレーネ嬢自身はどう思っているか不明でも、フラウ夫人の方は確実にトレーネ嬢を私の婚約者にしようと企んでいる筈。
それを阻止したいなら嫌われていた方が都合が良かったんじゃなかろうか?
本人が拒んでくれれば無理に婚約も出来ないし、成立してしまっても共謀して破棄とか出来たかもしれないし…。
もしも本当に惚れられてしまったのだとしたら、これからの生活は気を引き締めていかなければならない。
油断していていつのまにか既成事実とか作られてしまっては目も当てられないだろう。
…えっ、これ本当にまずくない!?
「…でもまあ、これは想定内かな。元々嫌われることはないだろうと思ってたし、こうなる可能性も高いのは分かってたし。こうなったらいっそ骨の髄まで惚れ込ませてしまった方が扱いやすいのかも…」
想定内なの!?
だったら何でさっきあんなに責めるような目で見られたの私!?
ていうか骨の髄までって…。
そんな状態にする方法なんて分かんないよ!
もし本当にそんなことが出来たら、私に都合が悪い事をしないように誘導しやすくなるのかもしれないけどさ。
私の持ってる知識の中で骨抜きにするために有効そうなものは…。
「…では、無理に避けようとするのではなく誠意を持って最大限優しく接すればいいのですか?」
…これくらいしか思いつかないとか…。
むしろ他人と接する上でこんなの当たり前すぎることでしょこれ…。
よっぽど嫌われたいのでなければ他人に優しく接しないなんてありえないし、これはテクニックとはいえない。
うぅ、恋愛偏差値の低さが露呈する…!
「…うーん、それは次に会った時の彼方の様子を見て決めようか。トレーネ嬢はともかく、夫人の方には十分警戒していかないと」
「そうですね…」
何故か落ち込んでいる私を見て、セイル兄様が慌てたように「リュートの優しさは美徳だから」とか「女性への気遣いとしては横抱きも間違ってはいなかった」なんて言いながらフォローしてくれた。
でもその後に「…でもリュートみたいな外見の子にちょっとでも優しくされたら大抵の女の子は落ちちゃうと思うんだよね」と付け足されたのでフォローにはなっていなかったと思う。
まあ私もリュート様にキャーキャー言ってた女子の一人なのでそれに関しては同意でしかないんだけど。
…でも、私が落ち込んでるのは別に自分の現在の外見の破壊力を忘れて女性との距離を完全に見誤ったことに関してじゃないんだよセイル兄様。
いやまあ、それも多少はあるんだけど!
それよりも、自分の恋愛偏差値の残念さにがっくりしてるだけなの…!
(…ん、ちょっと待てよ?)
あれ、フォローっぽく言われたからスルーしちゃってたけど、横抱き『間違ってはいなかった』ってことは正解でもなかったってことだよね!?
やっぱり騎士か侍女に預けた方が良かった?
でも騎士は辺りを警戒してたし、いくらトレーネ嬢が小さいとはいえドレスとかで重くなってて非力そうな侍女に預けるのも気が引けたしなあ。
そんなふうに悶々と考えていると、竜巻について説明し終わった後からずっと黙りこくっていたお父様が重い口を開いた。
「…セイル、リュートの身辺はこれまで以上に警戒させるので心配はいらぬ。セイルとエルクについても同様だ。…それよりも、侵入者の件について話しておくことがある」
お父様のその言葉を聞いて、一瞬安堵で緩んだ私とセイル兄様の顔が固く引き締まった。
いや、強張った、という方が正しいかもしれない。
何故なら、お父様の雰囲気が家族しかいない時特有の少し緩んだものからブリザードが吹き荒れそうな緊張感のあるものへと変わったからだ。
いい報告ならば、こんな雰囲気を身に纏う筈はない。
ということは必然的に、何か良くないことが起こったということになる。
何が起こったのかと、知れず喉が鳴った。
「…侵入者は、確認出来た者は全員捕縛したと報告を受けた。そこからすぐに尋問を開始し、私は映像を介してその様子を見ていたのだが…」
そこまで言ってお父様は言葉を切り、この先を言うべきか迷うように視線を彷徨わせ、目を閉じた。
けれど迷いを断つようにすぐに目を開けたお父様は、こちらを気遣うように見やりながら再び口を開いた。
何故お父様がそんな迷いを見せたのか不思議に思いながら見守っていた私達は、すぐにその行動の意味を思い知ることとなる。
「尋問開始直後、捕縛した侵入者は…全員、死亡した」
「えっ…」
「……」
死亡…!?
死亡って、どうして…!?
私があまりの衝撃に呆然としている横で、セイル兄様はある程度予測出来ていたのか、厳しい表情で口を開く。
「…死因は?」
「…呪いだ。どのような条件で発動するものであったか正確には分からぬが、闇の魔法…以前セイルの身体を蝕んでいた呪いと同じ類のものであることは間違いない。それも解呪はおろか、呪いが存在することすら感知できぬほどの高度な技術。リュートならば感知も解呪も出来たのであろうが、それでも…あのレベルの術者などそうはおらぬ」
闇の魔法…。
この前お父様を襲撃したのも、確か凄腕の闇の精霊の契約者だった。
となると、今回の侵入者たちはその人の手によって消された可能性が高い。
…薄々勘付いてはいたけど、セイル兄様の時と同じ類のものってことは、セイル兄様に呪いをかけたのもその人ってことだよね…?
あの家の子飼いなのか、はたまた金で雇われているだけなのか…。
どちらにせよ、もし私が生まれていなければセイル兄様を呪いで操り、レーツェル家を乗っ取る気だったのだろうから、危険なのは間違いない。
正体も不明だし。
あんな手練れなら噂くらい聞いたことがありそうなものなのに、それすら全くないのだ。
シュトラーフェ家は一体どうやってあんな人材を用意したのだろうか。
「呪い…ですか」
「呪い」という単語を聞いた瞬間、反射的に嫌そうに顔を歪めたセイル兄様は、一つ溜息をついた。
苦々しいといった表情を隠そうともせず、それでも冷静に質問を重ねていく。
「遺体からは何も発見されなかったのでしょうか?」
「…何も。遺体どころか服の一欠片すら残っていない。…本当にそこにいたのかすら疑いたくなる程だ」
「…そう、ですか…」
いくらこの家に害を為そうとした侵入者だとしても、そんな亡くなり方をされて嬉しいわけがない。
フラウ夫人が帰りがけに言っていた、「口を割るといいですわね」という言葉は、これを指していたのだろう。
だとするならば、「贈り物」というのは…?
まだ何かあるというのだろうか…正直、勘弁してほしい。
そう思いながらちらりと見上げたお父様の表情は相も変わらず無表情だったけれど、普段は瞳の奥に少しだけ見える感情が、今は一切見えない。
怒っているのか、悲しんでいるのか、苦々しく思っているのか…いつも以上に何を考えているのか分からない、吸い込まれそうにどこまでも冷たい青銀の瞳に、何故だか背筋がひやりとした。
「僕は極めて落ち着いているよ、リュート」
うわぁ、こんな時ばっかりセイル兄様がお父様そっくり…!
何でこんな怒ってるの、私何かしたっけ!?
…いや、トレーネ嬢に関しては不安そうにしてたからフォローしたくらいで、これといって怒られるようなことはしていない筈。
その筈なのに、どうしてこんなに笑顔からプレッシャーを感じるんだろうか…。
「うぅ…ト、トレーネ嬢の事とは一体何でしょうか…?」
「…分からない?」
ごめんなさい分からないです…!と言える雰囲気ではなく、かといって嘘をつける雰囲気でもないため、ただ視線を彷徨わせる私。
その様子を黙ったまま見つめるセイル兄様。
しばらくその状態が続くかと思われたが、私が困り果てているのを哀れに思ったのか、セイル兄様は「仕方ないなあ」とでも言いたげにふぅ…と溜息をつき、表情を緩めてくれた。
…良かった、命拾いした…!
「まあ、分からないよね。リュートは意図したわけじゃないんだし。…リュートのたらしはいつものことだし」
「セイル兄様?」
何かを諦めたような顔で呟くセイル兄様。
最後の方は声が小さくてイマイチ聞こえなかったけど、なんか失礼なことを言われた気がする。
…まあいいけど。
私が微妙な顔をしながらセイル兄様の言葉を待っていると、その顔をどう思ったのかセイル兄様は苦笑しながら話し始めた。
「あのね、リュート。トレーネ嬢は挨拶を交わした時からリュートにそこはかとない好意を向けてたんだよ。それが、騒動の最中に起きた出来事によって本格的に想いへと変わってしまった。僕は罠に気を取られていてあまり見ていなかったけれど、トレーネ嬢を横抱きにしているリュートを見たときは正直頭を抱えたくなったね」
トレーネ嬢が私に、恋…?
どうしてそんなことになったのか分からないけど、それって割とまずくないか?
あの様子だとトレーネ嬢自身はどう思っているか不明でも、フラウ夫人の方は確実にトレーネ嬢を私の婚約者にしようと企んでいる筈。
それを阻止したいなら嫌われていた方が都合が良かったんじゃなかろうか?
本人が拒んでくれれば無理に婚約も出来ないし、成立してしまっても共謀して破棄とか出来たかもしれないし…。
もしも本当に惚れられてしまったのだとしたら、これからの生活は気を引き締めていかなければならない。
油断していていつのまにか既成事実とか作られてしまっては目も当てられないだろう。
…えっ、これ本当にまずくない!?
「…でもまあ、これは想定内かな。元々嫌われることはないだろうと思ってたし、こうなる可能性も高いのは分かってたし。こうなったらいっそ骨の髄まで惚れ込ませてしまった方が扱いやすいのかも…」
想定内なの!?
だったら何でさっきあんなに責めるような目で見られたの私!?
ていうか骨の髄までって…。
そんな状態にする方法なんて分かんないよ!
もし本当にそんなことが出来たら、私に都合が悪い事をしないように誘導しやすくなるのかもしれないけどさ。
私の持ってる知識の中で骨抜きにするために有効そうなものは…。
「…では、無理に避けようとするのではなく誠意を持って最大限優しく接すればいいのですか?」
…これくらいしか思いつかないとか…。
むしろ他人と接する上でこんなの当たり前すぎることでしょこれ…。
よっぽど嫌われたいのでなければ他人に優しく接しないなんてありえないし、これはテクニックとはいえない。
うぅ、恋愛偏差値の低さが露呈する…!
「…うーん、それは次に会った時の彼方の様子を見て決めようか。トレーネ嬢はともかく、夫人の方には十分警戒していかないと」
「そうですね…」
何故か落ち込んでいる私を見て、セイル兄様が慌てたように「リュートの優しさは美徳だから」とか「女性への気遣いとしては横抱きも間違ってはいなかった」なんて言いながらフォローしてくれた。
でもその後に「…でもリュートみたいな外見の子にちょっとでも優しくされたら大抵の女の子は落ちちゃうと思うんだよね」と付け足されたのでフォローにはなっていなかったと思う。
まあ私もリュート様にキャーキャー言ってた女子の一人なのでそれに関しては同意でしかないんだけど。
…でも、私が落ち込んでるのは別に自分の現在の外見の破壊力を忘れて女性との距離を完全に見誤ったことに関してじゃないんだよセイル兄様。
いやまあ、それも多少はあるんだけど!
それよりも、自分の恋愛偏差値の残念さにがっくりしてるだけなの…!
(…ん、ちょっと待てよ?)
あれ、フォローっぽく言われたからスルーしちゃってたけど、横抱き『間違ってはいなかった』ってことは正解でもなかったってことだよね!?
やっぱり騎士か侍女に預けた方が良かった?
でも騎士は辺りを警戒してたし、いくらトレーネ嬢が小さいとはいえドレスとかで重くなってて非力そうな侍女に預けるのも気が引けたしなあ。
そんなふうに悶々と考えていると、竜巻について説明し終わった後からずっと黙りこくっていたお父様が重い口を開いた。
「…セイル、リュートの身辺はこれまで以上に警戒させるので心配はいらぬ。セイルとエルクについても同様だ。…それよりも、侵入者の件について話しておくことがある」
お父様のその言葉を聞いて、一瞬安堵で緩んだ私とセイル兄様の顔が固く引き締まった。
いや、強張った、という方が正しいかもしれない。
何故なら、お父様の雰囲気が家族しかいない時特有の少し緩んだものからブリザードが吹き荒れそうな緊張感のあるものへと変わったからだ。
いい報告ならば、こんな雰囲気を身に纏う筈はない。
ということは必然的に、何か良くないことが起こったということになる。
何が起こったのかと、知れず喉が鳴った。
「…侵入者は、確認出来た者は全員捕縛したと報告を受けた。そこからすぐに尋問を開始し、私は映像を介してその様子を見ていたのだが…」
そこまで言ってお父様は言葉を切り、この先を言うべきか迷うように視線を彷徨わせ、目を閉じた。
けれど迷いを断つようにすぐに目を開けたお父様は、こちらを気遣うように見やりながら再び口を開いた。
何故お父様がそんな迷いを見せたのか不思議に思いながら見守っていた私達は、すぐにその行動の意味を思い知ることとなる。
「尋問開始直後、捕縛した侵入者は…全員、死亡した」
「えっ…」
「……」
死亡…!?
死亡って、どうして…!?
私があまりの衝撃に呆然としている横で、セイル兄様はある程度予測出来ていたのか、厳しい表情で口を開く。
「…死因は?」
「…呪いだ。どのような条件で発動するものであったか正確には分からぬが、闇の魔法…以前セイルの身体を蝕んでいた呪いと同じ類のものであることは間違いない。それも解呪はおろか、呪いが存在することすら感知できぬほどの高度な技術。リュートならば感知も解呪も出来たのであろうが、それでも…あのレベルの術者などそうはおらぬ」
闇の魔法…。
この前お父様を襲撃したのも、確か凄腕の闇の精霊の契約者だった。
となると、今回の侵入者たちはその人の手によって消された可能性が高い。
…薄々勘付いてはいたけど、セイル兄様の時と同じ類のものってことは、セイル兄様に呪いをかけたのもその人ってことだよね…?
あの家の子飼いなのか、はたまた金で雇われているだけなのか…。
どちらにせよ、もし私が生まれていなければセイル兄様を呪いで操り、レーツェル家を乗っ取る気だったのだろうから、危険なのは間違いない。
正体も不明だし。
あんな手練れなら噂くらい聞いたことがありそうなものなのに、それすら全くないのだ。
シュトラーフェ家は一体どうやってあんな人材を用意したのだろうか。
「呪い…ですか」
「呪い」という単語を聞いた瞬間、反射的に嫌そうに顔を歪めたセイル兄様は、一つ溜息をついた。
苦々しいといった表情を隠そうともせず、それでも冷静に質問を重ねていく。
「遺体からは何も発見されなかったのでしょうか?」
「…何も。遺体どころか服の一欠片すら残っていない。…本当にそこにいたのかすら疑いたくなる程だ」
「…そう、ですか…」
いくらこの家に害を為そうとした侵入者だとしても、そんな亡くなり方をされて嬉しいわけがない。
フラウ夫人が帰りがけに言っていた、「口を割るといいですわね」という言葉は、これを指していたのだろう。
だとするならば、「贈り物」というのは…?
まだ何かあるというのだろうか…正直、勘弁してほしい。
そう思いながらちらりと見上げたお父様の表情は相も変わらず無表情だったけれど、普段は瞳の奥に少しだけ見える感情が、今は一切見えない。
怒っているのか、悲しんでいるのか、苦々しく思っているのか…いつも以上に何を考えているのか分からない、吸い込まれそうにどこまでも冷たい青銀の瞳に、何故だか背筋がひやりとした。
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