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幼少期

ハイルの記憶です。Part4

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城の正門の前に到着すると門番が門を開き、アルとお父様ははすぐ目の前に停められている馬車に乗り込んだ。
アルがあらかじめ手配しておいたらしい。
その他の視察団の人たちは、もう既に準備が整っていたようで、前に三台、後ろに四台とお父様の馬車を挟むようにして走り出した。

(…気のせいかな、私この配列…嫌な予感がするんだけど)

身分の高い人を真ん中に置いて、前後で挟むことで守る配列だから、視察団としては普通のことなのかもしれないけど。
これ、逆に言えば挟まれて逃げ場がないってことでしょ…?
ケーヌ地方に行くまでの道のりには森があるし、少し道を逸れれば崖や大きな川もある。
もし、そこに刺客を潜ませていて、前後の視察団全てが敵だったとしたら…。
そう考えると、意識だけのはずなのに血の気が引いていくように感じられた。

馬車が走り始めてしばらくは何もなく、お父様とアルは雑談を楽しんでいた。
ハイルは馬車に乗った時から姿を現しているので、時々二人の会話に入っている。
…まあ、ハイルが話すのは私のことばかりなので、私が話題に上がっている時と、たまにセイル兄様の話題の時に口を挟むくらいだけど。

「それにしても、リュート様とセイル様にはしてやられましたね、フィル様」

「…リュートもセイルも勘が良いのだ」

「それにしたって、ちょっと良すぎじゃありません?ご自身の契約精霊をフィル様につけるなんて」

アルが苦笑気味にお父様に話しかける。
何か情報を掴んでるとしか思えませんよ、とアルが続けると、お父様はすっと視線を逸らした。
…これは、お父様もそう思ってるってことだろうか。
いやいや、私は何も知らないし、セイル兄様も多分知らないよ。
だって私がやった範囲ではゲームにこんなイベントなかったもん。

「お披露目前でこれなら、学園を卒業した後が楽しみですね、フィル様」

「…ああ。…二人とも良い人材となるだろう」

最近お父様がよく褒めてくれるから嬉しいなあ。
お父様にもっともっと褒めてもらえるように、これからも頑張ろうっと。
…それにしても、お父様もアルも全く緊張するそぶりもなく、何の気負いもなく普通に馬車に揺られているから、さっきの予想は的外れだったのかも?
いやでも、そろそろハイルから私に報告が入るくらいの時間のはずだから、あながち私の予想は間違っていない気がするんだよね。
そう思っていると、私の…いや、ハイルの口が動きだした。
先程お父様と約束したお昼頃になり、暇になったために私に呼びかけ始めたのだ。
そこからの私との会話の間は特に何もなく、私も知っている通りに進んでいく。
この辺は多分何も起こっていなかったから、スキップして変化があったところから見ることにした。

『違うよ。僕はずっとフィレンツのそばにいるけど、今のところは何もないから安心してって伝えようと思っただけだよ』

さて、異変が起こるのは、ここからだ。
ハイルのこの台詞を聞いて私が少し安心した、その直後。

『そっか。良かっ…』

『……!』

私の言葉の途中。
ハイルが殺気を察知した。
私は今はハイルの記憶を見ているだけだというのに、背筋がぞわりとするような感覚がある。
お父様とアルも察知したらしく、すぐに応戦できるようにいつでも抜剣出来る体勢をとり、お父様はミラを呼び出し、肩に乗せた。
アルも自分の契約精霊を呼び出し、ハイルもお父様の肩に乗る。
一瞬で戦闘態勢が整った。
そして、ハイルが周りを警戒しながら私に呼びかける。

『ティカ、安心するのは早かったみたいだ』

その言葉を聞き、焦っている私に言葉で説明するよりは見せた方が早いと思ったハイルが、私に感覚を繋げるよう呼びかけた。
お父様が警戒しながら馬車の窓から外を窺った途端、前を走っていた馬車が急停止し、殺気が強くなる。
お父様たちの馬車も急停止を余儀なくされたにも関わらず、立っていたお父様とアルはよろめきすらしなかった。

「…殺気を隠すことすらできぬか…こちらは囮であろう。…アル、恐らく腕の立つ刺客が別にいる。いつまでも馬車の中にいては却って危険だ。逃げ場がない」

お父様がそう言うと、アルは無言で頷く。
ハイルは、私となかなか感覚が繋がらないことを気にしながらも、周囲の警戒を怠っていない。

「分かりました。外に出ましょう」

真剣な顔でアルがそう言った瞬間、ハイルの耳に微かに私の声が聞こえた。
あと少しで繋がりそうな感覚。
それを感じ取ったハイルも、私の意識を自分へ導くように何度も呼びかける。

『ハ…ル…!…イル…!!』

『ティカ…!ティカ!!』

もどかしい、この感覚。
薄いベール一枚に阻まれているような、届きそうで届かない焦燥感。
早く、早く繋がって…!!

『ーーーーハイル!!』

薄い膜が破れたような感覚。
繋がったと同時に、ハイルは私に話しかけながら記憶を送り、今までのことを見せようとする。
すると、最初と同じように光で視界が真っ白に塗りつぶされ、記憶の再生は終わるのだった。
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