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幼少期

ハイルの記憶です。Part3

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しばらく無言のまま馬車に揺られていたお父様とハイルだったが、その時間は城についたことで終わりを告げた。
馬車の扉が開けられる前にハイルは姿を消し、お父様はそれを横目で見ながら立ち上がり、馬車を降りる。
門を開けた門番たちが緊張しながら敬礼しているのを気に留めることもなく、お父様はつかつかと歩いていく。
その後ろを姿を消しているハイルが飛びながら追いかけていった。

「あ、おはようございます、フィル様~」

「…ああ」

宰相執務室に着き、扉の前に立つ騎士によって扉が開かれると、お父様の姿に真っ先に気づいたアルが笑顔で挨拶をした。
それにより、他の文官たちも次々に挨拶をし、それに視線だけで応えながらお父様は自分の席まで歩いていく。
お父様の机の上は、今日も今日とて書類が山積みである。

「フィル様、本日の予定ですが、今から二時間ほどは書類の処理、その後二時間ほど今年の会議、移動して午後からはケーヌ地方への視察及び陛下への報告となっております」

「……やはりか」

お父様が座ったと同時に斜め後ろにすっと立ったアルが、お父様の今日のスケジュールを読み上げる。
それを聞き、私が『うわ~、アルが秘書してる!』などと呑気な感想を抱いていると、お父様が肩に乗っているハイルにしか聞こえないような小さく低い声で呟いた。
やはり、って何がやはりなのかね?
ただ単にアルがスケジュールを読み上げただけなのに。

「…?フィル様、何か言いましたか?」

「…いや。予定は把握している。予定の時刻になったら知らせろ」

「分かりました」

アルにはお父様の呟きが聞こえていなかったらしく不思議そうな顔をしたけれど、物凄いスピードで書類を処理しだしたお父様にこれ以上聞こうとは思わなかったらしい。
すぐに真面目な顔になって自分の席へ戻っていった。
いや、それはいいんだけど、お父様が仕事を始めた途端に吹き荒れ始めたブリザードに誰も反応しないのね。
まあ、毎日のことだから反応するのも面倒なのかもしれないけどさ。

……しっかし、私がハイルから報告をもらったのはお昼頃なんだよね。
つまり私はこの後四時間くらい、ひじょーーーーーに暇な訳ですよ。
お父様に何があったのかと気持ちは急いているし、現実の方の時間が進んでいない確証なんてどこにもないっていうのに、四時間も待ってられないんですけど!
多分お父様がお城にいる間は敵も襲ってこないから、狙われたのは午後の視察に出かけたあたりのはず。
そこまでDVDみたいにスキップとか出来ればいいのになあ。

お父様がお仕事を開始してしまい、暇すぎてぼーっとお父様の手元を見ながらそんなことを考えていると、不意に景色がブレた気がして、はっとする。
なんだ、地震か?!
…と、びっくりして周りを見回すと、さっきと同じ部屋なのにどうにも雰囲気が違う。
人が少ないのかも?
なんで?

「フィル様、そろそろ視察に出発するお時間ですよ」

えっ、視察?!
それは午後からなんじゃ…。
…もしかして、本当にスキップ出来ちゃったの?
記憶なのにスキップとか出来るんだ…。
っていうか、アルが話しかけてるのにお父様ちっとも書類から目を離そうとしないね。
これ、集中しすぎて完全に外界の音が聞こえてないパターンだ。

「…………」

「はあ、全くこの人は…。…あ、そうだ。…フィル様~、ご子息が来てますよ~」

ため息をつき、呆れ顔になったアルは何かを思いついたらしく、悪戯っ子のように楽しそうな顔でニヤッと笑う。
そしてすぐに笑いを消し、すまし顔でお父様に私たちの来訪を告げた。
…いやいや、私たち今日はお城には行ってませんけど?
アル、何さらっと嘘ついてるのさ。

「………どこだ?」

けれど、お父様には効果抜群だったようで、その言葉を聞いただけで書類から顔を上げた。
ついでに視線を巡らせて私たちを探している。
いや、気付こうよお父様。
私たち今日は行く予定なかったでしょうに。
まあでも、これは純粋に嬉しくもあるのでちょっとニヤニヤが止まらないけど。
ここ、スキップしなくて良かった。

「やっと気付きましたね。視察の時間です」

「…そうか」

微笑ましそうな、嬉しそうな顔で笑いながら、アルはもう一度用件を伝えた。
アルの言葉を聞き、私たちが来たわけではないと知ったお父様は、アルを絶対零度の視線で一瞥して立ち上がり、アルを伴ってお城の正門に向かって歩きだした。
うん、だからさ、お父様。
そんな人を視線だけで凍え死にさせそうな表情は親しい人に向けるものじゃないんだってば!
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