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幼少期

兄弟王子の仲直りです。

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……遅かった……。
アシュレが余程驚いたのか涙目で固まっている間に、私がため息をついて右手を顔にやりながら天を仰いでいると、セイル兄様が近寄ってきた。

「リュート、突然走っていったら駄目だよ。せめて何をするつもりなのか相談くらいしてくれないと、心配するよ」

「セイル兄様……僕は今その事で猛烈に反省しています……。僕がセイル兄様に何か一言でも相談していたら犠牲者が出ることはなかったのに……」

ラズ……ごめん。
これは完全に私のせいだ。
本っ当に申し訳ない!
私は遠い目になりながら心の中でラズに合掌した。
そして、横に立っているセイル兄様の肩をがしっと掴み、どうしてこうなったのかを問う。

「それよりも、セイル兄様!ラズに一体何をしたんですか?!なんで倒れてるんですか?!」

「ああ……僕はすぐにでもリュートたちを追いかけたかったんだけど、あまりにもラズがウジウジしているから、つい……」

つい?!
ついで人が倒れるっていうのか?!
激しくその先を聞きたくない衝動に駆られながらも、聞いておかなければならないだろうと思って続きを促す。

「……つい……?」

「……聞きたい?リュート」

セイル兄様はにっこり笑ってそう言った。
私はその言葉を聞いて先程のアシュレと同じように涙目になり、「聞きたくないです!」と否定しながらぷるぷると首を横に振る。
そして、固まっていたアシュレが倒れるラズの方へふらふらと歩み寄っていったのが横目に見えたので、これ幸いと私もそちらへ向かった。

「あ、兄上……?兄上、起きて下さい……」

アシュレはラズのすぐ傍に座り、体を揺さぶって起こそうと試みているけれど、全く起きる気配がない。
そんなラズを見て、アシュレの目にはまた涙が溜まっていく。
……あれ、ここはすぐそこに通路があるからいつ誰が通るか分からないのに、アシュレが泣くのもラズが倒れてるのもまずいよね?

「……ハイル、アイン!さっきと同じ結界を僕たち四人の周りに張ってくれないかな?」

『いいよ、分かった』

『……ああ、間に合わなかったみたいね。了解よ』

もっと早く張っておけば良かったと思いながら、二人にお願いする。
アインは倒れているラズに視線をやってすぐに事情を悟ったらしく苦笑しながら、ハイルはそんなこと気にも留めていない様子で、ささっと結界を張ってくれた。
そして、張り終わった二人はそのまま私の肩とセイル兄様の肩にそれぞれ座る。

かすかに周りの雰囲気が変わったのを確認してから、私はアシュレの隣に腰を下ろし、ラズの手首を手にとって脈を測った。
……よし、ちゃんと脈はあるし、寝てるだけみたいだ。
良かったー、生きてて!
……いやまあ、生きてるのは分かってたけど、一応、ね。

アシュレは私が手に取ったのと反対のラズの手を両手で握り、「兄上、起きてください……」と言いながら今にも涙が零れそうだ。
さっきたくさん泣いたから、いつもより涙腺が緩んでるのかもしれない。
その光景を見て、何か早くラズを目覚めさせる方法はないかと思案していると、肩に乗っているハイルが視界に入った。

「……そうだ。ハイル、ラズを今すぐに目覚めさせられる?」

「うん。目覚めさせてほしいの?」

「お願い!」

やっぱり出来るんだね。
私はもっとハイルを信じて頼った方がいいのかもしれないな。
……ハイルに頼りっぱなしになったり依存するようなことになったりしたらいけないから、ほどほどに。
なんて思いながらハイルに魔力を渡す。
すると、ハイルが掌をラズの方へ向け、それと同時にラズの体が発光した。

いきなりの発光に、アシュレはラズの手を握ったまま少しの間呆然としていたけど、ラズの瞼がぴくりと動き、ゆっくりと開かれたのを見て目を瞬いた。
ラズが目を開け、ぼんやりと周りを見回し、最初に視界に飛び込んできたアシュレの姿に驚いたような顔をする。
起き上がって手を頭にやろうとして、アシュレに手を握られていることにやっと気づいたらしい。

「……アシュレ」

「兄上っ!」

アシュレは喜びを伝えるようにラズに抱きつく。
それを難なく受け止め、ラズは混乱したようにアシュレに視線を向け、次に私に視線を向けた。
にこにこしている私を見て何を思ったのか、ラズは納得したような顔でアシュレに視線を戻した。
……え、今私は何を納得されたんだろう?

「アシュレ、俺は大丈夫だ。それより、お前こそ大丈夫か?最近、元気がなかっただろう」

「僕は、もう大丈夫です……っ」

「そうか」

ラズはアシュレを宥めるように背中をポンポンと叩きながら、心配の言葉をかける。
アシュレは余程兄が心配だったのだろう、今までの蟠りなど最初からなかったかのようにされるがままだ。
少しの間二人はそのままだったけれど、アシュレが落ち着くと、ラズが口を開いた。

「……さて。仲直りをするぞ、アシュレ。異論は許さん」

……おっ、ラズの俺様が戻ってきた。
良かった良かった、ゲームだとラズの俺様が消える時ってよっぽどの時だからね、戻ってきて安心したよ。
ラズのその言葉を聞いて、アシュレは漸く今までラズと気まずかったことを思い出したらしい。
気まずげに視線を彷徨わせ、遠慮がちに上目遣いで顔色を窺うようにしながら呟くように言った。

「……許して、くれるのですか」

「許すもなにも、俺は最初から怒ってなどいない。お前に何かあったのは態度の変化からも明白だったというのに何も出来ず、幼いお前をそこまで追い詰めてしまったのは俺の失態だ」

「でも……」

反論しようとしたアシュレの言葉を遮ってラズは立ち上がり、座ったままだったアシュレと私の手を取って立ち上がらせる。
……あ、私にもやってくれるんだ。
私の存在は忘れられてるのかと思ってたよ。
なんて思いながらお礼を言って手を離そうとしたのだけど、何故かラズが離してくれない。
アシュレも同じく離してもらえなくて困惑している。
……え、なんで??

「……アシュレ。俺が異論は許さんと言ったら、答えはハイかイエスのどちらかだ。それ以外の返事は認めない。どうしても気に病むと言うのなら……」

悪戯っぽいニヤリとした笑みでそう言ったラズは、頭にはてなをたくさん浮かべながらぽかんとする私たちを無視して繋いだままの手にぐっと力を入れた。
……おいおいおい、まさか。
何をされるのか悟った私は、慌てて手を振りほどこうとするが、時すでに遅し。

「ちょ、まっ……!」

「待たん!」

手を振りほどけなくて私が制止の声をあげると同時に、ラズが繋いだ手を振り上げた。
そして……ぶんぶんぶんぶんっ!と勢いよく手を振り回される。
……さ、さっきよりも力が入っててよりつらい!
私よりも小さくて軽いアシュレはもう既にふらふらだ。
やっとラズが私たちの手を離してくれた頃には、二人とも噴水に座ってぐったりだった。

「今までのことはこれであいこだ、アシュレ」

そう言ったラズはとても優しい笑顔をしていた。
……うわー、ラズのこの笑顔を令嬢方が見たら倒れるんじゃないかな。
ラズって基本的にニヤリとかフッとかフンとか……挑発的な笑い方ばっかりだから、ゲームでもごく稀に見せる優しい笑顔にやられる子って結構多かったんだよね。
かくいう私も、この笑顔を初めて見た時には画面の前で「~~~っ!!」と声にならない叫びをあげながら身悶えた。

「兄上……」

そんな笑顔を向けられたアシュレはぽかんとしていたけれど、やがて表情が明るくなっていく。
と同時に目にまた涙が溜まっていき、ふらふらしていたのも忘れて立ち上がった。
そして、嬉し涙が浮かんだ眩しいほどの笑顔をラズに向けながら頷いた。

「……はい!」

仲直りできて良かったね、二人とも。
どちらも晴れ晴れとした表情を浮かべていて、見ててすごくほっこりするし、私の死亡フラグも一つ折れたはずだし、全部上手くいってほっとしたよ。
……でも、ね。ちょっと待って欲しいな。
地味に納得出来てない人間がここに一人いるよ!!
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