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102.夢心地の再告白

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「……あ」

 カクン、と顔がズレて、ハッと目を覚ました。
 
 視界は空席と窓ガラスが広がっており、ガラスに反射して自分と黒パーカーが反射して映っている。
 私が寄り掛かって眠ってしまっていたのが、その黒パーカーの人の肩だということも。

「あ、シン…!
ご、ごめんなさい」
「寝不足だろ?
寝てていい」
「ん……」

 頭を手で寄せられて彼の肩に戻される。
 さっきよりも凄く安定して、心地良い。

 そのうち人が増えるから今だけだとも、彼は呟く。
 そういう彼は既にパーカーのフードを被っていて、顔を隠している。

 彼の顔面偏差値を考えたらフードを被るのはもったいないのだが、それなりの事情があるのだろう。
 被る方が目立つような気もするが。

「……シン。
今日は、ありがとうございました」
「……大したことしてないけど」
「初めてのデート、楽しかったです」
「フッ。まるで小学生の日記みたいな一文だな」
「ふふ……」

 とても大学のエリートとは思えない、と彼は鼻で笑うから、私も釣られて笑う。
 まだ少し夢心地だ。

「…やっぱり私、シンが好きです。
シンが好き」
「……ここは観覧車じゃないよ」
「思った時に言わなきゃ、伝わらないでしょう?」

 シンを見やると、シンもまた視線に気付いて顔を下ろした。
 黒真珠の瞳がどことなく揺れている。

「助けてもらった時からずっと、あなたに恋してます。
あなたに好きな人がいても、私の気持ちはきっと変わらないから。
どうしても、伝えたくて」

 きっとこの夢心地の時にしか、伝えられないだろうから。
 私はにこやかに答えて、私たちの間に降りた彼の手を握る。

 例え子供が産まれてなかったとしても、お見合い結婚させられたとしても。
 あなたに想いを伝えた事で、きっと後悔は無くなるから。

 ただ、あなたが欲しいとは、言えなかった。
 まだ浅井さんと別れられていない状態では。
 それを伝えるのは、卑怯過ぎて。

「もし、子供が出来た時に、あなたが結婚してもいいと思えるように、あなたに好きになってもらえるように、私、頑張ります。
だから…っ」

 顔が目の前にあって、そっとキスをされる。
 あんなに警戒してた電車の中なのに…!
 ポケ~っとしていた頭がすっきりと覚醒して、顔がボッと熱くなった。

「……シ……!」
「……結奈の言葉は真っ直ぐ過ぎて、聞いてて歯が浮きそうだ」

 握っていたはずの手は、いつの間にか絡め取られていて。
 シンは目を伏せながら、私の頭にコツンと額を付けた。

「……ホントは浅井と何があったか、ちゃんと分かってる」
「え?」
「別れ話を切り出したことも」

 ドクンと、心臓が冷たくなる気がした。

 いつ……?
 どうして……?

「それでも、見て見ぬふりをしてた。
……俺は結奈が思ってるほどいい奴じゃないよ」

「っ!そんなの、私が決めることです……!」

「後で幻滅するだろうな」

「しません!」

「フッ……結奈」

「はい!……はい?」

 シンは絡めた手の甲にキスをする。

「これは俺の賭けだ。
お前を巻き込んでの、自分勝手な賭けだから」
「賭け……?」

 シンはいつになく無表情に、フードの中から私を見つめる。
 
「卑怯な俺を、好きになる必要なんてないよ」

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