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99.初めての…デート?
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電車に揺られ、数十分。
「シン……今日予定空いていたんですか?」
「結奈が来るの分かってたし。
たまには外出もしてみようと思って」
そう言いつつも、シンはまた黒パーカーのフードを深く被っていて顔があまり見えない。
隣に立ってはいるけど、それ以上の干渉はない。
一体、どういう風の吹き回しだろう?
ムードが大切という話をこの前していたから、その流れなのだろうか?
それでもこの距離感は…デートという感覚では無いような?
本では何度かそういうシーンを読んだことはあるのだけど、読んだ程度で得られる知識は架空でしかない気がしてあまり参考にならないかもしれない。
街で見かける恋仲の人達は、手を繋いだり、一緒に楽しく会話したり、お揃いの物を買ったり、遠出したり…。
あれ、そもそもどこに行くか、聞いてない。
彼につられて出歩いているだけなのだ。
目的がハッキリしない中の移動はやっぱり違うものだったのでは…?
会話もほとんどないし、彼もケータイを見てることが多くて、これといって干渉が少ない。
よく考えれば、フードを被り、目を合わせないのは私と距離を置くというサインだ。
彼の言う「部分的彼女」である条件を満たしていない。
つまり今は、“顔見知り”が同じ空間にいるだけ、ということ……。
服の端を、ついギュッと握ってしまう。
彼はちゃんと、「デート」と言っていたけどな…。
そんな風に悶々としていると、気付けば満員電車になりつつあって、新たにドアが開くと更に人が押し寄せてきた。
「あ……!」
押される…
そう思った時、腕を引かれた。
「ここにいなよ」
「っ…シン……」
ドア横の壁の隙間に収められ、見上げたらフードの影にシンの顔があった。
「満員電車は端に寄るのが鉄則」
「そ、そうなんですね…!
ごめんなさい、あの、こんな満員電車なんて、初めてで…」
無知の恥ずかしさに、顔が熱くなる。
そっか、シンは混むのが分かってたからずっと壁についていたのか。
扉の前は危険って書いてあるから真ん中の方に立ってしまってた。
「はぁ…ごめん。
ちょっと自分のことばっかだった」
「いえ、私が……」
ふと言葉の違和感に籠る。
自分のことばっか、って、いつ?どこでそうなったの?
そんな風には見えなかったんだけど…。
ガタン────!
「つっ……」
「え…」
物思いに耽っていると、カーブに差し掛かったらしく、たくさんの人がシンの方に傾き、グッと押されたシンが私の横に間一髪で肘をつき、一気に顔が近くなる。
意表を突かれたらしい彼の表情に、ドキッと胸が高鳴る。
フードの影の中で見る彼であることもその要因なのだろう。
フードを被ったシンが、目の前にいる。
こんな、近くに。
「……ごめん、すげぇ押された」
「は、はい…大丈…ひゃっ!」
今度は逆側にカーブした為、どこにも捕まっていなかった私は思いっきり壁から引き剥がされた。
シンにぶつかるも、いつの間にか私の横にあったポールを掴んでいたらしいシンは私をしっかり抱き止めていた。
私の体重もあってかなりの重力がかかっていたはずだが、ほとんど微動だにしていなかった。
流石彼の鍛え抜かれた身体は違う。
普段とはまた違った男らしさを感じて、ドキドキする。
ただ耳に張り付く彼の胸からは、私と同じく早い鼓動が響いている。
そして次第に震える身体に、くぐもった笑い声も。
あのシンが……笑ってる?
「シン……今日予定空いていたんですか?」
「結奈が来るの分かってたし。
たまには外出もしてみようと思って」
そう言いつつも、シンはまた黒パーカーのフードを深く被っていて顔があまり見えない。
隣に立ってはいるけど、それ以上の干渉はない。
一体、どういう風の吹き回しだろう?
ムードが大切という話をこの前していたから、その流れなのだろうか?
それでもこの距離感は…デートという感覚では無いような?
本では何度かそういうシーンを読んだことはあるのだけど、読んだ程度で得られる知識は架空でしかない気がしてあまり参考にならないかもしれない。
街で見かける恋仲の人達は、手を繋いだり、一緒に楽しく会話したり、お揃いの物を買ったり、遠出したり…。
あれ、そもそもどこに行くか、聞いてない。
彼につられて出歩いているだけなのだ。
目的がハッキリしない中の移動はやっぱり違うものだったのでは…?
会話もほとんどないし、彼もケータイを見てることが多くて、これといって干渉が少ない。
よく考えれば、フードを被り、目を合わせないのは私と距離を置くというサインだ。
彼の言う「部分的彼女」である条件を満たしていない。
つまり今は、“顔見知り”が同じ空間にいるだけ、ということ……。
服の端を、ついギュッと握ってしまう。
彼はちゃんと、「デート」と言っていたけどな…。
そんな風に悶々としていると、気付けば満員電車になりつつあって、新たにドアが開くと更に人が押し寄せてきた。
「あ……!」
押される…
そう思った時、腕を引かれた。
「ここにいなよ」
「っ…シン……」
ドア横の壁の隙間に収められ、見上げたらフードの影にシンの顔があった。
「満員電車は端に寄るのが鉄則」
「そ、そうなんですね…!
ごめんなさい、あの、こんな満員電車なんて、初めてで…」
無知の恥ずかしさに、顔が熱くなる。
そっか、シンは混むのが分かってたからずっと壁についていたのか。
扉の前は危険って書いてあるから真ん中の方に立ってしまってた。
「はぁ…ごめん。
ちょっと自分のことばっかだった」
「いえ、私が……」
ふと言葉の違和感に籠る。
自分のことばっか、って、いつ?どこでそうなったの?
そんな風には見えなかったんだけど…。
ガタン────!
「つっ……」
「え…」
物思いに耽っていると、カーブに差し掛かったらしく、たくさんの人がシンの方に傾き、グッと押されたシンが私の横に間一髪で肘をつき、一気に顔が近くなる。
意表を突かれたらしい彼の表情に、ドキッと胸が高鳴る。
フードの影の中で見る彼であることもその要因なのだろう。
フードを被ったシンが、目の前にいる。
こんな、近くに。
「……ごめん、すげぇ押された」
「は、はい…大丈…ひゃっ!」
今度は逆側にカーブした為、どこにも捕まっていなかった私は思いっきり壁から引き剥がされた。
シンにぶつかるも、いつの間にか私の横にあったポールを掴んでいたらしいシンは私をしっかり抱き止めていた。
私の体重もあってかなりの重力がかかっていたはずだが、ほとんど微動だにしていなかった。
流石彼の鍛え抜かれた身体は違う。
普段とはまた違った男らしさを感じて、ドキドキする。
ただ耳に張り付く彼の胸からは、私と同じく早い鼓動が響いている。
そして次第に震える身体に、くぐもった笑い声も。
あのシンが……笑ってる?
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