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78.必要とされる世界線

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 テニスサークルの本日の活動は、いつも通りだった。

 不定期に大学に整備されているテニスコートに各々集まり、気分転換にテニスをする者がいれば、大概はコートの隅で男女問わず談笑に勤しんでいる。

 俺もまた談笑とは程遠く、ハルのいる傍らでそれらを眺めていた。
 女が3人、ハルを取り囲んでいる。

 新しく入ってきた1年達だ。
 先輩だからと気負いする事もなく、女達はハルとの会話を楽しんでいる。

 そしてハルもまた、愉しんでいる。

 ハルが女からの支持が高いのは、その容姿だけではない。
 女が欲しい言葉をあげるのが上手いのだろう。

 欲しいものを得る為に、どうすればいいかを、ハルはよく分かっている。


 だからこそ──……


「あ~やっぱりサークル終わっちゃったかー!」

「日が沈んでから来ておいてよく言うわよ」

「すまんすまん!」

 浅井の声に、顔を上げた。

 ナイターがあればまだテニスは出来るが、あいにくこのサークルにその資金は無い。

 日暮れまでにテニスをやる、という活動条件の元、たむろするただの暇人の集まりだ。

 ナイター設備を要求する程気合に満ちた者はいない。
 そしてそんな予算は何年かけたとしても到底作られない。

「そんでさ、澤田。
お前に話があんだけど」

 ハルが離れている間に、コソッと耳打ちを要求される。

 男同士で気味が悪いが、こいつが俺に話しかけてくるとしたら内容は察しがつく。

 長い黒髪の、憂いた顔が頭に浮かんだ。

「何?」

「俺、お前のことも疑ってたんだ。
俺の彼女、取られたかと思って」

 そう言われて、納得する。

 ああ、やはり。
 遅れて来たのには、あいつが絡んでいた。

 浅井の安堵はつまり、ことの展開を示している。
 
 きっとまたあの教室で……

 泣く彼女と、その後のキスを思い出して、視線を落とした。
 
 そういう“契約”だ。

 なんら驚くことじゃない。
 あいつはしっかり、いる。

 元より俺は、ただの……


「ちゃんと処女だった」


 は…………?


 思わず声を上げそうになった。

「……よかったな」

 フードに、顔を潜らせる。

 素っ気なく、表情を悟られないように。
 ハルに、気付かれないように。

「さてさて!今日は飲むか~!?」

「お!気前いいじゃん浅井!!」

「いや奢るとは言ってねぇよ~!」

 いつもの姿だ。
 浅井も、サークルも、ハルも。

 表面上は明るく、暇人で、能天気な世界。
 陰での攻防も、各々の欲望も、限りなくちっぽけで、無益でくだらない世界だ。

 俺が不要な世界。
 俺にも不要な世界。

 離れた大学の校舎を、遠目に見つめる。

 必要とされる世界は、どこかにあるのだろうか。

 そんなことを、ふと考えた。
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